教誨師(きょうかいし)の紹介:2018年日本映画。2018年に他界した名優・大杉漣の最後の主演作であり、最初で最後のプロデュース作品ともなったヒューマンドラマです。大杉漣演じる、死刑囚と執行前に対話する教誨師の牧師と、様々な境遇を抱えた6人の死刑囚との魂の交流を描きます。
監督:佐向大 出演者:大杉漣(佐伯保)、玉置玲央(高宮真司)、烏丸せつこ(野口今日子)、五頭岳夫(進藤正一)、小川登(小川一)、古舘寛治(鈴木貴裕)、光石研(吉田睦夫)、青木柚(佐伯健一)、藤野大輝(長谷川陽介)ほか
映画「教誨師(きょうかいし)」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「教誨師(きょうかいし)」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
教誨師(きょうかいし)の予告編 動画
映画「教誨師(きょうかいし)」解説
この解説記事には映画「教誨師(きょうかいし)」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
教誨師(きょうかいし)のネタバレあらすじ:起
秋。半年前からボランティアで死刑囚にキリスト教の教えや道徳を説く“教誨師”(きょうかいし)をしているプロテスタント系牧師の佐伯保(大杉漣)は月に2度、死刑囚が収監されている刑務所に出向いていました。この刑務所で最期の時を待つ死刑囚は、無言を貫いたままの中年男・鈴木貴裕(古舘寛治)、気さくな元やくざの吉田睦夫(光石研)、お喋りな中年女性・野口今日子(烏丸せつこ)、2児の父でもある気弱な男・小川一(小川登)、読み書きができない元ホームレスの老人・進藤正一(五頭岳夫)、冷酷なインテリの青年・高宮真司(玉置玲央)の計6名です。佐伯の役目は、彼ら死刑囚に聖書の教えを説き、彼らの話に真摯に耳を傾けて対話を重ね、そして安らかな最期を迎えられるよう罪を悔い改めさせることでした。
教誨師(きょうかいし)のネタバレあらすじ:承
鈴木は愛情の深さが余ったからか元恋人をその家族ごと殺害した罪で死刑判決を受けていました。大阪で美容師をしていた野口は金銭トラブルから殺人を起こしたのですが、責任は共犯者にあると決して自らの罪を認めず、佐伯に対しても一方的にまくしたててきました。小川は貧しいながらも懸命に子供たちを育ててきた良き父親であり、どうしても死刑になるような人間には見えませんでした。ホームレスだった頃に拾ったグラビアアイドルの切り抜きを大切に持ち歩いている進藤は佐伯の勧めで勉強を始め、キリスト教の教えに深く感銘を受けていました。
吉田は何かと収入の低い佐伯に世話を焼こうとしており、何か困ったら自分の組を頼るよう勧めてきました。そんなある日、吉田は看守がいない隙に、裁判では一度も証言していない行方不明の政治家を殺したことを佐伯に打ち明け、絶対に誰にも話すなと念を押してきました。
身体障がい者を大量殺害した罪で死刑判決を受けた高宮は決して悔い改めることなく、常に一貫して攻撃的な態度を取っていました。障がい者は生きていてもしょうがないから殺したと命を軽く見る高宮に、佐伯はなぜ人を殺してはいけないかわかるか問いかけましたが、高宮はならば人間はなぜ家畜を殺して喰らうのか、いかなる人間を殺してはいけないのならなぜ死刑制度があるのかなどと減らず口を叩いてきました。佐伯は高宮に、自分の秘められた過去を打ち明け始めました。
教誨師(きょうかいし)のネタバレあらすじ:転
少年時代、佐伯(杉田雷麟)と兄・健一(青木柚)は母に捨てられ、母は他の子連れの男の元に走りました。ある日、河原で遊んでいた佐伯兄弟の前に母の再婚相手が現れ、自分たちを侮辱されたことに激昂した佐伯が再婚相手の息子に殴りかかりました。再婚相手が馬乗りになって佐伯を殴り始めたところ、健一は河原の石を拾って何度も男の頭を殴り、男が息絶えても殴り続けました。少年院に入った健一は自殺してしまい、佐伯は叔父に引き取られてキリスト教に改宗したのです。
ある日、佐伯が鈴木と面会をしていたその時、これまで黙して語らなかった鈴木が突然立ち上がり、狂気の目つきで女性のことを叫びました。外は大きな雷鳴が鳴り響き、刑務所内は数分間停電に陥るなか、鈴木の背後には殺した女性の幻影が浮かび上がり、鈴木は恐怖に震え上がりました。
数日後、吉田は佐伯に、先日語った裁判で語られなかった事件のことについて誰にも話していないか再度確認してきました。佐伯が否定すると、吉田は「まだクリスマスでもないのに食事にケーキが出た。クリスマスまで生きられないってことじゃねえよな?」と疑心暗鬼になっていました。実はこの事件とは、もう一度裁判を引き起こして死刑執行を先延ばしにするための吉田が仕組んだ嘘だったのです。
そうこうしている内に、佐伯は所長から12月26日に誰かは不明ながら死刑囚1名の刑が執行されることを告げられました。
教誨師(きょうかいし)の結末
ある日、進藤は脳梗塞を患い、治療のためしばらく面会できなくなりました。その一方で、小川は佐伯に自分が死刑判決を受けるまでの経緯を語り始めました。野球をしていた小川の息子が他の子の用具を盗んでしまい、小川が用具を持って謝りに行ったところ、その子の親に酷く暴言を吐かれたことから金属バットで親と子を殴り殺したのです。佐伯は犯行当時の小川は心神喪失になっていたのだから裁判をやり直すべきだと主張しましたが、小川は今更しょうがないと応えるのみでした。面会を終え、引き揚げようとした佐伯の前に、死んだはずの兄・健一の幻影が写っていました。佐伯は健一に「逃げん」と応えました。
数日後、高宮と面会した佐伯は再び「なぜ人を殺したらいけないのか」と問われ、わからないとしたうえでこう答えました。「何のために生きているのかわからなくてもいいじゃないですか。生きている意味なんてない。生きているから生きる。だから殺しちゃいけないんです」
そして迎えた12月26日。処刑されるのは高宮でした。立ち会った佐伯はいつもと違って動揺した表情を見せる高宮に抱き付かれ、佐伯にしかわからない小声で囁かれました。佐伯は「私も感謝しています。あなたと話せて本当に良かった」と目に涙を浮かべ、高宮はそのまま死刑台へと送られていきました…。
年が明け、刑務所には春が訪れました。佐伯は脳梗塞の後遺症からはっきりとしゃべれなくなった進藤から、大事に持っていたはずのグラビアアイドルの切り抜きを受け取りました。そこには「あなたがたのうち だれが わたしを つみにとえる というのか」と書かれてありました。
観始めた最初に死刑囚とは見えなかった人々。あれ!、この中に死刑囚が混ざっているのかと、何とも拍子抜けしてみていたが、段々と深みに嵌るように話に引き込まれていった。もともと死刑囚になる人は、実は普通の人が何かの弾みで抑えきれなくなり、または間違った思念に囚われ始めたて行った結果なのだろうと、思い始めている。ただ、生来性犯罪説も間違いではないと思っていることから、死刑制度には若干の疑念を持っている。