夏への扉 ―キミのいる未来へ―の紹介:2021年日本映画。1956年にアメリカで発表された小説「夏への扉」。タイムトラベル物の古典ともいうべき伝説の小説を、舞台を日本に移し世界で初の映画化。監督は『思い、思われ、ふり、ふられ』など切ないラブストーリーに定評のある三木孝浩。主人公の科学者宗一郎を演じるのは『キングダム』のヒットも記憶に新しい山﨑賢人。その妹のような存在の璃子は朝ドラや主演映画など出演作目白押しの清原果耶が演じる。ラストで流れる主題歌「サプライズ」は映画を見てLiSAが歌詞を書き下ろしたまさにベストマッチの楽曲。
監督:三木孝浩 原作:ロバート・A・ハインライン(著)/福島正実(訳)(ハヤカワ文庫刊) キャスト:山﨑賢人(高倉宗一郎)、清原果耶(松下璃子)、藤木直人(ロボット:ピーート13)、夏菜(白石鈴)、眞島秀和(松下和人)、浜野謙太(坪井剛太)、田口トモロヲ(遠井教授)、原田泰造(佐藤太郎)、高梨臨(佐藤みどり)ほか
映画「夏への扉 キミのいる未来へ」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「夏への扉 キミのいる未来へ」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
夏への扉 ―キミのいる未来へ―の予告編 動画
映画「夏への扉 キミのいる未来へ」解説
この解説記事には映画「夏への扉 キミのいる未来へ」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
夏への扉 キミのいる未来へのネタバレあらすじ:起
1968年に生まれた高倉宗一郎(山﨑賢人)は母と死別、父も宗一郎が17歳の時に亡くなり、父の同僚だった松下教授の世話になることに。松下の娘璃子(清原果耶)とは本当の兄妹のように仲がよく、宗一郎が拾った猫のピートとともに幸せに暮らしていました。大学では電子工学を、自宅では松下から機械工学を学んでいた宗一郎でしたが、その松下夫妻が飛行機事故で亡くなってしまい璃子は叔父の和人(眞島秀和)のもとへ引き取られます。
1995年3月1日。27歳になっていた宗一郎は和人が社長を務めるFWE社でロボット開発に携わり、テレビでも紹介される業績を上げつつありました。相変わらず松下の家で研究に没頭する宗一郎のもとへ今日も璃子がやってきます。
和人のすすめで全寮制の学校への転校が決まった璃子はさみしそうですが、宗一郎が亡き父のやり残したプラズマ蓄電池の研究に着手していることを知るとうれしそうな顔をします。それが実用化されればエネルギー革命が起きると宗一郎もやる気です。
すると宗一郎の恋人で和人の秘書でもある白石鈴(夏菜)がやってきました。白石が夕食を作るというので璃子は帰り、宗一郎は自分の持つFWE社の株を一部白石に譲渡するという書類を眺めています。一介の会計士から取締役にまでなった白石に株を譲渡するのは社長である和人の意向で、宗一郎も恋人のためにそうしたいと思い承諾したのでした。
1995年3月8日。呼び出された宗一郎がFWE社に着くと、和人は糖尿病のためインスリンを注射していました。その後白石も現れ三人揃うとおもむろに臨時株主総会を行うと和人が言い出します。内容はロボットの開発権利をマニックス社に売却するというもので宗一郎は激怒。
その様子を見た白石が決を採りましょうと言い、和人が賛成、宗一郎が反対、そして当然反対すると思っていた白石が賛成し和人の意見が通ってしまいます。その上宗一郎は契約を解除され、一切会社の物品等に近づいてはならないと言い渡されてしまいました。ふたりに裏切られた宗一郎があわてて自宅に戻ると、研究の成果物や必要なものはすべてトラックで持ち去られたあとでした。
