シンプル・プランの紹介:1998年アメリカ映画。スコット・スミスの同名小説を「スパイダーマン」シリーズのサム・ライミ監督が映画化したサスペンス映画です。墜落した飛行機の中から大金を手にした貧しい兄弟が事件に巻き込まれて人生を踏み外していきます。
監督:サム・ライミ 出演者:ビル・パクストン(ハンク・ミッチェル)、ブリジット・フォンダ(サラ・ミッチェル)、ビリー・ボブ・ソーントン(ジェイコブ・ミッチェル)、ブレント・ブリスコー(ルー・チェンバース)、ゲイリー・コール(ニール・バクスター/バーモン・ボコフスキー)ほか
映画「シンプル・プラン」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「シンプル・プラン」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
シンプル・プランの予告編 動画
映画「シンプル・プラン」解説
この解説記事には映画「シンプル・プラン」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
シンプル・プランのネタバレあらすじ:起
ハンク・ミッチェル(ビル・パクストン)はアメリカ北部の田舎町で飼料店の店員として働きながら身重の妻・サラ(ブリジット・フォンダ)と貧しい暮らしを送っていました。同じ町には失業中の兄・ジェイコブ(ビリー・ボブ・ソーントン)も住んでおり、大晦日に兄弟は亡き両親の墓参りに出掛けました。亡き父は「人生にとって必要なものはシンプルで、愛する妻に、まともな仕事、いい友人や隣人に恵まれること」と言い残していました。がありました。墓参りの帰り道、兄弟はジェイコブの悪友ルー(ブレント・ブリスコー)と会い、車に乗せてもらうことになりますが、その途中で三人は墜落して雪に埋もれた小型機を発見、その中からはパイロットの遺体と共に440万ドルの入った大きなドラムバッグがありました。大金に目が眩んだ三人は「雪が解けて飛行機が見つかるまで金は隠しておく」「もし誰かが金を探しているならば金は燃やす」「金はハンクが預かる」「何もなければ金を山分けして町を出る」ことを取り決めます。
シンプル・プランのネタバレあらすじ:承
三人はパトロールで通りがかったカール保安官(チェルシー・ロス)の目を逃れてうまく金を運び出します。ハンクはサラに大金の話を打ち明けると、サラも間もなく生まれてくる子供のためにも大金を欲しがるようになります。ハンクはサラの「現金が飛行機に残されていないのは不自然だから50万ドルほど戻しておいた方がいい」とのアドバイスを受け、ジェイコブと共に飛行機に向かいますが、スノーモービルで現場付近を通りがかった初老の男ドワイト(トム・キャリー)に目撃されそうになり、兄弟は衝動的にドワイトを殺害、転落事故死に見せかけます。
シンプル・プランのネタバレあらすじ:転
ジェイコブはハンクを電話で呼び出し、かつて両親が所有していた想い出の農場を買い戻したいと言い出します。その頃、サラは目にした過去の新聞記事から、440万ドルがとある富豪令嬢の誘拐事件の身代金だったことを突き止めます。令嬢は遺体で発見され、誘拐犯も殺害されていました。サラの出産間近の日、ハンクはルーから1万ドルをせびられます。ルーはジェイコブからドワイトの件を聞いており、渋るハンクを脅します。ちょうど赤ん坊を出産したサラはハンクに「自白ゲームの振りをして、ルーがドワイトを殺したという告白をこっそり録音して脅せ」と入れ知恵し、ハンクはジェイコブと共に作戦を実行しますが、逆上したルーがライフルを向けてきたことから兄弟はルーを射殺、ついでにルーの妻ナンシー(ベッキー・アン・ベイカー)も殺害、ルー夫妻が喧嘩を起こしたかのように偽装します。
シンプル・プランの結末
警察の取り調べを受けたハンクとジェイコブは正当防衛が認められ、罪に問われませんでしたが、ジェイコブは罪悪感から精神的に追いつめられていました。そんなある日、FBIの捜査官だというバクスター(ゲイリー・コール)なる男が兄弟の住む町に現れ、飛行機の行方を探し始めました。バクスターに不信感を抱いたサラは、過去の新聞記事から、バクスターが誘拐犯メンバーの兄ではないかと疑いを持ちます。サラの読み通り、バクスターの正体は誘拐犯メンバーの兄バーモン・ボコフスキーで、ハンクとジェイコブ、カール保安官とバーモンは飛行機の所まで出掛けます。バーモンはカール保安官を射殺し、ハンクに飛行機内の金を取ってくるよう脅されますが、ハンクはバーモンを射殺、バーモンとカール保安官が撃ち合って相討ちになったように偽装します。しかし、もはや精神的に耐えられなくなったジェイコブは「あんな金さえ見つけなきゃよかった」と言い残して自ら命を絶ちます。ハンクは、外国への逃亡を提案するサラを振り払い、札束全てを家の暖炉で燃やしました。ハンクは今でも農場を見るたびに「あの金さえなかったら」と時折思いが込み上げていました。
