ゲゲゲの女房の紹介:2010年日本映画。漫画家・水木しげるの妻・武良布枝が執筆した自伝『ゲゲゲの女房』を原作にした映画です。水木しげるが有名漫画家になるまでの苦楽の夫婦生活を描いた作品です。水木しげる役は、監督や脚本家として活躍する「クドカン」こと、宮藤官九郎が演じています。監督の鈴木卓爾はこの作品で第25回高崎映画祭・最優秀監督賞、主演・吹石一恵は最優秀主演女優賞を受賞しました。主演・吹石一恵はこの作品で、おおさかシネマフェスティバル2011の主演女優賞も受賞しました。
監督:鈴木卓爾 出演:吹石一恵(武良布枝)、宮藤官九郎(武良茂)、村上淳(金内志郎(茂の家を間借りする絵描き))、坂井真紀(田所初枝(布枝の姉))、徳井優(ぬらりひょん)、南果歩(武良琴江(茂の母))、ほか
映画「ゲゲゲの女房」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ゲゲゲの女房」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
ゲゲゲの女房の予告編 動画
映画「ゲゲゲの女房」解説
この解説記事には映画「ゲゲゲの女房」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ゲゲゲの女房のネタバレあらすじ:不安だらけの新婚生活初日。
時は太平洋戦後の1961年(昭和36年)、豊かな風情の島根県能義郡大塚村、自転車の荷台に空の酒瓶を積み、鼻歌を歌いながら家に帰る1人の女性がいました。その女性は、途中の大きな木の下の小さな祠に手を合わせ、家路につきました。彼女の家は酒屋でした。彼女がこの映画の主人公・武良布枝です。彼女は、二人の姉が嫁に行く中、家に残って、家業の手伝いをしていました。彼女が家に帰ると、父が帰ろうとする寺山に「今回は進めてもらっていいです」と言うと、寺山は「そうですか…お見合いは…」と日程を考えていると、父は「年明けに…」と言いました。どうやら寺山はお見合い話をもってきたようで、それを聞いて、帰っていきました。その日の夕食のとき、父は家族の前で、布枝に来た見合い相手の紹介をしました。その男性は「すこぶる健康。生活は安心。軍人恩給がある。南方で手を片方無くされている。右か左か」と紹介しました。食事中、母は布枝に「あんたに何でも頼りっぱなしにしてきた。年明けには29だ」と言い、お見合い相手の紹介状を渡しました。それには、左腕がない自転車にまたがっている眼鏡をかけた男性の写真がありました。その男性の名前は武良茂、鳥取県境港出身で今は東京に住んでいて、歳は布枝より10歳上、「水木しげる」というペンネームで貸本漫画を描いている、戦争で左腕を無くした人でした。武良茂の仕事が忙しかったので、二人はお見合いから僅か5日後に結婚式を挙げました。東京に着いた二人は、茂の家まで布枝の姉・田所初枝の車で送ってもらいました。茂の家は2階建ての一軒家でした。家に入ると、姉・初枝は「好きな事に打ち込めるって、幸せですわね」と茂に言うと、茂はコートを脱ぎ、「はい」と答えると、二人に「じゃあ、私は仕事をします」と言い、早々に自室に行きました。姉・初枝は車で帰り際、布枝に「お見合いしてすぐ挙式じゃ、分からないわね」と心配し、お金の入った蝦蟇口の財布を布枝に渡すと、車に乗って帰っていきました。布枝は、まだ勝手の分からない茂の家の中を見渡します。まず、台所に入りました。そして、米缶を見つけましたが、お米がありませんでした。その時、1人の男が水を汲みに台所に来て、無言で布枝に軽く頭を下げて2階へ行きました。布枝は驚きました。そして、彼女は茂の部屋に行きました。茂はレコードをかけながら、仕事をしていました。布枝は茂に「あの…2階に人がいます」と言うと、茂は「2階、人に貸してるんですよ。金内さんという人です。