さらば愛しき女よ の紹介:1975年アメリカ映画。人捜しを依頼された私立探偵が、不可解な連続殺人に巻き込まれていくミステリー作品。私立探偵マーロウは、マロイという男から恋人ベルマを捜して欲しいと頼まれる。手がかりを追うマーロウだったが、行く先々で殺人事件に遭遇。果たして黒幕は何者なのか、そしてその狙いは?原作はレイモンド・チャンドラーの同名小説。
監督:ディック・リチャーズ 出演者:ロバート・ミッチャム(フィリップ・マーロウ)、シャーロット・ランプリング(ヘレン・グレイル)、ジョン・アイアランド(ナルティ刑事部長)、シルヴィア・マイルズ(ジェシー・ハルステッド・フロリアン)、アンソニー・サーブ(レアード・ブルーネット)ほか
映画「さらば愛しき女よ」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「さらば愛しき女よ」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
「さらば愛しき女よ」の予告編 動画
映画「さらば愛しき女よ」解説
この解説記事には映画「さらば愛しき女よ」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
「さらば愛しき女よ」のネタバレあらすじ:人捜し
舞台は1940年代初頭のアメリカ、ロサンゼルス。私立探偵フィリップ・マーロウは、仕事中に出会った大男ムース・マロイから突然人捜しを依頼されます。捜しているのは6年間音信不通の恋人ベルマ。マロイは7年前銀行強盗で捕まって以来ベルマには会っていないそうです。渋るマーロウを連れ、マロイは黒人街の酒場フロリアンへ向かいました。かつてベルマが働いていたのですが、知っている人間はいないようです。短気で乱暴なマロイは苛立って店主を殺害してしまい、警察が来る前に逃げ出しました。現場に残ったマーロウは、顔なじみのナルティ刑事部長に正当防衛だと説明します。フロリアンの店から出たマーロウは、向かい側の安宿に住むトミー・レイを訪ねました。彼は7年前バンドマンとしてフロリアンの店で働いていたそうです。彼はベルマを知りませんでしたが、フロリアンの妻ジェシー・ハルステッド・フロリアンの住所を教えてくれました。しかしジェシーもベルマの居所を知りません。マーロウが写真はないのかと聞くと、トミーが持っているはずだと答えました。何故トミーが嘘をついたのかは分かりませんが、ジェシーの説得もあってマーロウは無事ベルマの写真を入手します。写真を手に聞き込みを続けると、ついにベルマの居所が明らかになりました。彼女は精神を病み、廃人状態で入院していたのです
「さらば愛しき女よ」のネタバレあらすじ:混迷する人間関係
早々にベルマを見つけたマーロウは上機嫌でした。楽しみにしているジョー・ディマジオの連続ヒット記録更新も順調です。そんな折、次の依頼人が現れました。マリオットと名乗った男は、今夜人に大金を渡すので同行して欲しいと言います。マリオットの友人が強盗に奪われた翡翠のネックレスを買い戻すための取引でした。マーロウが承諾しマリオットが席を立つと、入れ違いにナルティがやって来ます。警察は血眼になってマロイを捜していました。警察が急に介入し始めたことを疑問に思うマーロウ。その後現れたマロイにベルマの写真を見せると、人違いだと言われます。偽の写真を渡した理由をトミーに聞きに行きますが、彼は行方不明になっていました。夜8時、マリオットと合流したマーロウは取引場所に向かいます。そこでマーロウは何者かに殴られて気絶し、マリオットは殺害されてしまいました。独自に調査を進めたマーロウは、判事のバクスター・ウィルソン・グレイルが翡翠のコレクターだと知ります。早速彼の邸宅を訪ねたマーロウは、グレイルの妻ヘレンに出会いました。目が覚めるほど美しい彼女は翡翠のネックレスを身につけています。どうやら翡翠のネックレスは盗まれていないらしく、何故マリオットが嘘をついたのかは謎です。マリオットとは長い付き合いだったというヘレンは、犯人を捜して欲しいと依頼しました。マーロウは美しいヘレンの誘惑に勝てず、誘われるまま彼女とキスを交わします。
「さらば愛しき女よ」のネタバレあらすじ:深まる謎
グレイル邸から事務所に戻ったマーロウ。すると待ち伏せしていた男達に殴られ、車で拉致されてしまいます。向かった先は、アムソーという女が経営している娼館でした。アムソーはマロイと話がしたいと言い、居所を吐くようマーロウに迫ります。口を割らないマーロウは暴行を受け薬漬けにされてしまいました。部屋に閉じ込められたマーロウは、朦朧とする意識の中人の気配を感じます。部屋にはトミーの遺体が放置されていました。奮起したマーロウは部屋を抜け出してアムソーに銃を突きつけ、マロイを捜す理由を尋ねます。その時娼館内でトラブルが発生し、口を割らないままアムソーは死亡してしまいました。仕方なく娼館を出たマーロウは、友人ジョージーの家に逃げ込み体を休めます。やっと回復した頃、ヘレンから電話が掛かってきました。夫主催のパーティーに参加して欲しいと言うのです。パーティー会場に到着したマーロウは、検事局で悪名高いレアード・ブルーネットを見つけました。ブルーネットはマーロウを呼び、マロイと話がしたいと言って2000ドルを渡します。
「さらば愛しき女よ」のネタバレあらすじ:更なる殺人
