ボストン市庁舎の紹介:2020年アメリカ映画。警察、消防、ゴミ収集、高齢者支援、結婚…。多様な人種と文化が共存する大都市ボストンの市役所はありとあらゆるサービスを提供する。マーティン・ウォルシュ市長(2021年3月23日よりアメリカ合衆国労働長官に就任)と市職員の仕事をドキュメンタリー映画の巨匠が記録した。ワイズマン監督のこれまでの作品と同様に、ナレーション無し、字幕・テロップ無し、追加音楽無し、インタビュー無しをつらぬきながらも、監督が市長と共有している撮影当時のトランプ政権への危機感がこの作品に、過去のワイズマン作品以上にメッセージ性をにじませています。
監督:フレデリック・ワイズマン 出演者:マーティン・ウォルシュ市長、ウィリアム・G・グロス警察長官、ケネス・グリーン警察署長、ほか
映画「ボストン市庁舎」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ボストン市庁舎」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
ボストン市庁舎の予告編 動画
映画「ボストン市庁舎」解説
この解説記事には映画「ボストン市庁舎」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ボストン市庁舎のネタバレあらすじ:起・市庁舎の中へ
ボストン市。林立する高層ビルの間に市庁舎が見える。その中の電話窓口では職員たちが電話対応をしている。市民が311番にコールすれば道路の補修、停電等のあらゆる相談に職員がのり、関係部署と連携して対応する。
マーティン・ウォルシュ市長は警察幹部と地域での犯罪被害者のケアについて話し合う。葬儀まで警察が対応するが、その後のケアは?別の部署との連携が必要になる。
こうした市の仕事は全て市の予算にしたがって行われる。説明会で市職員が予算の仕組みについて説明する。市は無尽蔵の金を使えるわけではない。収入と支出が均衡していなければならない。
ボストン市庁舎のネタバレあらすじ:承・お祝いと安全対策
市役所でレベッカとモリーの同性カップルが結婚式をする。市職員が司会をして、二人ともパートナーを妻とすることを誓った。
2018年はボストン・レッドソックスがワールドシリーズを制した。市長は記者会見をしてレッドソックスの優勝を祝い優勝祝賀パレードを告知するが、その席には警察長官、警察署長が市長と並び、パレードでの危険防止が重要課題であることがわかる。
市役所では家賃を払えない住民の立ち退き防止策の法令化について話し合いが行われる。家主に追い出されて家をなくすことは特に子供にとって影響が大きいだろう。だが会議では、安価な住宅の不足が問題であるという意見も出る。
市長は教会設立200周年を祝う催しに参加。高齢者たちが会食をしている。一人のおばあさんが、詐欺電話がかかってきて個人情報を教えてしまったという話をし、それに応えて市長は詐欺への注意を呼びかけるとともに、困ったことがあれば市役所に連絡してほしいと言う。
法律事務所の一室で市長は温暖化対策について企業経営者との会合をもつ。温暖化によってもたらされる自然災害は増えている。災害に遭った他都市にボストンも支援をしている。だが市長はトランプ大統領が温暖化の危険について理解していないことを危惧している。ボストン市が率先して自然災害への対策をしなければならない。
安全な街への取り組みはより日常的な場でもなされている。市のスタッフが家屋の改築現場で責任者に防火・防水対策について聞き取りを行う。
そしてレッドソックス優勝祝賀パレードの日が来た。市長はレッドソックスの本拠地であるフェンウェイ・パークで改めてアレックス・コーラ監督の功績を讃える。テレビのレポーターは市長にパレードの警備がたいへんではという辛口の質問を向けるが、レストランやバーがもうかるし、なにより皆が元気になる。
パレードが済んで道に紙吹雪が残った。
ボストン市庁舎のネタバレあらすじ:転・多様性と平等
市長は市役所で働くラテン系の若い職員に向けて話をする。ラテン系と言ってもルーツの国は様々。市長は各自民族としての誇りをもってほしいと言い、市長自身のアイルランド系としての誇りを語る。アイルランド移民も軽蔑の対象だったが政治参画によって力を得てきた。
ボストン障がい者委員会では、障がい者たち自らがボストン公共図書館や公園が車椅子でアクセスしやすくなるような改修について話し合う。車椅子の利用者が増えるとエレベーターでは間に合わなくなることを市職員に納得させなければならない。
看護師たちが「ICUの看護師一人に患者一人」という主張を掲げて集会をする。市長は看護師たちを前に、自分が子供時代ガンになり看護師たちのお世話になったことを話す。
市役所では麻薬対策が話し合われる。中毒から脱しかけている人が気軽に使えるリカバリーキャンパスとアートを結び付けたプロジェクトについて熱心に議論がなされている。
退役軍人と戦没者のための集会が開かれる。会場にはボストンの歴史を物語る絵画や資料が展示されている。戦争で手や足をなくした英米の兵士をかつて看護したおばあさんの話に続いて、イラクやアフガニスタンで戦った元兵士がスピーチをする。第ニ次世界大戦で戦死し市内の交差点の一つが彼の名にちなんで名づけられた伯父と同姓同名のその元兵士は帰国後、伯父が軍で使用していたのと同型の銃を購入し、隣に住む沖縄で戦った老人を手始めに、自分と戦場の経験を共有できる第二次世界大戦の元兵士たちを訪れて彼らの話を聞いては銃にサインをしてもらっていた。別の兵士は中東で瀕死の重傷を負うが戦争より帰郷することの方が怖かったと言う。彼らよりずっと年長のベトナム戦争の元兵士は兵士たちが捨て石にされているのを感じ自分も戦死すると確信して母に電話して別れを告げたが母に深刻さが伝わらなかった体験を、ユーモアをまじえて語る。最後に市長は、自分が建設業界にいた時代にアルコール依存症になり集会に出たことを告白し、トラウマを抱える人たちが自分の体験を話す集まりの大切さを語る。そして民主主義を守るために戦った元兵士たちを讃えた。