…いないものと思えばいいんです。慣れです。慣れ」と答えました。布枝は「お米がない…お金は?」と訊くと、茂は仕事の手を止め、義手を布枝に渡し、レコードプレーヤーを止めて、それを持って玄関に行き、義手を抱えた布枝に「それ、どこかにしまっておいてください。いらんです」と言い残し、どこかに行ってしまいました。布枝は義手をタンスの引き出しに入れましたが、その中には質札が束になってありました。その時、台所の勝手口から声がしたので、出ていくと、それはお米屋さんでした。お米屋さんは「つけが貯まってるんですけど…」と集金に来たようでしたが、布枝は勝手が分からないので「すみません。この家のことまだよくわからないので、お支払いできないんですけど…」と答えると、お米屋さんは黙ってお米を置いて、帰っていきました。暫くして、茂が自転車で戻ってきました。茂は自転車に油をさしながら、布枝に「質屋に入れてるの戻してきました…」と言い、細かいお金を布枝に渡しました。布枝はタンスの中で見つけた質札の束を茂に見せ、「質札がこんなに…お見合いのとき、生活が安定してるって…」と言うと、茂は「ばれたか…面白いですか。男と女、結婚させられるとき、嘘ついたりする。ひっつかんかったら、嘘はばれん。ひっついたら、嘘はばれる。怒りましたか?」と言うと、木の枝で布枝の顔を無理に笑顔にしようとし、笑いながら家の中に入っていきました。その日の夕食、布枝は引き出しから結婚祝いのお金を出し、茂に「安来の家から貰ったお金です。恩給が入るまで」と言いました。茂は「ご馳走様でした。仕上げないといけないので」と言い、自室に入っていきました。布枝は、もうくたくたになって、つい部屋でうたた寝をしていました。すると夢に、茂の母・武良琴が出てきました。そして、琴は「この度はどうも、茂も所帯をもつことができるようになって、ありがとうございました」と言い、義手を手に「嫌がるかもしれませんが、外出のときは付けてほしい」などと要求してきました。その時、茂が部屋に来て、布枝に「風呂、湧かしました。背中、流してくれませんか。…」と言ってきました。琴は「茂のこと、どうぞよろしくお願いします」と言って消えていきました。布枝はハッと現実に戻り、茂の背中を流しに風呂場に行きました。
ゲゲゲの女房のネタバレあらすじ:苦労する布枝。気になる茂の漫画。
次の日、茂は「これ、出版社に渡せば3万円もらえます。3万円貰ったら、何かおいしいもの作ってください」と言うと、笑いながら出ていきました。1人、家に残った布枝は、部屋の掛け時計が止まっているのに気がつき、台座をもってきて、ネジを巻き、時刻を合わせて動かしました。そして、掃除を始めました。茂の部屋を掃除していると、ゴミ箱の中に茂の描いた漫画の下絵がありました。その絵は戦争もので、写実的でした。見ていると、1人の男が死体の山から、モソモソと出てきました。その男は片目を落としながら「俺は生きてた。生きてたんだ」と言い、掌に落ちた自分の目玉が目玉親父になり、「俺はもうこんなだけど、お前を見守ってるよ」とその男に語りかけるという絵でした。
布枝は茂の漫画に人気があるのか確かめたくなり、貸本屋に行きました。布枝は貸本屋の店主に「水木しげるという人の本はありますか」と尋ねると、店主は「恐いやつはそこ」と言い、右の本棚を指しました。布枝は茂の本を見つけ、店主に「この人、人気ありますか」と尋ねました。すると店主は「暗いんだよね。子供にうけないんだよ。こっちの戦記ものはまだましだけど、最後まで描かないのが多いんだよ…」と答えました。その日の夕食のとき、茂は出版社から貰った原稿料を出し、「5千円です。それだけしか貰えませんでした。次は3万円貰う約束してきました」と布枝に言いました。布枝は「恩給は…?」と尋ねると、茂は「恩給は鳥取の両親が毎月、受け取ってます」と答えました。
