ヒンデンブルグの紹介:1975年アメリカ映画。マイケル・M・ムーニーの著書『The Hindenburg』を基に、1937年に発生したドイツの巨大飛行船“ヒンデンブルグ号”の爆発事故を、反ナチ勢力による破壊工作によるものだとする設定で描いた、オールスターキャストによるパニック・サスペンス作品です。第48回アカデミー賞で音響編集賞と視覚効果賞の2冠を受賞しています。
監督:ロバート・ワイズ 出演者:ジョージ・C・スコット(フランツ・リッター大佐)、アン・バンクロフト(ウルスラ・フォン・リュージェン伯爵夫人)、ウィリアム・アザートン(カール・ベルト)、ロイ・シネス(マルティン・フォーゲル)、ギグ・ヤング(エドワード・ダグラス)、バージェス・メレディス(エミリオ・パジェッタ)、チャールズ・ダーニング(マックス・プルス船長)、リチャード・ダイサート(エルンスト・レーマン)ほか
映画「ヒンデンブルグ」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ヒンデンブルグ」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
ヒンデンブルグの予告編 動画
映画「ヒンデンブルグ」解説
この解説記事には映画「ヒンデンブルグ」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ヒンデンブルグのネタバレあらすじ:起
1937年4月、アメリカ・ワシントンD.C.のドイツ大使館に、霊媒師のキャシー・ラウシュと名乗る人物から手紙が送りつけられました。その内容は、ナチスドイツが世界に誇る当時最新鋭の巨大飛行船“LZ 129 ヒンデンブルグ号”の辿る末路を暗示したものでした。
5月。事を重く見たドイツ本国のゲッペルス宣伝相はスペインから帰国したばかりのドイツ空軍大佐フランツ・リッター(ジョージ・C・スコット)を呼び出し、ヒンデンブルグ号に破壊工作がされている可能性を示唆すると共にリッターに保安責任者という名目でヒンデンブルグに搭乗するよう命じました。比較的安全な飛行船用のヘリウムはアメリカが完全に独占しており、ドイツは危険な水素を使わざるを得なかったのです。
ヒンデンブルグ号は5月3日にドイツ・フランクフルトを経ち、6日にアメリカ・ニュージャージー州レイクハースト海軍飛行場に到着する予定でした。リッターは妻に6日で戻ると告げ、ナチス親衛隊と共に乗客の手荷物などを念入りにチェックした後、ヒンデンブルグ号はその日の夜にアメリカに向けて飛び立ちました。船内では、何者かが密かに小型爆弾を準備していました。
ヒンデンブルグのネタバレあらすじ:承
ヒンデンブルグ号にはリッターの他、同行するネイピア少佐(ルネ・オーベルジョノワ)やツェッペリン社のエルンスト・レーマン(リチャード・ダイサート)のほか、自称カメラマンのマルティン・フォーゲル(ロイ・シネス)、リッターの友人であるウルスラ・フォン・リュージェン伯爵夫人(アン・バンクロフト)、ユダヤ人のアルバート・ブレスロー(アラン・オッペンハイマー)とその妻ミルドレッド(キャサリン・ヘルモンド)ら家族、詐欺師のエミリオ・パジェッタ(バージェス・メレディス)、アメリカ人ビジネスマンのエドワード・ダグラス(ギグ・ヤング)、曲芸師のジョー・スパ(ロバート・クラリー)、ブロードウェイの興行主リード・チャニング(ピーター・ドナット)と妻のベス(ジョアンナ・ムーア)ら乗客、船長のマックス・プルス(チャールズ・ダーニング)、そして整備士クルーのカール・ベルト(ウィリアム・アザートン)らが乗り込んでいました。しかし、リッターはフォーゲルの正体がゲシュタポの諜報員であることをあっさりと見破りました。
乗客は誰もが何かしら腹に一物を抱えた者ばかりでしたが有力な手掛かりは見つからず、リッターはフランス系の銀行に勤める恋人フリーダがいるベルトに狙いを定めました。
ヒンデンブルグのネタバレあらすじ:転
航行中のヒンデンブルグ号でしたが、気球部の外皮に亀裂が入るというトラブルが発生、ベルトはレーマンと共に決死の応急措置を行い、ヒンデンブルグ号は予定より遅れるも事なきを得ました。しかし、この一件でリッターは却ってベルトに疑いの目を強めるようになりました。
