ディクテーター 身元不明でニューヨークの紹介:2012年アメリカ映画。サシャ・バロン・コーエン主演で世界でいちばん危険な独裁者を熱演する痛快コメディ。欲望のままに生きてきた暴君が、ニューヨークで生まれて初めて庶民の世界を体験する様子をブラックユーモアと共に描き出す。
監督:ラリー・チャールズ 出演;サシャ・バロン・コーエン(アラジーン将軍)、アンナ・ファリス(ゾーイ)、ベン・キングズレー(タミール伯父さん)、ほか
映画「ディクテーター 身元不明でニューヨーク」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ディクテーター 身元不明でニューヨーク」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
ディクテーター 身元不明でニューヨークの予告編 動画
映画「ディクテーター 身元不明でニューヨーク」解説
この解説記事には映画「ディクテーター 身元不明でニューヨーク」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ディクテーター 身元不明でニューヨークについて
サーシャ・バロン・コーエンの映画です。
「ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習」【2006年】ではカザフスタン人レポーター(ジャーナリスト)として取材のため渡米。
サーシャ(イギリス人)が実は俳優ですべてが演技だと知らないアメリカ人たちは
彼のことを本当のカザフスタン人のレポーターだと思い込み、
彼がわざと人々を怒らせる言動をしているとは知らずに本気で激怒して呆れる模様が痛快でした。
「ブルーノ」【2009年】ではオーストリア人のゲイのファッション評論家を演じました。
やはり彼の奇怪な振る舞いと発言を演技だと知らない人々が本気で怒り、つい本音をもらしたり本性を露呈してしまう内容で、観客を思わずにやりさせていました。
いずれも人種問題といった多くのタブーを扱った際どい映画でした。手法も「どっきりカメラ」的なドキュメンタリータッチ。
しかし「ディクテーター」はいかにも脚本がしっかりあり、プロの俳優たちが集結してばっちり演技をしている作品。よって前二作と違い、冷や冷やドキドキさせられることもなく、安心して見られるマイルドな映画となっています。(あくまでも前二作と比較して「マイルド」という意味です)
今までの映画のような、許容範囲スレスレの挑戦的な撮影ものを期待していた観客には、この「ディクテーター」は普通な感じになってしまっているのが残念。
しかし言葉を返せば、人には勧めやすい映画です。
今回はほとんど下品極まりない下劣な場面もなかったです。(その代り、中国人をむっとさせる台詞が色々入っていたかな・・・)
【独裁者アラディーンがニューヨークへ】
北アフリカにある、天然資源豊富な独裁国家(宮殿の撮影はスペインでされたようです。北アフリカの独裁国家、という設定からして間違いなくリビアのカダフィ大佐をモデルにしているのは間違いありません)
核兵器を開発しているのですが、将軍のアラディーンは国連でそれについて弁明をせよ、と求められアメリカのニューヨークに渡航。
摩天楼の大通りを将軍はラクダにまたがり、美人ボディーガードたちをぞろぞろ。(間違いなくカダフィ大佐を模倣!)
ところがなにしろ独裁者であるがゆえに敵も大勢います。
滞在先の高級ホテルのスィートルームで眠っているところ、何者かに拉致をされ立派な顎鬚を剃られてしまいます。
ちなみにアラブでは髭は男らしい象徴とみなされ、ほとんど多くの男性が少なくとも口髭は生やしています。
街中に放り出された将軍は無名の「ただの人」になってしまいます。
身分を証明しようにも、髭がなくなってしまい本物の将軍とは誰も信じてくれません。
そもそも「替え玉」の偽将軍がすでにアラディーンに成りすまして行動しているため、
「俺が本物だ!」
とわめいても、ただの頭のおかしい浮浪者にしか思われません。
絶望しかかっているところ、(そこは映画なのでタイミング良く)とある可愛いアメリカ人の女性に出会い、彼女に救われます。
そして食品店で仕事もし始めます。(身分証明書はどうしたのだ?という疑問はあり)
何しろ独裁国王だった男です。
言動がすべて普通ではない。
そこで周囲と様々なトラブルを巻き起こしバタバタした展開になっていくのですが、
一般市民として生活したことにより、将軍は多くの大事なことを学んでいきます。
最後は無事に本当の身分に戻り、独裁者として国連の会議でも立派に演説を務めあげます。
そして前述したアメリカ人女性を国に連れて帰り、結婚。
「すっかり改心した将軍は国民に愛される最高権力者になりました、めでたしめでしたし」・・・ではなく・・・!!
