Promised Land(プロミスランド)の紹介:2004年イスラエル,フランス映画。東京フィルメックス特別招待作品として日本公開。イスラエルの巨匠アモス・ギタイの作品。東欧からイスラエルへやってきた娼婦の目線で人身売買ネットワークの実態に正面から切り込んでいく。
監督:アモス・ギタイ(Amos GITAI) 出演:ロザムンド・パイク、ダイアナ・ベスペンチ、アンヌ・パリロー、ハンナ・シグラ、ほか
映画「プロミスト・ランド Promised Land」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「プロミスト・ランド Promised Land」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「プロミスト・ランド Promised Land」解説
この解説記事には映画「プロミスト・ランド Promised Land」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
プロミスト・ランドについて
映画「フリーゾーン」で有名な巨匠・イスラエル人映画監督Amos Gitaiの作品。
「Promise Land」約束の地、というタイトルのイスラエル映画なので、てっきり巡礼をするだとかの宗教内容の物語だと思いこみ、見始めました。すると・・・びっくりしました。「こういう」内容だったとは・・・強烈すぎました。何も知らない無垢な少女たちが身売りされる話だったのです。
プロミスト・ランド【モスクワで見かけた少女たち】
今から20年ほど前。ロシアのモスクワのホテルには、通常各フロアに「鍵おばあさん」が座っていました。1階のフロントで部屋番号を告げられると、その階に上がりそこの「鍵おばあさん」から自分の部屋の鍵を受け取るものだったのです。
「鍵おばあさん」は当然のごとく、どの部屋にはどういう客が泊まって、というのを把握します。そこで外国人の男性一人滞在の部屋には、売春婦の女性を行かせていました。そのマージンをおばあさんはふところに入れて小遣い稼ぎをしていたのです。(*全部のホテルで行われていたわけではありませんが、非常に有名な某一流ホテルでは平然と行われていました)
ホテルの廊下で売春の女性とすれ違うことがありました。本人から身分を聞いたわけではないものの、やはり一目見てピーンとくるのです。
「ああ商売女性だな」と一発で分かってしまうのです。
中にはどうみてもまだあどけなさを残す少女も廊下を歩いていました。トントン、と見知らぬ男性客の部屋のドアを叩いて中に入っていきます。その姿を見ると、なんとも切なくなりました。みんな美少女。もしかしてロシア人ではなく、貧しいウクライナから「出稼ぎ」に来ている少女たちだったのかもしれません。彼女たちの表情は平然としているように見えましたが、やはり生きていくためにやむを得ず身体を売っているのか、と思うと胸が痛みます。「プロミスランド」を見た時、まさにロシアのホテルで見かけた少女たちを思い出しました。
プロミスト・ランド【夜の砂漠でポン引き業者に売られる】
オープニングは満月の夜の砂漠。アラブ人男たちとあどけなさが残る10代のエストニア人の少女たちがたき火をしています。「バックパッカーの少女たちなのだろうか」。まったくあらすじを知らないで見始めたので、てっきりバスドライバーとガイドのアラブ人たちと、グループ旅行の女の子たちが移動中一緒にたき火をして休憩しているだけなのだ、と思いました。ところが突然男の一人が少女(まだ未成年です)を裏の方に引っ張って行きなんと突然レイプ!
えっ?
深夜が過ぎます。少女たちはバンに乗せられ移動。まだ砂漠を抜けていないのですが、バンは停車。上品で優しそうなイスラエル人の女性が登場。国連関係の人間?と思いきやなんと彼女はポン引き業者!洗練された女性にしか見えないだけにまたまたびっくりです。
日が明ける前の砂漠で、少女一人一人に値段がつけられていきます。女ボスは彼女たちをsheと呼ぶことはありません。this oneと呼びます。優しい声質で・・・
「this oneの胸は形がいいのよ」
「こっちのthis oneはお尻はナイスよ」
「this oneは髪の毛は赤色なのよ」
「このthis oneはとてもデリシャスな味がするわよ」
「this oneはまだとても若くて処女なのよ」・・・
魚おろし市場のようです。(*ただしアラビア語やヘビライ語は英語や日本語と違い、人間を差す時もthis/thatにあたる単語を普通に用いります)そもそもエストニア人の少女たちは某業者を通して非合法でイスラエルに出稼ぎに密入国をしようと、エジプトの砂漠(シナイ半島でしょう)に入ってきました。エジプトからイスラエルに入国するのは、納得。エジプトは入国がたやすい上に、イスラエルに入るのには陸路から行った方が潜り込めやすいのでしょう。少女たちはまさか売春とは聞かされていなかったようで、この展開に恐怖と不安のあまり震えています。
ドキュメンタリータッチで描いた「プロミスランド」は国際的なflesh trade(性産業)の生々しい実態を見事に暴いています。彼女たちは家畜のように身体を現れ、男たちの前に裸にされ品定めをされます。もう絶望と諦めの感情しかありません。
プロミスト・ランド【超えた柵の向こうには果たして?】
最終的に売春地帯に爆弾が仕掛けられ、火事や多数の犠牲者も出ます。救急車、警察のパトカーがやってきて混沌とした状態になります。その混乱に便乗して、二人の少女が走って逃げます。
とりあえず二人でも助かるようだ、良かったと観客は少しほっとします。ところがおや?よくみると一人の少女はちょっと気がふれた様子です。はっきりとは分かりませんが、ショックと恐怖のあまり精神を病んだようなのです。
もう一人の少女が道路の柵を越えたところで映画が終わるのは、希望がまだある、もしくは一人でも少女が自由になれたという意味なのではないでしょうか。
プロミスト・ランド【ハイレベルのドキュメンタリータッチ映画】
どの場面も緊張です。ドキュメンタリータッチの手法で撮影されているため、実際の事件の現場を自分が隠しカメラで覗き見ている気分になります。到底演技とは思えず、少女たちの生々しい演技に胸を打たれドキドキハラハラ、涙を誘われます。
非常にクオリティの高い素晴らしい映画なのですが、あまりにもリアルすぎるため、目をそらしたくなるような悲惨なシーンも多々あり心構えがない状態では決して見るべき映画ではなかったかもしれません。
風俗の仕事を簡単に考えている少女たちに見てもらいたい、というよりもいまだに外国に行けば売春宿に立ち寄り、明らかに未成年の少女を買う日本人男性たち・・・彼らにぜひ見てもらいたい映画です。
(追記ですが、売春婦たちが出入りしていたモスクワのホテルはその後アメリカ資本となり、鍵おばあさんもいなくなって非常に健全ないいホテルになっています。ただし少女たちは別の場所で「ドアをノック」する仕事を今でもしているのかもしれません。)
一応ハッピーエンド的な終わり方だったので救いがありましたが、現実では大半の東欧の少女たちが犠牲になっているのでしょう。小遣いが欲しいだけで性産業に従事している豊かな国の少女たちに、ぜひ見てもらいたい映画だなと思いました。
こういう映画を製作したイスラエルはある意味立派・・・
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