アメリカン・ユートピアの紹介:2020年アメリカ映画。元トーキング・ヘッズのフロントマン、デヴィッド・バーンが2018年に発表したソロアルバム『アメリカン・ユートピア』を原案としたブロードウェイショーで、2019年秋に再演を予定しながらもコロナ禍で中止となった幻ののショーを巨匠スパイク・リーが監督・プロデュースを務めて映画化した作品です。バーンは11人のメンバーを率い、現代人を<ユートピア>へと誘う驚きのパフォーマンスを繰り広げていきます。
監督:スパイク・リー 出演者:デヴィッド・バーン(ヴォーカル、ギター)、ジャクリーン・アセヴェド(ドラムス)、ダニエル・フリードマン(ドラムス)、クリス・ジャルモ(ダンス、鍵盤ハーモニカ)、ティム・ケイパー(ドラムス)、テンダイ・クンバ(ダンス)、カール・マンスフィールド(キーボード)、マウロ・レフォスコ(ドラムス)、ステファン・サンフアン(ドラムス)、アンジー・スワン(ギター)、ボビー・ウーテン3世(ベース)、グスタヴォ・ディ・ダルヴァ
映画「アメリカン・ユートピア」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「アメリカン・ユートピア」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
アメリカン・ユートピアの予告編 動画
映画「アメリカン・ユートピア」解説
この解説記事には映画「アメリカン・ユートピア」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
アメリカンユートピアのネタバレあらすじ:起
多くの観客が詰めかけたステージ。壇上の観客側を除く三面には玉すだれのようなカーテンが掲げられており、中央には1人用の机と椅子がセットされていました。
このステージは伝説のバンド、トーキング・ヘッズの元メンバーであるデヴィッド・バーンが2018年に発表したソロアルバム「アメリカン・ユートピア」を再現したもの。バーンをはじめバンドメンバー、パフォーマー総勢12名は全員がグレーのスーツとグレーのシャツ、足は裸足という統一したスタイルです。
1曲目「Here」(アルバム「アメリカン・ユートピア」より)。
ステージに現れたバーンは人間の脳の模型を手にながら歌い、脳の部位によって決まっている役割を伝えていきました。曲の途中からはパフォーマー2名がステージに上がり、ダンスパフォーマンスを展開しました。パフォーマー2名は机と椅子を撤去し、バーンは引き続き脳のことについて観客たちに語りかけました。バーンは人間の脳は成長とともに衰えていくと唱え、脳的には赤ん坊が一番優れているのかもしれないとの持論を語りました。
2曲目「I Know Sometimes a Man Is Wrong」(ソロアルバム「レイ・モモ」より)。
バーンは脳の話の流れで、大人は時に色んなことを間違えるのだと歌いました。
3曲目はトーキング・ヘッズ時代のデビューアルバム「サイコ・キラー’77」から「Don’t Worry About the Government」。
「僕のことを心配しないで。僕も心配していないから」というこの曲。ステージにはタンバリンとキーボードも加わり、計5名になりました。
4曲目はバーンがゲストヴォーカルとして参加した音楽ユニット「X-Press 2」のアルバム「Muzikizum」から「Lazy」。
「僕は不埒で怠け者」と歌うこの歌。ステージにはギター、ドラム、パーカッションが加わり、計8名になりました。全員はまるでマーチングバンドかのようにメロディに合わせながら足踏みを続けました。
歌い終えたバーンは観客たちに語り掛けました。バーンは人と会うことはなかなか大変だといい、他人との付き合いには何かと気遣いをしなければならない窮屈さを投げかけ、最近ではネットのアプリでコミュニケーションをとることもあると語りました。
アメリカンユートピアのネタバレあらすじ:承
5曲目もトーキング・ヘッズ時代の曲「This Must Be the Place (Naive Melody)」(アルバム「スピーキング・イン・タングズ」より)。
ステージはもう1名増えて計9名に。歌い終えたバーンは1910年代に発生した、既成概念を破壊した芸術運動「ダダイズム」について語り始めました。そしてバーンは、ダダイズム提唱者のひとりであるドイツの芸術家クルト・シュヴィッタースが手掛けた音響詩「ウルソナタ」を披露してみせました。
6曲目もトーキング・ヘッズ時代のアルバム「フィア・オブ・ミュージック」から「I Zimbra」。
バーンはギターを手にしながら歌い、ステージにはもう3名が増えて出演するバンドメンバー・パフォーマー総勢12名全員が出揃いました。
7曲目「Slippery People」(「スピーキング・イン・タングズ」より)。
歌い終えたバーンは、トーキング・ヘッズのデビュー当時について振り返りました。バーンはレコード会社との契約金で小さなテレビを買い、テレビに映る世界は失われつつある繋がりが表現されている“ある種の窓”だと思いを巡らせたことを語りました。
8曲目はセイント・ヴィンセントとのコラボレーションアルバム「Love This Giant」より「I Should Watch TV」。
すだれ状のカーテンはまるでテレビの画面のように映りました。
