朱花(はねづ)の月の紹介:2011年日本映画。いまだ謎に包まれた明日香の地を舞台に繰り広げられる、一人の女を取り合う二人の男。坂東眞砂子の小説を河瀬直美が映像化。
監督:河瀬直美 出演:こみずとうた(拓未)、大島葉子(加夜子)、明川哲也(哲也)、麿赤兒(考古学者(よっちゃん))、小水たいが(拓未の祖父(久雄))、樹木希林(拓未の母)ほか
映画「朱花の月」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「朱花の月」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「朱花の月」解説
この解説記事には映画「朱花の月」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
朱花(はねづ)の月のネタバレあらすじ:昔も今も変わらない、一人の女と二人の男の関係
香具山に上る月と共に万葉集の二つの歌が詠われる。一つは一人の女を二人の男が争うと言う内容歌を二人の男の声で、もう一つは女性の声で会えなくなってしまった事を嘆く内容。棚田に鯉のぼりが一本立っている。寄り合いでは昔はこのあたりにもたくさん子供がいたけれど、今は数えるほど、まだ若い拓未はいい人はいないのかと聞かれるもののはぐらかす。紅染でスカーフを染める加夜子と、朝食を作る哲也。編集者をしている彼は、農家のおばあさんに教えてもらった知恵など、この土地のものを売りにすればいいのにとぼやく。玄関が映され表札には二つの苗字が並んでいるのが見える。見送った加夜子は自転車で出かける。とある神社の石段の前に軽トラでやって来た拓未は、彼女の自転車を荷台に乗せ、石段をあがっていく。社の裏手に加夜子がいる。神社にお参りをした二人は拓未の軽トラで彼の家へ。拓未の作った昼食を食べながら、会話の弾む二人。天井にはツバメが巣を作っている。仕事場で彫刻を始めた拓未に染めたスカーフを被せると、びっくりした彼は手を滑らせ指を傷つけてしまう。帰り際、加夜子は拓未に赤ちゃんが出来たと告げる。石棺の中で眠る男のイメージが挿入される。朝、加夜子は起こしにきた哲也を跳ね飛ばしてしまう。彼は気にせずにレモン農家で訳アリ品のレモンで作ったクッキーの話をし、出張で来週帰ってくると彼女に告げる。
朱花(はねづ)の月のネタバレあらすじ:それぞれの祖父と祖母、過去とオーバーラップする現在
身支度を整え野菜を持って実家へ帰った拓未。そこで祖父のアルバム見る。祖父は戦争から帰ってきてから見合いをし、拓未の父が生まれてから死んだ。そんな祖父とたくみは最近似て来た。空き地で遊ぶ子供たちをブランコに乗りながら見ていると、男の子がよってきて花を一輪くれた、彼はそれを祖父の墓に供えた。加夜子と拓未の落書きが残る高校の図書室(拓未と加夜子は同じ高校)。神社の境内で子供に「待ってるだけでええの?」と問われる拓未。国民服の男性と、もんぺ姿の女性がいる。祭りの準備をする女性たち、服装と胸元に縫い付けられた名札から、戦時中だと分かる。その中に加夜子とにた女性おり、拓未に似た男性が彼女を人だかりから遠ざけ、ずっと待っていようと思っていたが赤紙が来てしまったと告げる。(加夜子の祖母と拓未の祖父)。実家に帰った加夜子は、哲也が好きそうだから手作りの杏ジャムを持って帰りなさいと言う。庭にある鉄棒を見て、もう子供の頃には戻れないと実感する加夜子に、母は祖母に似てきたと言う。そして祖母には好きあった男性がいたが、親が決めた相手がいて、一緒になれなかったと言うことを知る。
朱花(はねづ)の月のネタバレあらすじ:砂遊びをしていた、よっちゃんは今