やっぱり悪い男は悪いヤツのまま、
独裁者は永遠に独裁者であり続け、死ぬまで人々に恨まれ続けるのでした、おしまい!
といったような終わり方です。
ブラック味のコメディはこうでくてはいけません(苦笑)。
【アラブ好きと英単語を増やしたい観客向け!?】
オープニングの音楽のイントロ・・・
どう聴いてもアムル・ディアーブの歌のイントロ・・・。アムル・ディアーブとはエジプト人の歌手なのですが、中近東・地中海の世界では誰もが知る超スーパースターです。
同じく大スターのアルジェリア人歌手カリドの「ワハランワハラン(ようこそようこそ)」の昔懐かしいヒット曲も劇中BGMとして使われています。
オープニングのノリのよい音楽が流れて画面に表示される言葉は
「In loving memory of Kim Jong-il 故・金正日に捧ぐ・・・」・・・!!!
「拷問」「死刑」「独裁」「核兵器」「影武者」・・・
普段あまり耳にすることのない、英単語の言葉のオンパレード。この映画を見れば間違いなく、英単語の語彙が増えることでしょう。間違いなくどれも英語試験には出そうもありませんが・・・
恐らく一番頻繁に出てきた単語はSupreme leader(最高権力者)。
Supreme leader…!!
ヘリコプターの中でアラディーン(コーエン)がナダールと交わしている会話の言語・・・あれはアラビア語ではないですね、「アイワ」(=イエス)のアラビア語は出てきていたようですが、ヘブライ語じゃないでしょうか。
【名(珍)台詞のオンパレード!】
アラディーンは演説するとき、いつも指を立てていますが、カストロが実際にそうだったのでそのマネをしたようです。
今回は非常に商業的な映画ではあるものの、ブラックジョーク、皮肉の台詞がたくさん盛り込まれていました。
最後の国連での、本物アラディーンによる「独裁というものはー」という演説がやはり一番印象に残ります。
これは大国アメリカへの痛烈な皮肉メッセージであるとともに、チャップリンの「独裁者」の映画へのオマージュでもあるのかもしれません。
アラディーン将軍:
「Why are you guys so anti-dictators?
(なぜあなたたちは独裁者をよく思わないのですか?)
Imagine if America was a dictatorship.
(アメリカが独裁国家だと想像してみてください)
You could let 1% of the people have all the nation’s wealth.
(独裁国家なら、1%の人間だけが国の富を独占できます。)
You could help your rich friends get richer by cutting their taxes.
(富裕層の税金を削減してあげれば、お友達のお金持ちはますますお金持ちになれます。)
And bailing them out when they gamble and lose.
(お金持ちの友達がギャンブルなどで破たんしそうになっても、独裁国家なら彼らをいくらでも救えます。)
You could ignore the needs of the poor for health care and education.
(貧乏人の健康や教育の必要性なんて、構わなくていいんです。)
Your media would appear free, but would secretly be controlled by one person and his family.
(メディアを自由に操れます。むろん、こっそりと操作しなければなりませんが。)
You could wiretap phones. You could torture foreign prisoners. You could have rigged elections.
(盗聴機も使えて、外国人の犯罪者を拷問にかけることもできて、不正選挙もはたらけます。)
You could lie about why you go to war.