ある日、茂の母・琴から手紙が届きました。そこには「東京は物価が高いと聞いていますが、茂にはちゃんと食べさせていますか」「仕事は大切ですが、茂は寝不足が苦手です」など諸々注意事項が書かれていました。布枝は、その言葉が頭から離れませんでした。台所で布枝が鰹節を削っているときも、琴が横で「野菜は寄生虫の卵が付いていることがあります。しっかり、洗ってほしいわ」と説教されているようでした。寝ようとしているときも、布枝は琴が横で「変な薬を飲ませてはないでしょうね。結婚したからと言って、無理はさせずによく休ませてほしい」と囁いているようで、なかなか眠れませんでした。次の日、布枝が夕食の支度をしていると、2階の金内が「いや~今夜はご馳走ですね。あの…今、生活苦しくて、家賃、もうちょっと待ってもらえませんか」とお願いに来ました。布枝はついにキレ、金内に食材を見せ「これ、売り物にならないもの、分けて貰いました!パン屋行っても、食パン買えないんです!川原でつんできました!食べられる野生の草だってあります!」と怒りをぶつけました。その様子を見ていた茂を見て、布枝は家を飛び出しました。布枝は自転車で辺りを放浪しました。いつの間にか、布枝は墓地に来ていました。布枝はハッと気づき、その場を離れようとしました。すると、墓地を歩いている茂の姿を見ました。暫く、布枝は茂の様子を見ていましたが、茂が急に倒れるのを見て、思わず彼のもとに駆け寄りました。茂は布枝に「探しましたよ」と言うと、座り、戦時中の話を語りました。「ひもじい思いをした。くだらん上官の命令で、みんな死にました。…貧乏は全然、平気です。命まで取られませんから」と茂は言いました。その帰り道、布枝は茂にパニックになった理由を打ち明けました。茂は布枝に「お袋は『怒る』と言います。すぐ怒るから…」と言い、灯台守になれと言われたが、自分にはその仕事はできないことを打ち明けました。茂は「生活が苦しいことを実家に言ってはダメです。もしあんたが生活に苦しいと手紙を書いたら、『怒る』が灯台守になれと言うでしょう。…そしたら、面倒だ」と言いました。家に戻った二人は夕食を食べました。茂は布枝の料理を「旨いわ~本当に旨い」と褒め、食べました。そして、茂は「あとで、手伝ってほしい。食べたら、今晩中に仕上げますから。明日、3万貰ったら、新宿の中村屋のチキンカレーと珈琲と『怒る』に送るキャンディと買ってきます」と初めて布枝に仕事の手伝いを頼みました。布枝は「チキンカレー?高いんでしょ」と言うと、茂は「金なんかいつ入るか分かりません。…ある時に使ったほうがいいんです」と答えました。その夜、布枝は茂の指示通りに、茂の漫画の手伝いをしました。布枝は茂の漫画を見ていると、その漫画の絵が動いているように見えてきました。それは独特の世界でした。翌朝、徹夜して原稿を仕上げた茂のおならの音で、布枝は目覚めました。布枝はいつの間にか眠っていたのでした。目覚めた布枝に、茂はこの原稿を幻想出版まで届け、原稿料を貰って来てほしいと頼みました。「3万円だからね。…向こうは原稿料を値切ろうとするかもしれん。…粘れ。…その原稿料に生活がかかってる」と布枝に茂は発破をかけました。布枝は茂に「お金貰ったら、新宿で珈琲、キャンディ、チキンカレー」と買い物を確認し、幻想出版に行きました。
ゲゲゲの女房のネタバレあらすじ:貧しくも茂の漫画に賭ける布枝。
