まあだだよの紹介:1993年日本映画。日本映画界の巨匠・黒澤明の監督生活50周年・第30作目にして遺作となった作品です。大正から昭和にかけて活動した小説家・随筆家の内田百間と、その弟子たちとの交流を描いています。
監督:黒澤明 出演者:松村達雄(内田百間)、香川京子(内田の妻)、井川比佐志(高山)、所ジョージ(甘木)、寺尾聰(沢村)ほか
映画「まあだだよ」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「まあだだよ」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「まあだだよ」解説
この解説記事には映画「まあだだよ」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
まあだだよのネタバレあらすじ:起
1943年、法政大学で教鞭を取りながら作家活動をしていた内田百間(松村達雄)は、生徒(吉岡秀隆など)を前に大学を辞めて文筆業に専念すると告げます。内田は生徒による「仰げば尊し」の合唱に見送られて大学を去ります。その後、内田はかつての門下生の助けを得て下町の一軒家に引っ越します。内田の下には彼を慕う多くの門下生が訪れて宴会が催され、鍋を囲んでは酒を酌み交わし、楽しいひと時を過ごしていました。しかし、時代は太平洋戦争の真っ最中、内田は東京大空襲で我が家を失い、妻(香川京子)と共に貧しい小屋での生活を余儀なくされます。
まあだだよのネタバレあらすじ:承
やがて戦争が終わり、かつての門下生(所ジョージ、井川比佐志、寺尾聰など)の支援を受け、内田夫妻はようやく小さいながらも新居を得ます。終戦の翌年の1946年、門下生たちは内田の長寿を祈って「第1回摩阿陀会(まあだかい)」を開催します。門下生が「(お迎えは)まあだかい?」と問いかけると、内田が「まあだだよ」か、「もういいよ」のいずれかを答えるという会です。この時、内田は「まあだだよ」と答えます。
まあだだよのネタバレあらすじ:転
やがて内田の新居に1匹の野良猫が住み着きます。内田は猫に「ノラ」と名付け可愛がっていたのですが、ある日突然いなくなってしまいました。門下生たちは内田のためにネコ探しを手伝いますが結局ノラは戻ってきませんでした。やがて新しい野良猫が内田宅に住み着き、内田は「クルツ」と名付けます。摩阿陀会もやがて会を重ねていき、日本はやがて戦後から高度経済成長時代へと向かっていきます。出席者の衣服も料理も次第に豊かになっていきました。
まあだだよの結末
摩阿陀会も遂に17回目となりました。内田の喜寿(77歳)祝いも兼ねたこの会は、門下生も老いが目立つようになり、彼らの孫も出席するようになっていました。変わらず元気な様子だった内田でしたが、突然体調を崩してしまい、大事を取って帰宅することになります。門下生たちはかつてのように「仰げば尊し」を合唱して内田を見送ります。病の床についた内田は、ある夢を見ていました。少年たちが田園地帯でかくれんぼをしている夢でした。鬼役の少年が「まあだかい」と声をかけると、少年のひとりは、何度も「まあだだよ」と繰り返していました。少年が見上げた夕焼け空は、やがて漆黒の夜へと変わっていきました。
「まあだだよ」感想・レビュー
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内田百閒先生の随筆が原案となっている映画ということもあり、彼にまつわる様々なエピソードが丁寧に描かれているのですが、大の猫好きである内田先生が愛猫のノラを見つけ出すために、彼の教え子や近所の人たちを巻き込んで大捜索を行うという場面は、現代における「ペットロス」という現象をつぶさに表現していると思います。かといって重苦しい雰囲気になり過ぎず、内田先生の持ち味であるどこか憎めないユーモア溢れる言動や彼を慕う教え子たちの温かさも相まって終始ほのぼのとした雰囲気の漂う素晴らしい映画でした。
「まあだだよ」は、私が故郷を離れ、今とは違う場所で働いていた時に、友人と見に行った映画の一つです。もう数十年前、まだ若い頃なので、友人たちとよくいろいろな映画を見に行きました。
黒澤明監督作品ですが、「羅生門」のような生命力の強いイメージとは違い、夏目漱石門下生の一人、内田百閒先生の大学を辞めるところから、門下生に見送られながら最期を迎えるところまでが描かれています。ユーモアがあり、門下生達と自由闊達に生きる様子が、とてもうらやましく感じたものでした。
「摩阿陀会」という、お迎えはまだかと内田先生が門下生たちに問われて、「まあだだよ」と答えるという会を毎年開いている趣向も面白く、ユーモアを感じますが、何より、現代のように人間関係が複雑で困難な状況にある時代には、彼らの気が置けない人間関係がやはりうらやましく、まぶしく感じられます。
ラストシーンは、まもなく訪れるであろう「死」の表現なのですが、暗さを感じさせないものでした。幼い頃の懐かしいような、穏やかで明るい風景の中、友人とかくれんぼをしていて、「まあだだよ」と言っている夢を見ている様子で、枕元では門下生たちが皆見守ってくれている。今の世にあっても、理想的と言えるような、最期だと思いました。
内田百閒先生の心豊かな人生を、黒澤明監督が温かく、明るく、時に人間臭く描いてくれていて、見終わった後、不思議とさわやかさと、温かさを感じました。
また、こういった映画に出会えるといいなと思います。