クロース・トゥ・ホーム(原題:Karov La Bayit 英題:Close to Home)の紹介:2005年イスラエル映画。イスラエルは女性にも兵役義務がある。この作品は18歳の若い女性兵士の日常を描いた映画。第7回東京フィルメックス・コンペティション出品作品。
監督:Vardit Bilu、Dalia Hager 出演:Smadar Sayar、Naama Schendar、Katia Zinbris、Ami Weinberg、Irit Suki、ほか
映画「クロース・トゥ・ホーム」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「クロース・トゥ・ホーム」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「クロース・トゥ・ホーム」解説
この解説記事には映画「クロース・トゥ・ホーム」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
【はじめに】
東京にいる外国人の友人たちがぼやいています。
ごく普通に街中を歩いているだけなのに、パスポートや外国人登録証を見せなさい、と警察官に呼び止められるそうです。日本人と一緒に歩いていると、こういうことは起こらないそうです。
「日本に住むようになってから、アメリカにいるメキシコ人の気持ちが本当によく分かった」
東京で教師をしているブラック・アメリカンの友人はしみじみとそう言いました。
東南アジア系アメリカ人も、ヒッピーの格好をしているヨーロッパ人も「うんざりだ」と、しょっちゅう警察官に呼び止められることに辟易しています。
しかし同じ「外国人」でも、日本橋に勤めるスーツ姿の白人からはそういう愚痴を聞いたことは一切ありません。
尋ねてみても「そんな体験は一切ない」と一笑されました。
ちなみに私(日本人)も1999年にチェコのプラハに一年駐在した時、
毎朝のように
「身分証明書を提示しろ」
と地下鉄の通路に立つ警察官に呼び止められました。
毎朝のことなので、向こうもこちらの顔を憶えているはずなのに
まるで嫌がらせのように必ず通せんぼをされました。
見ているとアメリカ人やヨーロッパ人は外国人と分かっても何も言われず、
ベトナム人やアジア、アラブ人だけ必ずスムーズに歩かせてもらえませんでした。
Close to Homeの映画は、これらに似た題材を扱ったストーリーです。
イスラエルでもアラブ人の風貌をしていると、
自由に歩けないという実際の問題を背景にした映画です。
【映画の背景の『パトロール』】
イスラエルに旅行・在住したことがある人ならば、
誰もが知っていますが、大きな都市部では特に国連の車をはじめ、
常に監視警備の車や兵隊がうろうろしています。
テロが多く、宗教民族紛争も多い土地柄。
常に警備に細心の注意を払わないといけないのも道理かもしれません。
前知識として、
イスラエルでは厳重な警備パトロールが当たり前で、
それは日本の警察官の巡回とは深刻さがまるでちがうものだということを
分かっていなければこの映画の意味がピーンとこないのではないでしょうか。
見ていると、明らかにパトロール中の兵士たちは
アラブ人を主にチェックをし、呼び止めて身分証明書提示を命じています。
イスラエルに生まれ育っているアラブ人が
もし毎日のようにこのようなことをされているなら
心底うんざりし苛立ちを覚えることでしょうに・・・
映画では、時にはアラブ人通行人の身体検査までしています!