布枝は幻想出版・社長に茂の原稿を渡しました。社長は原稿を確かめると、「奥さん、これ全部、水木さんの本。人気がなくて、返品の山ですわ」とこれ見よがしに返本の山を机の上に置きました。布枝は「原稿料預かってくるように言われたんですけど」と社長に言うと、社長は布枝に「売れるもの描いてくれないと、お金払えないよ」と切り返してきました。布枝の真剣な眼差しを見て、社長は仕方なさそうに金庫から1万5千円を出し、布枝に渡しました。布枝は茂の言葉を思い出し、「3万円と聞いてますが、これじゃ半分です」と訴えると、社長は「半分でも貰えるだけ、ありがたいと思ってほしいな」とこれ以上は出せないと言いました。布枝は帰りに新宿で珈琲とキャンディを買い、家に帰りました。時計のネジを巻き、意を決して茂の部屋に行き、涙目で「原稿料、半分しか貰えませんでした」と報告しました。茂は「半分だけでも貰えたのは凄い。珈琲でも飲もう」と布枝を励まし、二人で珈琲を飲みました。その日も食後、布枝は茂の仕事の手伝いをしました。布団の模様を描くと茂に見せました。茂はその絵を見て「これはいい」と褒めました。暗くなってきたので、電灯をつけようとしましたがつきません。茂は「とうとう止められたか」と言うと、二人は蝋燭の灯りで仕事をすることにしました。布枝は茂になぜ、妖怪の絵ばかりを描いているのか訊きました。茂は妖怪のことを布枝に説明しました。その詳しさに布枝は驚きました。布枝は「東京にも妖怪おるかな」と訊くと、茂は「いっぱいおるよ。目に見えんでも…。妖怪の上前をはねるような恐ろしい人間も犇めいとるけど」と答えました。布枝は茂に「茂さんの漫画、今にきっと認められますよ」と励ますと、茂は「当たり前だ」と力強く答えました。布枝がふと茂が描いた母の絵を見て「あっ、絵が笑った」と言うと、茂は「プロだからな」と少し笑みを浮かべ答えました。茂の漫画の画力はそれほど凄かったのです。すると突然、蝋燭の灯りが消えました。二人は驚きました。それは二人の背後にいた妖怪・火消し婆のいたずらでした。ある日、茂は果物屋から売り物にならない茶色く腐りかけのバナナの束を50円で買ってきました。布枝は茂の「腐りかけが一番旨い」と言う言葉を信じ、二人で食べました。それは50円とは思えない甘く美味しいものでした。驚く布枝に「なっ、大発見」と言って、茂は部屋の中で踊り始めました。外では南国の妖怪が一緒に踊っていました。それから数日後、布枝が原稿を届けに幻想出版に行くと、そこでは男3人が社長に「金を払え!」と怒鳴っていました。社長は「ないものは払えないんです」と言いますが、男たちの怒りは収まらず、社長にくってかかり、窓から本を外に投げ捨てました。もう1人若い青年がいましたが、その青年は座り込んでいました。布枝は諦めて幻想出版を出ると、後を追ってその青年が「水木先生のファンなんです」と声をかけてきました。彼は貸本漫画家の安井庄治という青年でした。布枝は茂のファンがいたことが嬉しく、安井を家に招きました。そして夕食の時、安井の事情を聞くと彼はここ何日も食えずにいたこと、家に帰っても兄嫁にイジメられることを打ち明けました。彼は茂に「今夜、一晩泊めてほしい」と頼んできました。茂と布枝は承諾し、みそ汁とご飯だけでしたが、3人で食事を摂りました。安井は久しぶりの食事に急いで食べようとしていました。その様子を2階の金内が覗いていたので、布枝は「たまにはみんなでご飯を食べましょう」と彼も誘い、金内も一緒に食べることになりました。翌日、布枝は質屋に行き、掛け時計と茂のジャケットを質に入れ、お金に換えました。家に帰ると、外で姉・初枝が車で待っていました。姉は「大丈夫?最初と話が違うから…」と心配して来てくれたのでした。車の中で布枝は姉に「会社で働けないかな」と相談しました。姉は「暫く、うちに泊まったら」と布枝を誘いましたが、布枝が「茂さんに聞かないと」と言うと、姉は「電報打ったらいいわよ。ちょっと懲らしめないと」と言い、半ば強引に布枝を連れて行きました。布枝は数日、姉の家に泊まることになり、茂に電報を打ちました。茂は夜中にその電報を受け、ちょっと肩を落としました。そんな茂に金内が「珈琲でもいかがですか」と2階の部屋に案内しました。金内は茂に自分の過去を語り出しました。「私も昔、貸本漫画やってたんですよ。でも原稿描くのが遅くって、出版社に見放されて、…離婚しました。…自分だけが世の中から見放されたようで…水木さんのような人のお二階に住まわせて貰って、どれほど楽させて貰っているか…」と寂しそうに茂に語ると、茂は窓も開けず空気が澱んだ金内の部屋にいたたまれなくなり、部屋を飛び出しました。そして、部屋に戻るとさっきまで寝ていた安井がいなくなり、布団の中で砂になっていました。茂は自分の頭がおかしくなったのかと思い、外に飛び出し、叫びました。
