夏へのトンネル、さよならの出口の紹介:2022年日本映画。第13回小学館ライトノベル大賞で「ガガガ賞」と「審査員特別賞」をW受賞した八目迷の小説が原作の本作。監督・脚本は、『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』やテレビアニメ「アクダマドライブ」で知られる田口智久、『映画大好きポンポさん』のCLAPが制作をつとめた。主演は、塔野カオル役に声優初挑戦の俳優・鈴鹿央士、花城あんず役にはモデルで女優、声優としても活躍する飯豊まりえが起用され、心に傷をもつ地味な男子と都会から来た意志の強い女子を好演している。
監督:田口智久 原作:八目迷(小学館「ガガガ文庫」) 声優:鈴鹿央士(塔野カオル)、飯豊まりえ(花城あんず)、畠中祐(加賀翔平)、小宮有紗(川崎小春)、照井春佳(浜本先生)、小山力也(カオルの父)、小林星蘭(塔野カレン)ほか
映画「夏へのトンネル、さよならの出口」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「夏へのトンネル、さよならの出口」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「夏へのトンネル、さよならの出口」解説
この解説記事には映画「夏へのトンネル、さよならの出口」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
夏へのトンネル、さよならの出口のネタバレあらすじ:起
香崎高校2年の塔野カオルは、部活にも属さず今日もひとりで下校します。雨の中、駅までやってくると電車が30分程度遅れるとアナウンスが。この香崎付近では、電車と鹿が接触して遅れることがよくあるのです。
ホームのベンチにはひとりの女子高生が座っていました。傘もなく雨に濡れたシャツが透けている彼女を気にしていると、「気持ち悪い」ととがめられてしまいます。塔野が傘を差しだすと、心配するような親はいないという彼女。塔野が「それはよかった」と答えると、その言葉に興味を持った彼女は傘を借り、返すために、と連絡先を交換しました。
花城あんず。昨日傘を貸した彼女が転校生として塔野のクラスにやってきました。花城は話しかけてくるクラスメイトを拒絶し、読んでいる古い本から目を離しません。すると取り巻きを従えた川崎小春という女子生徒が彼女に因縁をつけ、読んでいた本を床に払い落としてしまいます。立ち上がった花城は川崎の顔面を殴り、教室は騒然となるのでした。
その夜、塔野の家では父親が酒を飲んで暴れています。妹のカレンが事故で死に、その後母親が蒸発。酒に溺れるようになった父は酔うと息子を責めるようになっていました。家を飛び出し無我夢中で走り続けた塔野は踏切まで来るとそのまま線路の上を歩き始めます。
斜面から滑り落ち、入口が三角のトンネルを見つけた塔野は立ち去ろうと思いましたが、中で何かが光りそれを確かめようとトンネルに入っていきます。足もとには浅い池のように水があり、暗い中を進むと鳥居がありました。
その奥は光輝く真っ赤な紅葉の木が両側に並んでいています。戻ろうとすると、少し先の水面に赤い小さなサンダルが落ちているのが目に入りました。裏に「カレン」と書かれたそれは、確かに塔野の亡くなった妹のものでした。そのとき、なにかが飛んできました。インコです。
カエルの歌を歌おうとするそのインコは、特徴からいって塔野が飼っていたキィというインコに間違いありませんが、キィはとっくに死んでいます。塔野はいつかクラスの女子がうわさしていたウラシマトンネルのことを思い出しました。何でも願いを叶えてくれるトンネル。でもその代わりに100歳年をとってしまう…。塔野はインコをつかまえると急いでトンネルを出て自宅に戻ります。
物音で気づかれてしまい(怒られる)と身構えた瞬間、父は塔野を抱きしめ「お前までいなくなったらオレは…」と取り乱しています。その話しぶりから、どうやら自分が一週間も行方不明だったと気づいた塔野が携帯電話をチェックすると、仲の良い加賀から何本ものメールが入っていました。そして花城からも。
