女相続人の紹介:1949年アメリカ映画。容貌の映えないオールドミスが男性に裏切られ、残酷な性格に変わってゆく様子をリアリスティックに描いたドラマ。正確無比な画面構成はワイラー監督ならではのもの。オリヴィア・デ・ハヴィランドがアカデミー主演女優賞を受賞。
監督:ウィリアム・ワイラー 出演:オリヴィア・デ・ハヴィランド(キャサリン)、モンゴメリー・クリフト(モーリス)、ラルフ・リチャードソン、モナ・フリーマン、ミリアム・ホプキンス、ほか
映画「女相続人」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「女相続人」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「女相続人」解説
この解説記事には映画「女相続人」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
女相続人のネタバレあらすじ:1
容貌が映えず、引っ込み思案の性格のキャサリンは裕福な医師スローパーの娘。ニューヨークのワシントン街にある邸宅に住み、生活には不自由がないのですが、男性にはまるで縁がありません。ある日、彼女は従姉妹の婚約パーティに父や叔母と一緒に出席。華やかなダンスの様子を脇のテーブルに座りながら憧れの目で見ていました。誰も彼女を誘う者がいないと思えたのですが、モーリス・タウンゼンドという眉目秀麗な若者が彼女の前に立ちます。そしてダンスを一緒にという申し込み。戸惑いながらダンスを踊り、話をするキャサリン。初めて接した男性に、心も舞い上がります。
女相続人のネタバレあらすじ:2
モーリスはその後スローパー邸にも姿を見せるようになり、キャサリンは完全に彼の虜となりました。しかし、父親のスローパー医師はその様子を冷ややかに見つめます。もともと実の父親でありながら、彼はキャサリンに冷淡に接していました。華やかだった亡妻と比べてしまい、その容貌性格のすべてが厭わしいと思えたのです。モーリスは職もなく、恒産もない青年。スローパーの目にはその目的がこちらの財産としか思えません。モーリスが娘に求婚したと知った彼は彼女の気持を冷ますために一家でヨーロッパ旅行へ。しかし半年後にニューヨークへ戻っても娘の気持ちは揺らぎませんでした。スローパーは「モーリスの目的は金だ」と告げ、もし無理矢理結婚するなら相続権を放棄してもらうと宣言します。モーリスの愛を信じるキャサリンは、その事を彼に報告。無一文でも構わないから結婚をと望みます。そして2人は駆け落ちの約束を交わすのですが、約束の日時になってもモーリスは現れません。彼らの同情者である叔母に「相続権放棄のことを彼に話した」と言うと、「なんでそんな事を言ったの」と呆れられます。
女相続人の結末
結局モーリスからの連絡もなく、キャサリンは恨みと諦めを抱えて、また以前の生活に戻ります。やがてスローパー医師が死去。その財産と邸宅はキャサリンが相続します。それから5年後、モーリスが再び現れます。かつての非を詫び、またやり直したいと懇願する彼に、キャサリンは優しく接します。そして「夜にまた会いましょう」と約束。しかし再び邸宅の戸口に立ったモーリスを彼女は完全に無視。絶対に彼を家に入れようとはしません。かつての仕打ちの復讐でした。その冷淡な性格はもう治しようもなかったのです。
この映画「女相続人」を撮ったウィリアム・ワイラー監督は、ほとんど駄作というものがないハリウッドを代表する巨匠だ。
「ベン・ハー」のような古代スペクタクル、「大いなる西部」のような西部劇、あるいは「必死の逃亡者」のようなサスペンスもの、更には「ローマの休日」のようなロマンティックなドラマというように、幅広いジャンルを練達の技術で、全て映画的な面白さのたっぷりつまった、完璧な”ウエル・メイド・シネマ”にしてみせるのだ。
それから、「友情ある説得」や「噂の二人」や「L・B・ジョーンズの解放」などの作品では、ハリウッド・ヒューマニズムの枠の中ではあるが、なかなか芯の通った平和主義者、進歩派としての一面も見せていて、たんなる技巧家以上の主体性も感じられる。
しかし、芸術家としてのウィリアム・ワイラー監督の本当に他の追随を許さぬところは、もっと地味な、渋い、人間の性格と心理をていねいに掘り下げて、がっちりとした写実の世界を築き上げる、一連の”室内劇的な作品”にあると思う。
「孔雀婦人」「偽りの花園」「探偵物語」などの作品がそれであり、これらの作品では、登場人物たちとその環境、人物同士の関係、その性格が巻き起こす悲劇—-などが、まことに一分の隙もない入念な作劇術で構築されていて、俳優たちの見せ場も十分にあり、心ゆくまでお芝居の愉しみを堪能させられるのだ。
そして、この映画「女相続人」もそうした作品のひとつであり、実にうまい映画だと思う。
19世紀半ばのニューヨークの上流社会の話で、オリヴィア・デ・ハヴィランドが演じるキャスリンは、医者で大金持ちのスローバー博士(ラルフ・リチャードソン)の一人娘。
しかし、美しくもなく社交性もない彼女に言い寄る青年もいない。そんな彼女に、フランス帰りのハンサムな青年モーリス(モンゴメリー・クリフト)が、初めて会うなりせっせと甘い言葉をかける。
彼女は夢中になり、彼の結婚の申し込みを受け入れるが、父のスローバー博士は、モーリスが財産目当てであることを見抜いて許さない。
そして、お前は財産があるという以外には魅力のない女だと、残酷な真実を言って聞かせる。
キャスリンは、父が亡き母の魅力と較べて自分を軽蔑しているのだと考え、父を憎み、モーリスと駆け落ちしようとするが、案の定、彼は彼女が父の遺産を拒否するつもりだと言うと、彼女を捨てて去ってしまうのだ—-。
それから、数年後、父が死んで莫大な遺産を相続したが、キャスリンは、かたくなな性格になってひっそりと暮らしていたが、そんな彼女のところへ、尾羽うち枯らしたモーリスが、また訪ねてくる。
そして、あつかましくも、もう一度結婚を申し込むのだ。彼女はいったんそれを承諾したような態度をとって、彼に結婚の仕度をしてくるようにと言う。
そして彼が再びやって来た時、彼女は門を閉ざして無言で閉め出しをくわせるのだ—-。
オリヴィア・デ・ハヴィランド、モンゴメリー・クリフト、ラルフ・リチャードソンの三人の演技派による、隙なくぴったりと息の合った好演で、がっちり組み立てられたお芝居の醍醐味を堪能出来る映画だと思う。
尚、この映画の演技で主演のオリヴィア・デ・ハヴィランドは絶賛され、1949年度の第22回アカデミー賞、及びゴールデン・グローブ賞、ニューヨーク映画批評家協会賞の最優秀主演女優賞をそれぞれ獲得しています。