ストレイト・ストーリーの紹介:1999年アメリカ映画。アメリカ・アイオワ州に住む73歳のアルヴィン・ストレイトに76歳の兄が倒れたと知らせが届きます。10年来仲違いしていたアルヴィンでしたが、周囲の反対を押し切り、時速8kmのトラクターに乗って兄に会いにいきます。1994年にニューヨークタイムズに掲載された実話を元にしたお話です。主演のリチャード・ファーンズワースはアカデミー賞主演男優賞にノミネートされました。
監督:デヴィッド・リンチ 出演:リチャード・ファーンズワース(アルヴィン・ストレイト)、シシー・スペイセク(ローズ・ストレイト)、ハリー・ディーン・スタントン(ライル・ストレイト)、ジェームズ・カダー、ウィリー・ハーカー、ほか
映画「ストレイト・ストーリー」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ストレイト・ストーリー」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「ストレイト・ストーリー」解説
この解説記事には映画「ストレイト・ストーリー」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ストレイトストーリーのネタバレあらすじ:起
アメリカ・アイオワ州に住むアルヴィンは娘のローズと2人で暮らしています。アルヴィンは転倒をきっかけに杖をついて歩く生活をしていました。ある日ローズは電話でアルヴィンの兄ライルが脳卒中で倒れたと知らせを受けます。10年もの間仲違いしていた兄に会いに行くのかローズが尋ねますが、アルヴィンは何も言いませんでした。しかし数日後、兄に会いに行く事を決意し、ローズに伝えます。杖なしでは歩けない状態であることからローズは反対しますが、アルヴィンはアイオワ州から500km近く離れたウィスコンシン州へと時速8kmのトラクターに乗って向かいます。
ストレイトストーリーのネタバレあらすじ:承
エンジン故障から町に戻って中古のトラクターを購入し、再出発したアルヴィンでしたが、途中ヒッチハイクをしている少女に出会います。彼女は妊娠しており、誰にもそのことを言えずに家から飛び出してきたと話しました。アルヴィンは「家族は小枝が寄り集まったように束になっているから簡単に折れることはない。」と伝えます。翌朝、彼女の姿はなく、代わりに小枝の束が置かれていました。次に出会ったのはアルヴィンの横を自転車で通り過ぎていく若者の集団でした。夜にアルヴィンは彼らのテントに合流します。そして若い頃が忘れられないことが年寄りの一番つらいことで、正しいこととそうでないものが見分けられるようになったことが年寄りのいいことと伝えました。その後、アルヴィンは再びエンジンが故障し、坂を転がり落ちるようにして町に入ります。
ストレイトストーリーのネタバレあらすじ:転
アルヴィンは農機具メーカーに勤務していた男性に助けられます。彼の家の庭でキャンプさせてもらいながら修理を待つことにしました。待つ間、同年代の男性が酒場に飲みに誘います。そこで戦時中の話となります。アルヴィンはかつて狙撃兵でした。彼は仲間の兵士をドイツ兵と勘違いし、撃ち殺してしまった過去がありました。一方酒場に誘った男性も戦争で失った戦友達が忘れられず、戦後はアルコール依存症に苦しむ生活をしており、お互いの苦しみを共有したのでした。トラクター修理ですが、修理した双子の兄弟がケンカしていました。アルヴィンは修理費を値切った後、彼らに兄弟はお互いのことを分かり合える存在であることを伝えます。
ストレイトストーリーの結末
兄ライルのいる場所の近くまで来たアルヴィンは教会の墓地近くで野宿をします。その時牧師がアルヴィンの焚き火の近くに座り、お互い話をします。その内、兄ライルは教区民で病院に運ばれた姿を見たといいました。アルヴィンは無事かどうか尋ねますが、それ以降牧師は会っていないのでわからないと答えます。酒場のマスターから道を教わり、進んでいくと後ろから大型トラクターがやってきます。そしてそのトラクターに先導されて兄ライルの家にたどり着くことができました。兄を見つけ、名前を呼ぶアルヴィン。病気の影響で歩行器をつけて歩く兄の姿がありました。お互いの姿を確認し合い、ライルはアルヴィンがトラクターで来たことに感動します。兄弟揃って星空を眺め、エンディングを向かえます。アルヴィンが家を出発してから6週間が経っていました。
「ストレイト・ストーリー」感想・レビュー
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この映画「ストレイト・ストーリー」は、旅を続ける事で自分の人生に決着をつけようとするひとりの老人の姿を通して、人間の生きる意味を淡々と問いかける珠玉の名作だと思います。