発掘現場を訪れた拓未は作業員に声をかけられる。その人は拓未の持っていた二つの輪が繋がるように彫った木が神代杉であることに興味を示し、その彫刻を見せてくれたお礼に拓未を発掘現場に案内する。よっちゃんはこんなの好きかと何かの欠片のようなもので遊ぶ子供に問う拓未の祖父。あの辺りは偉い学者が来て掘り起こしている、どうやら都があったらしい。成長し作業員になったよっちゃんに今は何をしているのかと尋ねる祖父、今は68歳になって穴を掘っていると答えたよっちゃんは祖父に今でもずっとここで待っているのかと問い返した。(よっちゃんは拓未を発掘現場に案内した作業員)。帰ってきた加夜子と食材を買いに行った哲也は帰り道でツバメはどちらかが死ぬまでずっと番いでいるのだと教える。夕飯を食べながらPR誌の編集を止めて地物を使ったレストランをしたいと言う哲也に、加夜子は、好きな人がいると告げる。
朱花(はねづ)の月の結末:待つことを止めた男たち
翌朝、哲也をいつもと変わらず見送る加夜子は膝ほどもある飛鳥川の水の中を歩いて渡る。天井のツバメを見ながら拓未は大きな人の形に木を彫っていた。雨の中、濡れたまま家を訪れた加夜子を「おかえり」と迎え入れた彼は、彫り途中の物を見押せながら、大丈夫だから、何とかするから、子供と三人で暮らそうと話す。しかし、加夜子は子供はもうおろしたからいない、いつも待っているだけだった拓未では無理だと責めて出て行った。拓未は加夜子を追わずに、彫刻刀を握り締め血を流した。雨の中帰宅した加夜子をする哲也に、加夜子はただ「ごめん」というばかり、濡れた服を脱がし抱きしめる彼は「なんで何も言ってくれないの。」と聞くが返事は帰ってこなかった。香具山に月が上り、冒頭と同じ歌が詠われる。早朝、左手で彫刻し続ける拓未は、ツバメの巣に子供が生まれている事に気づく。洗濯物の終わった加夜子はレモンクッキーの置かれた食卓を見、浴室の扉に手をかけ本当はおろしておらず赤ちゃんがいる告げる。戸を開けると血で赤くなった浴槽で徹夜は死んでいた。加夜子は紅で染めたスカーフを燃やした。その赤は血を思わせる。朝霧の中、藤原京跡を訪れた拓未。歩く彼の横を祖父が並んで歩く。いつしか祖父は立ち止まり、拓未は歩き続けた。彼のアトリエでは子供のツバメが育っていた。木漏れ日を見上げる加夜子と、藤原京の発掘現場、2011年現在藤原京はいまだ謎と言うテロップと、無数の名も無き魂に捧ぐと言うテロップがでて、エンドロールが始まる。
朱花(はねづ)の月のレビュー・感想:「待つ」という事。
この作品では「待つ」という事が一つのキーワードになっている。加夜子と拓未の祖母と祖父は想い合いながらも、加夜子の祖母には決められた相手がおり、拓未の祖父は彼女が親を説得するのを待っていたが赤紙で召集されてしまう。おそらく終戦を迎え帰ってきた頃には彼女は嫁に行ってしまったのだと思う。
同じ事が因縁のように加夜子と拓未の間にも起こる。拓未は加夜子が自分の家を訪れるのを待つばかり。唯一違うのは、最後、藤原京で祖父と並んで歩くシーンで、拓未だけ歩みは止めなかった。その後、加夜子とどうなったのかは不明だけれど、彼は待ち続けた祖父とは異なる事をした。この変化によって過去は変えられないまでも繰り返される因縁のような関係に一つ終止符が打たれたように思う。
<参考>作品中に使用された和歌
中大兄:香具山は 畝傍を愛しと 耳成と 相争ひき 神代より かくにあるらし 古も しかにあれこそ うつせみも 妻を争ふらしき (巻の一 一三番)
持統天皇:燃ゆる火も取りて包みて袋には入ると言はずやも智男雲 (巻の二 百六十番)
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