ジェイムズ聖地(エルサレム)へ行くの紹介:2003年イスラエル映画。純朴なズールー族青年の聖地エルサレムへの旅と試練を描くヒューマンドラマ。アフリカの資本主義社会と村との異文化の壁や、搾取する側される側といった重いテーマも持ちつつ、ユーモアや皮肉もたっぷりと味わえる作品。
監督:ラアナン・アレクサンドロヴィッチ 出演:シアボンガ・シブ、サリム・ダウ、アリー・エリアス、サンドラ・ショーンワルド
映画「ジェイムズ聖地(エルサレム)へ行く」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ジェイムズ聖地(エルサレム)へ行く」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
ジェイムズ聖地(エルサレム)へ行くの予告編 動画
映画「ジェイムズ聖地(エルサレム)へ行く」解説
この解説記事には映画「ジェイムズ聖地(エルサレム)へ行く」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
【はじめに】
ブラック・アメリカンの友人(女性)が一人でイスラエル旅行に行った時に、「最低の国だった、人はみんな不親切で横柄だった」と激怒していました。日本人の私はイスラエルに行って、親切にされたことしかなかったので「おや?」」と首を傾げました。その後、他の黒人の友人もみんな口を揃えて「あの国は最悪だった」と不平を言うのを耳にし、「もしかしてイスラエル人は黒人には冷たいのではないだろうか」と流石に気付きました。この映画のテーマも、ベースにイスラエル人の黒人(アフリカ人)蔑視があります。
【アフリカ出身の牧師になりたい青年】
ジェームズはアフリカのある田舎村(実在しない村)出身の牧師の卵。エルサレムへの巡礼の旅のためにイスラエルにやってきました。しかし入国審査で手違いが起こり、不法入国者とみなされてしまい、逮捕されます。普通ならここで強制送還となるのでしょうが、どこの国でもなんでも裏のルートというものがある!?外国人たちを不法で労働させているあるイスラエル人の中年男が、新たに働き手を探しに刑務所にやってきます。そして保釈金を払いジェームズを釈放させます。その後、パスポートを取り上げ、安い賃金で労働をさせます。
【深刻で暗い映画だと思いきや!?】
哀れなジェームスの奴隷生活が始まるかとドキドキしますが実はコメディ要素満載の映画。少しも根暗でどんよりした展開にはならず、あくまでも明るく楽しい店舗でストーリーは進行していきます。天真爛漫で常に前向きで神の存在を心底信じ切っているジェームスは、周囲の人々を呆れさせ驚かせ、そしてどんどん愛されていくようになるのですがその描き方が愉快で思わずクスッ。ジェームスを強制労働させようと企んでいた中年男まで、彼の純粋さに感銘を受け全面的に信用するようになります。掃除業の仕事から、年老いた自分の父親のお世話など任すようになります。年老いた父親は、最初はジェームズに冷たく接するのですが次第に心を開いていきます。しかし彼の馬鹿正直さを心配し、くれぐれも気をつけなさい、とアドバイスをしてくれます。ところがジェームスはそれについて間違ったとらえ方をしてしまい、ずる賢く生きなければならないというように思い込んでしまいます。
【知らずと悪に染まっていくジェームズ!】
ジェームズは雇用者に黙って、裏で秘密の仕事をするようになります。仕事がたくさん舞い込むようになると同時に、ジェームズには今まで手にしたことのないような大金が入ってきます。お金を得れば得るほど、彼はスレていきます・・・エルサレムに巡礼に行くことは長年の夢だったのに、雇用者の中年男も「行ってもいい」と許可してくれたのに、ジェームズは目先の稼ぎを選んでしまう・・・あれほど夢見たエルサレム訪問よりも、目の前にぶらさがっているお金・・・アルバイトの方を選びます。エルサレムに行く時間があるなら、アルバイトして稼ごう!と内密の仕事をこそこそ。それまでは一切嘘をついたことがなかったのに、いつしか平然と言い訳や虚言を並べるようになり、イスラエル人たちには媚を売り、労働者の外国人たちには横柄な態度をとるようになって・・・ジョージ・オーウェルのAnimal Farm動物農場のお話にそっくりです。人間の横暴さに嫌気を指し、自由や平等を求め豚が動物のリーダーとなり、革命を起こし人間を追放する・・・動物たちはこれで幸せになったはずなのに、結局は豚が人間の代わりとなり動物たちをこき使い自分たちだけが儲けを独占するようになった・・・
【聖地エルサレムには果たして行けたのか!?】
最後、強制送還されることになったジェームズは護送車の窓からエルレサムの街を見ます・・・巡礼という形でエルサレムの街を訪れるはずだったのに、道を誤ったしまった彼は自分の足でエルサレムの土地を踏むことはなくなってしまった・・・手錠をされたまま罪びとの姿で、遠くからかつての憧れの聖地エルサレムを眺めることしかできなかった・・・
一度神を疑ったがために、「約束の土地」に実際に入れなかったモーゼの話と同じです。
【実際にイスラエルが凄い!大都会!】
田舎でのびのび純粋に育った若者が大都会に出て悪い方に染まってしまった・・・よくある話ですが、この映画ではそれを皮肉とユーモアたっぷりに描いています。イスラエル人監督がイスラエル人の悪い面をシビアに描いているのもなかなか面白いです。
この映画から学べることは、環境が大きく変わりお金を持ち悪い誘惑が多くなると、それに流されないで信念と純真さを保つのは難しい、ということ。そしてイスラエルでも人種差別があり、イスラエル人は掃除が嫌いで人にさせたがるということ!
ちなみにイスラエルは本当に大都会です。エジプトから陸路で入るとよく分かるのですが、同じ砂漠という土地条件でありながら、豊かな財力とユダヤ人の頭脳があるせいか、そこはまるでスイス。緑豊かで鼻が咲き誇りとても美しいヨーロッパの風景のようです。一歩踏み入れただけでエジプト側とはがらりと雰囲気が変わります。
首都のテルアビブはまるでマンハッタン。近代的なビルが立ち並びネオンが煌びやかでお洒落な若者たちばかり。日本の都心部で育った人間でもびっくりさせられるほどの大都会です。それがましてやアフリカのど田舎の牧師希望のジェームズがどれだけテルアビブに驚いたことか・・・
この映画はとてもシニカルな内容なのだけど、軽快なテンポで描き深刻にならないで楽しんで鑑賞できます。主題歌のゴスペルもすごくリズミカル。
資本主義とは一体・・・ということを考えさせられ、心がきれいな若者がスレていく過程をドキドキハラハラしながら見ていけるだけでなく、気軽に経済について学べる映画でもあります。
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