古きサナアの新しき日(原題:A New Day In Old Sana’a)の紹介。 2005年イエメン映画。カンヌ映画祭で初めて紹介されたイエメンの長編映画。結婚直前に消えた白いドレスを巡って大騒ぎとなる町、しかし意外な事実が判明する。イエメンで初の長編映画となる本作は中世の景観を現代に残すサナアの街や民族衣装も見所となっている。
監督:バドゥル・ビン・ヒルスィー
映画「古きサナアの新しき日」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「古きサナアの新しき日」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「古きサナアの新しき日」解説
この解説記事には映画「古きサナアの新しき日」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
【はじめに】
多くの人々が一生のうちで恐らく訪れることはないであろう、イエメン。非常に異国情緒を味わえる映画です。ナアの街並みや、家の中の内装、民族衣装にうっとりすること間違いありません。品の良い落ち着いた感じの伝統的な内装に、素晴らしい色使いの衣装・・・・ひたすら溜息です。
【ミステリアスな要素が詰まった恋愛映画】
主役のターリック青年は、ある衣装を身にまとって、夜中の街中で一人の若い娘が踊っているのを目撃します。その衣装はどう見ても、彼が婚約者に贈った衣装でした。公共の場で女が踊るなんて・・・はしたない、非常識にもほどがあります。
話は脱線しますが、ベリーダンスも「まとも」な家庭の娘が公共の場で踊るのは眉をひそめられる行為です。家族の前や同性の女性仲間の場で踊るのは良しとしても、プロの踊り子ではない普通の女性が公の場で腰をくねらせ踊るのはアバズレなのです。よってアラブのディスコに行くと、最近では様子は変わってきたものの、一昔前ふた昔前では男性の姿ばかりでした。
話は映画のストーリーに戻ります。謎の女性が、自分がフィアンセの女性に贈ったはずの花嫁衣裳を身にまとい、軽やかなステップで妖精のように踊っていた・・・
ターリックは憤慨するどころか、すっかりその姿に見とれてしまい、あれは本当に自分の婚約者の女性だったのか、それとも別の女性なのか気になってしまいます。そう、彼は「あの夜踊っていた女性」に恋をしてしまったのです!
「ああ、あの女性が僕のフィアンセならめでたしめでたし・・・あんな行為はどうかと思うけど、でもめでたし。でももし全然別の女性だったら?」
色々聞きまわり熱心に調べた結果、その踊っていた娘は別人でした。(ありえないのですが)婚約者の女性はターリックからその特注のドレスを贈られた時に、「私にはもっと上等なドレスが似合うわ」とそのドレスを窓から捨ててしまっていたのです。(結婚する予定の相手からもらった花嫁衣裳を、例え気に入らなくても捨てるものでしょうか?結婚自体を破棄するわけではないのに)謎の「踊る娘」はそれを拾い上げ、身にまとって踊っていたのでした。
【主役の青年とミステリアスな女性は果たして結ばれるのか?】
「踊る娘」が誰だったのかも分かり、ターリックは「僕は彼女に恋をしている、だけど三日後には婚約者と結婚しなければならない」と苦悩に苛まされます。
悶々としながらもターリックはその娘に、想いのうちを打ち明けに行きます。すると彼女も「私はずっとあなたを愛していました」と告白します。
これが西洋の国なら問題はないでしょう。青年は結婚の予定を白紙に戻し、本当に好きな女性と結ばれることができるでしょう。自分がプレゼントした花嫁衣裳をぽいっと放り投げて捨ててしまうような女性との結婚の話をなかったことにしても、誰も責めないでしょう。
しかし家族、一族、伝統、名誉、義務、風習といった様々な束縛があるアラブではそうは簡単に人生を変えられません。
ターリックの姉も「何がなんでも婚約者と結婚するのよ、一族のことも考えなさい」と強力なプレッシャーをかけてきます。
ターリックと「踊る娘」は駆け落ちを決意します。しかし果たしてそれは本当に決行されるのか・・・
【何かが惜しい!イエメン映画】
わざとらしい演出、婚約者の妹と、そのインド人の先生(先生が体罰をした、ということで母親が警察に訴え、警察も「インド人先生を・・・」と言っていたのに、その話が途中で消えました)・・・
色々と「おや?」がありましたが、それでも映像は美しく、ストーリーもありがちなのですが「最後どうなるのかな」と気になって見入りました。
一番だめだったのは「フェデリコ」役をしたイタリア人俳優。写真家で、サナアの風景や人々を撮影するためにその街に住んでおり、ターリックと仲が良いという設定。
アマチュアの俳優なんじゃないでしょうか。恐らく予算が足りず、ギャラがバカ高い、プロのヨーロッパ人俳優は雇えなかったのでしょう。それとももしくはコネがあったか・・・
イエメン人の俳優よりも「フェデリコ」の演技の下手さが目に付いていらいらします。「フェデリコ」役のイタリア人が全てを台無しにしたと思います。無駄に登場回数の多かった彼がいなければもっともといい映画になっていたでしょう。
しかし中近東のハリウッドというのはエジプトのカイロ。イエメン映画はまだまだ産声をあげたばかりの赤ちゃん状態。繊細な感性と数多い素晴らしいロケーション地を持つ国です。今後ますますレベルアップした上質な映画を作りあげていくものだと信じています。
【文化宗教的背景を知らなくても・・・】
また一度決まった結婚をなかったことにし、本人の意志でお嫁さんを選ぶ事の大変さ、女性が公共の場で踊るというびっくり仰天の行動のこと、親といった一族の思いを振り払って自分の愛する異性と駆け落ちしようとする大決心・・・
こういったことはアラブの風習、文化、宗教を知らないとピーンとくるのは難しいでしょう。よってそういった知識がないままこの映画をみると「何を大げさな」と欠伸をしてしまうかもしれません。
しかし冒頭にも述べたとおり、魅惑的な映像が続きます。オリエンタルな空気感満載なので、手軽に海外旅行疑似体験をしたい、アラブのアートを見てみたいという人にはぜひおすすめの映画です。
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