さよならテレビの紹介:2019年日本映画。東海テレビが2018年に放送したドキュメンタリー番組『さよならテレビ』は録画したDVDを全国のテレビ関係者が見る密かな話題作となった。それを再構成、再編集し2020年に劇場公開した劇場映画版。『ヤクザと憲法』等、数々の優れたドキュメンタリーを手がけてきた東海テレビのスタッフが自社の報道部にカメラを入れ、テレビの今、報道の今を映し出す。
監督:圡方宏史 出演者:東海テレビの人々
映画「さよならテレビ」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「さよならテレビ」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
さよならテレビの予告編 動画
映画「さよならテレビ」解説
この解説記事には映画「さよならテレビ」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
さよならテレビのネタバレあらすじ:撮影開始・中断・再開
2016年11月、東海テレビ報道フロア。「ドキュメンタリー企画書『テレビの今』(仮題)」という一枚の企画書が夕方のニュースが終わった後の反省会で配られ、ディレクターの圡方が企画を説明する。それによって自社の報道部にカメラを入れてニュース番組の制作そのものを対象とするドキュメンタリー番組の製作が始まる。
だが、カメラや机に仕込まれたワイヤレスマイクに苛立つ人たちが出てくる。報道部のデスクたちが「何が撮りたいのかわからない」、「取材というのはお互いの同意の上でするべき」と圡方を批判する。それでもプロデューサーの阿武野勝彦は圡方、カメラマンの中根芳樹、音声の枌本昇に「撮るなって言われても使ってる場合もある。政治家とかね。」と話し、激励する。
2か月の撮影中断の後、「マイクは机に置かない」、「打ち合わせの撮影は許可を取る」、「放送前に試写を行う」取り決めができ、撮影が再開される。
さよならテレビのネタバレあらすじ:社員・契約社員・派遣社員
東海テレビを訪れた小学生たちに報道局長は、報道の使命を「1.事件・事故・政治・災害を知らせる 2.困っている人(弱者)を助ける 3.権力を監視する」と講義するが、現実には視聴率アップが昔以上に報道部の至上命題になっていた。
夕方のニュース番組の視聴率の各局比較表が貼りだされるが、東海テレビは4位だった。4月の番組改編で「みんなのニュースOne」のメインキャスターに抜擢された福島智之アナウンサーへの期待は高い。彼の大きなポスターが放送局に貼りだされる。
番組PRの取材に対して、穏やかで人当たりのいい福島は「自分に嘘をつかずに本当に思ったことを伝えることを心がける」と語るが、そうしたいけれど、なかなかできないとう本音を取材カメラの前では漏らす。福島は自分自身の参加する祭の取材をすることになり、手前味噌ではないかと悩む。番組が終わった後には反省会で福島のコメントについて厳しい指摘がある。
ベテラン記者の澤村慎太郎は圡方とよく話をする。澤村は契約社員でいつ首を切られるかわからない身だった。彼は企業やスポンサーの依頼でするZ=是非ネタで商品や催しの取材をすることが多い。元々経済紙の記者だった彼には抵抗はないと言う。
労働時間削減のために報道部に人員の補充が行われる。制作会社からの派遣社員渡邉雅之である。他のテレビ局で2年働いた経験はあるが、仕事ぶりはたどたどしい。ラーメン店に取材に行き、カメラの前で何度かラーメンを食べてはコメントを言い直す。
働き方改革で一か月の残業時間は100時間以内という厳命が下る。残業が減って取材が薄くなって視聴率で負けてしまってもいいのか?という不満が渦巻く。
さよならテレビのネタバレあらすじ:倫理
澤村は、高層マンション建設に反対を叫ぶ男性が現場監督とトラブルになっただけで訴えられた裁判に注目し、取材する。国会で審議中の共謀罪につながる問題だと考える。権力が暴走しないように見張るのが報道の役目だと考える澤村は、報道部で共謀罪への関心が薄いのが気になる。共謀罪は国会で強行採決されるが、それを「共謀罪」と呼ぶか「テロ等準備罪」と呼ぶかで報道姿勢がわかる。東海テレビは政府に従い「テロ等準備罪」と報じることを選んでいた。
