ミクロの決死圏の紹介:1966年アメリカ映画。東西冷戦時代を舞台に、物質を細菌サイズまでに小型・縮小化できる技術を使い、医師や科学者らで編成された特別チームが病に倒れた人物の治療に向かう姿をファンタジックに描いたSFアドベンチャー作品です。
監督:リチャード・フライシャー 出演者:スティーヴン・ボイド(チャールズ・グラント)、ラクエル・ウェルチ(コーラ・ピーターソン)、エドモンド・オブライエン(カーター将軍)、ドナルド・プレザンス(マイケルズ博士)、アーサー・オコンネル(ドナルド・リード)、ウィリアム・レッドフィールド(ビル・オーウェンス)、アーサー・ケネディ(デュヴァル博士)、ジーン・デル・ヴァル(ヤン・ベネシュ博士)ほか
映画「ミクロの決死圏」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ミクロの決死圏」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「ミクロの決死圏」解説
この解説記事には映画「ミクロの決死圏」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ミクロの決死圏のネタバレあらすじ:起
東西冷戦の時代。アメリカの空港に1機の航空機が着陸しました。中から降りてきたのは、アメリカへの亡命を申請したチェコの科学者ヤン・ベネシュ博士(ジーン・デル・ヴァル)です。ベネシュ博士は物体を細菌大に縮小・小型化することが出来る画期的な発明を成し遂げた人物であり、軍の関係者は厳重な警備のもとで出迎えました。ところが、ベネシュ博士は密かに潜り込んでいた敵側のスパイに襲われ、外傷性の脳挫傷を起こして倒れてしまい軍の施設に緊急搬送されました。軍の上層部は早速ベネシュ博士の技術を使い、潜航艇『プロテウス号』を縮小化してベネシュ博士の体内に送り込み治療するという前代未聞のプロジェクトを発案しました。しかし、ベネシュ博士の技術はまだ未完成で、縮小化できるのはわずか60分間しかなく、タイムリミットまでに治療を完遂せねばなりませんでした。
ミクロの決死圏のネタバレあらすじ:承
軍の上層部は早速精鋭チームを編成、60分間の間にベネシュ博士の脳内に縮小化したプロテウス号とチームを送り込んでレーザー光線による治療を行うという計画を立てました。
チームに選ばれたのは艦長兼操縦手のビル・オーウェンス海軍大佐(ウィリアム・レッドフィールド)、アメリカきっての優秀な脳外科医デュヴァル博士(アーサー・ケネディ)とその助手コーラ・ピーターソン(ラクエル・ウェルチ)、循環器の専門医マイケルズ博士(ドナルド・プリーゼンス)、そして特命を受けたCIA特別情報部員チャールズ・グラント(スティーブン・ボイド)の5人です。軍の上層部はプロジェクトチームの中に敵側のスパイが潜入している可能性を示唆しており、グラントはスパイを見つけるためのチーム監視の任務も課せられていました。医療活動の指揮を執るマイケルズ博士はデュヴァルこそがスパイであると信じて疑わず、その情報はグラントにも伝えられていました。
ミクロの決死圏のネタバレあらすじ:転
チーム5人を乗せたプロテウス号は段階を経て徐々に縮小していき、頸動脈ねの注射を通じてベネシュ博士の体内に潜入していきました。プロテウス号の居場所は発進装置によりリアルタイムで外部から確認することができ、チームは無線で外部と連絡を取りながら血管内を進んでいきました。5人の目の前に広がるのはまさに未知の世界、大量の赤血球が血管内を絶えず流れていました。順調に航行していたプロテウス号でしたが、血管の内皮壁には微細な割れ目が発見され、プロテウス号の行く手を阻みました。やがてプロテウス号は渦巻に巻き込まれ、動脈瘤の裂け目から頸動脈になだれ込んでしまいました。このままでは作戦続行は不可能、外部チームはベネシュ博士の心臓を約60秒間止めることでプロテウス号はようやく窮地を脱しました。ところが、万全に準備していたはずのレーザーガンの部品の取り付けが緩かったことから一部損傷しており、チームは内部にスパイがいることを確信しました。
ミクロの決死圏の結末
プロテウス号はリンパ節内に入りましたが、今度は海草のような網状ファイバーに絡まれてしまい、破損したレーザーガンの部品は通信機器で代用することにしてデュヴァル博士が応急処置を行いました。幾度かメンバーが体内組織に飲み込まれそうになるなどの危機を乗り越え、ようやくプロテウス号が目的地の脳内の患部に到着した頃には残り時間はわずか6分しかありませんでした。グラントらは必死でレーザー光線を患部に当て、治療は無事完了しました。ところが突如プロテウス号は破壊され、外部との交信も途絶えてしまいました。敵側のスパイは実はマイケルズ博士であり、4人を見捨てて逃げようとしましたが失敗、白血球に飲み込まれて命を落としました。残った4人は必死で脱出方法を探ったところ、一筋の光が差し込んできました。それはベネシュ博士の眼球から眼神経を伝ってきたものでした。4人は涙腺に刺激を与えて涙を誘発、決死の思いで涙腺に向かい、タイムリミットまであと数秒のところで見事に脱出に成功しました。4人はすぐさま元の大きさに戻り、チームは作戦の成功を喜び合いました。
「ミクロの決死圏」感想・レビュー
-