そうとは知らずやってきた璃子。部屋の惨状に「和人おじさんがやったの?」と聞きますがそれには答えず、「大事なものは全部結局消えてなくなる……」とうなだれます。璃子は「私は絶対いなくならない。私はずっとそーちゃんが好きだった」と告白します。力になりたい璃子でしたが、宗一郎に「何もできない」と子供扱いされ出ていくしかありませんでした。
酒をあおり、失意の宗一郎は“コールドスリープ(冷凍睡眠)”の広告を見つけ即座に契約に向かいます。あっという間に30年契約の話が進み医師による検診の段階になって、担当の医師(野間口徹)から待ったがかかります。それはアルコールのせいで、つらい現状から逃げ出したいからと酒の勢いで決めてはいけないと諭されます。
海辺に車を停めて璃子のことを考えていた宗一郎。自分の持ち株を璃子が20歳になったら譲渡するという書類をつくり、とある決心を固めるとカーラジオから璃子の好きなミスチルの曲(CROSS ROAD)が聞こえてきました。
一方帰宅した璃子は、和人と白石の会話から開発中のプラズマ蓄電池まで彼らに奪われてしまうと知りいそいで宗一郎に電話をかけます。しかし留守番電話のためつながらず、和人に見つかってしまったので友人に会うとウソをついて家を出ました。宗一郎のもとに向かったことがバレ、白石は璃子を消せとばかりに和人をけしかけあとを追わせます。そして自分はこれからくると電話してきた宗一郎の相手をするつもりです。
やってきた宗一郎は明日弁護士のところへ行くと白石に告げ、すべてをマスコミに公表すると脅します。それがイヤなら決定をすべて破棄しろと。白石はわかったわ、と降参したフリをしてスキを見て宗一郎の首にインスリンを注射します。宗一郎は倒れ、バッグから出た猫のピートを白石は追いますが外に逃げられてしまいます。そしてなぜか宗一郎が乗ってきた車を何者かが運転して去っていってしまいました。
宗一郎の家についた璃子は、そこに猛スピードでやってきた車のヘッドライトに照らされ……。
気づいた宗一郎は冷凍睡眠のカプセルに入れられていました。その外には白石。彼女は元々マニックス社の経理にいたといい、宗一郎が契約しようとした会社とは別の、このマニックス保険で強制的に冷凍睡眠させようというのです。抗いようもなく宗一郎は凍らされてしまいました。
夏への扉 キミのいる未来へのネタバレあらすじ:承
2025年2月25日。30年の眠りから宗一郎は目覚めました。ピート(猫)はどこだ?と医師にたずねると、代わりにお世話ロボットのピート(藤木直人)がやってきました。すぐにでも退院したい宗一郎に対しピートは、5日間は出られないと告げます。30年の間にマニックス社が破綻し、宗一郎の資産はすべてなくなっていました。ただし救済のための法律ができ、当面生活できる補助金が支給されるとのこと。
翌朝、宗一郎は病院を抜け出します。バス停で待っているととなりに私服に着替えたピートが立ち、待っているだけではバスは来ないと言います。ピートは配車サービスでタクシーを呼ぶと宗一郎を押し込み自分も乗り込みます。自分は欠陥品で好奇心があるので強引にいっしょについていくと言うピート。そして宗一郎の財布を取り上げると車外に放り投げ、この世界では紙幣も貨幣も金(GOLD)も価値がないと説明します。そのうえで補助金が振り込まれている、と端末を渡すのでした。
ふたりが訪れたのは璃子の住所と思われる場所。まるでゴミ屋敷のようなそのアパートの中にいたのは、驚くほど醜く変貌した白石でした。宗一郎が眠りについた翌年、和人が糖尿病の合併症で急死、宗一郎の株券を持った男が現れて会社は買収され、白石はマニックス社での不正が発覚して逮捕され刑務所に入っていたといいます。肝心の璃子はあの日、宗一郎の家の爆発に巻き込まれたのかその後行方不明だと白石。
総一郎は璃子の墓を訪れ泣き崩れます。謝りたかった……という宗一郎に寄り添うピート。宗一郎はすべてを明らかにするべく動き始めます。