やがてベルトの恋人フリーダがゲシュタポに逮捕されたという電報がヒンデンブルグ号に舞い込み、ベルトはリッターの問いに対してとうとう自分が船内に爆弾を持ち込んだことを打ち明け、自分の狙いはナチスの広告塔であるヒンデンブルグ号を爆破することでドイツ人の中の反ヒトラー派を煽り立てることであり、船を爆破するのは目的地で乗員乗客全員を降ろしてからだとしてリッターに協力を求めました。
5月6日、ヒンデンブルグ号は予定より遅れて大西洋を横断しましたが、あいにく到着地のレイクハースト海軍飛行場周辺は雨が降っており、更に予定が遅れることは確実視されていました。間もなくして脱走を図ったフリーダがゲシュタポに射殺されたという知らせが入り、失意のベルトを慰めたリッターは遂に彼の計画に協力することを決意しました。
船の到着時刻が午後5時だと知ったリッターは、乗客と乗員が全員下船するであろう午後7時30分に船を爆破、それまでの間にベルトは全世界にヒンデンブルグ号の爆破予告と反ナチ勢力の蜂起を促すという計画を立てました。
ヒンデンブルグの結末
ところが、折からの悪天候に寄りヒンデンブルグ号の到着時間は大幅に遅れることになり、リッターは爆弾の時限装置を修正するため設置場所の在り処を教えるようベルトに問いましたが、彼は頑なに教えようとはしませんでした。
ベルトは自分のナイフの柄に爆弾をセットしていたのですが紛失してしまい、やむなく同僚のナイフを盗みますが、これがフォーゲルに発覚してしまい、ベルトはフォーゲルに捕まって拷問を受けました。
午後7時16分、レイクハースト海軍飛行場に到着したヒンデンブルグ号は着陸用ロープを地上に落とし、着陸態勢に入りました。必死にベルトを捜し回っていたリッターはようやく半殺しにされたベルトを発見、フォーゲルを叩きのめしてベルトからようやく時限装置の在り処を聞き出し、解除しようとしたその時、爆弾が爆発してリッターは爆死、ヒンデンブルグ号は瞬く間に大爆発を起こしてわずか34秒で大破しました。ベルトは瓦礫の中で息絶え、パニックに陥り逃げ惑う乗客の中にも多くの犠牲者が出ました。
プルス船長は大火傷を負いながらも奇跡的に一命を取り留め、フォーゲル、伯爵夫人、チャニング夫妻、スパ、パジェッタ、ミルドレッド、ネイピア少佐らは生存したものの、レーマンやアルバート、ダグラスらは犠牲となりました。この歴史に残る大惨劇は乗員乗客97名のうち乗客13名と乗員22名、地上で乗客救出にあたった整備員の1名が犠牲となりました。ナチスは反ナチの仕業であることを隠蔽、天災であると結論づけました。
「ヒンデンブルグ」感想・レビュー
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この映画の題名にもなっている「ヒンデンブルグ」とは、飛行船の名前で、もともとはドイツ・ワイマール共和国の大統領の名前で、彼の名にちなんで命名されたものだ。
このヒンデンブルグ号は、第二次世界大戦の直前にナチス・ドイツがその国力を全世界に対して誇示するために作った飛行船なのだが、1937年5月、ドイツのフランクフルトからアメリカのニュージャージー州レークハーストに着陸寸前のヒンデンブルグ号が大爆発し、炎上した事件は、謎の大惨事として、全く原因がわからないまま今日に至っている。
この大事故は多くの謎に包まれていただけに、空想をはたらかせる余地があるわけで、この映画では反ナチの若い乗務員の犯行という仮説を立てて、物語を構築している。
主演は「パットン大戦車軍団」のジョージ・C・スコット、「奇跡の人」のアン・バンクロフトで、当局の命令で警戒に当たるため、この飛行船に乗り込んだジョージ・C・スコットと、カメラマンというふれこみのゲシュタポのロイ・シネスの対立を軸として、盛り上げられていくサスペンスを、ヒンデンブルグ号の壮大な飛行場面に融合させたロバート・ワイズ監督の演出のうまさは、さすがだ。
ミニチュアと船体の部分的なセットと船内のセットをうまく織り交ぜて、巨大さをよく表現しているのも成功している。