ゲゲゲの女房のネタバレあらすじ:評価されだした茂の漫画。新しい命の誕生。
数日後、茂は布枝を迎えにバス停まで迎えにいきました。布枝の姉に黄色いバナナの束を渡し、お礼を言うと、布枝を連れて歩いて駅まで帰りました。その道すがら、布枝は「赤ちゃんができちゃった」と茂に告げました。茂は「子供は大変だぞ…その上、うちは貧乏だ」と言うと、布枝は「大丈夫、私だって子沢山の家だったから…いくら貧乏だってなんとかなるわ。茂さんも私も歳をとってる。この先またいつ授かるかわからない…私は産みます」と主張しました。茂は布枝の頑とした気持ちに負け、「わかったよ」と言い、着ていたジャケットを「早く質に戻さないと」と布枝に言うと、布枝は「茂さん、手!」と言って、布枝は茂のない左腕のジャケットをつかんで、二人で歩いて帰りました。ある日、出版社の編集者がやって来ました。その編集者は茂の漫画を読んで「おもしろいですね」と評価しましたが、現金で買うことはできないと申し訳なさそうに言いました。編集者は「今や人類も月に行く時代…怪奇ものとかお化け、みんな忘れちゃったんですかね」とぼやきました。いろいろ話しているうちに、話は安井のことになりました。編集者は「それが先日、彼、餓死しました」と打ち明けると、それを聞いた茂は笑いながら「餓死する人間がまだいるこの世の中が、新しい世界だなんて、どこの誰が言えますか…でも負けちゃいかんのですよ」と言いました。その夜から、水木は燃えました。今のこの世の中への怒りを漫画にぶつけ、『悪魔くん』という1冊の本を描きました。その本の発刊後、布枝は貸本屋に行き、茂の『悪魔くん』を見つけると、店主に無断で置き場所を換えました。店主に「これ、面白いんですよ」と布枝が売り込むと、店主は「暗くて受けないんだよ」と言い、子供の手の届きそうにない元の位置に戻しました。数日後、出版社の編集者がまた茂のもとにやって来て、『悪魔くん』を読んで「これ、凄い作品ですよ。売れなくても気に病むことないですよ」と茂を励ましました。その時、講談社の週刊『少年マガジン』の若い編集者・佐久間弦太が訪ねてきました。佐久間は緊張しながら、茂に「実は水木先生に宇宙ものを描いていただけないかと編集部で決まりまして、描いていただけないでしょうか」と原稿依頼をしてきました。茂は「宇宙ものは苦手なので…」と断ると、佐久間は困った表情をしたので、茂は「漫画家なんて、他に幾らでもいるでしょ」と言うと、佐久間は「お任せできる人はそんなにいないんです。何とか考えて、検討していただけないでしょうか」と食い下がってきました。しかし、茂は「無理ですね。他の人を当たってください」と言い、彼を帰らせました。この会話を聞いていた布枝はがっかりしました。その夜、茂が布枝に断った理由を話しました。「苦手なものを描いてもダメだ。不得意な分野に手を出して、にっちもさっちもいかなくなった奴を俺は知っている。…俺は妖怪と心中する。今の人は目に見えるものしか、信じない」と布枝に語りました。そして「妖怪なんて本当はおらんのかもしれん。…いよいよダメなら…」と茂の漫画家を諦めるような言葉を聞いた布枝は、怒って棚にならんだ資料本を掴みだし、「茂さんが漫画やめてもいいんだったら、今すぐやめて…これ全部売って、お金にして…」と言い放ち、家を飛び出して行きました。布枝は歩いていると、目の前に小さな子供の妖怪が現れました。