映画「最後の忠臣蔵」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
この解説記事には映画「最後の忠臣蔵」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
人形浄瑠璃『曾根崎心中』、「この世のなごり、夜もなごり。死に行く身を、たとふれば、あたしが原の道の霜。一足づつに、消えて行く、夢の夢こそ哀れなれ。…」でこの物語は始まります。そして、この物語の合間の随所随所に、この『曾根崎心中』の場面が、主人公の心の内を表すように挿入されます。一人の武士が、ある人を訪ねて、ある海岸を歩いていました。その武士は、あの赤穂浪士討ち入りで伝令として働き、生き残った寺坂吉右衛門でした。吉右衛門は、大石内蔵助から「そちほどこの戦の全てを見聞した者は他にはおらん。…討ち入りの生き証人として、真実を伝え、生きて生きて生き抜くのだ。そして、一党の遺族の者の余生を助けよ」という密命を受け、16年間、遺族を訪ねて諸国を行脚していました。吉右衛門はその海岸で一人の女性を見つけました。「きわ殿！」と吉右衛門はその女性に叫びました。その女性は茅野きわでした。きわは討ち死にした夫の霊を弔いながら、一人未亡人として、質素な小屋で漁師となり、生きていました。吉右衛門にとって、きわがこの密命の最後の一人でした。吉右衛門はきわの苦労を労い、内蔵助から託された大金を、きわに渡しました。きわは感激し、亡き夫の仏壇にその金を供え、手を合わせました。吉右衛門はきわに討ち入りの様子を伝え、大役を務め、きわのもとを立ち去りました。
その翌年の2月、討ち死にした四十六士の十七回忌の法要が京都の瑞光院で行われることになっていました。吉右衛門はその法要に行くため、京へ旅立ちました。その途中、ある茶屋で休息をとっていると、向かいの寺から、一人の男が出てきました。吉右衛門は驚きました。その男は無二の親友・瀬尾孫左衛門だったからでした。吉右衛門は目を疑いましたが、孫左衛門の乗った駕籠はどこかに行ってしまいました。駕籠は山深い竹林の方に入っていき、孫左衛門は駕籠から降り、竹林を通り過ぎ、一軒の古ぼけた家に戻りました。孫左衛門は“可音（かね）”という娘と、“ゆう”という気品ある美しい女性と共に、ひっそりと暮らしていました。可音はゆうから芸事などの手ほどきを受け、今では琴にかけては、ゆうの腕前を凌ぐほどになっていました。可音は孫左衛門を父として、一人の男として思いを寄せていました。孫左衛門は武士の身分を捨てて素性を隠し、古美術品の商人として生計を立てていました。孫左衛門は今回、珍しい一品を手に入れましたが、それを売る相手がいないとゆうに相談をしました。ゆうは天下の豪商・茶屋四郎次郎を勧めましたが、孫左衛門は只の商人で会うことなどできませんでした。ゆうは即座に孫左衛門のために、一筆したためました。そして、ゆうは孫左衛門にその文を持って、尋ねるように促しました。
孫左衛門を見失った吉右衛門は、内蔵助の又従兄弟・進藤長保の屋敷のもとに行きました。進藤は16年の月日を費やし、大役を務めあげた吉右衛門の労を労い、来年の十七回忌の法要まで、この屋敷で暮らすよう言いつけました。法要には約100人もの人が集まるようでした。吉右衛門は進藤に、途中、瀬尾孫左衛門を見たことを告げました。孫左衛門は内蔵助の要人として仕えていましたが、討ち入り前夜に逐電した臆病者と思われていました。しかし、親友であった吉右衛門は、忠義に厚く、若くして妻を亡くし子もない孫左衛門が、只、自分の命惜しさに出奔するとは信じられずにいました。進藤は吉右衛門の労を労おうと、茶屋四郎次郎から招かれていた人形浄瑠璃を観に行こうと誘いました。