銀灰色に輝く巨体が、ゆうゆうと雲間に消えていく光景は、SF的にロマンさえ感じさせてくれる。もともと、この爆発の模様をしっかりと撮った当時のニュース・フィルムが現存していて、それを実際に入れて再編集したわけだが、ここにロバート・ワイズ監督の大きな意図があったように思う。
あの白黒のニュース・フィルムを入れることによって、時間と空間を見事に合致させ、一つの核を作って、観ている者を、あの大爆発の現場に誘おうと、ロバート・ワイズ監督はしたのだと思う。
そして、彼の計算は見事に当たって、観ている者は目もくらむスペクタクルを目のあたりにすることが出来たのだ。
映画全体を通してロバート・ワイズ監督が言いたかった事は、科学の急速な進歩で数多くのメカが作り出され、世界は繁栄しているけれど、その繁栄をまた破壊するのも全て人間の行なう事。
その”人間の業の哀しさ”が、ラストの大爆発のシーンに的確に表現されていたのではないかと思うのです。
空に対する憧れは、私が子供の頃に企業PR用の飛行船の雄姿を見かけたことによって扉が開かれました。『ヒンデンブルグ』はその飛行船の頂点に立つ存在であり、また「タイタニック」と同様に悲劇の象徴ともなる存在でした。現在でも飛行船イコール危険極まりない、という単純な公式はあの爆発炎上のニュースフィルムの映像によって人々の脳裏に残酷に刻み込まれた影響かもしれません。現在のように長距離の移動に大型の旅客機が就航する以前は、海でも空でも雄大「過ぎる」存在が快適とさ豪華さを兼ね備えた、スピード勝負の時代が有りました。海はブルーリボンという栄誉のために、現在のフラッグキャリア(国を代表する航空会社)と同様に定期船を運航していたそれぞれの海運会社が凌ぎを削っていたことは有名です。「ヒンデンブルグ」姉妹船「グラフ・ツェッペリン二世」(後に解体)と一緒にナチスドイツが国の威信を賭けて建造されました。政治的な理由により不燃物質であるヘリウム(合成が不可能な元素であり、現在でも軟式飛行船に使用)がアメリカから禁輸措置が取られて、第一次世界大戦でその危険性が十分認識されていた水素を使わざるを得なかった点に後の悲劇につながる遠因を見出した時、政治とは残酷な結末を産む道具なんだと気づかされました。それはともかく、空の支配者たる風格を十分に示す巨大硬式飛行船が国家的陰謀によって破壊工作の標的にされるなんて…。制作当時は未だウォーターゲート事件の影響が色濃く世相に反映されていた時代であり、国家権力に対するネガティブなイメージをテーマにした社会的作品が多数制作されていたと記憶しているのですが。本作に対するイメージで最初に思い出されるは、まずラウンジに設えられた軽金属製ピアノが挙げられます。やや時代は異なるものの、ユーゲントシュテールというドイツの美術的伝統を受け継いだ、華やかさをそこはかとなく感じることが出来ましたね。それと積乱雲の中を飛行中に静電気の嵐に襲われるシーン。帯電を防ぐために水素を格納する飛行嚢(のう)が絹製であったことを含め、爆発事故に対する予防措置は取られていたものの、意外な落とし穴であったことを教えてくれたのです。船体の巨大さに比して、船客用の区画(船底のゴンドラ)はとても狭いということも意外でしたが、豪華客船の一等船客と同じく選ばれた階層の社会的地位の象徴でもあったことを喧伝してくれる善き材料であったことも見逃せないのです。豪華客船と自由の女神、飛行船と摩天楼。素晴らしい風景でした。特にニューヨークの市街を見下ろすパノラマは、誰しもが世界の帝王になった気分で下界を見入ったことでしょう。空も海も、思い起こせば善き時代でした。両大戦の戦間期ということも含めて。それだけにこの事故の影響は大きかったとも言えるのですが。本作はサスペンス仕立てではありますが、フィクションであり、現実の事故の真相は未だに謎のままであります。ラストの事故を偶然実況した悲痛な叫びと共に、あの巨体が無残に焼け落ちる様は20世紀の繁栄と悲劇の両方の象徴として永遠にこれからも語り続けれることでしょう。現在の縮小された軽快な飛行船はあの惨劇が再び繰り返されないシステムが組み込まれている所に私は人の叡智を感じるのです。