マーロウがジェシーを訪ねると、ベルマから連絡があったと吉報が飛び込んできます。ジェシーの協力もあり、マロイとベルマはようやく連絡を取り合うことが出来ました。マーロウはベルマが待っているというモーテルまでマロイを送ります。しかしマロイを待っていたのは銃を持った男達でした。何とかマーロウが撃退しますが、マロイはベルマを捜すべく姿を消してしまいます。マーロウがナルティ達に事情を説明するためジェシーの家を訪れると、彼女は既に殺害されていました。ジェシーの部屋を調べ、彼女とマリオットが知人関係だったと突き止めたマーロウは、一旦姿を消して安宿に身を潜めます。そしてナルティを呼び出し自分の推理を聞かせました。マーロウはジェシー達を利用してマロイを誘き出し、彼を殺害しようとしている黒幕がいると考えました。マロイ捜しに関わった人物で、残っているのはブルーネットです。マーロウはブルーネットが所有する賭博専用の船に乗り込む決意を固め、警察にも協力を求めました。
「さらば愛しき女よ」のネタバレあらすじ:事件の黒幕
夜、ブルーネットの船に潜入したマーロウとマロイ。ブルーネットの船室に向かうと、そこにはヘレンの姿もありました。ヘレンを見たマロイは「ベイビー」と呟きます。マロイが捜していたベルマとは、ヘレンのことだったのです。彼女は昔アムソーの娼館で働いており、マロイが刑務所に入っている間グレイルと結婚しました。ヘレンは現在の生活を守るため、過去を消し去ることにします。彼女はブルーネットと組み、自分の過去を知る人間を次々葬っていきました。しかしマーロウの推理も警告も、ヘレンに夢中のマロイには届きません。ヘレン側についたマロイは結局彼女に射殺されてしまいました。素早くヘレンを射殺したマーロウは、疲れきった表情で遺体を見下ろしました。駆けつけたナルティ達に現場を任せ、新聞を手に取ったマーロウはディマジオの記録更新がストップしたことを知ります。マーロウに残ったのはブルーネットから受け取った2000ドルのみ。その使い道を決めたマーロウがトミーの妻子を訪ね、この映画は終わりを迎えます。
以上、映画「さらば愛しき女よ」のあらすじと結末でした。
アメリカのハードボイルド小説が生んだ3大私立探偵といえば、ダシール・ハメットのサム・スペード、ロス・マクドナルドのリュー・アーチャー、そしてレイモンド・チャンドラーが創造したフィリップ・マーロウだ。
過去、ハンフリー・ボガートやエリオット・グールドなどが演じた、名探偵フィリップ・マーロウをこの映画「さらば愛しき女よ」では、ロバート・ミッチャムが、都会に疲れた男の哀しみを見事に滲ませて好演していると思う。
レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説は、色々な監督と俳優で映画化されて来たが、この映画は1946年にハワード・ホークス監督、ハンフリー・ボガート主演で作られた「三つ数えろ」(大いなる眠り)以来の秀作だと思う。
この映画は、ロバート・ミッチャム扮する主人公の私立探偵フィリップ・マーロウが、ロスアンゼルスの街路を見渡せる、うらぶれた部屋から、警部補のナルティ(ジョン・アイアランド)に電話をかけ、事件の真相を話すところから始まる。
物語の舞台は、1941年のロスアンゼルスで、まずこの冒頭の場面のムードからして、映画的魅力に満ちて、素晴らしい。
監督は、第一線の写真家から映画に進出し、リアリズム西部劇の秀作「男の出発」で並々ならぬ才能を見せ、続く「ブルージーンズ・ジャーニー」も好調だったディック・リチャーズで、この映画が3作目となっている。
ある女の消息の調査を依頼されたマーロウは、わずかな手掛かりをもとに調査を進めていたが、彼の前で次々と殺人が発生し、重要参考人にされてしまう。
警察の追及と、暗殺者に狙われながら、マーロウは事件の核心に迫るのだが———-。
次から次へと起こる暴力沙汰を織り交ぜて、繰り広げられるこの物語は、このジャンルの定石と言っていいが、重要なのは物語の筋よりも演出のタッチだと思う。
いささか人生に疲れて、うらぶれた感じの主人公マーロウが、ロバート・ミッチャムの渋い好演で、よく生かされていることも成功の要因だと思う。
レイモンド・チャンドラーの小説におけるマーロウの心情には、日本的な”もののあわれ”に共通する何かがあると思っているが、それがこの作品に滲み出ているのも、実に素晴らしいと思う。
それと併せて、ディック・リチャーズ監督の簡潔で流れるような描写で、1940年代のやるせないムードを全編に漂わせる演出が実に見事で、ナチス・ドイツがソ連へ攻め込んだという切迫した時代なのに、人々はジョー・ディマジオの連続安打の話題などをしているということを織り込んだ、当時の時代色の醸成とが、実にいい味を生み出していると思う。
そして、何よりもこの映画を面白くさせているのは、マーロウもさることながら、怪力の巨漢ムースの存在だ。
恐怖という感情とはほとんど無縁でありながら、愛する女ベルマを思う純情ぶり、あたかもそれは、あのキングコングの恋の様に、コッケイにして崇高、美しくも哀しい。
結局、その恋人に裏切られ、銃弾をぶち込まれた彼が「どうして?」とつぶやいた様に、”人生への懐疑と絶望”が、この映画の底に重く淀み、単なる謎解きのミステリー映画に終わらせていないのだ。
マーロウ自身も、決して颯爽としている訳ではなく、貧乏で野球が好きで、仕事も何か仕方なくやっているという感じがとても面白い。
そんな虚しい探偵マーロウであるだけに、余計に、最後に見せる彼の人情味というものが、私の胸をグッと突き刺すのです。