【気の合わない二人の女の子がコンビを組んで】
舞台はエルサレム。
キリスト教、ユダヤ教、イスラム教の三大聖地で
非常に紛争やテロが後を絶たないことでも有名な街です。
とはいうものの旧市街の石畳の道を歩いていると
右手からは教会の鐘の音が、
左手からはモスク(イスラム)のアザーン(祈りの呼びかけの声)が聞こえてきます。
何とも言え合い澄み切った気持ちにはなれるのですが
イスラエルが実力行使し無理やり自分たちの管轄下に治めている感があるため、
アラブ人たちが黙っておらず昔からもめ事が絶えない土地でもあります。
18歳の女の子、Smadar とMiritは兵役に就きます。
二人は赤の他人同士でしたが、コンビを組んで街中のパトロールを命じられます。
Smadarはやる気がゼロでさぼることしか頭にない不真面目タイプ。
両親は外国に出ていて、BFともうまくいっていません。
Miritは生真面目でこつこつ作業をこなすタイプ。
しかし要領が悪く協調性にも欠けており、人を苛立たせるタイプ。
BFはいないですが、そこそこ恵まれた家庭で幸せには暮らしています。
二人はまったく気が合いません。
Smadarにしてみたら、Miritはmoron・・・うすのろの馬鹿。
Miritから見ればSmadarはさぼることしか頭にないろくでなし。
「アラブ人を見たら、片っ端から尋問しろ」と命令されているのですが、Smadarは全然やりません。アラブ人とすれ違っても無視。
しかし「尋問したアラブ人のIDナンバー」や「自分たちが巡回で乗ったバスのプレートナンバー」を毎日、用紙に記入して上官に提出しなければなりません。少ないと、叱られます。
「3人しかアラブ人を見なかったので」
「顔を見ただけでは誰がアラブ人か分からない」といった言い訳は許されません。
Smadarが全然仕事をしないので、Miritは彼女の分もカバーしています。
Smadarが物影で煙草を吸っている間、Miritが一人でアラブ人たちに声をかけて、用紙に記入をしてをしていっています。
しかしMiritは上官にはダイレクトにそのことを告げ口はしない・・・兵士だから仲間を裏切らない、というルールがあるのでしょう・・・
【爆弾テロに巻き込まれる二人の少女】
Miritのいらいらが最高潮に達した頃、突如起こった爆弾テロに、二人は巻き込まれます。幸い無事だったのですが、Miritは爆発の衝撃で道路に倒れてしまいます。
その時自分を助け起こしてくれた、あるハンサムな男性に一目ぼれをします。
Smadarに話すと、何とその男性と親しくなるよう、協力をしようとしてくれました。
Miritの恋が理由で女の子二人は初めて仲良くなっていきます。
ところがそんな矢先、Miritがうかつにも少しの時間だけ、業務をサボってしまいます。
躊躇したのですがSmadarにも
「いいから、私が一人で業務をこなすから少し遊んでおいで」
と背中を押されたので、ついつい任務現場を離れてしまったのです。
そのタイミングで上官二人が抜き打ち検査に現れてしまいました。
業務中の時間なのに遊んでいる現場を目撃されたMiritは言い訳できません。
即、反省を促す刑務所jailに入れられました。
いつもはSmadarがさぼってばかりいて、Miritが二人分も働いているのに、たった一回自分がさぼったら上官に見つかった・・・
なんという不公平さ、運の悪さ・・・
この時のMiritのむかついた気持ちがよく分かる気がします・・・
頭に来てクサクサしたMiritはjailまでSmadarが会いに来てくれて、しかもプレゼントをくれても腹の虫がおさまりません。
二人は再び険悪な雰囲気になります。
【決して平穏な青春物語にはならない】
ところがMiritは自分がjailに収監されたあと、Smadarが自分の好きな男性(テロの時助けてくれた男性)の家まで行き、「面会に行ってあげてくれないか」とお願いしていたことを知ります。
そこでMiritはSmadarに感謝の気持ちと謝罪の言葉を伝え、二人はとても仲良くなります。
お互い分かりあえたところで、改めて二人でパトロールに出かけます。
そこである一人のアラブ人を見かけます。IDカード提示を求めました。
しかしその男は拒否をしました。いくらいっても拒否をします。
Miritは「もういい」と言いますが意外や、以前と違い今度はSmadarが
「いや許されない!絶対にIDカードを出せ」
と男に食ってかかり、「彼女が」その男に手をあげます。
そのあと、すぐにイスラエル人のmob・・・暴徒たちが駆けつけてきて
「この男がイスラエル人兵士に手をあげた、俺は見た!」と騒ぎ、男にリンチを始めます。