その頃、孫左衛門はゆうの文を携え、茶屋四郎次郎に会いに行きました。ゆうの言った通り、孫左衛門は茶屋四郎次郎と面会することができました。孫左衛門は手に入れた珍しい壺を、茶屋四郎次郎に買ってもらうことができました。茶屋四郎次郎は、孫左衛門の言い値が余り低いので、「欲のないお人やな」と笑い、言いました。孫左衛門は茶屋四郎次郎から、なぜ、孫左衛門が自分と会えたのかを知らされました。ゆうは元・島原の花魁・夕霧太夫だったのです。かつて、その夕霧を身請けしたのが、茶屋四郎次郎だったのです。茶屋四郎次郎は夕霧の美しい筆のはこびで、分かったのでした。その後、孫左衛門は可音と共に人形浄瑠璃『曽根崎心中』を観に行きました。偶然にも、その演目を観に、進藤は茶屋四郎次郎に招かれていたので、吉右衛門を連れて、来ていました。孫左衛門たちは下の一般の枡席、進藤、吉右衛門、茶屋四郎次郎たちは二階の特等席と離れていましたので、お互いに気が付きませんでした。しかし、演目の途中の休憩時間、孫左衛門が席を外している間、可音は一人、枡席に座っていました。その凛とした美しい気品のある姿を見た茶屋四郎次郎の嫡男・茶屋修一郎は、可音に一目惚れをしてしまいました。枡席に戻ろうとした孫左衛門は、二階の席に吉右衛門の姿を見つけ、驚きました。「なぜ…」と思いつつ、孫左衛門は吉右衛門の目を盗むようにして、そそくさと演目途中で可音を連れ出し、家に連れて帰りました。
家に戻った可音の足を、いつものように、孫左衛門は水できれいに拭ってあげました。可音は「芝居の後が気になる」と孫左衛門に尋ねました。孫左衛門は「心中と…」と答えると、可音は「なぜ…うちには恋というものがわかりませぬ」と呟きました。可音は孫左衛門をいつものように親しみを込めて「孫左（まござ）」と呼び、食事を近くで一緒にとるように言いました。しかし、孫左衛門は可音の言うことを拒みましたが、あまりに可音が言うので仕方なく、近くで食事をとることにしました。可音は「孫左はすぐにいなくなる。うちは淋しゅうて、この心が乱れます」と言いました。孫左衛門は可音を幼い頃から我が子のように育てました。そして、可音は立派な女性に成長していました。孫左衛門は「淋しい、恋しい」という可音を一人の武家の女性として扱い、「武家の心にはそのような軟弱な思いは宿らぬものと、お心得下さい」と言い放ちました。可音はそれが理解できず、孫左衛門に反論し、彼を困らせました。可音は孫左衛門から「少しは淋しい」という言葉を強引に聞き出すと、「うちと同じや」と呟き、微笑みました。
その数日後、孫左衛門が茶屋四郎次郎を訪ねると、茶屋四郎次郎は、嫡男・修一郎が、そして、自分自身もあの人形浄瑠璃を観に行った日、ある美しい女性に一目惚れをしたとうち明けられました。そして、茶屋四郎次郎は、商人として顔が広い孫左衛門に心当たりはないかと尋ねてきました。孫左衛門は何も答えることができませんでした。それは可音だったからです。茶屋四郎次郎は、孫左衛門にその美しい武家のお嬢様を捜してほしい、と頼まれてしまいました。孫左衛門は家に帰ると、ゆうにそのことを相談しました。ゆうはこの上もない玉の輿と喜びましたが、孫左衛門は迷っていました。ゆうはそんな孫左衛門の姿を見て、不思議に思いました。ゆうは孫左衛門に「そろそろ素性を明かしてくれはっても」と尋ねましたが、孫左衛門は素性を明かしませんでした。そんな孫左衛門を見て、ゆうは16年前、孫左衛門が雪の中、赤子の可音を懐に抱いて、孫左衛門がこの家に乳を恵んでくれとやってきた頃を思い出しました。孫左衛門はゆうが、可音に品格のある女性としての読み書き、行儀作法、そして芸事まで一分の隙もなく、教えてくれたことに感謝しました。そして、孫左衛門はゆうに「いつの日か、必ず、事の次第をうち明けます」と言い、深くお辞儀をしました。
その日の夜、孫左衛門は可音が16歳になったことを聞くと、「お年頃。…世間の女はその年頃で嫁ぎます」と暗ににおわせました。しかし、可音は今の暮らしのままでよい、見もしならない家に嫁ぐなど嫌だと言い返しました。孫左衛門は可音に「可音様を幸せにするのは、手前の使命」と呟きました。その言葉を聞いた可音は「使命？使命でうちを育てたのか!?」と孫左衛門に詰め寄りました。孫左衛門は可音に、可音の亡き母の遺言である「武家には幸せというものはない。できれば、可音は町家に嫁がせたい」という言葉を伝えました。孫左衛門は続けて「その町家の主が可音様を是非、嫁にしたいと」と可音に語りました。可音は「うちは嫌や。うちは孫左と一緒に暮らしたい」と泪で目を潤ませ、言いました。孫左衛門は戸惑いました。