カメラは澤村の家の仕事部屋に入る。書架にはメディアやジャーナリズム関係の書籍がびっしり並んでいる。学生時代に本田勝一や鎌田慧の著書を読んで問題意識をかきたてられた彼は、経済紙の記者に始まり職場を転々としながらジャーナリストの仕事を続けてきた。彼の目から見て日本のメディアはまず会社員だ。テレビ局員は高給取りで、その地位を失うのは圡方にとっても怖いことだった。
2017年8月4日。「放送倫理を考える全社集会」が開かれる。6年前のこの日、生放送の番組で「怪しいお米」、「セシウムさん」、「汚染されたお米」という間違った、しかも東日本大震災被災者を傷つけるテロップが放送されてしまった。東海テレビはそれ以来この不祥事を忘れないために8月4日を「放送倫理を考える日」として全社集会を行ってきた。
6年前に生放送でテロップについて謝罪するはめになったのは福島智之だった。圡方に集会後取材を受けた福島は「あの日以来放送が怖くなった」と言う。圡方は、「リスクを負わずに表現するのは無理だと思う」と言う。
渡邉雅之はブームが去ったと思われたポケモンGOで遊んでいる人たちを取材する。だが、取材対象者への確認不足が分かり、放送直前に彼のリポートは没になる。成果を上げなれば1年後に仕事がなくなるだろうという焦りが失敗をもたらした。渡邉は女性アイドル大好きの若者。なんとなくテレビに出る仕事をしたいと思っていたが、好きなアイドルの一言に押されて最終的に今の仕事をめざしたのだった。
さよならテレビのネタバレあらすじ:年度末へ
一時は上昇した「みんなのニュースOne」の視聴率は再び低迷。上層部は福島キャスターの降板を決める。やがてそれが福島にも通知される。今やテレビを見るのは高齢者。4月からは視聴者の年齢に近いメインキャスターに交代することにしたのだ。
「みんなのニュースOne」で、またも匿名座談会のゲストの顔にモザイクがちゃんとかからない失態が起きた。しかし、降板が決まってから周囲は、福島がふっきれたように感じる。
一方、渡邉の契約も3月末で終了。「卒業」することになる。渡邉を励ました後で澤村がつぶやくように、仕事ができないとされた者はすぐ切り捨てられてしまう。お金に困る渡邉は局内で人からお金を借りる。
メディアの自由を訴える集会に行った澤村は、高層マンションに反対して訴えられた男性と再会。彼はいい弁護士、多くの支援者、そしてマスコミの報道のおかげで無罪を勝ち得たと言う。
さよならテレビの結末:その後
夏になる。渡邉はテレビ大阪で仕事をしていた。今度は流しそうめんの取材に行って、やはりカメラの前でそうめんを食べてコメントを何度かやり直す。福島アナウンサーは「みんなのニュースOne」のために商店街に取材に行き、お寿司屋さんに入る。お客たちに勧められて、断り切れずビールを飲む。そのリポートは好評だった。
そしてドキュメンタリーの取材最終日、圡方と街を歩く澤村は、最後に問いたださなければならないと思っていたことを問いただす。テレビの世界では「成立する・しない」ということがよく言われる。集会で澤村が高層マンション反対の男性と再会したのは偶然ではなく、圡方が番組が「成立する」ように男性に連絡をとって来てもらったのだった。
このドキュメンタリーもこれまでのテレビの枠におさまっているのではないか。テレビが抱える闇はもっと深いのではないか。
映画は最後に、この作品の演出の一端を種明かしして終わる。澤村には共謀罪に関連しての高層マンション反対の男性の裁判の取材について背中を押し、テレビ局内の弱者の代表として渡邉を取材し、渡邉にお金を貸したのも圡方だった。
以上、映画「さよならテレビ」のあらすじと結末でした。
「さよならテレビ」感想・レビュー
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ラストシーンがテレビの恐ろしさを感じてもう何が真実かわからないと思いましたがここが1番オススメで見所のシーンだと思います。またドキュメンタリーといえどもオチやストーリー性を求めるのは理解できますし作り手側が意図する方向に導こうとすることもあったと思います。実際私たちも日常で自分の見たいように社会を見ていると思うので人が介入する限りメディアには主観が含まれるだろうと思いました。
「今のテレビのあり方」を表現したドキュメンタリーという点がおすすめポイントです。現代のテレビ業界に問題を投げかけているような気がします。この映画により未来テレビ業界が良い方向に進んでくれたのであれば、この映画制作陣は報われるのではないでしょうか。