繕い裁つ人の紹介:2014年日本映画。しあわせのパンの三島有紀子監督が、服をテーマに人々のつながりと心模様を、繊細に描き出す。頑固な洋裁店主は中谷美紀が好演。
監督/三島有紀子 出演者/中谷美紀、三浦貴大、片桐はいり、中尾ミエ、伊武雅刀、黒木華ほか
映画「繕い裁つ人」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「繕い裁つ人」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
繕い裁つ人の予告編 動画
映画「繕い裁つ人」解説
この解説記事には映画「繕い裁つ人」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
繕い裁つ人のネタバレあらすじ:仕立て屋は頑固ジジイ
南洋裁店の服に魅せられた百貨店勤務の藤井は、ブランド化してネット販売しようと店主の市江に持ちかけるも、彼女は頑として首を縦に振らない。藤井の上司曰く、人に上品で買うのを迷うスキを与えない服を作る市江は、着る人の顔の見えない服は作りたくないと言う。モデルに南洋裁店の服を着せて撮った服を見せても、自分が美しいと分かっている人に私の服は必要ないとバッサリ。先代から付き合いのある立った一軒の店に服を作って販売する事と、先代の作った服の直しをする以上に手は広げたくないと繰り返す。スタッフも場所も確保するといっても、先代からの足踏みミシンじゃ無いと作れないと譲る気なし。ある日、藤井が性懲りもなく訪れると、寝起きの市江と出くわす。パジャマに寝癖といういつもの澄ました市江とは違う一面を見る。そんな彼女は洋裁以外にはお茶もろくに淹れられない。曰く、夢見るための服を作っているのに生活感を出してたまるかと反論。
ある日近所に住むユキが母の服を自分が着られるようにしてくれないかと頼みに来る。それは先代である市江の祖母の作ったものだった。そこへチヨさんが旦那さんの買ってくれた今では着れない花柄の着物を持ち込み、また別の女性が息子に穴をあけられてしまったと服の直しを持ち込む。ユキが自分の背の小ささと、洋服店で試着をするのが苦手だと打ち明ける横で、市江はワンピースの裾にハサミを入れていく。後日出来上がったのは袖丈、ウエストの位置を変えフレアに直した彼女にぴったりのワンピース。チヨさんの着物はスカートになり、旦那さんとの外出着になった。
繕い裁つ人のネタバレあらすじ:偉大すぎる祖母の仕事
市江は図書館でパターンの引き方の本に惹かれながらも、仕立て本を読む。そこへ彼女を見つけた藤井は「ブランドのはじめ方」と言う本を薦めるものの興味なし。彼女曰く、先代から付き合いのある牧さんお店には生活のために服を作って売っているだけ、それも祖母が引いたデザインの中から選んで作っている彼女のオリジナルと言うわけではない。二代目の市江にとっては一代目の仕事を全うする事が何よりも大切だった。藤井は変化が怖いんじゃないかと言うが取り合わない。それほどに祖母は偉大で、葬儀の出棺の時には南洋裁店で服を仕立てた町の人がみな仕立ての服を着て見送るほどだった。
夜会の季節になると、先代の作った服が市江の所に集まってくる。毎年皆少しずつ体形に合わせて直すからだ。
ブランド化はほとんど諦めた藤井は市江の仕事が見たいという理由で、彼女を呼び出した泉先生の家に行く。先生は夫と出会った時に来ていた服をしに装束に仕立てて直してくれるように市江に頼む。彼女の仕事が見たい藤井は、服を解く所から手伝いをするが途中で眠ってしまい、起きた時には既に包装され見れずじまい。
藤井が担当しているテイラーの橋本はデパートからの直しをしているが最近は減るばかり。
市江が夜会服の直しをしていると、入ってきた藤井の様子がおかしく、好きな事をし、変化を嫌い、すぐに諦めることを責める。そんな市江は藤井が車の中で女の子と楽しく話す藤井を見かける。
