サラブレッドの紹介:2017年アメリカ映画。アマンダは無表情、無感情の女性。明るく感情的なリリーに会いますが気が合いません。しかし、アマンダはリリーが継父のマークと仲が悪いことを知ると、突然彼女に急接近、マークを殺すことを提案します。『サラブレッド』は若い二人の女性の奇妙な友情を描いた映画で、オリヴィア・クックは感情のない女性を、アニタ・テイラー・ジョイは父との関係に悩む女性を好演。本作はアメリカの映画批評サイトRotten Tomatoで高い評価を受けています。
監督:コリー・フィンリー 出演:オリヴィア・クック(アマンダ)、アニャ・テイラー=ジョイ(リリー)、アントン・イェルチン(ティム)、ポール・スパークス、フランシー・スウィフト、ほか
映画「サラブレッド」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「サラブレッド」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
サラブレッドの予告編 動画
映画「サラブレッド」解説
この解説記事には映画「サラブレッド」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
サラブレッドのネタバレあらすじ:起・アマンダとリリーの出会い
アマンダ(オリヴィア・クック)はサラブレッド馬と向き合い、ナイフを手にします。
その後、アマンダは幼馴染のリリー(アニャ・テイラー=ジョイ)と久しぶりに再会します。リリーの母は金持ちの男と再婚し、豪邸に住んでいます。その豪邸に驚くアマンダ。アマンダはなぜか、馬上のリリーの写真や侍の刀に興味をもちます。
リリーはアマンダの母から頼まれて、アマンダの家庭教師になります。アマンダは無表情、無感情、精神的問題を抱えていることを告白します。アマンダはリリーに「母は家庭教師代いくら払ってるの?」と聞きますが、リリーは「アマンダに会いたいだけで、お金はもらっていない」と答えます。
アマンダはリリーの継父マークに会いますが、アマンダはすぐさま、リリーがマークを嫌っていることを確信します。
久しぶりの再会ということもあり、当初はアマンダはリリーに素直になれませんでしたが、リリーとマークとの関係を色々詮索していくうちに、やがてリリーからの信頼を得て、二人の友情は蘇ります。
二人は酒を飲み始め、アマンダはリリーに「マークを殺したいと思わないのか」と殺人を持ち掛けますが、リリーは「考えてもいない」と言います。
サラブレッドのネタバレあらすじ:承・マークを憎むリリーの殺人計画
リリーはあるパーティに参加しますが、参加者はアマンダがサラブレッド馬を殺したことを話題にしています。その一方、パーティ参加者のティム(アントン・イェルチン)は、彼の過去の強姦や麻薬などの犯罪について話題にしている他の参加者と口論になります。リリーがパーティを出ていくとティムに会いますが、無視するリリーにティムはしつこく話しかけます。
アマンダはリリーの家で、再びリリーにマークを殺すことについて話します。マークのことが嫌いなリリーは徐々に気持ちが傾いていきます。
(リリーの回想シーン)マークと母は、リリーを寄宿舎のある遠くの別の学校に入れようとしますが、リリーは気が進みません。しかし、マークはもう話は進んでいると言います。リリーはマークの愛用する運動器具を壊し、彼に怪我をさせて復讐します。また、リリーは夫婦喧嘩に飽き飽きします。
リリーは、アマンダにサラブレッド馬の殺害について聞きます。アマンダは、馬の殺害を回想してリリーに聞かせます。リリーは本気でマークの殺害をアマンダに頼みます。しかしアマンダは馬を殺したことでの動物虐待の裁判が始まることもあって、すぐに自分が疑われる可能性があり、自分がマークを殺すのは難しいと言います。
サラブレッドのネタバレあらすじ:転・マーク殺害計画の実行
アマンダとリリーの二人はティムに会い、金で殺人を依頼します。3人は予行演習を始めますが、ティムは怖気づきます。アマンダはティムが麻薬を未成年に売っていた現場を録音したテープを聞かせます。ティムは銃で二人を脅しますが、アマンダはティムをランプで殴って倒します。二人は「計画を実行するか、しないとテープを警察に渡す」とティムを脅します。結局ティムは土曜日に殺人を実行することにします。
土曜日、マークは一人で家にいました。その頃リリーはエステを受けていましたが、そこにマークが来たことで、ティムが殺人計画を実行できなかったことを知ります。