まずピートの動力が気になった宗一郎が調べると、そこにはあのプラズマ蓄電池が使われており、ピートはアラジンインダストリー社製13号機だとわかりました。
そしてFWE社の株式を調べようと、買収され名前の変わったFEW&G社に向かいます。社長室に通されたふたりは今の社長である坪井剛太(浜野謙太)の歓迎を受けます。株式譲渡の流れについて調査を頼んだ宗一郎に坪井は自分のことをおぼえていないかとたずねます。小学生の頃宗一郎に会ったこと、その場に帝都大の遠井教授がいたことがわかり宗一郎は(だれかが俺になりすましている?)と考え始めます。
夏への扉 キミのいる未来へのネタバレあらすじ:転
宗一郎から譲渡された株主がわかったと坪井から連絡がありました。“佐藤太郎”というその人物は弁理士でピートの代理人でもあります。初号機ピートの製作は“髙岡総一郎”、2号機以降は“佐藤璃子”という名前になっており、まさか!?と宗一郎は仮説を証明するために元帝都大教授の遠井(田口トモロヲ)の研究室をたずねます。
遠井は宗一郎を抱きしめ、そして「遅い!」と一喝すると足早に奥へと案内します。そこには完成した“時間転移装置”があり、すぐに過去へ行けとせかします。事情がのみこめないピートに宗一郎は「黒幕は俺だったんだよ。今いるのは書き換えられた未来なんだ」と言います。遠井は「並行世界などない。時間はループしている」と説明します。
そしてなるべく短い時間で、人との接触は最低限で、そしてここに戻ってこなければならないと言うと、コールドスリープすると宗一郎はいいます。過去で必要な資金を金塊として遠井は準備しており、それを体に巻き付けて宗一郎は装置の台座に立ちます。遠井がスイッチを入れ、次第に苦しそうになる宗一郎を支えようと、先ほど別れを告げたはずのピートが飛び込みふたりいっしょに過去へ送られてしまいました。
1995年2月28日。田舎道の道路上に突然まばゆい球状の光が現れふたりが倒れています。車で通りかかった人物が心配そうに近づいてきました。
宗一郎が目覚めるとすぐそばに佐藤太郎(原田泰造)と名乗る人物がいました。弁理士である佐藤はピートに説得されて金塊を換金し、新たに作った宗一郎の口座に入金済みでした。自宅の2階に研究に必要な道具を買いそろえ、すぐに研究できる状況を整えてくれていたのです。必要経費は通帳の残高から使い、仕事として協力するという佐藤。庭には車いすに乗った佐藤の妻みどり(高梨臨)がピートと楽しそうに話しています。
宗一郎はこれから一週間で、未来と整合性をもたせるためにピート初号機とプラズマ蓄電池を完成させなければなりません。それでもそんな中、宗一郎はある場所へでかけます。それは“坪井食堂”。うなだれた男の前に座った宗一郎は「遠井先生」と声をかけ、遠井の研究が成功したから自分が未来から来られたと話し、研究資金として使ってほしいと通帳と印鑑を差し出します。
突然の話に怪しむ遠井でしたが、そのときテレビでFWE社のロボット開発者高岡宗一郎の紹介が始まり、目の前にいるのがその本人だと遠井に伝わりました。店の中にいた食堂の息子も将来科学者になるのが夢で、手に持っていた科学雑誌に宗一郎のサインを書いてもらいます。宗一郎は彼に絶対に夢は叶うからあきらめるな、と頭をなでるのでした。
部屋で作業を進めていると佐藤が飲み物をもって入ってきました。佐藤は妻のみどりが2年前に交通事故に遭い車イス生活になってしまったと言います。宗一郎は佐藤に向き合い、いくつかの仕事を依頼します。
1.白石鈴のマニックス社時代の不正を暴いてほしい。
2.プラズマ蓄電池を取り扱う会社をつくってほしい。
佐藤が報酬はどうするのかとたずねると、宗一郎は自分がもつFWE社の株式とプラズマ蓄電池の新会社の社長就任が報酬だと答えます。部屋にあったアラジンと魔法のランプの絵を見ながら、会社名はアラジンにしようかな、と佐藤。そんな佐藤に宗一郎はもうひとつ、一番大事なお願いがあると言います。
