ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリスの紹介:2016年アメリカ映画。アメリカ内外の様々な組織について、ナレーションやインタビューを一切使わない、劇映画のようなドキュメンタリー映画を作ってきたワイズマン監督が、ニューヨーク有数の観光スポットでもあるニューヨーク公共図書館(NYPL)へ。NYPLは世界有数のコレクションを誇りつつ、市民の生活に密着した場所でもあり、図書館への固定観念を砕く活動を続けている。観光客の立ち入れない図書館の舞台裏や会議での意見のやり取りが見られる。エルヴィス・コステロ、パティ・スミスなどNYPLに招かれた著名人のトークも興味深い。
監督:フレデリック・ワイズマン 出演者:リチャード・ドーキンス、エルヴィス・コステロ、パティ・スミス、ほか
映画「ニューヨーク公共図書館 エクスリブリス」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ニューヨーク公共図書館 エクスリブリス」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリスの予告編 動画
映画「ニューヨーク公共図書館 エクスリブリス」解説
この解説記事には映画「ニューヨーク公共図書館 エクスリブリス」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ニューヨーク公共図書館 エクスリブリスのネタバレあらすじ:起・NYPLの中へ
カメラは五番街と42丁目との交差点に位置するニューヨーク公共図書館(NYPL)本館へ。回転ドアを開けて中に入る。今日は出入り口近くで「利己的な遺伝子」で知られるイギリスの進化生物学者・動物行動学者リチャード・ドーキンス博士のトークが行われている。それは気軽に誰もが立ち見ができる。ドーキンスは真実への愛を語り、無宗教者の立場から、進化論を否定するキリスト教原理主義者を忌憚なく批判する。
NYPLは多くの司書を抱える。彼らの電話応対は、電話の相手の借り出し状況の説明から、極めて専門的な文献調査にも及ぶ。もちろん本館で司書から直接、資料についてアドバイスを受ける人もいる。
NYPLは財源をニューヨーク市と民間の寄付から半分ずつ得ている。トニー・マークス館長は公民協同の重要性を語る。そして市からの財源が増えれば、民間からの寄付も増えるという相乗効果を期待する。加えてインターネットの利用促進と資料のデジタル化という課題を語る。
NYPLの特徴あるコレクションの一つがピクチャー・コレクション。担当者が課外授業の高校生にコレクションを説明する。1915年に誕生して以来、ニューヨークの多くのアーティストが利用してきたコレクションだ。ここでは、収集された写真イメージが「動く犬」等のカテゴリーに分けてフォルダーに入れられている。
NYPLの本館や分館では「図書館」というイメージを超える多彩な事業が行われている。舞台芸術図書館では音楽会が開かれ、ブロンクス分館の就職フェアでは消防署等の職員による説明会が開かれる。著者を招いてのトークもある。西アフリカを研究対象とする歴史家ルドルフ・ウェアは、奴隷制に反対するイスラム聖職者を王が奴隷として売った史実を話し、イスラム教と奴隷制度を関連付ける主張の嘘を暴き立てる。そして公共図書館ライブで、かつてアンチ・サッチャーソングを歌ったエルヴィス・コステロは認知症になって亡くなったイギリスのサッチャー元首相について、今も彼女が国にしたことを許していないと語る。
ニューヨーク公共図書館 エクスリブリスのネタバレあらすじ:承・図書館とは人
図書館幹部の会議では、図書館がネット弱者のよりどころであることが語られる。ニューヨークでも自宅でインターネットを利用できない人はとても多い。チャイナタウンに近い分館では中国系住民が英語や中国語でパソコン講座を受けている。
図書館が手を差し伸べなければならないのはネット弱者だけではない。NYPLでは点字の本の読みかたの指導も行われるし、視覚障害のある担当者が障害者のための住宅手配サービスについての説明を行う。