この映画は、実話をもとに「ワイルド・アット・ハート」の鬼才デヴィッド・リンチ監督が、それまでの作風と180度違う、シンプルで心暖まるロード・ムービーの誕生は、私を含む多くの映画ファンを驚かせた事でも有名で、何度観ても、本当に心に残る珠玉の名作だと思います。
10年来仲違いをしていた兄が心臓発作で倒れたと知った73歳のアルヴィン(リチャード・ファーンズワース)は、和解するために、何と時速8kmのトラクターで560km離れた兄の暮らすウィスコンシン州へと6週間の旅をするのです———。
映画を観終えた後、アメリカの地図を見てみると、出発したアイオワ州のローレンスから、目的地のウィスコンシン州のマウント・ザイオンまでの道程を確認した時、あらためて感動が心の底から甦って来ます。
トウモロコシ畑の中の一本道を、ひたすら真っ直ぐに進むだけのシンプルな物語は、まさにストレイトなストーリーになっていると思います。
主人公のアルヴィン爺さんが旅先で出会う人々との交流は、まさに、”一期一会”の精神にも合致するもので、何ともほのぼのと心がじんわりと暖まって来ます。
ぶっきらぼうだが、確固とした信念に基づいて人生訓を語り掛ける彼のその姿には、嫌味のかけらもなく、実に素直に、自然に聞けてしまうから不思議です。
それは、何よりもアルヴィンを演じるリチャード・ファーンズワースの存在抜きでは考えられません。
彼の演技を超越した名演技は、この老主人公の背負ってきた人生の年輪の重みを感じさせてくれます。また、ベテラン・カメラマンのフレディ・フランシスによる、壮大な俯瞰ショットで捉える”アメリカの原風景”は、ため息がこぼれるほどの美しさです。
ノロノロと進むトラクター。ゆっくりと進む事で初めて見えてくるものがあるのです。
空の大きさ、星の美しさ、自分自身の人生。考えてみれば、この長い旅路は、アルヴィンの人生そのものなのかも知れません。
頑なに独立独歩で旅を続けるアルヴィンは、この旅で自分の人生に決着をつけようとしているのかも知れません。そこには、何かをやり遂げる事で、自分の生きてきた証を残そうとする、力強い気骨というものを感じてしまいます。
そして、バスにでも乗れば早いところを、敢えて苛酷な野宿の旅を選択したアルヴィンの実直さに、思わず目頭が熱くなって来るのです。
長い旅路の果て、アルヴィンは兄と再会します。
アルヴィンの心の中では、和解なんてもうどうでもいい。
ただ子供の頃のように、二人一緒に夜空の星を見上げていたい。
そんな二人の間には、もはやどんな言葉もいらないのです。ここで、カメラがスッと立ち上がり、満天の星空を映し出すのです。
私が今まで観て来たたくさんの映画の中でも、指折り数えるほどの美しいエンディングだったと思います。この映画を観終えて、再び思う事は、この映画は本当に、あのデヴィッド・リンチ監督の映画なのだろうかと———。
実際、これまでにリンチ監督が真正面から描いてきた暴力や狂気は、映画の背後に塗り込められ、驚くほどヒューマンな感動作に仕上がっていると思うのです。
しかし、世の中の”ダークサイド”を抉り出してきたリンチ監督が、”ブライトサイド”も含めた表裏一体の世界感を持っているのは、何も不思議な事ではなく、むしろ、世の中には昼と夜があるように、当たり前の事なのかも知れません。
それ以上に、実話としてのアルヴィン・ストレイトという一人の人間の偉業の前では、作り手であるリンチ監督の個性や作為的な演出など、もはや蛇足なのかも知れません。
とはいえ、奇をてらわない、さり気ない演出は、やはり確かな技量を持つデヴィッド・リンチという名監督だからこそ、なせる業なのだと思います。
いわゆる定番のロードムービーではあるが、全体を通して穏やかな流れの中にも、道中に主人公が出会う様々なハプニング、人物とのドラマが絶妙なスパイスとなり、気付かないうちにじんわりと目が潤んでしまうような温かい作品。
最も意表をつかれるのは、歩いた方が早いくらいノロノロとしか進まない、中古の小さなトラクターで遠く離れた地に住む兄へ会いに行くという設定。主人公はどこからどう見てもおじいさん。無謀とも言える長旅の中で、出会う人物と語り合うシーンでは、長年人生を歩んできたからこそのメッセージが散りばめられている。
何かに突き動かされるように黙々と進む主人公の姿は、人生をかけた最後の使命を背負っていると言えよう。しかしながら決して鬼気迫るわけではなく、おじいさんならではのゆっくりとした空気感に合わせ、淡々と進んでいくストーリーがこの映画の醍醐味。ラストシーンでは、強い思いをもってやり遂げることの大切さ、そして家族の絆を感じさせられる。