佐藤は寝室に戻ると真剣な顔でみどりに「家族がもてるとしたら?」と問いかけます。みどりはそんなにうれしいことはないと答えました。
3月9日決行日当日。宗一郎の作業はまだ終わらず、ピートは自分がなんとかすると出ていきます。ひたすら走って宗一郎の家の近くまでやってきたピートは、荷物を持ち出してきたFWE社のトラックの前に立ちふさがりはねとばされてしまいます。運転手は逃げようとしますがピートは起き上がるとトラックにしがみつき、驚いた男たちはトラックをおりて逃げ出します。
一方研究を完成させた宗一郎は、かつて自分が襲われた和人の家にやってきます。そっと外から様子をうかがい、倒れている自分の姿を確認すると、死角となる場所の窓ガラスを割って窓をあけます。白石に追いかけられた猫のピートがそこへやってきて宗一郎が助け出します。そしてキーのついた自分の車に乗り込みそこから走り去るのでした。
夏への扉 キミのいる未来への結末
宗一郎の家についた璃子は、そこに猛スピードでやってきた車のヘッドライトに照らされます。車からおりてきたのは宗一郎でした。「さっきはごめん」と謝る宗一郎。するとFWE社のトラックがやってきて中からピートがおりてきました。宗一郎は猫のピートを璃子に預け「すぐ戻る」と言って家の方へ車で向かいます。璃子が「だれですか?」とたずねるとピートは「宗一郎のこどもです」と答えます。
宗一郎は車ごとかつての研究室に突っ込み、車のダッシュボードから株券を取り出します。それをポケットにねじこみ、璃子にゆずると書かれた書類を丸め燃やします。ガスを噴出させ、大切な4人の家族写真を拾って急いでその場を離れると、やがて爆発が起こります。
璃子はうろたえますが、宗一郎は写真を渡し「これだけでいいんだ」となぐさめます。遠ざかりながら燃えるかつての家を見つめる璃子。そんな璃子に、これから未来の話しをするので驚かないで聞いてほしい、と宗一郎はすべてを話します。
佐藤の家まで戻ってくると、璃子は佐藤夫妻に「佐藤璃子です」と自己紹介します。ピートがもう時間がないことを告げると璃子は「やっぱりできない」と泣きついてきます。そんな璃子に宗一郎は、「まだ17歳だ。これからたくさんの人と出会い、たくさんの経験をする」と言って励まします。璃子に「一日に2回も振るなんて。バカ!」と言われ再び宗一郎は謝り、「30年後、後悔させてよ」と言うのでした。
すると今度はピートがここに残ると言い出します。自分がここに来たのは偶然ではなく必然だというピート。30年後の再会を約束するとピートはニッと笑うのでした。
予定の時刻ギリギリに保険会社にかけ込む宗一郎と猫のピート。担当のスタッフ島田(濱津隆之)がやきもきしながら待っていました。
30年後、晴れやかに目覚める宗一郎。そこには猫のピートを抱いたピートが待っていました。病室にはいると佐藤太郎からの手紙があり、宗一郎は読み始めます。佐藤夫妻の娘となった璃子は大学で猛勉強してロボット開発者になり、ピートとともにプラズマ蓄電池の改良にも携わったと。そして璃子は宗一郎が思うよりずっとあきらめが悪かった、とあり、なんと20年前に同じこの施設で眠りについたと書かれていました。
宗一郎は病室を飛び出すと璃子のいる部屋へ向かいます。そして璃子の手を握り、やがて目覚めた璃子と「おはよう」とほほえみ合うのでした。
以上、映画「夏への扉 ―キミのいる未来へ―」のあらすじと結末でした。
ロボット開発をしていた科学者が騙されてすべてを失い、未来から過去へ戻って人生を取り戻す話なのですが、ハリウッド映画のような未来のすごい技術に焦点を当てたものではなく、人間愛にあふれた作品になっています。見終わった後、幸福感に包まれる映画です。