まく子の紹介:2018年日本映画。直木賞作家の西加奈子の同名小説を『くじらのまち』の鶴岡慧子監督が映画化したヒューマンドラマです。群馬県の四万温泉を舞台に、大人になりたくない少年が転校してきた不思議な少女との出会いを通して成長していく姿を描きます。
監督:鶴岡慧子 出演者:山﨑光(南雲慧)、新音(田村梢)、草彅剛(南雲光一)、須藤理彩(南雲明美)、つみきみほ(梢の母)、村上純(ドノ)、橋本淳(小菅)、内川蓮生(類)、松山愛里(チカ)、根岸季衣(キミエ)、小倉久寛(校長)、藤澤遥(若木ソラ)、重村真智子(若木ソラの母)ほか
映画「まく子」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「まく子」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
まく子の予告編 動画
映画「まく子」解説
この解説記事には映画「まく子」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
まく子のネタバレあらすじ:起
平成末期の2018年初春、群馬県中之条町の四万温泉街。この町の小学校に通う5年生の南雲慧(山﨑光)の父・光一(草彅剛)と母・明美(須藤理彩)は、この町で温泉旅館「あかつき館」を営んでいます。
慧は近頃同級生が大声で漫画を読み上げるのが恥ずかしく感じるようになり、そのことをあかつき館で働くベテラン仲居のキミエおばちゃん(根岸季衣)に相談すると、慧も大人に近づいてきたのだと言われました。
しかし、慧は自分が大人になることをたまらなく嫌がっていました。慧は学校が終わると、小高い丘にある古城跡「常盤城跡」の石垣に一人座って町を見下ろしていました。
ある夜、家族や授業員たちと共に食事を採っていた慧は光一の様子がおかしいことに気付き、こっそり後をつけてみると、光一が隣町の女・チカ(松山愛里)と浮気をしているところを目撃してしまいました。
慧のクラスでは、男の子たちが女の子の生理について語り合っていました。慧がいつも通りに下校しようとしていると、そこに白い服を着たロングヘアーの長身の少女が現れ、慧に「子供?」と訊いてきました。「君も私と同い年。同じ“子供”だね」という少女に慧は思わず顔を赤らめてしまい、逃げるようにその場から走り去ってしまいました。
少女の名は田村梢(新音)といい、慧のクラスにやってきた転校生でした。梢は担任の小菅(橋本淳)から紹介されました。梢の母(つみきみほ)はあかつき館に仲居として住み込みで働くことになり、あかつき館に隣接する宿舎「いろは荘」に暮らすことになったのです。
慧はクラスメートから「梢と一緒に寝るのか?」と冷やかされ、ふてくされたまま下校しようとすると、梢が「一緒に帰ろう」と誘ってきました。しかし、慧は「一人で帰る」と突っぱねてしまいました。
梢は周囲の人々をじろっと見つめる癖があり、梢の母もどこか不思議な人間でした。キミエおばちゃんや仲居たちは口々に「不思議な子だね。あの親子は訳あり?」と噂していましたが、光一だけは「あの娘、可愛いね」とヘラヘラしていました。
慧の通う学校では児童たちが環境整備をしていました。慧の同級生の男子たちは掃除をサボり、ドノ(村上純)という男と一緒になって漫画に読みふけっていました。梢は慧に「あれは“大人”?」と尋ねると、慧は「ドノはこの町で一番ダメな大人。(一瞬光一のことが頭をよぎり)いや、二番目かな」と答えました。
慧はいつものように常盤城跡の石垣に座っていると、そこに梢がやってきました。慧は嫌々ながらここが古い城跡であることを教え、落ち葉を拾って投げていると、梢も一緒になって落ち葉を投げ始めました。慧は梢に、生まれて初めて“ある感情”を抱き始めていました。
まく子のネタバレあらすじ:承
学校の図工の授業では児童たちが思い思いに自由な発想で工作物を作っていましたが、梢だけは何を作ることもなく、ただ布を引きちぎっているだけでした。
