長い散歩の紹介：2006年日本映画。家庭不和を抱えて妻を亡くし、娘とも絶縁状態の元校長の松太郎は、母親とその恋人から虐待の被害に遭っている5歳の少女、幸と出逢った。家庭を顧みなかった自分と向き合う為に、松太郎は居場所のない幸を連れて「長い散歩」に出掛ける。
監督：奥田瑛ニ 出演者：緒形拳（安田松太郎）、高岡早紀（横山真由美）、杉浦花菜（横山幸（サチ））、松田翔太（ワタル）、大橋智和（水口浩司）、津川雅彦（医師）、奥田瑛二（刑事）、ほか
映画「長い散歩」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「長い散歩」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
長い散歩の予告編 動画
映画「長い散歩」解説
この解説記事には映画「長い散歩」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
長い散歩のネタバレあらすじ：起
名古屋で仕事をし、妻子ある安田松太郎は、昔ながらの厳格で規律を重んじる元高校の校長でした。彼は仕事一筋でその厳しすぎる性格から、一人娘が万引きした際は話し合わずに彼女の頬を殴りつけ、そのせいで妻はアルコールに逃げて中毒で亡くなりました。成人した娘とも親子の溝と心の壁が出来てしまった松太郎は娘に「人殺し」と罵られます。彼は家を娘に渡して自分は小さな別のアパートに引っ越すことにしました。引っ越し先のアパートには5歳の娘、幸を連れたシングルマザーの横山真由美が暮らしていました。真由美は恋人の押本と一緒になって幸を虐待していたのです。幸は押本と真由美が情事を始めると、深夜にも関わらず、八つ当たりで怒鳴りつけられ、外に放り出されていました。幸は幼稚園にも行かせてもらえず、一日中家にいて、ホステスの仕事へ出掛ける母親を玄関の柵に松太郎はそんな彼女を度々見かけどうしたらいいか分からず、傍観しているだけです。幸は薄汚い同じピンクのワンピースに身を包み、腕や足には理不尽な暴力による傷跡が絶えません。そして彼女は自分の身を守るように段ボールで作った天使の羽根をいつも背中に身に付けていました。母親の真由美は玄関先で指をくわえてぼーっとしている娘を見つけると唐突にその小さな頭を叩き、昼食代の小銭を乱暴に投げつけるのでした。いっぽうで、真由美の彼氏の押本は幸の頭を撫でて優しく接しますが、その関わり方は彼女を「女」として見ているものでした。
長い散歩のネタバレあらすじ：承
毎晩、幸の叫び声と荒れ狂う真由美と押本の罵声が飛び交うのが日常で、松太郎は幸を見て見ぬふりをしながらも様子を見守ることしか出来ませんでした。ある日の午後、幸が押本に性的な目線を向けられ、足を触られているのを見た真由美は、娘に彼氏を盗られたと思い込んで激しい嫉妬心と怒りで幸を押し倒し、絞め殺そうとします。痛々しい耳をつんざくような悲痛なSOSを隣室で聞いた松太郎は何とか助けねばと、母親に猛抵抗し、難を逃れて家を飛び出した幸を追いかけます。幸には唯一「安全」といえる場所がありました。樹海の中にある小さな洞窟のような空間です。彼女はそこに普段から買ってもらえない玩具や絵本を万引きしてその場所に溜め込み、「小さな居場所」を作っていたのです。松太郎は幸に森の木の上に巣を作った鳥の雛を抱いて幸に小さなものとの関わり合いを教えます。小鳥は数日もしないうちに死んでしまいます。松太郎は幸に鳥のお墓を作ることを提案しますが、幸には「生死」の概念が理解出来ませんでした。松太郎はその日から幸を救出する為に体を鍛え続けます。自分しか助けられる者はいないと思ったのです。