寒い冬が近づいている。冬期間のホームレスのためのシェルターについて話し合いがもたれる。話し合いには警察本部長も参加。前の冬は駅をホームレスに開放したが、ホームレス以外の人が多く紛れ込んで犯罪に利用してしまったのだった。
住宅における差別を禁止し公民権を保護する公正住宅法が危機にさらされている。トランプ政権は貸し手の差別的意図が立証できなければ訴えることができないようにしようとしていた。管理業務人事部の会議ではウォルシュ市長が抗議文を連邦政府に送ることが明らかにされる。
ボストン・パブリック・マーケットでは料理教室が開かれている。司会の女性はボストンが移民の町であることを話す。この料理教室もボストンを構成する多様な文化を理解するためである。今日はエビを使った中華料理が作られ、ほとんどが高齢者の参加者がそれを味わう。
ボストン大学で市の幹部が、紙の名札を胸に付けた聴講者を前に講演する。市民の半数を有色人種が占めるボストンだが人種間の所得や雇用の格差は大きい。不平等をなくすための市の対策が語られ、最後に市長もスピーチをする。
ウォルシュ市長は失業率の低下等の成果を上げているが、ボストン市民の6人に一人が食料難に苦しんでいる。この日はグレイター・ボストン・フードバンクでイベントが開かれる。飢餓対策の重要性について市長がスピーチした後、市長や警察官等の参加者が音楽に合わせてバケツリレーで食品を詰めた袋を運ぶ。アメリカではまたも銃乱射事件が起きている。市長は行事の後マスコミの取材に答えて、連邦議会で銃規制の法律ができないことを嘆き、銃を野放しにする責任をとらない全米ライフル協会をきっぱりと批判する。
ボストン市庁舎の結末:住民の声
建設業におけるマイノリティ経営者と女性経営者に対する差別についてのセミナーが開かれる。講演者の言う「不平等研究」が参加者の一人には生ぬるく感じられるようだ。彼の会社が30年間受けてきた差別について切々と訴える。会社に実力があっても大きな契約は大企業しか取れない。彼の会社は大企業の下請けの下請けに甘んじ続けていた。
障がい者を雇用するモーガン記念福祉工場で感謝祭のパーティーが開かれる。主賓は工場で働く障がい者で、市長も彼らに給仕する役の一人である。市長のスピーチの後ダンスが始まり、市長は記念写真に応じる。
開発業者が地域住民に彼らが計画する施設について説明会をする。開発業者の黒人の代表者は計画が黒人の若者の利益になることを説明する。そして全米黒人地位向上協会(NAACP)が入居することになることを誇らしげに語る。それでも住民の女性は地域住民の視点から計画を考えるべきことを強く主張する。
駐車違反切符を切られた市民は不服を申し立てることができる。最初の子供をみごもっていた妻が急に産気づいたために、会社の会議で行っていたメイン州からあわててボストンに引き返して消火栓の前に駐車してしまった男性は市の担当者に違反切符を免除してもらう。一方、空き屋だと思っていた家の前に駐車して違反切符を切られた中年男性は駐車禁止のサインが見えなかったと言うが、申し立てが認められず引き下がる。
白人男性と比べてラテン系女性の賃金は非常に低い。ボストン市の女性発展室はラテン系女性のためのセミナーを開いている。社会が変わる必要があるがラテン系女性一人一人ももっと交渉力を身につけるべきだ。セミナーでは男社会の会社でキャリアを築いてきた女性が話をする。
人気の高い学校は入学希望者が増える。教育委員会ではある人気校の定員増加の申請を審議する。今回は定員増加よりも先に校舎を増やさなければならないということになる。
市職員がネズミの被害にあっている男性の家を訪れる。住宅には老朽化が見られる。直ちに大家に修理をさせると職員は確約する。
ドーチェスター地区に大麻ショップの出店が検討されている。市の命令により地域住民との意見交換会が開かれる。市の担当者と共に住民の前に座る大麻ショップの代表者はアジア系で、英語になまりがあるが彼自身もボストン住民だ。雇用創出等のメリットを熱弁する。しかし元々発砲事件等のある治安の悪い貧困地域である。スーパーに行く途中にあることになる大麻ショップの悪影響を住民たちは心配し具体的で鋭い質問を次々と投げかける。そしてこの地域は様々な民族の人々が混在する。一人の女性がカーボベルデ出身者には意見交換のために英語の通訳が必要であると指摘する。住民の意見をきく機会はもうけてもショップの出店について住民が投票して決められるわけではないといった、手続きの民主性への疑問も出される。さらなる意見交換会の開催が約束される。
店舗をリニューアルして、これまで自動車で前を素通りしていった人たちを新規顧客にしたいフードマーケットの経営者に市の担当者がアドバイスする。フードマーケットには幅広い食材がそろっている。彼自身移民だった創業者が、移民たちが皆彼らの故郷の味を楽しめるようにしたいと考えた結果である。
ボストン交響楽団ホールに警官によるバグパイプの音が響く。その年の施政方針演説を市長が行う日だ。男女一人ずつの警官による国家斉唱への満場のスタンディングオベーションに続いてウォルシュ市長がボストンから国を変えようと呼びかけた。
そしてまたボストン市役所の電話窓口は311番にコールする市民の問い合わせを受け付けている。
以上、映画「ボストン市庁舎」のあらすじと結末でした。
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