私の男の紹介:2013年日本映画。桜庭一樹によるベストセラーで第138回直木賞受賞作。孤児になった少女と彼女を引き受けた男が、心に空虚を抱えながらも寄り添うように生きていく姿を北海道の雄大な自然を背景に描く。北海道と東京を舞台に父と娘との歪んだ近親相姦と、それに絡む殺人事件を描いた衝撃のラブサスペンスです。
監督:熊切和嘉 出演:浅野忠信(腐野淳悟)、二階堂ふみ(腐野花)、モロ師岡(田岡)、河井青葉(大塩小町)、山田望叶(花(10歳))、三浦誠己(美郎の先輩)、三浦貴大(大輔)ほか
映画「私の男(2013年)」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「私の男(2013年)」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
私の男(2013年)の予告編 動画
映画「私の男(2013年)」解説
この解説記事には映画「私の男(2013年)」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
映画「私の男」のネタバレあらすじ:起
1993年、北海道・奥尻島に住む少女・花(山田望叶)は北海道南西沖地震で家族を失い、親戚の腐野淳悟(浅野忠信)に引き取られて紋別市に移り住みます。
数年後、花(二階堂ふみ)は中学生に成長していました。養父の淳悟は海上保安官の仕事で家を空けることが多く、花は地元の名士である遠縁の大塩老人(藤竜也)から可愛がられていました。淳悟は大塩の孫娘の小町(河井青葉)と交際しており、周囲から結婚を勧められてはいるものの淳悟にその気はありませんでした。ある日、淳悟と気だるい情事に及んでいた小町は惇悟のコートの中からピアスの入った小箱を見つけ、明らかに自分のためのものではないと不審に思い捨ててしまいます。ある時、小町は淳悟が花と愛撫に及んでいる様を目撃し嫌悪感を覚えます。小町が捨てたピアスは実は惇悟が花の誕生日プレゼントとして買ったものであり、花は新たに買って貰ったピアスを手にしていました。
映画「私の男」のネタバレあらすじ:承
不信感を募らせる小町は、花から「淳悟は家族というものが欲しくてじっと我慢している。他人じゃダメなの」と言われます。気味の悪さを感じた小町は淳悟と別れて東京に去ります。やがて淳悟と花は肉体関係を持つようになります。そして、紋別に流氷が到来した冬のある日、大塩老人は偶然にも二人の情事を目撃してしまいます。大塩老人は淳悟こそが花の実の父だと知っていました。かつて高校時代に家庭内暴力を起こして奥尻島の親戚に預けられた淳悟はそこで花の母と出逢い、出来た子が花でした。花もその事実に気付いていながら淫らな関係を続けていたのです。花の身を案じる大塩老人は、彼女を淳悟から引き離して旭川の親戚に預けようとしますが、猛反発した花は大塩老人を極寒の流氷の海に突き落として殺害してしまいます。
映画「私の男」のネタバレあらすじ:転
花は、海の仕事から戻ってきた淳悟に事実を打ち明けます。二人は逃げるように紋別を離れて東京に移り住みます。淳悟はタクシー運転手に転職、花は高校生になりました。
ある日、淳悟の元に元刑事の田岡(モロ師岡)が訪れます。大塩老人の死の真相を探っていた田岡は、花が真相を知っているとみていたのですが、逆上した淳悟は田岡に襲い掛かり殺害してしまいます。花は現場を目の当たりにし、全てを理解します。事件の真相は二人だけの秘密となります。その日以来、淳悟は魂が抜けたかのような鬱状態に陥ります。
映画「私の男」の結末
時は流れ、大手企業の受付嬢として働き始めた花は、会社の専務の子である尾崎(高良健吾)と知り合い、親密な関係になります。尾崎は花を家まで送り、淳悟の出迎えを受けます。尾崎は淳悟と花の馴れ馴れしい行為を目撃し不審感を覚えます。すると淳悟は突然、尾崎に上半身裸になるよう強要します。尾崎は突然のことに戸惑い恐怖を覚えながらも要求に応じると、淳悟は何と尾崎に愛撫しようとしたのです。これに驚いた尾崎に淳悟は「おめえには無理だよ」と言います。尾崎は逃げるように立ち去り、そのまま花と破局します。淳悟は「俺は親父になりたいんだよ」と呟きます。
それから数年後。淳悟の元を去った花は大輔(三浦貴大)という人物と婚約します。結婚式の前夜、とあるレストランで花は淳悟と数年ぶりに再会し、大輔を紹介します。淳悟は大輔に「お前には無理だよ」と言い放ちます。淳悟と花はテーブルの下で足を使って愛撫を始めます。淳悟は花を手放すつもりはないようでした。
以上、映画「私の男」のあらすじと結末でした。
映画「私の男」解説
映画版 私の男は時系列が順列に、つまり過去から現在へ、という構成へと原作から変更されている。幼い花と淳悟の出会いからはじまり、二人のつながりの深まりと変化が時間とともに描かれて、最後に現在へと至る。少女から女へ変わり、そとへ、そとへ、と向かっていく花と、青年から中年へと年をとり、男としての盛りを過ぎていく淳悟。