SmadarとMiritがいくら大声でそれを否定し続け「やめてやめて」と叫んでも、イスラエル人の暴徒たちはアラブ人の男をリンチし続けます。
このシーンは音声、のみでした。
色々規制があったのかもしれませんが、多少このリンチシーンを映した方がインパクトもあってもっと訴えるものが大きくなったかも、と思います。
SmadarとMiritは勤務が終わり、一緒にバイクに乗ります。
しかし会話はなく二人のまなざしはうつろです。映画はここで終わります。
【個人的なイスラエル検閲経験】
この映画の国境でアラブ人の女性たちを取り調べるシーン。
個人的によく理解できました。
カイロの大学に何年も留学していた私の日本のパスポートには
アラビア語で書かれたエジプトの留学ヴィザのスタンプが押されています。
その上、シリアの入国スタンプも押されてありました。
無知にもほどがあったのですが、
シリア、レバノン、ヨルダン等のアラブ諸国の入国スタンプがあると
イスラエルには入れなかったのです。(*1990年代当時。現在はどうか必ずイスラエル大使館に最新情報を確認してください)
イスラエルに入国した時は、エジプトから陸路で入ったため
(エジプトとは国交がありました)、
細かくチェックをされなかったため、シリア入国スタンプのページを
見過ごされていたのです。
「お前はシリアに入ったのか」
空港の検査官は怖い顔つきになり、私は別室に連れて行かれました。
そして小部屋であれこれ質問をされました。
決して尋問や詰問ではなく、いたって穏やかな口調で丁寧な対応でした。
「シリアに何しに行ったんだ」
「遺跡観光です」(私)
「なんでイスラエルに来たんだ」
「観光と生活用品など買い物するためです」
イスラエル人の若い青年警察官は私の荷物を検査しました。
すると大量の食材品と生理用ナプキンとジャズのテープが出てきました。
「エジプトでは薄型ナプキンが売っていないんです、ジャズやクラシックの音楽も入手できないんです」
「・・・・」
「あの国にはピラミッド以外何もないんです」
すると検査官はプッと吹き出し、雰囲気は和やかになりました。
しかしイスラエルで撮影したフジフィルムはすぐに現像され、
化粧水、ブーツの底、口の中の歯の詰め物など徹底的にチェックされました。
本当にただのアホな日本人学生だったので無罪放免となりましたが
私一人のためにカイロ行き飛行機の離陸を遅らせたのは大したものだと感心すらしました。
(言い訳としてはカイロに四年も住んでおり、当時はネットもなく英語版すらイスラエルのガイドブックを手に入れられることはできなかったため、本当に入国ルールについて知らなかったしよほどではないと調べようもありませんでした)
ちなみに隣の取調室ではベトナム人のジャーナリストの女性が取り調べされていました。持っていた「紙」は全てコピーをとられた、と後で言っていました。
【中東マニアでも楽しめる女の子友情物語】
この映画は主に女の子二人の友情を描いているので、政治や中東に興味がまったくなくても、楽しんで見られます。
携帯電話を使って「上官が今そっちに向かった!早く任務地に戻って!」と女の子たちが協力し合う・・・面白かったです。
尚、映画の英語タイトルのClose to Home・・・
意味はLongmanの辞書のサイトによると
close to home
a)「図星でドキッとする」「真実を言い当てられ困惑する」「耳が痛いことをずばり言われる」「急所を突かれる」
b)「身近で起こると嬉しくないこと」
等の意味がになるのではないか、と思います。
この映画ではb)の意味でClose to homeが使われたのではないか、と思います。(でもa)の意味も含まれているかな、とも思いますが・・・)
私は寸鉄人を刺す、がいい意訳ではないかと思うのですがはてさて・・・
そうそう冒頭でお話しをした、東京在住の外国人たち・・・
しょっちゅう警察官に呼び止められてしまうアメリカ人(ブラック・アメリカン)は
「日本に疲れた」
と国に帰り、
東南アジア系アメリカ人も
「二度と日本には帰らないし、懐かしいと思いだすこともしないだろう」と
履き捨てるように言い去って行きました。
恐らく警察は不法滞在かどうか、ドラッグを所持していないかどうか、ということを確認している(だけ)のではないかと思います。
しかし「ID見せろ」と突然街中で命じられ、彼らは「これは外人差別だ、人種差別だ」と、とらえてショックを受けています。
もし差別のつもりではないのであるならば、ちゃんとそれを説明できる語学力を身につけるか、もしくは英語で説明してある書面を用意し、それを彼らに見せるかした方がいいと思います。
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