ラッキーの紹介:2017年アメリカ映画。『パリ、テキサス』などをはじめ、生涯に渡って100本を超える作品に出演してきた名優ハリー・ディーン・スタントンの遺作となった作品です。砂漠の町で一人暮らしをしている90歳の気難しい現実主義者の老人が町の人々と交流するうちに、やがて訪れる「死」について考えるようになっていく姿を描いています。
監督:ジョン・キャロル・リンチ 出演者:ハリー・ディーン・スタントン(ラッキー)、デヴィッド・リンチ(ハワード)、ロン・リビングストン(ボビー・ローレンス)、トム・スケリット(フレッド)、べス・グラント(エレイン)、ジェイムズ・ダレン(ポーリー)、バリー・シャバカ・ヘンリー(ジョー)ほか
映画「ラッキー」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ラッキー」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
ラッキーの予告編 動画
映画「ラッキー」解説
この解説記事には映画「ラッキー」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ラッキーのネタバレあらすじ:起
90歳になる老人ラッキー(ハリー・ディーン・スタントン)は、アメリカ・アリゾナの砂漠地帯にある田舎町のアパートで一人暮らしをしています。ラッキーには妻も子もおらず、毎日目覚めるとコーヒーを淹れ、タバコをふかし、ヨガをきめてから行きつけのダイナーでいつものミルクたっぷりのコーヒーを飲み、店主のジョー(バリー・シャバカ・ヘンリー)や常連客と他愛ない話に明け暮れ、夜になると女店主のエレイン(べス・グラント)が営むバーでいつものカクテルを飲み、エレインの恋人ポーリー(ジェイムズ・ダレン)ら常連客と語り合う日々を過ごしていました。ある日、ラッキーの友人ハワード(デヴィッド・リンチ)がバーに現れ、飼っていた年齢100歳になるリクガメ“ルーズベルト大統領”が逃げ出してしまったとのことですっかり気を落としていました。
ラッキーのネタバレあらすじ:承
翌朝、ラッキーは自宅でいつものようにコーヒーを淹れていたところ、突然体調を崩してしまい、念のため病院で診察を受けることになりました。診察の結果は身体には異常はなく、単に加齢からくるものでしたが、その日を境にラッキーはいずれ訪れる「死」について意識するようになっていきました。ラッキーの脳裏には、暗闇を恐れていた少年時代の自分が浮かび上がっていました。ラッキーはいつものようにエレインのバーに向かうと、ハワードは弁護士と終活について話し合いをしていました。ラッキー同様に独り身のハワードは、何と未だに行方不明中のカメの“ルーズベルト”に遺産を相続させようと本気で考えているのです。弁護士から孤独ではないのかと問われたラッキーはこう答えました。「孤独と一人暮らしは同じではない。人はみな生まれるときも死ぬときも一人だ。独り(alone)の語源は一人(all one)だ」ラッキーは弁護士を詐欺師呼ばわりし、止めに入ったポーリーと共に歩いていると、そこには「EXIT」と書かれた扉がありました。前に進もうとしたその時、ラッキーは夢から目覚めました。
ラッキーのネタバレあらすじ:転
ラッキーの行きつけのダイナーのウェイトレスであるロレッタ(イヴォンヌ・ハフ)がラッキーを心配して自宅を訪れ、ラッキーはそこで初めて自らの心境を打ち明けました。その後、ラッキーは立て続けに終活に直面している旧友のボビー(ロン・リビングストン)や元海兵隊員のフレッド(トム・スケリット)と再会しました。ボビーは以前に交通事故に遭いそうになり、死の恐怖に直面したことを固い、フレッドは太平洋戦争時代に沖縄で見た日本人少女の美しい笑顔が忘れられないのだと打ち明け、死に直面して悟りを開いたのだと解釈しました。その後、ラッキーは行きつけのコンビニ店主ビビ(ベルティラ・ダマス)の息子の誕生日パーティーに招かれ、ビビがスペイン系であることからスペイン語の歌を歌ってその場を大いに和ませました。
ラッキーの結末
ラッキーはいつものようにエレインのバーで飲んでいるとハワードが現れ、結局“ルーズベルト”の捜索を打ち切ったことを伝えました。縁があればまた会えると明るく振舞うハワードに、ラッキーは穏やかな眼差しを向けました。ラッキーがタバコに火をつけようとすると、エレインが以前ラッキーが禁煙ルールを破って出入り禁止となったある店を引き合いに出して怒ってきました。無神論者であるラッキーは達観したかのように「俺は真実にこだわる。いつか人間もタバコも何もかも真っ暗な空へ行き、無だけになるのさ」と語り出しました「無ならどうする」との客らの問いに、ラッキーは「微笑むのさ」と答えました。ラッキーはこの日もいつものようにタバコをふかしながら砂漠の町を歩いていきました。ラッキーが立ち去った後、行方不明になっていた“ルーズベルト”がひょこっと姿を現しました。
「ラッキー」、ハリウッドの福本清三(斬られ役)、名脇役ハリー・ディーン・スタントン爺ちゃんの、ほぼ唯一といえる主役作品。「パリ、テキサス」「エイリアン」は残念ながら観ておらず、「ツイン・ピークス」や「ストレイト・ストーリー」に出ていたと聞き、どっちのお爺ちゃん?ああ弟が延々トラクターで会いに行く病気の兄の方ね、と興味が沸いて観に出かけた。
サボテンに囲まれた田舎町での変わりばえしない日々。今日もお爺ちゃんは朝起きると体操し、ダイナーのカウンターでコーヒーを飲み、メキシコ系女性の雑貨店で煙草を買い、日が暮れると飲み屋に立ち寄り、常連(デヴィッド・リンチも友情出演)のたわいもない話をニヒルに受け流す。そんな頑固なマイペース爺ちゃんだけれど、スパイスの効いた何気ないひと事、ふとした瞬間のはにかんだ表情。何故だか目が釘付けになり、心が糸のように解きほぐされる90分。現実、事実。人によって見方は全然違う。権力、地位。いずれはみな無に還る。ただ歌え、笑え。カウボーイ、ミーツ、禅。
自身の人生(南方や沖縄での戦争体験含む)を投影したかのような、しみじみと味わい深い佳作。全米公開直前に91歳でお亡くなりになった、ハリー爺ちゃんに献杯。、