以上、映画「シンプル・プラン」のあらすじと結末でした。
「シンプル・プラン」感想・レビュー
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雪降り積もる田舎町で偶然犯罪がらみと思われる400万ドルもの大金を発見した3人の男たち。
探している人がいるのかどうか明らかになるまで、暫くの間、保管して、なにもなければ山分けして町を出ようという「簡単な計画」のはずだったが、それは死体が次々と転がる惨事の幕開けとなるのだった———–。この映画「シンプル・プラン」は、天性のストーリーテラーと絶賛されてベストセラーとなったスコット・スミスの原作を、著者自らが脚色したクライム・スリラーですね。
監督は、マカロニウエスタン風の「クイック&デッド」以来3年ぶりの新作となるサム・ライミ。次第に人生を狂わせていく主人公を演じるのはビル・パクストン、その妻をブリジッド・フォンダ、頭の回転がノロいが悪意のない兄をビリー・ボブ・ソーントンが演じている。
後味は悪い。とても意地の悪い幕切れなので、好き嫌いは分かれるでしょう。でもこの映画には大興奮させられましたね。
あのサム・ライミ監督が、こんな映画を撮れるんだ! という驚きもあるけれど、掛け値なしに一級品の傑作であると思います。「雪に閉ざされた田舎町」、「狂う計画」、「意味のない殺人、転がる死体」、「やりきれない幕切れ」という物語の鍵を並べていくと、コーエン兄弟の傑作、「ファーゴ」との類似性に気付かされます。
そう言えば、サム・ライミとコーエン兄弟といえば、かつて、サム・ライミが監督した「XYZマーダーズ」の脚本がコーエン兄弟、という縁があったんですね。
しかし、類似性は表面的なものだけで、映画としては全く異なるテイストのものになっている。
なにせ、コーエン兄弟の「ファーゴ」は、あのように相当「えぐい」内容を描いていても、終始、客観的で冷徹な視点が保たれていて、洗練されたブラック・コメディの趣すらあったのに対して、この作品は、当事者意識に基づく濃密な心理劇になっているんですね。濃密な心理劇?ライミが?いや、誰もがびっくりするに違いありまん。
だいたい、ライミといえば、極端なアングルだったり、豪快な主観カメラによる撮影など、個性的で無茶苦茶なスタイルがトレードマークのようなもので、そうした技巧による特徴的なヴィジュアルによって「目で見せる」タイプの作家だという思い込みがありますからね。しかし、この作品でのサム・ライミ監督の演出は、ひと味もふた味も違う。
じっくりと腰を据えて、容赦なく、登場人物の脂っこく生々しいところ、人間の「生態」と言うべきものを炙り出していく異様なまでの迫力。
例えていうなら、曲者ビリー・ボブ・ソーントンの脂汗の匂いや、ブリジッド・フォンダの胸のうちに秘めた語られざる不満や欲望。
そういった眼に見えないものまで、フィルムに焼き付いているのではないかというような。究極の選択を迫られた登場人物たちの心理に深く踏み込んでいき、その息苦しいまでの心理状態を観る者に体験させんとする「大人のライミ」。
ここぞという瞬間まで、自らのトレードマークを封印し、技巧に走らず、役者の演技でドラマを語ってみせるんですね。
予期せぬアクシデントによる最悪の展開も充分にあり得るのが世の常である。田舎暮らしの純朴な人々を何の取柄もない凡夫として冷徹に描き切るこの映画の残酷さが誠に痛々しい。少々ひねくれた見方かもしれないがこれは米国沿岸部の富める者が内陸部の貧しい民を見下しているようにさえ思えるのだ。欝欝として胃が重くなる重圧に耐えながらこの映画を見た。人間の心理、とりわけ負の精神的メカニズムに精通しているので余計に辛かった。私は或る意味サム・ライミ監督の作戦にまんまと引っ掛かった理想の上客なのかも知れない。主人公の兄を演じたビリー・ボブ・ソーントンが屈折した孤独な男の悲哀を見事に表現している。彼(主人公の兄として)の生い立ちと青年期の挫折がその後の人生に色濃く反映し人格の多重性やストイックで悲観論者という負の価値観を形成したのである。映画としての出来不出来や評価には色々と注文がつくだろう。不快で救いようがない展開の映画だが、人間の負の側面が増幅されると思わぬ悲劇を招くという一点に絞り私は敢えてこの映画を激賞したい。イソップ物語やハーディの短編小説に共通する皮肉と宿命と悲劇がこの映画にはたっぷりと込められている。繰り返し見たくない映画であると同時に個人的には大変貴重な作品でもあるので誠に複雑な心境なのである。