可音は翌日、一人、人形浄瑠璃『曾根崎心中』を観に行きました。そこで可音を待っていたのは、茶屋修一郎でした。修一郎は可音に素性を問い詰めましたが、可音は居場所を明かさず、ただ、自分の名「かね」だけを修一郎に告げ、逃げるように家に帰りました。修一郎は家に帰り、その事を父・四郎治郎に伝えました。名は「かね」、そして、その「かね」は好きな人がいるようだと…。二人はその謎めいた「かね」に益々、興味をそそられました。四郎治郎は、孫左衛門を呼び、修一郎から聞いたことを話し、「かね」を捜すように頼みました。可音が修一郎と出会ったことを知った孫左衛門は、家に帰ると、可音に修一郎が天下の豪商の嫡男であることを告げました。そして、孫左衛門は可音の言った好きな人を問い詰めましたが、可音は「孫左には言いとうない」と憤りました。その様子に戸惑った孫左衛門は、ゆうに相談しに行きました。ゆうは孫左衛門に「可音様は恋をしておいでどす。…瀬尾孫左衛門というお方どす」と答えました。孫左衛門は笑い飛ばそうとしました。しかし、元花魁のゆうは、自信たっぷりに孫左衛門に「男はんには、忠義とか義理とか面子とか、重たいもんがおありどっしゃろ。女は女として生まれてきて、女になるだけ。好いた男はんに、恋こがれるのは運命。この想いだけはどうにもならしまへん」と静かに諭しました。孫左衛門は可音の気持ちを知り、戸惑いました。
その夜、孫左衛門が草鞋を編んでいると、可音が「うちが嫁いだら、孫左はどうするんや」と問い詰めてきました。孫左衛門は可音の気持ちをはぐらかすため、「ゆう様が…」と答えました。それを聞いた可音は烈火のごとく、「うちの知らぬところで、孫左とゆう様はそのようなことを言い交わしておったのか！孫左はうちが邪魔なのか!?」と孫左衛門に怒りをぶつけました。孫左衛門はそんな可音に「お心違いなさいますな！可音様を育て上げ、しかるべき家に嫁がせるのが、手前の使命。孫左衛門は武士でございます」と両手をついて諭しました。その言葉を聞いた可音は思い出したかのように「武士の心にはおなごは住めぬ。忘れておった。堪忍やで」と目に涙を浮かべ、孫左衛門に謝りました。翌日、孫左衛門は亡き内蔵助の位牌を置いた仏壇前で般若心経を唱えながら、決心しました。また、可音もある決心をし、茶屋家に男ものの反物を買いに行きました。そこで、修一郎と再会しました。可音はその反物で孫左衛門の着物を作ろうと思ったのでした。修一郎は可音にその男のことを可音に問うと、可音は「歳は50近く、背は高く、ただ、背中が温かい。赤子のとき、よう背をわれた」と呟きました。可音は修一郎と手紙で次に会う約束をし、反物を買い、家に帰りました。修一郎はそのことを、父・四郎治郎に報告すると、四郎治郎は「益々、心惹かれる」と呟きました。反物を買った可音は、心配していた孫左衛門に「うちはもう子供ではない。気遣いは無用です」言い、距離を置くようにし、これから一人で茶の稽古にも行くと言い出しました。
次の日、可音は街に裏千家の茶の稽古に行きました。その頃、茶屋四郎次郎は、進藤の屋敷に孫左衛門から買った壺を持って、修一郎が「かね」という謎の美女に恋をした事の次第を相談しに行きました。その場に吉右衛門も控え、聞いていました。進藤は四郎治郎が帰った後、「可音」という名から、その女性が亡き大石内蔵助が、京で身を隠していたときの隠し子ではないかと推察しました。そして、その事実を吉右衛門に明かしました。一方、孫左衛門は茶屋四郎次郎を訪ね、可音のことを「詳しくは申し上げられませんが、去る西国筋の大名家にて重きお役を勤める方の忘れ形見」とだけ伝えに行きました。吉右衛門は茶屋家に向かうと、ちょうど、孫左衛門が帰るところを見つけました。