夏へのトンネル、さよならの出口のネタバレあらすじ:承
翌日学校に行くと、多少好奇の視線は浴びたもののそれ以上詮索はされませんでした。加賀は心配して質問してきましたが、トンネルのことを秘密にしておきたい塔野は適当にはぐらかします。
放課後、塔野は再びウラシマトンネルに向かいます。トンネルの中と外での時間差を計り、また本当に欲しいものが手に入るのか調べるつもりです。鳥居を起点とし、そこから少しずつ奥に入ってはトンネルの外に戻ってどれだけ時間が経ったか調べていきます。
幾度か鳥居を越えたとき、急に背後から声が聞こえます。「何、ここ?」と言ってそこに立っていたのは花城でした。塔野はあわてますがここで時間を費やすわけにはいかない、とあわてて花城を連れ出します。しかし外では既に5時間が経っていました。
塔野を尾行してきたという花城は説明を求め、塔野は仕方なくトンネルの秘密を話します。花城はその話を信じ、“共同戦線”と称して2人でいっしょに調べようと言います。
次の日、花城はトンネルの外で待機、塔野は内部を少しずつ進み、携帯電話で話しながらどこまで行けるか試します。通話が途切れたら戻り時間のズレを調べると、トンネル内での3秒は外では2時間でした。
その翌日はトンネルなら出口があるはず、と2人で山を登ります。しかし山は思った以上に険しく早々にあきらめました。
塔野の部屋でインコのキィを確認たり、図書館で2人並んで調べ物をしたり、塔野は加賀に「つき合ってる?」と言われますが「断じてちがう!」と否定します。
2人はトンネル内でメールの送受信ができるか試します。鳥居から中と外に分かれ、中から塔野が花城にメールを送ります。すぐ近くにいるのに塔野の目には花城が超高速で動き回っているように見えます。すると花城が丸くなって動かなくなってしまいます。塔野があわてて花城に近づくと彼女は眠ってしまっていて、時計を見ると7時間が経っていました。
トンネル内の検証には時間がかかるため、次回の検証は7月の3連休に行うことに決めました。
塔野のことをもっとよく知りたいと思った花城は彼を水族館に誘います。かつてこの水族館に家族で来たという塔野は、「この世界にカレンをもう一度取り戻したい」と言います。ウラシマトンネルよりも、こんな自分の方が怖くないかと塔野はたずねますが、花城は明るく答えます。「全然!」
夏へのトンネル、さよならの出口のネタバレあらすじ:転
海の日を含めた3連休。ふたりは54秒で折り返すと約束して走り出します。すると50秒過ぎ、中からマンガの原稿のような紙がたくさん吹き出してきました。それを拾い集める花城は、約束の54秒を過ぎても拾うのをやめません。
置いていくわけにもいかず、仕方なく塔野も手伝い、急いで戻ると20秒もオーバーしていました。花城は塔野が拾った紙を乱暴に奪い取りますが、それが何なのかは教えてくれません。
時刻は朝の4時。自宅に戻って叱られることを恐れた塔野を花城は自宅に誘います。そのマンションで花城は、彼女のおじさんが実家に戻るので入れ替わりにひとり暮らしを始めました。そこには彼女の祖父が描いたというマンガがあり、花城自身もマンガを描いているようです。
祖父は売れないマンガ家で、その苦労を見てきた花城は、自分は特別な才能を持った世間に知られる作品を残すマンガ家になることを夢見ています。しかしそれに反対する両親によって、このへんぴな香崎へ追いやられてしまったのでした。
トンネルで彼女が必死に拾っていたのは、父親に捨てられてしまった初めて描いたマンガの原稿でした。塔野は描いたマンガを読ませてほしいと頼み、最初は拒否していた花城も、ついに最新作を読ませてくれました。熱心にそれを読んだ塔野は、面白い!と感想を話し始め、花城は見たこともないような照れた表情で喜びます。
そして急に真顔になると、自分は特別じゃない、特別なのは塔野の方だと言って彼を押し倒します。自分の願いのためならすべてを投げ出しかねない塔野への憧れにも似た思いを吐露し、自分にもその世界を見せてほしいと言います。