深夜に押本が酔っ払って幸に接触を試みます。怯えて叫び声をあげる幸。そこへ松太郎がこん棒片手に彼を張り倒して気絶させ、訳が分からずに逃げ惑う幸に自分の正体を明かすと、昔、家族と登った山へと連れて行きました。松太郎は接してゆくうちに幸の生きてきた環境が生んだ悪影響と被虐待児にありがちな幸の心の状態を知ります。例えば、触れようとしたり、近づくだけで幸は身の危険を感じて甲高い「キー！」という悲痛な叫び声を上げ続けます。メロンパンしか食べた事のない不規則な食生活を送っていた幸に美味しい物を食べさせてあげようとファミリーレストランへ連れて行った時も、熱々のハンバーグが乗った鉄板を松太郎に拒絶して投げつけたり、祖父と孫のふりをして宿に泊まった時も、お風呂から上がった幸の背中には目を覆いたくなる程の沢山の傷や痣、火傷のような痕がありました。また、幸は名前を聞いても「ガキ！」と言うばかりです。押本と真由美が幸をずっと「ガキ！」と彼女を呼んでいた事を思い出した松太郎は名前さえ呼ばれない彼女の生育環境に胸が詰まりました。一方、幸の母、真由美と押本は「娘が勝手に出て行った」と、警察に一応行きます。しかし、あまりにも我が子の事に無関心な真由美の様子を不審に思った刑事は子どもの事が心配じゃないのかと真由美に尋ねますが、彼女はこう言いました。「親に育てられたのと同じ事しとるだけ。私だって産みっぱなしのほったらかしにされてきた」。刑事は深刻な状況を何とかしなくてはと動き、誘拐と見なして幸と彼の行方を追うのでした。
長い散歩のネタバレあらすじ：転
松太郎と幸の旅は続きます。2人は慎重に周囲を警戒しながら歩き続け、目的地の山へ向かいます。その途中で帰国子女の青年、ワタルと出逢います。ワタルは心に闇を抱えていましたが、気さくで繊細な優しい性格のため、幸に温かく接します。三人で公園へ行って回転式の遊具で遊んだ時、初めて幸が喜びの感情を表して笑うのです。三人で焼き芋を食べた時もワタルは幸が「熱い=痛い」から食べられない事をいち早く察して冷ましてから幸に焼き芋を渡します。松太郎さえ一緒にいて気付けなかった幸の心の傷・・・。唯一巡り合えた二人の理解者は精神的に自分を追い詰めて頭を銃で自ら撃って亡くなってしまいました。刑事達は松太郎の身辺と幸の家庭環境を紐解いていきます。幸の母、真由美は男に裏切られては金を奪われながらも幸を幼稚園に通わせていました。幼稚園の発表会では彼女の髪を綺麗な縦ロールに結って可愛い服を着せました。幸がいつも身に付けていた段ボールで作った天使の羽根もその発表会の時の衣装替わりだったのです。真由美は発表会にも出席し、幸を見守るつもりでしたが、幼稚園にきた当時の恋人と争いになってから、幸へストレスをぶつけるようになったのです。
長い散歩の結末
2人はついに山に到着します。その時、幸ははしゃいで空高く飛ぼうと飛び出してしまいます。何とか危機一髪で彼女を受け止めた松太郎。その後、廃墟と化した閉校した学校へ向かいます。その教室で幸は黒板に落書きをしてダンスを踊って松太郎に披露します。そのダンスは発表会で踊ったもので、彼女がまだ真由美から暴力を受けずに育った記憶の断片でした。松太郎は幸とまた、一晩、集団で寝泊まりする施設へ行き、眠りにつくのですが、そこで幸は「おじいちゃん、幸のこと好き？」と初めて自分の名前を言い、松太郎に心を開くのです。松太郎は思わず嗚咽を漏らし、泣いてしまいます。もう手遅れだと思った彼は道端で幸を抱き締めながら泣き崩れ、人だかりができます。幸がどうなったのかは明かされず、刑務所から出所した松太郎は幸の幻影を見て思わず「さっちゃん・・・」と呟き、歩き出すのでした。
この映画の感想を投稿する