夜会の夜、ユキを不決めた三人の少女がもぐりこむ。そこには、いつもの生活感などまるで無い、おしゃれをした親や祖父の姿があった。おしゃれは自分のため、取って置きの服は誰かのためと言うのがモットー。それはその人が生きている限り人に寄り添う服だった。隠れていた少女たちに気づくとびっくりした夜会の参加者たちはいつもの顔を出してしまう。子供がいると親の顔に戻ってしまうので30歳以下は入場禁止。しかし少女たちは自分たちにもドレスを作ってほしいと市江に頼む。しかし、一ヶ月もしないうちに服を捨てたり売ったりしてしまう今の若い子には南の服はもったいないと参加していた老紳士に言われてしまう。
藤井は、それまで市江は自分のデザインした服をしたい気持ちを抑えていたと思っていたが、彼女にそのままでいい、ありがとう、さようならと言って、夜会会場から去る。それから彼が南洋裁店に来る事はなかった。
繕い裁つ人のネタバレあらすじ:藤井が服に見せられていた理由
市江は自分でデザインのスケッチをしていた。しかしそれを服に起こした事はなかった。
泉先生の死に装束は、庭いじりの好きな先生用に、ガーデニング用のエプロンになっていた。そこで、市江は初めて藤井が東京へ移動してしまったことを知る。しかも彼本人の希望で。
街に出ると市江はいつだか藤井と一緒にいた女の子に出会う。車椅子の彼女は藤井の妹だった。子供の頃事故にあって車椅子になって引き篭りになってしまった彼女を社交的にしたのは、母親の買ってきた可愛いワンピースのおかげだった。そのおかげで外出が好きになったのだと言う。そんな服の力を一番感じたのは兄の方だった。市江は、簡単に自分の居場所を変える事が出来る藤井を知り、自分には出来ないことだと悔しがる。しかし、東京に行った藤井は家具売り場担当をして好きな服から離れてみるつもりだったがどうしても道を行く女性たちの服を見てしまう。
藤井との共通の知人、テイラーの橋本さんの所を尋ねると、彼はデパートからのリフォーム依頼が無いことを理由に店をたたもうとしていた。市江は藤井がいつだったか理由もなく怒っていた事を思い出す。そして、市江は自分の祖母は病床でさえ市江に手縫いで仕立ての指導をしていた事を話す。引導を渡されるまでは逃げ出さないでと橋本に市江は言う。
繕い裁つ人の結末:はじめて市江がデザインした服
妹の結婚式のために戻ってきた藤井は、彼女の着ている服の仕立てを見てすぐに市江の仕立てた服だと分かる。襟元には、彼女が母親に買ってもらった可愛いワンピースの襟のレースがあしらわれていた。ウエディングドレスの製作は市江から藤井の妹に頼み込んだ事だった。それは市江が始めてデザインから起こしたドレスだった。
再び夜会季節、あの女の子たちが再びやってくる。咎められるが、夜会を覗きに着たのではなく、この一年の間に亡くなってしまった祖父のスーツを夜会に飾って欲しいという頼みのためだった。市江は快諾し、スーツを着せたトルソーを端に置く。夜会が終りに近づくと、参加者は飾られたスーツの周りに集まり亡き人の思った。
市江は、初めて祖母を越えたいと決意し、少女たちにドレスを作らせて欲しいと頼む。今生きている人の服を作るのは、今生きている市江の仕事。
ある日の南洋裁店。作業場には、型紙用の紙にパターンをひく市江の姿があった。
以上、映画 繕い裁つ人のあらすじと結末でした。
繕い裁つ人のレビュー・考察:着るだけではない、服機能。
既製服が巷に溢れた現在ではあまり見ることは出来ないが、南洋裁店は服を介して地域の人々と密接に繋がっている。夜会以外にも、母から受け継いだ服や、夫のくれた着物、服を仕立てた分だけ、市江は仕立てた相手とその服に関する思い出を共有する事になる。そのつながりはおいそれと断ち切ることは出来ない。市江が東京へ行った藤井に悔しいと漏らすのも自分には、直しを含め仕立て人としての責任があると感じているからだろう。序盤で顔が見えない客の服は作りたくないというのも、ネット店舗としてのブランド化に難色を示したのも、そこには繋がりが希薄だからだろう。
また、藤井が婦人服に固執する理由も、引きこもりだった妹が外出するきっかけになったワンピースの力というのがあるだろう。
夜会のシーンでも、服というものが、人に与えるいつもの生活とは離れた空間や、人を偲ぶ装置として機能している。
単に着るだけではない「服」というものについて考える事が出来る。
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