放課後、慧が常盤城跡に行こうとすると、「慧のこと、見ていたいんだもの」と梢もついてきました。慧は梢がちぎっていたのはあかつき館の客室の座布団カバーなのかと問うと、梢は「あれって、座布団カバーっていうの?」とあっけらかんに応えました。
梢が何か材料がないか母に相談したところ、母が座布団カバーを持ってきてくれたというのです。慧は勝手なことをした梢の母に「“大人”なのに、なぜいけないことをしていることに気付かないのか」と不満を持ちましたが、梢は「お母さんは何もわからないよ。だって、はじめてのことだから」と語り、自分の母は実の親ではないことを打ち明けました。慧は梢が何を言っているのか全く理解できませんでした。
大人になることを拒みながらも世の中を冷めた目で見ている慧とは正反対に、天真爛漫な梢は何事にも夢中になって興味を示していました。梢は誰にも打ち明けていない秘密を慧にだけ打ち明けました。「私とお母さんね、実は“ある星”から来たの。土星の近くの星から宇宙船に乗って来たの」
驚く慧に、梢は自分と母がこの地球に来た目的を語り始めました。梢の故郷の星の生命体は年を取らない不老不死の種族でしたが、人口が増え過ぎたために希望する者には“死ぬ”ことが認められたのです。梢は“死”とは何かを知るために地球にやってきたというのです。
慧はテレビか本の見過ぎだとして全く信じようとしませんでしたが、梢は自分は地球の少女“田村梢”の身体を借りているのであり、自分の本当の姿は図工で作ったグロテスクな怪物のようなものだと語りました。
慧の学校の卒業式が終わりました。同級生たちは不登校児の類(内川蓮生)が卒業式に顔を出さなかったことを気にしていました。類は事あるごとに“空まで伸びるはしご”や“UFO”を見たことがあると発言しており、同級生たちからは嘘つき呼ばわりされていました。
慧は梢と共に、体調を崩して寝込んでいるキミエおばちゃんを見舞いました。梢はキミエおばちゃんの持っている人形が気になりました。この人形はキミエおばちゃんの娘のものであり、娘は今“ずっと遠いところ”にいるということでした。キミエおばちゃんはかつて娘にしたように梢の髪を結ってくれました。
慧は梢に星の話はするなと忠告しましたが、梢は赤い血潮の流れる慧の手を見るなり、故郷の星では全てのものは変化しないことを語りました。成長したくない慧は羨ましがりましたが、梢は故郷の星で起こった出来事を語りました。
ある時、梢の故郷の星に隕石が堕ちてきました。隕石は星の環境に影響を与え、梢と同じような生命体が大量に増殖、その結果星の秩序が乱れ、生命体の誰かを犠牲にしなければならない事態となったのです。
湯の恵みに感謝する毎年恒例の四万温泉街の祭り「サイセ祭り」の時期が近づいてきました。祭りの出し物のひとつに“こども神輿”があり、慧たちのクラスは梢が発案した“地球”を象った神輿を作ることになり、慧や梢はクラスメートたちと共に神輿を作り始めました。
こども神輿は町中を練り歩いた後、大人たちによって川で壊され、燃やされることが習わしです。この話を聞いた梢はなぜか嬉しそうでした。そんな時、梢はクラスメートのタダシに呼び出され、「梢のことが好きだ」と告白されました。梢はあっさりと「私も君のことが好き」と答え、慧はまさかの事態に驚きを隠せませんでした。
慧がある墓の清掃をしていると、そこに梢がやってきました。慧は梢にタダシとの関係を問い質したところ、梢は「タダシを好きなのは本当だよ。だって、見てて面白いし。クラスメートはみんな面白う」と答えました。特にタダシに恋愛感情は抱いていないようでした。
帰り道、梢は慧に、自分は死んだ人間の身体を借りていることを打ち明けました。肉体の本来の持ち主である“田村梢”は自分が死んだことを受け入れられず、梢はその気持ちに共感してシンクロしたのです。慧は「梢もいつか死ぬの?」と問いましたが、梢は「祭りが楽しみだね」とはぐらかしました。