吉右衛門は密かに孫左衛門の後をつけて行きました。孫左衛門はそうとは知らず、瑞光寺に行き、内蔵助の墓参りに行きました。ちょうどそこに元赤穂藩士の月岡治右衛門たち４人がやってきました。孫左衛門は身を隠し逃げるように立ち去ろうとしましたが、月岡たちに見つかり、「命惜しさに逐電し…。恥を知れ！武士の風上にも置けぬ奴！」と罵倒され、蹴倒されました。孫左衛門は腰を押さえつつ、山深い竹林を通り過ぎ、古びた一軒家に入って行きました。吉右衛門は孫左衛門の家に入りました。孫左衛門は吉右衛門の姿を見て、驚きました。吉右衛門は孫左衛門に「逐電してまで生き延びた訳は何か？」と問い詰めましたが、孫左衛門は答えませんでした。そこで吉右衛門はある女ものの匂い袋を見つけました。すると興奮した孫左右衛門が、奥から刀を持ち、「これ以上聞くのであれば、おぬしを斬らねばならぬ」と言い、外に吉右衛門を連れ出しました。訳を聞きたい吉右衛門と訳を言えぬ孫左衛門との刀を抜いての斬り合いが始まりました。孫左衛門はその途中、吉右衛門の目を盗み、橋の下に隠れました。吉右衛門は孫左衛門を探し、その橋の上に来ました。橋の上で吉右衛門は、下に隠れている血盟の友・孫左衛門に16年間の自分の使命をうち明け、「討ち入らなかった者の立場はない！命惜しさの臆病者よ、卑怯者よと罵られ…。討ち入った者よりなお、残った者のほうに背負うものは大きかった」と必死で問いかけました。しかし、孫左衛門は無言で橋の下で刀を構え、吉右衛門が立ち去るのを待っていました。吉右衛門はそんな孫左衛門に「そこまで落ちたか…もはや聞くまい」と業を煮やして、立ち去りました。
孫左衛門の脳裡に、16年前、大石内蔵助から「許せ。そちの命をわしにくれ」と泪ながらに言われ、可音のことを育て上げる密命を受けたときのことが蘇りました。進藤の屋敷に戻った吉右衛門は、孫左衛門の家で見つけた匂い袋を進藤に見せました。それを見た進藤は、ある仮説を立てました。それは、孫左衛門が大石内蔵助から、京での愛人・可留との間に産まれた隠し子・可音を育てあげよという密命を受けたのではないかというものでした。その可音が、茶屋家が捜している娘ではないかと考えたのでした。それを聞いた吉右衛門は、ある日、可音が茶の稽古の帰りを待ち伏せしました。そして、可音に吉右衛門は「元赤穂、浅野家家中…」と素性を明かし、可音に同道しました。可音はその言葉を聞き、自分の本当の素性を知りました。進藤の仮説は当たっていました。可音を乗せた駕籠は、孫左衛門の家に向かって行きました。可音は孫左衛門の家に入ると、吉右衛門を中に招き入れました。孫左衛門は驚きました。吉右衛門は密命を受け生きてきた孫左衛門の労を思い、「重き使命、よう果たしたの」とだけ言い、立ち去ろうとしました。孫左衛門は吉右衛門にそれでも尚、この事は他言しないように頼みましたが、吉右衛門は「何もかも進藤様がお見通しだ」と告げました。孫左衛門は「そうか…」と諦めました。吉右衛門はそんな孫左衛門の姿を見て、目を潤ませ、黙って立ち去りました。その夜、本当の素性を知った可音は、孫左衛門に「うちの体はうちのものであって、うちのものでない。大石内蔵助の隠し子というこの身の始末をどうつけよう…。孫左、うちは嫁ぐ」と呟きました。孫左衛門はその言葉を聞き、安堵し、可音に「お幸せになってください」と深くお辞儀をしました。その翌日、孫左衛門は茶屋家を訪ね、四郎治郎と修一郎に、可音が大石内蔵助の隠し子であることを告げました。そして、その事が茶屋家にとって障りがないかと尋ねました。四郎治郎と修一郎は武家の鏡・内蔵助の娘に障りなどないと言い、快諾しました。それを聞いた孫左衛門は喜び、可音が茶屋家に嫁ぐと言った言葉を告げました。但し、婚礼は10日後ということになりました。その10日は可音が、孫左衛門のための着物を仕立て上げるまでの日数でした。