イマジネイションの限りを尽くした、壮大な作品人間や潜航艇をミクロ化して人間の体内に送り込む。想像を超えるミッション。しかしまだ未完成、60分しかミクロ化できない。時間との闘い、スリルとサスペンス、ミッションは成功できるのか、ハラハラ・ドキドキ、見ごたえ十分。ちなみに黒澤明はこの映画が嫌いとのことです。
-
東西冷戦時代に、その両陣営で研究を競う、物質ミクロ化技術の秘密を握るチェコの科学者が、鉄のカーテンから亡命するが、途中で撃たれ、脳に重傷を負ってしまう。
そこで、西側陣営の軍部は、治療のために情報部員や医師たちを、原子力潜水艇プロテウスに乗り込ませ、この潜航艇ごとミクロ化し、血管注射で科学者の体内へ送り込むことに——-。
この映画「ミクロの決死圏」の監督は、1950年代から1980年代までの長きに渡り、ディズニー製作の傑作SF「海底二万哩」、実験的な映像表現を試みた「絞殺魔」、戦争大作「トラ・トラ・トラ!」のアメリカ側監督、南部の人種差別を描いた問題作「マンディンゴ」など多種多様な作品を発表した、稀代の職人監督・リチャード・フライシャー。
この映画のミクロ化した人間が、人体に潜入し治療を行なうというアイディアは、我が日本の手塚治虫の漫画作品「吸血魔団」をベースにしていると思われますが、タイム・リミットを生かしたサスペンスやスパイとの攻防戦など、手に汗握る展開も見事ですが、何より素晴らしいのは、L・B・アボットによる特殊効果ですね。
「眼下の敵」での海上砲撃戦から、「タワーリング・インフェルノ」の高層ビル火災まで、ミニチュア模型や光学合成を駆使したL・B・アボットの特殊撮影は、現在の水準から見れば、ローテクニックではあるものの、その豊かなイマジネーションは普遍性があり、実に見事な出来栄えだと思います。
とにかく、一時間たつと縮小効果が薄れ、元のサイズに戻ってしまうという、緊迫したスリリングな状況の中、心臓を通過したりとか、異物排除のために白血球が襲い掛かり、心拍の衝撃で潜水艇が大揺れしたりする、体内のスペクタクル・シークエンスは、ほとんど前衛的とも思える程の強烈な美術イメージに貫かれていて、見事としか言いようがありません。
そして、クルーの一人が敵のスパイで、妨害工作をするなどのエピソードも盛り込まれ、観ていて全く飽きさせませんね。
美術監督のデール・ヘネシーによる白血球や血管、巨大な模型で作られた心臓などのセットも実によく出来ていて、非常に印象的でした。
そして、何と言ってもラクウェル・ウェルチの身体にぴったりあったウェット・スーツ姿は、私を含めた男性映画ファンを大いに喜ばせてくれたと思います。
なお、この映画は1966年度の第39回アカデミー賞の美術監督賞・装置賞(カラー)と特殊視覚効果賞を受賞していますね。
人体という驚異の宇宙を知りました。宇宙と言えば広大な世界に直結しますが、我々の体内も驚愕の世界で構成されているのです。特に肺の中で赤血球が二酸化炭素を排出して新たに酸素を吸収する際の色の変化が今も色濃く記憶に残っているのです。驚異的な発明に関わった亡命した科学者が襲撃されて脳に深手を負い意識不明となる。脳の最深部であるため通常の手術は不可能。その彼を救うために優秀な外科医をリーダーとした救護班が組織されて、縮小技術を使って特殊潜航艇で科学者の体内へ。思い切った発想でした。つい先日、約半世紀ぶりに一般公開された「太陽の塔」の内部を見学した際に目にした光景と重なりました。公開は映画の方が先でしたので、日本の高度経済成長の神話となった万国博のテーマも、本作によって大きな影響を受けたことは間違いないと思いました。動脈を通って脳へ行きつき、レーザー光線で血栓を取り除き、この縮小技術の鍵となる科学者を救うというテーマですが、様々な棒外工作と予想外のトラブルで人類初の体内旅行は多難なものとなりました。まさに「幻想的な旅路」となったのです。救出チームが勇気と知恵と行動力で任務を遂行させたことに感動しましたが、特殊潜航艇が裏切り者の手によって脳の神経が刺激されて白血球により捕食される姿は衝撃的でした。潜航艇(動力は原子力!)や人間が体内の免疫を司る要素により攻撃されるとう悪夢はそれからしばらくの間私を呪縛して苦しめました。脳からの脱出が時間切れとなった際にはもう駄目だと思ったのですが、視神経を通り抜けて眼球に到達して脱出に成功というオチは素晴らしかった。医学の監修の力によるものでしょうか。現実となれば潜航艇の消化に時間がかかるでしょうから、脳が元の大きさに戻ろうとする潜航艇によって裂かれるという悪夢の描写がまっているはずですが、ともかく大団円でした。本作が制作された頃は東西冷戦の只中であり、物質の自在な拡大・縮小技術を利用して密かに軍隊を敵陣に大量に送り込み、戦争を有利に起こそうとする暗い目論見に利用したい、ということが根底にありました。その技術のキーマンが重体となる皮肉も込められていたのですね。CG技術が無かった当時では、革新的な画像の連続でした。もし本作のリメイクがあるなら、様々な点で変更が行われるでしょう。できれば中年男性の体内ではなく、妙齢の婦人に置き換えてもらいたいですね。黒人俳優も器用されるでしょうし。半世紀の技術差をこの目で見てみたいのです。これからは蛇足となりますが、故・手塚治虫氏の作品に『38度線上の怪物』という作品があります。朝鮮戦争とは関係無く、ほぼ同じテーマで描かれた作品として知られていますので興味のある方は御覧になって下さい。手塚氏の先見性に驚かれることと思いますので。