この日の夜、慧は光一の浮気相手・チカの夢を見ました。飛び起きた慧は自分の身体の変化に気付きました。隣の部屋のベランダでは梢が夜空を見上げており、慧は「こっちを見て」と呟きました。
まく子のネタバレあらすじ:転
2018年3月31日、祭りの当日。あかつき館には謎めいた少女・若木ソラ(藤澤遥)が母(重村真智子)と一緒に泊まりに来ていました。
こども神輿の行列が始まり、あかつき館の仲居たちも慧のクラスの神輿を見に来ましたが、神輿を担ぐ慧はどこか浮かない表情でした。梢の母はいつまでも娘の名を呼び続けていました。やがてゴール地点の川に到着した神輿は「サイセ!」との掛け声のもと、大人たちによって壊され、火にくべられていきました。
そして慧のクラスの神輿の番になったその時、慧は校長先生(小倉久寛)に駆け寄り、「神輿を壊さないでください」と訴えました。校長先生は祭りの趣旨について語ろうとしたその時、火災の発生を告げる鐘の音が鳴り響きました。
火災に遭ったのはいろは荘の梢の部屋でした。幸いにも大事には至りませんでしたが、警察の調査によると何者かに放火されたとのことでした。結局、慧たちの神輿は壊されることなく現地に放置されました。
祭りが終わり、春休み期間が始まりました。「祭りはもうやらないの?」と問う梢に、慧は「もうやらなくていいよ」と返しました。慧は「梢はあの神輿を壊したいのか。せっかく作った神輿を壊すなんて野蛮だよ。僕は大人の男が大嫌いだ。バカばかりだし、この町には尊敬できる大人なんて一人もいない」と胸の内を語り、浮気ばかりしている光一は町の恥だと吐き捨てました。
「大人になりたくないのに、身体は大人に近づいていく。僕は変わりたくない」と嘆く慧に、梢は「私は楽しいけどね。身体が変わるのって面白いし楽しい。それが大人になるということなら私は楽しい」と語りました。
慧は「死ぬのは怖くないのか。僕たちは死ぬためだけに成長させられるんだよ。そんなの残酷すぎる」と思いをぶつけ、「梢の部屋に火をつけられたんだよ。僕は梢に死んでほしくない」と伝えました。すると梢は「落ち葉を拾って投げるのが楽しい理由がわかった。だって、落ちずにいつまでも浮かんだままだったら、こんなに美しい景色なんて見れないもの」と語りました。
いろは荘の放火犯は未だに捕まっていませんでした。光一はまるで他人事のように「別に犯人なんて見つからなくてもいいのにな」と言い放ちました。料理長である光一は慧に握り飯の作り方のコツを教え、慧は黙って握り飯を食べていました。光一は「俺もお前くらいの年の頃は毎日腹が減って仕方なかったよ」と告げて去っていきました。
慧の元にタダシが現れ、類と会ったと告げられました。タダシは類を嘘つき呼ばわりしているひとりでしたが、類の方から話しかけてきたというのです。タダシは類に謝れなかったことを後悔していました。
慧が帰宅すると、梢に類の愛犬が歩み寄っていました。慧と梢は類の家に愛犬を返しに行きましたが、慧は類には会わずに帰ろうとしました。しかし、梢は挨拶だけでもしようと慧を引き留めました。
類はあのドノと一緒に過ごしていました。類はドノから勉強や色々なことを教えてもらっており、ドノのことを師匠と呼んでいました。慧はドノの意外な一面に驚きました。類の部屋には類が描いた1枚の絵が飾られており、空に輝くUFOのような物体からはしごが伸ばされている様が描かれていました。
新学期を明後日に控えたある日。慧は校庭で一人佇むドノの姿をみかけました。ドノは類に勉強を教える代わりに、類から絵を教えてもらっていたのです。ドノは類がUFOを見たという話を完全に信じており、宇宙人の存在も信じていました。
慧が常磐城跡に向かうと、そこには赤い服を着た梢が立っていました。梢は慧の手に白い砂のような粒子を与えると、いつの間にか姿を消していました…。