10日の月日が過ぎ、可音が茶屋家に嫁ぐ日がきました。可音はゆうに化粧をしてもらい、白無垢姿になり、立派な凛とした美しい女性へとなりました。その日は、偶然にも赤穂浪士四十六士の十七回忌法要の日でした。京の瑞光寺ではちりぢりになっていた元赤穂藩士たちが集まっていました。孫左衛門は一人、家の仏間で写経をし、菩提を弔っていました。そんな孫左衛門に、可音は自分の姿を見せました。孫左衛門は嬉しく思いました。可音は孫左衛門に「16年、世話になったの」と言い、三つ指をつき深々と頭を下げました。孫左衛門も深々と頭を下げました。可音は孫左衛門のために仕立て上げた着物を、精一杯の気持ちと言い、贈りました。可音はゆうに孫左衛門をよろしく頼むと言い、16年間、孫左衛門と暮らした古びた家を懐かしみつつも、駕籠に乗りました。お付きは孫左衛門一人、可音は茶屋家に向かいました。時は夕暮れ時、辺りは暗く、大石内蔵助の娘としてはあまりに淋しいお輿入れでした。しかし、そこへ松明をもった吉右衛門が駆け寄ってきました。吉右衛門が合図をすると、そこには何人ものお付きの人々が松明を持っていました。全ては事の真相を知った進藤のはからいでした。可音は嬉しく思いました。そして、その道中、進藤から真実を聞いた元赤穂家・家臣たちが、次々と姿を現し、可音の輿入れに参列してきました。月岡も孫左衛門に「万死に値する過ち」と泪ながらに土下座して謝り、参列しました。可音は自らの素性を誇らしく思いました。可音は茶屋家に着き、屋敷へ入ろうとしたとき、孫左衛門のほうを振り向くと、孫左衛門は参列の中にひっそりと見守っていました。孫左衛門は可音に声を出さずに「どうか幸せになってください」と言いました。可音はその言葉に一礼し、屋敷に入っていきました。可音の婚礼は、天下の豪商と大名の娘の婚礼らしく、かくも盛大にとり行われました。しかし、その場に一番の功労者・孫左衛門の姿はありませんでした。吉右衛門は孫左衛門の姿がないことに気付き、「もしや…」と思い、馬を飛ばして、孫左衛門の家に向かいました。
孫左衛門は可音を無事、茶屋家に送り届けると、踵を返し、一人家に戻りました。そして、直ぐに家の仏間に行き、内蔵助の位牌に受けた使命を果たしたことを報告しました。すると、そこにゆうが待っていることを伝えに、ゆうの使いがやって来ました。孫左衛門は可音が仕立ててくれた着物を着ました。その着物には可音の匂い袋のほのかな香りがしました。孫左衛門はゆうの家に行き、ゆうと二人でささやかながら、可音の婚礼の祝い膳をしました。ゆうは孫左衛門に自らの恋心を吐露しました。「孫左はん、死んだらあきまへんで。男はんをこの世につなぎとめられるのは、おなごだけ…。女の黒髪の一筋が男をこの世に生かす。孫左はんをこの世につないでおられたんは、可音様の髪一筋。それがのうなった今、うちは孫左はんのことを想います。…孫左はん、これからはうちと一緒に生きてほしい。…16年待ちましたえ」と。しかし、孫左衛門はゆうに「使命を果たし…要なきうえに…そのお言葉…むごい」とため息混じりに答えました。ゆうは「むごいのはどっちどす」と静かに諭すように返しました。孫左衛門はゆうの手を握り、ゆうに感謝しながら「身共は武士でござる」と言いました。ゆうは目を潤ませながら、その言葉を聞き、手をゆっくりと離しました。
孫左衛門は一人、家の仏間に入りました。この密命を受け「大石家の下人の証とせよ」と言われ戴いた紋付き袴を着た孫左衛門は、内蔵助の位牌に「遅ればせながらお供いたします」と言い、武家のしきたりに則り、切腹の準備をしました。孫左衛門の脳裡に16年間の可音の姿が、走馬燈のように過ぎりました。孫左衛門は笑みを浮かべると、一気に刀を腹に突き刺し、切腹しました。そこに吉右衛門が飛び込んできました。孫左衛門は吉右衛門に「介錯無用！」と言い、自分で首を斬り、武士らしい潔い見事な最期を遂げました。吉右衛門はそんな血盟の友・孫左衛門の姿を見て、男泣きしました。吉右衛門は「おぬしは最後の赤穂侍じゃ！」と叫ぶと、孫左衛門の最期の姿に深々とおじきをしました。
介錯無用のシーンでは 声をあげて泣いてしまいました。
可音と孫左衛門のやり取りには泣けました。