花の成長は、すなわち淳悟の老いであり、花が美しくなっていけばいくほど、淳悟は肉体的にも状況的にも、終わりの方へと近づいていきます。『源氏物語』『ピグマリオン』はじめ、本作「私の男」の系譜に連なる多くの先行作品でも、また私たちの生きている実生活上のあらゆる親子関係、師弟関係、年齢差のある恋人・夫婦・友人関係でも、同じことがいえるだろう。導き、保護し、庇護していたはずの相手が、自分を超える日。互いの立場が入れ替わる日。年齢差があればあるほど、その瞬間は必ずやってきます。年長者にとっては、導き、保護し、庇護し、支配する快感。年少者にとっては、導かれ、保護され、庇護され、支配される安心感。やがて互いの立場がイーブンに、完全に互角となる状態を経て、そしてひっくり返る。だれよりも愛した花によって、だれよりも愛された淳悟は自分の老いを気づかせられます。
だけど、いずれこうなるであろうことは、淳悟自身が予感していたはずです。劇中で一度だけ描写される、二人の性交場面。朝の食卓で、淳悟の方から欲情がゆらめきだして、リビングルームの床に花をそっと押し倒す。服を脱がせ、愛撫をはじめ、それに応えて花が淳悟の股間に手を伸ばしたそのとき、花の手の甲に、血の雨の最初の一滴が落ちる。血に濡れた手で花は淳悟自身をまさぐる。そのまま上に乗る。男に組み敷かれる体勢ではなく、男を組み敷く体勢で、男をむさぼる。淳悟がとりたてて騎乗位好きではないことは、花とは別の恋人との性交場面では後背位をとっていることからも、明らかだ。
組み敷いたはずが組み敷かれ、むさぼるはずがむさぼられ。血まみれになって抱き、抱かれる。16歳の花と33歳の淳悟。これより少し後に最初の殺人が起こり、以後、二人の立ち位置はゆるやかに反転していきます。終わりに向かっていくことが、分かっていながら抗わない。抗えないんです。相手の成長は、自分の老いです。
3年後、花は結婚する彼氏と淳悟の3人でレストランで食事をする。花はそのテーブルの下で淳悟と足を重ね合わせ静かに口を開きます、「おめでとうは?」と。
ラストシーンの淳悟の表情(彼の顔で物語を締めくくっていることからも、主人公は花ではなく淳悟である)には、寿ぎと悲しみの両方が、彼の心がにじんでいる。冒頭、初めて会ったとき、「俺はおまえのもんだ」と花に語った言葉どおりに、淳悟はすべてを明け渡す。ここで過去と現在がつながる。過去、現在、再び 過去へ。二人のはじまりと終わりが一つになる。その後は、暗転。近親相姦ジャンルのモラル(矛盾した表現)に則って、二人に明るい未来はない。それは言い換えれば、極みに届いた、ということかもしれないのです。
映画「私の男」のレビュー・感想
映画「私の男」は災害孤児となった女の子を引き取った親戚の男性がその女の子と性的関係を持つようになり、女の子のほうもそれに依存するという近親相姦関係の二人と、その歪んだ愛ゆえに引き起こされる事件を壮絶に描いている。廃人のようになった男を演じる浅野忠信の存在感と、十代とは思えない演技力で女の恐さを表現する二階堂ふみに圧倒された。二階堂ふみが全編に渡って画面を支配した映画「私の男」、12歳から24歳までの花を全く違和感なく演じ、子どもの無邪気さと残酷さと女の無慈悲さを見事に共存させている。浅野忠信をはじめとするベテラン俳優を向こうに回しても全く動じないその圧倒的存在感は見事と言う他ない。特に前半については彼女以外に演じれる人はいないと思う。
「私の男」の原作を読んでから観たので比べてしまうが、桜庭さんの原作はこのストーリーを練りに練った感があり、時間を逆行させることで、文学的な価値を高め得たのだと思う。しかし原作のような順序で映像化した場合、活字と映像との相違により、その格調を保つのは困難であったのだろうということを映画「私の男」をみて感じた。また、2時間の映画のなかに、原作で描かれる世界を全て盛り込むことも無理。勢い、このストーリーのなかのエッセンスが効果的に、映像として盛り込まれることとなる。
淳悟と花の二人を、大塩さんが目撃してしまうシーンなど、映像表現の賜物。原作の冒頭、映画では最後のシーン、成長した花の恋愛?で、美郎が二人に分裂して描かれている点などは、映画的なストーリー展開のためのものか。ただ、原作「私の男」の冒頭での、淳悟と花の関係「おとうさぁん」という印象的な呼びかけが、北海道での高校生の花のシーンに置き換えられたのは残念だった。淳悟と花との関係を象徴的に表すシーンであり、そこから二人に対する懐疑を読者が感じるという設定であったはずで、やはり順序を変えてしまったせいかと残念であった。
もうひとつ、映画「私の男」がR15指定されているように、本作は、淳悟と花、淳悟と小町とのベッドシーンが盛り込まれている。R15指定は当然ではあるが、その割におとなし目であった印象が残る。原作のねっとしりた関係は映画であっても描いてよかったと思う。もとよりこの関係がインモラルなものであることは、二人の関係を知れば明らかなので、むしろそこを際立たせることが、映像化の原点であったように思える。
「私の男(2013年)」感想・レビュー
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全くナンセンスなストーリーで
浅野、二階堂にも魅力がなく観賞時間が
無駄でした
近親相姦、殺人を扱っているということで、何とも後味の悪い作品でした。体当たり演技では若手女優一番の二階堂ふみが、ここでも体当たりの演技を見せています。後味は悪いのだけど、何だか目の離せない作品でした。淳悟と花は果たして、親子なのか?恋人なのか?この関係はずっと続くのか・・・。花が本当に幸せになるには、父との決別が必要な気がしましたが、花自体が望んでいないのかな。