(戦争を起こす理由についても嘘八百を述べられます。)
You could fill your prisons with one particular racial group, and no one would complain.
(人種差別をし、その特定の人種だけ刑務所にぶちこめます。)
You could use the media to scare the people into supporting policies that are against their interests.
(人々の利益に反する政策を支援するように、国民を洗脳させるようにマスコミを自由に操作できます)」。
以上の台詞・・・さてこれを聞いたアメリカ人の何割が自国のことをチクリと言われているのか、気づくのでしょう。
そして
「民衆化したら、外国の石油会社に国をダメにされるのがおちだ」
という台詞・・・ごもっとも・・・
核兵器開発を担当している研究者のナダールとの会話では
アラディーン将軍:
「Have you consulted Professor Bobeye about this?
(核兵器開発について「ボバイ」教授の意見を調べたか?)」
ナダール:
「Professor who?(ボバイとはだれのことですか?)」
アラディーン将軍:
「Bobeye. He is the one whose forearms are very large in proportion to his body.
(「ボバイ」。ぶっとい筋肉もりもりの腕を持つ男だよ)
ナダール:
「I believe his name is Popeye.
(「ポパイ」のことですか)
アラディーン将軍:
「Bobeye. (ボバイ)」
ナダール:
「Popeye. And he is not a professor. He is, as the song says, a sailor man.
(ポパイです。それに彼は教授じゃないですよ。歌の歌詞にあるとおり、ポパイは水兵ですよ。)」
アラブ人はパピプペポの発音ができないことを知っている人には大爆笑。
「PAPA」(お父さん)は「BABA」、「PARIS」は「BARIS」の発音になってしまいます。ちなみにアラドディーン役のコーエンはあえてアラブなまりで発音しているため、「R」の音が非常にキツく強調して喋っています。PARKパークを「パルク」というように。
またスレードという人物が
「 Who the fuck are you? Osama Bin Laden’s best friend?
(一体お前は何者なんだよ? オサマ・ビン・ラディンの親友か?)」
と聞いた時にはアラディーン将軍は
「No, he is NOT my best friend! (親友じゃないよ)
Although he has been staying in my guest bedroom ever since they shot his double last year.
(去年、替玉の影武者が殺されてからオサマはずっとうちのゲストルームに滞在しているけどね)」。
別の場面でのアラディーン将軍がとGFになったアメリカ人女性の会話:
アラディーン将軍:
「You seem educated.
(学歴があるみたいだね)」
女性:
「Yes, I went to Amherst.
(マサチューセッツ大学アムハースト校に行ったのよ)」
アラディーン将軍:
「I love it when women go to school.
(女が学校に行くとは面白ね)
It’s like seeing a monkey on rollerskates.
(ローラースケートをしている猿をみるようなものだもんな)」
It means nothing to them, but it’s so adorable for us.
(女本人たちにとっては無意味なことだけど、見ている男たちにとっては滑稽で面白いね)」
別の場面では、働く食品店で妊娠中の女性が現れて、
アラディーン将軍:
「Are you having a boy or an abortion?
(男の子を生むか、そうじゃなければ中絶だな)」
そして産気づいて店で女の赤ちゃんを産み落とした女性に向かい
アラディーン将軍:
「Oh it’s a girl. I’m so sorry. Where’s the trashcan?
(女の子だったよ、残念だったね。ゴミ箱はどこ?)」
【よくできた風刺コメディ映画】
皮肉、野次、偏見いっぱいの台詞オンパレードの映画です。
とてもふざけた内容に見えますが、前述した国連での将軍の長い演説内容のように、
深い意味を持つメッセージも盛り込まれています。
風刺性を持つ映画が好き、
アラブに何年も住んでいた、
とにかくひねくれた内容のコメディ映画が好きという人には間違いなくお勧めする
傑作映画です。
この映画を見れば、ディクテーター(独裁者)への理解と尊敬の念が深まるかも!?(苦笑)
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