ヤバい経済学の紹介:2010年アメリカ映画。経済学者のスティーヴン・レヴィットとジャーナリストのスティーヴン・ダブナーの共著でベストセラーの『ヤバい経済学』を映画化したもの。私たちが「経済」として考えるものを動かしているのは実は別の物であったりすることを、興味深い切り口で紹介する。
監督:モーガン・スパーロック 、アレックス・ギブニー、ユージーン・ジャレッキー 、ハイディ・ユーイング、レイチェル・グレイディ、セス・ゴードン 出演:スティーヴン・レヴィット、スティーヴン・ダブナー、(元力士の曙、小錦、板井)ほか
映画「ヤバい経済学」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ヤバい経済学」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
ヤバい経済学の予告編 動画
映画「ヤバい経済学」解説
この解説記事には映画「ヤバい経済学」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ヤバい経済学のネタバレあらすじ:起
著者の二人がカメラに向かってやりとりしている。レヴィットが「家を30万ドルで売りたい。1週間待てば30万ドルで売れるが、今すぐなら29万ドルで売れる。どっちがいいか」と疑問を投げかける。それに仲介業者役のダブナーは「今」と答える。なぜなら仲介業者が家を29万ドルで売ってもらえるインセンティブは150ドル足らず。それなら早く売って、次の家を売った方がいい。仲介業者が悪い人間だからではない。人間はインセンティブ(誘因)によって動くものだ、とレヴィットは主張する。
彼は経済学者としての人生で「物事の因果関係の解明」に取り組んでいる。一つの例として、子どもの名前が挙がる。ある黒人女性が子どもを産み、大好きな女優の名前「テンペスト」を子どもに名付けたつもりが、綴りを間違い「テンプトレス(痴女)」と名付けてしまった。その子は幼いころから問題が多く、10代で非行をくり返し、裁判所に連れて行かれる。判事は「彼女はその名前にとらわれて生きているのでは?」と母親にたずねる。ハーバード大学のフライヤー教授(彼自身も黒人)は、このケースは名前ではなく生活環境の影響だ、と言う。
彼の研究によると、白人より黒人のほうが、子どもにユニークな名前を付ける傾向にある、と言う。これは1960年代の黒人至上主義から始まった傾向だ。そしてユニークな名前を付ける黒人は、貧困地域に住んでおり、父親がいないことが多い、という。つまり名前ではなく、生活環境が非行に影響している、とフライヤー教授は主張する。
一方、同じくハーバード大学教授のムライナタン教授も名前の研究をしており、白人より黒人の収入が少ないのは、黒人のほうが就職しにくいからではないか、と推測する。ムライナタン教授の実験で、黒人と白人の名前を書いて、他の条件はほとんど同じ100通の履歴書から、書類選考で面接の電話をもらえたのは、白人の名前のほうがはるかに多かった。
ヤバい経済学のネタバレあらすじ:承
次のテーマは「不正」だ。ダブナーは「価値あるものには不正が働く」と言う。その顕著な例として2000年の歴史があり、名誉と格式を重んじる「相撲」が取り上げられる。曙と小錦が相撲で最初に手を叩いたり、塩をまいたりする意味を英語で説明する。堕落は清純の仮面の下に潜む。相撲には大金が絡み、それは不正を働くほどのインセンティブとなり、八百長が起きる。八百長を見破るのは難しいが、データを見るとわかるとレヴィットはいう。15日間毎日1番ずつ戦う。8勝7敗で勝ち越せば番付が1枚上がる。曙は、1枚の差で月の給料が5000ドルほど違ってくるし、相撲協会での扱いも変わる、と語る。
8勝には大きな意味があるのだ。7勝7敗で千秋楽を迎えた力士の勝率は同じ強さの力士に比べ75%高い。8勝している力士は千秋楽で7勝の「戦友」に1勝を与え、その2人が次に対戦するときには、前回負けたほうがほぼ必ず勝っているというデータがある。若い時から相撲の世界しか知らない力士たちにとって、その村の外に出ると生きていく術がなくなるので、お互いに助け合っているのだ、と週刊ポスト元編集長は語る。