次は必ずカレンを連れて帰ると誓ったふたり。決行を前に、塔野は花城を夏祭りに誘います。次いつ来られるかわからないから、という塔野。以前、ケンカしている両親から離れるため、カレンとふたりでここに花火を見に来たと話します。気丈に振舞いつつも必死に耐えていた妹のことを思う塔野の手を、花城はそっと握るのでした。
塔野が帰宅すると、家に知らない女性が上がり込み、父はその女性を新しい母さんだと紹介します。近々東京に引っ越し、向こうで転職するという父の言葉に塔野は混乱し、涙を流しながらそこで吐いてしまいます。激昂する父を無視して塔野はそのまま部屋に閉じこもります。
次の日の朝、花城から会って話したいというメールを受け取った塔野は喫茶店で会うことに。実は彼女はこの前のマンガを出版社に送っており、編集者から今後いっしょにマンガを描いていかないかと電話が来たというのです。
認められてうれしいという気持ちと、ウラシマトンネルに入って特別な才能を手に入れたいという気持ちで揺れ動く花城。彼女の気持ちを察した塔野は決行を延期しようと提案します。
夏へのトンネル、さよならの出口の結末
その夜、覚悟を決めた塔野は花城からのメールをすべて削除し、インコのキィを鳥かごから逃します。
花城は、塔野と連絡がつかなくなったことを不審に思い彼の自宅をたずねます。ゆうべまた出ていったが、よくあることだから大げさにしないでほしいという塔野の父。花城は塔野の名を呼びながらウラシマトンネルに向って走ります。
ひとりでトンネルに入った塔野は携帯電話を捨てて奥へ向っています。捨てる前、彼は花城に「ウラシマトンネルに入っても特別な才能は手に入らない。ここは失くしたものを取り戻せるトンネル。君はここに入ってはいけない。だから今は、さよならだ」とメールしていました。「なんで」と花城はつぶやきますが、彼女がマンガ家になることを望んだ塔野の言葉を守り、トンネルに入ることはしません。その代わり、彼に対する恨み言をメールで何通も送りつけるのでした。
一方の塔野は半日以上歩いています。倒れそうな塔野の前に、よく知っている扉が現れます。それは自分の家でした。中に入るとカレンがいて、昔と変わらずバナナジュースをつくって持ってきてくれました。そのおぼんの上には塔野の携帯電話があり、届かないはずの花城からのメールが届きます。
最初はあの文句のメールでしたがその後は、高校卒業やマンガ家になったこと、連載を持ったことなど数年分のメールが彼女の近況を知らせてきます。こうしている間に外では数年が経過し塔野は、ここにいてはいけない、そしてカレンを連れてはいけないという現実を受け入れ、「カレンのそばにいたい。でも会いたい人がいる」と胸の内を明かします。
カレンは笑顔で「いってらっしゃい」というと塔野を送り出すのでした。
花城の名前を呼びながら塔野は走り続けます。鳥居が見えると塔野は花城にメールを送りますが、転んで気絶してしまいます。
花城あんずはマンガ家になっていました。スマホの時代になっても、いつ塔野からの連絡が来てもいいようにガラケーを持ち続けています。ちょうど連載を終えた彼女は、塔野を待つことに疲弊していました。次回作のアイディアも浮かばず、編集者と相談して休養を取ることにした彼女は香崎を訪れています。
電車が鹿と接触して遅延するとホームでアナウンスを聞いた花城は、塔野との出会いの日を思い出して泣いてしまいます。するとそのとき、彼女のガラケーに塔野からのメールが!そこにはひと言、「大好きだ」とありました。ホームを駆け下りそのまま線路を走っていく花城。ウラシマトンネルに着き中に入っていくと、鳥居の近くで塔野が倒れていました。
塔野が目を覚ますと花城にひざまくらをされていました。「あんまり遅いから迎えにきた」という彼女。高校生のままの塔野と大人になった花城はそこで初めてキスをします。
「いろいろ変わってるだろう」と塔野は心配しますが、花城は楽しそうです。
トンネルを出ると、「やっと返せた」と花城は塔野にビニール傘を返します。すっかり錆びてしまったそれを開き、2人は歩き出すのでした。
以上、映画「夏へのトンネル、さよならの出口」のあらすじと結末でした。
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