…慧は夢から覚めました。慧は自分が初めて射精したことに気がつきました。家の外には光一の浮気相手であるチカが立っていました。慧と梢はチカが放火したのか問い詰めましたが、チカは自分は放火などやっていないと否定しました。チカは光一との関係を精算しようと考えていたのですが、慧はチカの謝罪を無視してその場を立ち去っていきました。
慧は放置されたままの神輿のところにいました。チカはサイセとは“再生”を意味することを梢に教え、慧は「僕らの手で壊そう」と梢に呼びかけました。チカは「この世に永遠などない。形を変えて生まれ変わっていく。再生する力になるようにって願いながら神輿を送るの」と自分も一緒に神輿を壊させてほしいと願い出ました。「サイセ!サイセ!」三人は協力して神輿を壊し、火をつけて燃やしました。既に夜が明けようとしていました。
チカが去った後、慧は梢に「好きだ」と告白しました。梢は「ありがとう。私も慧が好き。生まれて初めてこの気持ちを知った」と言い、川の小石を拾って慧に渡すと故郷の星に帰らなければならないことを告げました。「小さな永遠を終わらせないといけない。大きな永遠に変えないと」
まく子の結末
帰宅した慧は光一に自分の下半身の変化を見てほしいとズボンを脱ぎました。光一も「気持ち悪いものだ」と言いつつズボンを脱いで慧に見せました。慧は光一にこれ以上明美を傷つけないでくれと言い、光一は「わかった」と約束しました。
梢が植木鉢で育てていた植物もすっかり成長し、花を咲かせていました。慧はいつもの常盤城跡に行くと、そこには同級生のコウタも来ていました。コウタは自宅で、その場にいないはずの梢の声を聞き、見送りに行かなきゃという気持ちになったのです。
城跡の石垣には他にも梢の声に導かれたかのようにクラスメートたちが集まっていました。更には光一、明美、キミエおばちゃんら町の人々も城跡にやってきました。類とドノは類の家のベランダから見つめていました。
すると空が突然真っ暗になり、梢のこれまで町で過ごしてきた思い出の数々が空に映し出されていきました。そして梢がよく落ち葉を拾って撒いていたように、空から無数の光の粒子たちが舞い降りてきました。梢が母と一緒に慧の前から消えたその時、空は元通りの明るさになっていました。人々は帰っていき、慧はひとり梢が去った空を見上げていました。
新学期が始まり、慧は6年生になりました。桜が咲き乱れる頃、慧のクラスに新たな転校生がやってきました。サイセ祭りの日に母とあかつき館に泊まったソラでした。ソラの母はあかつき館で働くことになり、ソラも梢と同じようにいろは荘で暮らすことになったのです。クラスメートから「ソラも宇宙人?」と問いかけられた慧は「僕らも(梢からすれば)宇宙人だよ」と返しました。
ひとりで下校しようとするソラに、慧は自分の方から話しかけてみました。「ねえ、一緒に帰らない?」慧は無視するソラについていきました。その頃、明美やキミエおばちゃんたちは、ソラの母のことを「また宇宙人? しっかり働いてくれればいいわ」と噂していました。
慧はソラに町を案内し、サイセ祭りのことを話しました。ソラは祭りの日にいろは荘に放火したのは自分だと打ち明けました。慧は放火の理由については訊かず、ソラを常盤城跡に連れて行きました。ソラは祭りの日、母が突然この温泉街で暮らそうと言い出し、かつて父と住んでいた思い出の家を手放したことを打ち明けました。「この町に来たくなかった。こんな町、燃えてしまえばいいって思ってた。ごめんなさい」慧は「信じるよ」と言うと、かつて梢がやったように落ち葉を拾って撒いてみせました。
ソラもいつしか一緒に落ち葉を巻いていました。慧は「いつかソラに梢が教えてくれた色んなことを話そう。飛ばないで落ちていくのはとても綺麗だってこと。僕らの細胞は変わり続けて、いつか新しくなっていくこと。そして小さな永遠はずっと僕らの中にあることを。梢はまだ一緒にいるんだ」と心に誓いました。
以上、映画「まく子」のあらすじと結末でした。
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