影の軍隊の紹介:1969年フランス映画。第二次大戦中に出版されたジョゼフ・ケッセルの小説の映画化。彼自身レジスタンス活動に身を投じていたジャン=ピエール・メルヴィルが、ドイツ統治下のフランスで非情の掟に従って闘い死んでいったレジスタンス活動家たちの運命をスリリングに描く。
監督:ジャン=ピエール・メルヴィル 出演者:リノ・ヴァンチュラ(フィリップ・ジェルビエ)、シモーヌ・シニョレ(マチルド)、ジャン=ピエール・カッセル(ジャン=フランソワ・ジャルディ)、ポール・ムーリス(リュック・ジャルディ)、ほか
映画「影の軍隊」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「影の軍隊」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「影の軍隊」解説
この解説記事には映画「影の軍隊」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
影の軍隊のネタバレあらすじ:裏切り者を処刑せよ
1942年10月、フィリップ・ジェルビエは逮捕され、様々な国籍、民族の、ドイツに敵対する疑いのある男たちを集めた収容所に入れられる。共産党員の少年と協力して脱走を企てるが、決行前にゲシュタポへ連行されてしまう。しかし、見張りの一瞬のすきをついて脱出する。レジスタンス活動に復帰した彼は、マルセイユに彼を密告したポールを呼びよせて自動車に乗せ、フェリックス、ビゾンと共にマスクの待つアジトに連行する。ジェルビエはフェリックスとマスクに命じて彼を含めて三人で、恐怖で涙を流すポールを絞殺する。彼らにとって初めての殺人だったがレジスタンス活動のためにくぐりぬけなければならない試練だった。
影の軍隊のネタバレあらすじ:指揮官
フェリックスはマルセイユで偶然出会った旧知のジャン=フランソワ・ジャルディをレジスタンスに加える。ジャン=フランソワはパリで古物商をしている女性の同志マチルドに通信機を届ける仕事を与えられる。仕事のついでに彼は、学者である兄のリュック・ジャルディを訪れた。食料難に苦しみながらも本と楽器に囲まれて浮世離れした生活を続ける兄との再会を喜ぶ。
ジェルビエはイギリスの潜水艦に彼らの組織の指揮官と共に乗り込んでロンドンに行くことになる。闇に隠れて小舟で海に漕ぎ出して潜水艦に乗り込んだ指揮官が自分の兄であることをジャン=フランソワが知ることはなかった。
ロンドンで彼らの希望する武器は得られなかったがド・ゴールから指揮官は叙勲される。『風と共に去りぬ』が上映され、空襲警報が鳴る間も屋内では男女の若い兵士がダンスに興じているロンドンには占領下のフランスにはない解放感があった。
影の軍隊のネタバレあらすじ:フェリックス奪還作戦
フェリックス逮捕の報が伝えられ、ジェルビエは生れて初めてパラシュートで落下してフランスへ帰る。パリからリヨンに移っていたマチルドは、ジェルビエが指揮官から聞いた通りの有能さでジェルビエを助け情報を集める。しかし、フェリックスを救出するにはドイツ人に化けてゲシュタポ本部に乗り込むしかないという結論になる。問題はフェリックスに作戦をどうやって伝えるかである。
ジャン=フランソワはレジスタンスから脱落するという置手紙を残したうえ、彼自身を密告する手紙を作る。味方までだましてフェリックスに作戦を伝える役を買って出たのである。しかし、マチルドたちがフェリックスを移送するという偽命令書を作ってゲシュタポに乗り込んだ時、拷問で衰弱し死を待つばかりのフェリックスを移送することを医師が許可せず作戦は失敗に終わる。ジャン=フランソワは同房のフェリックスの苦しみを救うために青酸カリを渡す。