元CIAのバリー・アイスラーは、日本社会では本音と建て前が区別されている。これはアメリカの経済界トップの人物が堕落するように、本音と建て前は世界中で通じるコンセプトだ、と言う。相撲界の八百長を告発した2人が、同じ日に亡くなるということがあった。司法解剖も行われなかった。17歳の序の口力士も相撲部屋での虐待で亡くなったが、司法解剖は行われなかった。元捜査官の犀川博正は、本音と建て前が苦しくて警視庁を辞めた。日本の殺人事件の検挙率は96%を超えており、考えられないほど高い。この数字が現実とは違うということをすべての警察官は知っている、と彼は言う。
八百長はなかった、と言うしかなかったというのは元小結の板井。大きなお金は一部のトップ力士に集まり、それを相撲界全体に潤していくための手段が八百長なのだ、と先述の週刊ポスト元編集長。
ヤバい経済学のネタバレあらすじ:転
レヴィットは1990年代に犯罪の研究を始めた。アメリカの犯罪率の上昇は止まらない、と専門家は予測したが、その予測は外れた。取り締まりの強化や量刑の厳格化などの理由が挙げられたが、レヴィットはそれら一つ一つの根拠の薄さを検証。取り締まりや量刑の厳格化、麻薬市場の変化などの諸説が実際に犯罪率低下に影響を与えたのは50%で、残りの半分は遠い国で起きた出来事が原因だとレヴィットは結論付ける。
ルーマニアの独裁者が1998年のクリスマスに国民によって殺された。独裁者は1966年に中絶を禁止し、妊娠検査を行い、不妊女性に税金を課した。女性は有無を言わさず子どもを産まされた。出生率は倍増。育児放棄も増え、望まずに生まれた子たちは学校や社会で問題を起こすようになる。
1973年、中絶がアメリカの5州で合法化。ルーマニアとは反対の動きだ。望まれない子供が減り、彼らが成人するころの1990年代に犯罪が減った、とレヴィットは考える。実際に最初に中絶が合法化された5州ではほかの州より早く犯罪が減り始めた。
ヤバい経済学の結末
インセンティブは効果的なものでも、打ち破られる時期がくる。レヴィットは娘のアマンダにトイレトレーニングをしていた。妻がいろいろ試してもダメだったが、レヴィットが、トイレで用を足せたらキャンディーをあげるという約束にしたところ、3日目にして、尿意をコントロールできるようになり、トイレに行ってはキャンディーをもらうという戦略に娘が出るようになった。
「インセンティブとはそういうもので、政府は良いインセンティブを知っていると思って巨額を投資するが、予測はできない。泣く人と笑う人が出てくる。それがインセンティブだ」とダブナー。では成績と素行の悪い高校生を買収して成績を上げさせるというのはどうか?
スケートボードで遊ぶケビンは、高校は出たいが、だめなら軍隊に入って高卒認定をもらうとカメラに語る。中卒は社会的に死刑を受けるようなものだが、子どもたちが将来を見据えて目の前の勉強を頑張ることはなかなか難しい、とレヴィットは指摘する。そのため、高校生に金銭的なインセンティブを与える実験をシカゴ大学が行った。ケビンも対象だ。成績が上がれば毎月50ドルもらえる。お金を数える幼い少女が映る。これはレヴィットの娘だ。50セントをインセンティブに使っているのでだいぶお金が溜まっている。
人間にはインセンティブが必要だ、とレヴィット。インセンティブで高校生の成績が上がるかを検証する。高校1年生が対象で、毎月C以上の成績を収めると50ドルがもらえる。また達成者のうち抽選で1人に500ドルが当たり、家にリムジンで帰ることができる。リムジンを見て興奮する黒人少年ユーレイル。次はオールAを取るぞと意気込む。一方ケビンの成績は上がっていない。実験の経過として、Dのある子はCに上がり、Eの子には変化がなかった。ケビンは「自分の生活を壊してまで金は欲しくない」と言う。ユーレイルは勉強を頑張り、そして500ドルとリムジンに乗る権利も当たった。
結果的に5~9%が合格点に達するまで伸びたが、その数字は予測を下回った。レヴィットは、懸賞金が5万ドルなら結果はどうだっただろうか、と話す。研究仲間は、もっと低学年のうちに問題を解決する方が、使う金額も少なくて済む、と言う。
この映画のまとめとして、レヴィットとダブナーは、「インセンティブとは正直でいること、最も信用を落とす行為は誰かに肩入れすること」と言う。そしてこれからも常識を覆すような意見を言っていきたい、と意気込みを語った。
以上、映画「ヤバい経済学」のあらすじと結末でした。
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