9曲目「Everybody’s Coming to My House」(「アメリカン・ユートピア」より)。
バーンはこの曲は1年ほど前にデトロイトの高校の合唱部が歌ったことを話し、この曲は「みんなが僕の家に来る」という意味の歌なのに、高校生が歌ったバージョンを聞くと自分が歌うものとはニュアンスが違って聞こえたと感想を述べました。
アメリカンユートピアのネタバレあらすじ:転
10曲目はトーキング・ヘッズ時代のアルバム「リメイン・イン・ライト」より「Once in a Lifetime」。
バーンは自分は幼少期にスコットランドからアメリカに渡って帰化した移民であることを告げました。
11曲目「Glass, Concrete & Stone」(ソロアルバム「グロウン・バックワーズ」より)。
ステージはバーンとドラマー1名を残して他のメンバーは一旦カーテンの裏側に引き上げ、楽器だけをステージに出して演奏しました。
バーンは2016年のアメリカ大統領選の際、ノースカロライナ州で投票への参加を呼び掛ける活動を行なったことを振り返りました。バーンが行ったことは「私は選挙に行く」という紙に署名させることであり、署名することで自分に誓った気分になって投票へ足を運ぶように仕向けるというものでした。しかし、バーンの奮闘も空しく投票率は20%に留まり、投票した有権者の平均年齢は57歳と高いのもでした。バーンは若者の投票率の低さを嘆きつつ、地方からの改革の必要性を訴えました。
12曲目はファットボーイ・スリムとの共作曲「Toe Jam」。
バーンは「アメリカン・ユートピア」の舞台について記者からよく訊かれる質問について語りました。記者たちは口々にバンドの演奏は生ではなく録音したものを流しているのではないかと質問し、その度に嫌気が差していたというバーンはメンバー紹介を始めました。メンバーたちはそれぞれの担当楽器を即興でパフォーマンスしてみせました。
13曲目はトーキング・ヘッズ時代の「Born Under Punches (The Heat Goes On)」(「リメイン・イン・ライト」より)。
この曲でもバーンは自らのギター演奏を披露しました。
14曲目「I Dance Like This」(「アメリカン・ユートピア」より)。
この曲では全員がステージ上で寝転がっている状態から始まり、少しずつメンバーが立ち上がってのパフォーマンスを展開しました。
15曲目「Bullet」(「アメリカン・ユートピア」より)。
ワイヤレスマイクを使用しているバーンは、ステージ上で自分たちが自由にパフォーマンスできるように一切ケーブルなどの類を使用していないことを説明しました。
アメリカンユートピアの結末
舞台も終盤に差し掛かり、バーンやメンバーは立て続けに16曲目「Every Day Is a Miracle」(「アメリカン・ユートピア」より)、17曲目「Blind」(トーキング・ヘッズ時代のアルバム「ネイキッド」より)、18曲目「Burning Down the House」(「スピーキング・イン・タングズ」より)を立て続けに演奏していきました。観客たちもノリノリになり、曲に合わせて歌いました。
19曲目の「Hell You Talmbout」は黒人シンガーのジャネール・モネイの楽曲のカバー。ジャネールはこの曲で不当に命を奪われた人の名前を歌い上げており、バーンは自分のような年配の白人男が歌ってもいいかと問うてみたところ許可をもらえたことを明かしました。
バーンはプロテストソングで鎮魂歌でもあるこの曲を歌いあげました。ステージのバックには命を奪われた人々の名前と顔写真、生きた年が映し出されていきました。バーンは人間は誰もが未完成であり、失った繋がりを取り戻すためには他者との繋がりが必要だと訴えました。
20曲目はブライアン・イーノとの共作アルバム「エブリティング・ザット・ハップンス・ウィル・ハップンス・トゥデイ」から「One Fine Day」。
バーンたちはアカペラでこの曲を合唱し、ステージのすだれ状のカーテンが少しずつ上がっていきました。
21曲目にしてラストナンバーとなったのはトーキング・ヘッズ時代のアルバム「リトル・クリーチャーズ」から「Road to Nowhere」。バーンたちは演奏しながら客席に下り、会場内を練り歩いていきました。客席にはスマイルマークが描かれた黄色い大きな風船が登場し、観客たちは思い思いに風船をトスし合っていました。
舞台は大盛況のうちに幕を閉じ、メンバーはステージ裏で互いに健闘を称え合いました。観客たちは楽屋裏で出待ちし、バーンたちが自転車で会場を後にするのを拍手で見送りました。
エンドクレジット曲は「Everybody’s Coming to My House: Detroit」。バーンやメンバーたちは自転車で大都会を駆け抜けていき、スタジオへと戻っていきました。映画は最後に「ユートピアはあなたから始まる。世界中のどこにいても有権者として登録してください」と観客に呼びかけて幕を閉じます。
以上、映画「アメリカン・ユートピア」のあらすじと結末でした。
ブロードウェイで公演されていたショーを劇場上映向けに収録した作品ですが、なんとほとんどの映画館が休業したアメリカでは公開できず、配信のみでの対応となっています。これが映画館で観られるのは日本だからこそ。アメリカに横たわる問題とあるべき生き方を音楽の力でエモーショナルに、かつ理性的に描いた傑作です。