影の軍隊のネタバレあらすじ:壁に向かって走る
ジェルビエが食事をするレストランに手入れが入り、ジェルビエは逮捕されてしまう。やがて、ジェルビエと彼の同房の人たちが試射場に運ばれて足かせを外される。背後から乱射される機関銃の弾を逃れて反対側の壁までたどり着けた者は次の処刑まで生かしてやるというのだ。ジェルビエも走ることを強制される。壁に到達すると壁にロープが下りている。それを伝って外に出るとマチルドたちが待っていた。彼女の集めた情報によって窮地を脱したのだった。
影の軍隊の結末:マチルドの処刑
ジェルビエはしばらく隠れ家に居続ける。初めて隠れ家に彼を訪れたのは指揮官のジャルディその人だった。指揮官はマチルドが逮捕されたことを伝える。娘の写真を携帯していたので、彼女は娘がドイツ人の慰み者にされるか、同士の名を挙げるか選ばなければならない状況に陥っていると言う。その時、マスクとビゾンが来て指揮官は奥の部屋に隠れる。マチルドが同志の名を二人挙げて釈放されたことがわかる。マチルドの殺害を命じるジェルビエに対してビゾンが反対する。誰よりも有能で勇敢な活動家のマチルドは殺すにはしのびなかった。雰囲気が険悪になったとき指揮官が姿を見せ、マチルドは同志による彼女の処刑を望んでいるからこそ釈放を希望したのだと言ってビゾンたちを説得する。もっとも、マチルドが本当にそう思っているのか、指揮官もジェルビエも半信半疑だった。
ジェルビエ、指揮官、マスク、ビゾンの四人の乗った自動車が一人歩くマチルドに近づき、銃弾を浴びせられてマチルドは倒れるのだった。
「サムライ」「仁義」などの一連のフィルム・ノワールで私を魅了したジャン=ピエール・メルヴィル監督の「影の軍隊」は、レジスタンスに身を投じた人間たちの姿をセミ・ドキュメントタッチで描いた社会派サスペンス映画です。
全編を覆うダークな色調。使命を果たすためには、愛する者すべてを捨てなければならない非情な世界で、自己を引き裂かれ、葛藤する男や女たち。
彼らの胸中をよぎる悲哀と情念のたぎりは、まさに”フィルム・ノワールの世界”そのもので、ジャン=ピエール・メルヴィル監督の簡潔で切れ味鋭い演出の技が冴えわたります。
この映画の主演俳優リノ・ヴァンチュラは、ボクサー上がりの体型通り、いつも見るからにタフな奴を演じてきたと思います。
だが、ただただ鋼鉄のごとく頑強な男というわけではないのです。
ある瞬間、フッと垣間見せる弱さ、脆さ。
その時こそ、演技者としてのリノ・ヴァンチュラの真骨頂が発揮されるのです。
この「影の軍隊」でも、ゲシュタポに捕まった彼は、銃口の前に立たされ、その場に踏み止まり銃弾を浴びるか、誇りを捨て脱兎のごとく逃げるかの選択を迫られます。
レジスタンスとしての意志を貫こうと死を覚悟しながら、降りかかる銃弾の雨に、思わず走り出すヴァンチュラ。
辛うじて生き延び、本心は死ぬのが怖いと呟く彼の悲痛と絶望に疲弊した面持ちは、逆に人間本来のあり様と生と死の重みを映し出し、緊迫したドラマ展開の中で、生身の人間の肌の温もりにも似た一種の安堵感を覚えさせてくれました。
人間の感情の二律背反をごく自然な演技で、しかもまざまざと見せつけるヴァンチュラの演技はとても素晴らしいと思います。
ひしゃげた鼻と猪首、それほど背丈はないが、むっちりと肉の付いた雄牛の如き体軀は、お世辞にも眉目秀麗とは言えません。
だが、他人の同情を拒絶するような厳つい肩に揺らめく”孤独の影”はなぜか妙に愛おしく、男心をそそらずにはおかない男の魅力は、誰よりも強烈なものがあると思います。