リリーとアマンダは、殺人を自分たちで実行するのか、計画失敗の理由などで口論します。リリーはタバコを吸いますが、マークに怒られ、学校卒業後はもう資金援助はしないと言われます。アマンダはナイフを持ってマークとリリーの会話を聞いていますが、彼を殺すことができません。
サラブレッドの結末:リリーとアマンダの関係の結末
ある夜、アマンダとリリーは映画を見ています。リリーはアマンダのジュースに睡眠薬を入れていました。そしてリリーはマークを殺す計画について話します。それはアマンダにロヒフノール(強い睡眠薬)を飲ませて、その間にマークを殺害し、その罪はアマンダに着せるというものでした。
リリーはその計画をアマンダに話すことで止めてもらいたかったのです。しかしアマンダは自分の人生に意味を見出せずにいたこともあり、自らそのジュースを飲むとその場に倒れます。
慌てたリリーは部屋を出ます。そしてリリーは寝ているマークを殺して血だらけになり、部屋に戻ります。リリーはアマンダの手を取りマークの血をつけると、彼女の横で寝ます。
その後、リリーは大学の面接をレストランで受け、その近くの駐車場でティムが働いていました。ティムはリリーに、マークの死について聞きますが、事件の真相は知らないとリリーは嘘をつきます。リリーはアマンダからの手紙が来たと話します。
(アマンダの声が流れ、精神病院での彼女の様子が流れます。)
アマンダは、精神病院で治療を受けています。サラブレッドの絵を書き、リリーやサラブレッド、そして人間社会の空虚な未来の夢を見ると言います。
ティムは「手紙に何が書いてあるのか」と聞きますが、リリーは「手紙は捨てた」と答えるのでした。
以上、映画「サラブレッド」のあらすじと結末でした。
「サラブレッド」はとびっきりユニークなスリラー映画にして極上のサイコホラー作品である。この作品の研ぎ澄まされた刃のような鋭い切れ味には背筋が凍る思いがする。可憐なアマンダも清楚なリリーも単独では無害なのだが、2人が一緒になるとたちまち化学反応を起こして劇薬へと変化する。或いは「俺たちに明日はない」のボニー&クライドのように大胆不敵にもなる。そのキュートな外見からは計り知れないが心の奥底に核爆弾を抱えている2人の少女。「反社会的パーソナリティ障害」でサイコパスのアマンダ。そして「境界性人格障害」と情緒障害を抱えるリリー。アマンダとリリーは互いにシンパシーを抱き強力な磁力によって引き付けられてゆく。リリーを演じたアニャ・テイラー・ジョイは、小動物のような愛らしさとショートカクテルのような冷涼感を併せ持つクールビューティーだ。彼女を「マローボーン家の掟」で一度だけ見たが非常に印象的だったのでハッキリと覚えている。アマンダを演じたオリヴィア・クックよりもリリーを演じたアニャ・テイラー・ジョイの方がより危険な香りが漂っている。継父を演じたポール・スパークスが妻に向かって「俺はロボットか?」っと言って同じ言葉を繰り返していた。そのスパークスがセリフ通り鋼で出来たロボットのように無機質で無表情なのが可成り不気味だった。母親と継父とリリーとアマンダの4人とも風変わりでトリッキーでとびっきり奇妙なのである。まるで安部公房やフランツ・カフカの「実存主義文学」のような理不尽さとシュールな雰囲気が堪らない。映画の前半は張り詰めた緊張感で今にも窒息しそうになり目まいがする思いがした。そして中盤から後半にかけては邪(よこしま)な新芽が顔を出して惡の華が咲き誇る。この映画の冒頭でアマンダが「日本刀」を手にするシーンがある。私はその瞬間に胸騒ぎと強い予期不安を覚えたのである。脚本と監督を手掛けたコリー・フィンリーの周到で緻密なパフォーマンスは一部の隙もなく完璧である。まるでインクの染みやストッキングの伝線のようにどんどんと破綻が大きくなってゆく。そして終盤のクライマックスでアマンダはリリーの制止を振り切って一気に毒杯を飲み干す。実に怖いシーンにして儚く哀しいシーンでもある。飲料に入れられた睡眠薬の効き目で爆睡するアマンダの無邪気な表情が痛々しい。そして浮世のしがらみや重圧から解放されたアマンダの純粋無垢な寝姿が無性に愛しい。こんなにも美しく哀しいシーンには中々お目に掛かれない。そして個人的な解釈によるこの作品のモチーフはズバリ、「鋭利な刃物」或いは「剣:swordソード」である。普段は道具であり装飾品であっても使い方次第では怖ろしい凶器に変身するのである。事程左様に両刃の剣は凶器と狂気を兼ねているのだ。この映画「サラブレッド」は、名馬のサラブレッドのようにどこを取っても完璧で全く文句のつけようがない。私はこの作品が近来稀に見る傑作映画の一つであると深く確信している。