父子草の紹介:1967年日本映画。渥美清主演の作品『男はつらいよ』シリーズ第1作目の公開が1969年です。その前年にテレビ『男はつらいよ』が放映されています。本作『父子草』は、その前年、1967年に公開されています。松竹作品『男はつらいよ』とは異なり、渥美清のフーテンぶりは、よりリアルに観客の心をとらえます。けっして人格者とはいえない男が、欲を消して懸命に人に尽くす姿は、渥美清が演じて真骨頂であり、世間にはあまり知られていない隠れた名品となっています。
監督:丸山誠治 出演者:渥美清(平井義太郎)、淡路恵子(竹子)、石立鉄男(西村茂)、星由里子(石川美代子)、大辻伺郎(鈴木)、浜村淳(平井の父)ほか
映画「父子草」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「父子草」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「父子草」解説
この解説記事には映画「父子草」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
父子草のネタバレあらすじ:起
大通りと電車の線路が立体交差した跨線橋の下に、1軒のおでん屋が出ています。橋脚に寄り添うかたちで屋台を開けているので、雨露をしのぐにはうってつけの場所ですが、慣れずにそこにいると踏切の警報機の音と電車の通過音が気になります。店の暖簾には「小笹」と店名が入っています。
店にはいま、酔客がひとりいます。飯台に指を軽く当て、拍子をとりながら民謡を謡い、気持ち良さそうにコップ酒を傾けています。男の名は平井義太郎(渥美清)といって、近くの飯場に寝起きする50過ぎの土工です。酒を浴びて管をまく気の荒い単細胞ですが、この映画の主役です。
そこへ弁当を小脇に抱えた若い男がやって来ます。女将の竹子(淡路恵子)とは顔なじみの浪人生、西村茂(石立鉄男)です。西村は、白米飯だけを詰めたドカ弁のフタを開けておでんを注文すると、それが夕飯らしく、勢いよく口にします。月夜にはまだすこし早い初夏の夕暮です。
馴染みの客が現れて酔いの勢いを邪魔された平井はお冠です。さらに生まれ故郷の『佐渡相川音頭』を、ふたりから「そんな歌知らない」と言われしまい、余計に腹を立てます。自分よりも年齢の若い竹子を「ばばあ」と罵り、西村を「若造」呼ばわりして絡んだあげく、平井はいとも簡単に投げ飛ばされてしまいました。
父子草のネタバレあらすじ:承
翌日は雨降りですが、平井がまたおでん屋へ来ています。夕刻、暖簾をくぐって現れた西村を見た平井はコップ酒を手に睨みつけます。西村への仕返しを魂胆に待っていた平井は、その場で喧嘩を売ると、雨のなか表へ出て行き、西村が夕飯を済ますのを待ちます。その日、平井は酒を控えて喧嘩に臨みましたが、西村の喧嘩の腕が平井の馬鹿力に勝って、またも投げ飛ばされてしまいました。
西村は、予備校へ通いながら、近くの小学校で夜警のアルバイトをしています。受験2年目の今年は、肥後の実家から仕送りがなくなったため、働きながら予備校へ通っています。雨の中で平井を投げ飛ばした日、夜警の仕事に出た西村は、ひとり暮らしの無理が祟ったのか、風邪をひいて寝込んでしまいました。
平井は、その翌日も西村が来るのをおでん屋で待っています。しかし、その日、西村は現れず、代わってガールフレンドの美代子(星由里子)が鍋を持ってやって来ます。「西村君が昨夜、雨で風邪をひいてしまって」。仕事へ行けないと、美代子が言うのを聞いて、平井は顔色を変えます。西村の使いでおでんを買い求めた美代子を見送ったあと、平井は喧嘩相手にもいろいろと都合があるらしいことに気づき始めます。
父子草のネタバレあらすじ:転
平井は、太平洋戦争後、長い間シベリアに抑留されて帰国した帰還兵のひとりです。捕虜として粗末な扱いを受け、生き延びて故郷へ戻ってみると、妻子はすでに弟の籍へ入っていました。戦後、5年を経ても帰らない平井を見限って、故郷では戦死者として葬っていたのでした。
その日を限りに平井は故郷を捨てました。戦中から戦後にかけて被った辛い日々を覆すきっかけは平井にもあったのかもしれません。しかし彼は他者へ希望を託すのを止めました。流れ者の世界へ身を投じた平井には、言うに言われぬ思いが人一倍あります。いつもは心の内に伏せているその感情が、時に他者への攻撃となって爆発してしまうのです。
平井は、女将の竹子に鍋を借りておでんを買うと、その足で西村の部屋を訪れます。平井の不意の見舞いに西村は慌てますが、まだ湯気の立つ、おでんのいい匂いに大きく頷いて素直に喜びます。平井は西村の暮らしを知り、真摯な人柄に触れて気を良くしました。平井が西村の受験生活を援助する気になったのは、そんな折でした。
父子草の結末
飯場を移動になる平井は、おでん屋の女将、竹子に西村の学資だと言って金を預け、別の土地へ発って行きました。めでたいことが起こるようにと、数字合わせをして揃えた「七万五千三百円」。大金です。汗水たらして働いて得た金を将来のある西村に投資したのです。どこへ行ってしまったのか。本当は誰かのために役立つことをしたくて仕方がなかったのです。
平井の願いは、たったひとつです。西村が希望する大学に晴れて入学すること。そのためにも、夜警の仕事をすぐに辞めて勉強一筋に専念してほしいのです。縁あって喧嘩をし、2度負けた相手。みごと大学に入学して、3度目の勝ちをもぎ取ってほしいのとの願いが学資援助に込められています。
なでしこの花の鉢植えが、おでん屋「小笹」の店先にいつも置かれていました。なでしこは別名「父子草」というのだと、平井は知りました。その花の種子を拾い集めて平井は竹子に託し、西村へ贈りました。西村は翌年の冬、みごと大学受験に合格し、なでしこの花もその時に咲かすことができました。これらは皆、平井という男との出会いに始まった奇妙な縁のおかげです。
以上、映画「父子草」のあらすじと結末でした。
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