最大の分館であるミッドマンハッタン分館の改築工事についての説明会が行われる。改築は、図書館建築に実績のあるオランダの建築家、フランシーヌに任されていた。彼女は、図書館スタッフに向けて、専門家相手に講義っぽくなってしまうことを気にしながら、図書館は本の置き場ではない、図書館とは人なんですと呼びかける。1991年に別の図書館の仕事を手掛けているときに、既に図書館に未来はないと彼女は言われていたが、それは図書館の進化を知らない人の発言なのだと。
ニューヨーク公共図書館 エクスリブリスのネタバレあらすじ:転・様々なニーズ
舞台芸術図書館に劇場の手話通訳の女性が招かれる。手話通訳には俳優や演出や舞台装置について入念な勉強が必要なこと、手だけでは感情を伝えることはできないことが語られる。NYPLの宝の1つが、ジェファーソンが書いた独立宣言の写しである。その、大陸会議にかける前の草稿では奴隷制度を非難する箇所があったが、南部の支持を得るため本稿からは削除された。その独立宣言を「怒り」「懇願」の二つの感情で聴講者に読んでもらい、それぞれの通訳を手話通訳が実演する。
幹部の会議で何度も登場する主任司書の女性が、パークチェスター分館に行き、職員たちと懇談する。男性職員が10代の利用者を図書館に引き付ける試みを語る。そして数学の教員向け指導書の貸し出しが多かったことが話される。家庭や学校と連携して地域とつながることが話し合われる。
ジョージ・ブルース分館ではネット環境のない人のために、ネット接続用機器貸し出しについての説明がある。一方でシニア向けのダンス教室が開催されている分館もある。
そうした地域に密着した分館のほかに、NYPLには舞台芸術図書館を含む四つの研究図書館がある。その一つ、黒人文化研究図書館の前や内部の廊下に多数のキャンドルが飾られ、火が灯される。今日は黒人文化研究図書館の90周年を祝う式典の晩である。ムハンマド黒人文化研究図書館館長が挨拶をする。
幹部たちの会議ではホームレス問題が議論される。図書館はあらゆる人に開かれるべきだが、はたしてホームレスの人たちが眠るためだけに図書館に来るのを、どこまで許容していいのか。館長は、最終的に変えるべきはこの街の文化、私たちのホームレスへの態度だと考える。
ジェファーソン・マーケット分館で19世紀アメリカの奴隷制についての女性研究者によるセミナーが開かれる。誰もが自由な社会は存在したことがないとして、奴隷制を肯定した南部主義者ジョージ・フィッツヒューを取りあげる。彼にとって、北部の労働者は主人のいない奴隷であった。フィッツヒューと反対に、カール・マルクスとリンカーンを自由な社会を肯定して奴隷制を否定した論者として取り上げる。
公共図書館ライブではミュージシャンのパティ・スミスが登場。好きなのはフィクションで、回想記なんか書くことがないと思っていた彼女が回想記を書いた。大好きなジャン・ジュネの『泥棒日記』とのつながりを語る。
ニューヨーク公共図書館 エクスリブリスの結末:これからの図書館
幹部たちの会議では、蔵書購入の方針が論じられる。紙の本に比べて電子本の需要が大きく伸びていた。
公共図書館ライブでは、ムハンマド黒人文化研究図書館館長が作家のタナハシ・コーツを迎える。黒人コミュニティー内部の暴力を自作で扱った彼だが、それは黒人への抑圧に関係していると言う。「我が家ではマルコムXが神でした」と語るコーツ。
本館内部に巨大なクリスマスツリーが飾られる頃、幹部たちは来年度の予算獲得へ向けて話し合いを始める。
ハーレム地区のマコームズ・ブリッジ分館をムハンマド黒人文化研究図書館館長が訪れ、一般利用者の話に耳を傾ける。アフリカ系住民の抱える様々な問題が取り上げられる。女性教員はマグロウヒル社の地理の教科書が、あたかもアメリカの黒人は自由意志で移住したかのような嘘の記述をしているという大問題を取り上げる。ムハンマド館長は子供たちが真実を学ぶことのできる場所として、この地区に黒人文化研究図書館があると言う。
公共図書館ライブでは陶芸家のエドムンド・デ・ワールが自作を朗読する。モデレーターがデ・ワールの人生と創作に欠かせない音楽の一つとしてグレン・グールド演奏のゴルトベルク協奏曲をかけ、その曲と共にこの映画のエンド・クレジットが流れる。
以上、映画「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」のあらすじと結末でした。
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