布枝は「東京にもおるんやね」と呟きました。するとそこに茂が探しに来ました。布枝は陣痛が始まったようで、茂に病院に連れて行ってもらいました。そして、二人の赤ちゃんが誕生しました。ある日、赤ちゃんをおぶって散歩していた布枝は、橋のところで背後に何かの気配を感じました。布枝は妖怪ベトベトさんかと思い、茂に教えてもらった通りに「ベトベトさん、ベトベトさん、先へお越しやす」と呟き、振り返ると、そこには茂が立っていました。「ベトベトさんかと思った」と言う布枝と、茂は笑いながら家に帰りました。家に帰ると玄関に二人の男が待っていました。税務署の人たちでした。男は「お宅の申告所得が18万7千円って少なすぎないですか」と言うと、茂は「それだけなんです。怒ると腹が減りますから、怒らないようにとか、色々工夫してやってますよ」と笑って答えました。税務署の男はしつこく「親子3人暮らしていけないでしょ…他に収入があるんじゃないかと疑いが…」と言ってきました。茂はタンスの中の質札の束を男たちに見せ散らかし、「貧乏は全然平気です。命まで取られませんから。俺たちの生活がお前等に分かるわけないんだ!」と怒鳴り、税務署の男たちを追い払いました。玄関に散らかった質札を、二人で拾いながら、故郷・鳥取の民謡を歌いました。その様子を2階で寂しそうに聞いていた金内は、「もうこの家に甘えられないな」と思い、ある日、水木宅から出ていきました。
ゲゲゲの女房の結末:ようやく巡ってきた幸せ。
金内が出ていった2階を掃除していた布枝に、外から茂が声をかけてきました。布枝が見ると、そこには赤ちゃんを抱いた茂と、あの『少年マガジン』編集者・佐久間でした。佐久間は汗だくで息切れしていました。布枝はお水を差し出しました。事情を聞くと、佐久間は駅から走ってきたそうでした。そして佐久間は茂に「うちの編集方針が変わりまして…何でも好きなものを描いてください。読み切り32ページ」と原稿執筆依頼をしてきました。ようやく、茂の漫画が評価された瞬間でした。二人は喜びました。茂は気合いを入れ、まず、二人の可愛い赤ちゃんの顔をスケッチし出しました。そして、そこから何やら新しい題材の漫画を描こうとしているようでした。布枝も赤ちゃんを育てながら、家事をして、茂の手伝いをしてという多忙な日々を過ごしました。ある日、二人は気分転換に自転車に乗り、辺りを走っていました。布枝が「週刊誌の仕事が続いたら、質草も戻せるかな?」と茂に訊くと、茂は「そりゃ、貸本漫画の10倍だからな。今度の原稿料」と言いました。布枝はこれまでの貧乏生活が慣れていたので、なぜか多額のお金を貰うことに戸惑いを覚えていました。そんな布枝に、茂は「くれると言うなら、貰っとけ。今までが人間の原稿料じゃなかったからな」と言って、二人で笑い、「金なんてあるときに使ったほうがええんだ」と言い、二人で「中村屋のチキンカレー」と思い出したように叫ぶと、また二人で笑いました。布枝は自転車に乗っている途中で、茂に止めるように促しました。布枝は墓地の方を見て「お父ちゃんにも見えない?」と言うと、そこには赤くぼんやりと光る人魂が浮かんで、ある墓に消えていきました。二人は妖怪を信じて生きようと思いました。今まで茂と布枝の周りにいた、ぬらりひょん、火消し婆、川男たち、小豆洗いなどの妖怪たちは、喜び、踊り出しました。数日後、『少年マガジン』の原稿を仕上げた茂は、講談社に届けに出ていきました。その姿をいつものように、布枝は見送り終えると、ふと気付いたように、質草から戻した掛け時計が止まらないように、ネジを回しました。時計はカチカチと音をたて、二人の生活が貧しさから抜け出し、このまま平穏に暮らしていけるように、時を刻んでいました。
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