ローズメイカー 奇跡のバラの紹介:2020年フランス映画。フランスの郊外。父から受け継いだ小さなバラ園を1人で経営するエヴ。過去にはローズメイカー(バラ育種家)として栄光を手にしていた時代もありましたが、今やバラ園は倒産寸前。そこへやってきたのが世間から見放されたド素人3人組。しかし手助けどころか足を引っ張り失敗の連続。そんな中エヴは世界初の新種のバラの交配を思いつく。そして翌年にパリのバガテル公園で開催されるバラ・コンクールに挑むことを決意した。フランス屈指のローズブランド、ドリュ社、メイアン社などが監修を担当し、コンクールを忠実に再現。愛すべきはみ出し者たちの感動サクセスストーリー。
監督:ピエール・ピノー 出演:カトリーヌ・フロ(エヴ)、メラン・オルメタ(フレッド)、ファツァー・ブヤメッド(サミール)、オリヴィア・コート(ヴェラ)、マリー・プショー(ナデージュ)、ヴァンサン・ドゥディエンヌ(ラマルゼル)ほか
映画「ローズメイカー 奇跡のバラ」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ローズメイカー 奇跡のバラ」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
ローズメイカー奇跡のバラの予告編 動画
映画「ローズメイカー 奇跡のバラ」解説
この解説記事には映画「ローズメイカー 奇跡のバラ」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ローズメイカー奇跡のバラのネタバレあらすじ:起
フランス、パリのバガテル公園。ここで毎年開催される世界最高峰のバラ・コンクールに新品種を抱えたエヴ(カトリーヌ・フロ)が到着しました。
エヴは郊外で父から受け継いだ小さなバラ農園『ヴェルネ・バラ園』を一人で営んでいました。あふれる才能と魔法のような指で新種のバラを開発し、かつては数々の賞に輝いてきたエヴ。しかし、数年前から巨大企業のラマルゼル社に賞も顧客も奪われ、ヴェルネ・バラ園は倒産寸前に陥っていました。
そして今年のコンクールもラマルゼル社が受賞しました。エヴは肩を落としましたが、すぐに立て直す決意をしました。しかし、人手も足りなければ資金も十分ではありませんでした。
すると、職業訓練所のバンが訪れ、中から3人降りてきました。助手ヴェラ(オリヴィア・コート)が人手を補うために、エヴに内緒で格安で雇える職業訓練所へ連絡したのでした。送られてきたのは、前科者のフレッド(メラン・オルメタ)、定職に就けないサミール(ファツァー・ブヤメッド)、内気で泣き虫なナデージュ(マリー・プショー)の3人です。
しかし、3人は全くの素人。手助けどころか一晩で200株のバラをダメにしてしまう始末。エヴと3人の関係も悪化していきました。
ローズメイカー奇跡のバラのネタバレあらすじ:承
フレッドは過去に犯した罪がきっかけで両親に見放されていました。それでも彼は連絡をし続けていますが、両親はまったく電話に出ません。エヴは親から無視され続けるフレッドを不憫に思い、自宅に招いて食事をごちそうしました。2人は互いに自分のことを打ち明け、少しずつ信頼関係を芽生えさせます。
そんな中、エヴは突然新種のアイディアがひらめきました。この新種の交配に成功すれば、来年のコンクールで間違いなく賞が取れる確信がありました。
しかし、交配に必要な貴重なバラ「ライオン」はラマルゼル社のバラ園にしかありません。そこでエヴはフレッドに計画を打ち明けました。フレッドが得意としていた鍵開けの技術を利用して、ラマルゼル社に侵入しお目当てのバラを“拝借”するという、無謀なプランでした。
これにはさすがにフレッドも難色を示しました。見つかれば、施設から出られないどころか刑務所へ入れられてしまいます。しかし、懇願するエヴの姿に動かされ、サミールとナデージュに協力してもらうことを条件にこれを受諾しました。
ローズメイカー奇跡のバラのネタバレあらすじ:転
作戦決行の夜。サミールとナデージュが警備員の気をそらしている間に、フレッドが侵入を試みます。しかし、ライオンだと思われるバラの隣には、それとよく似たバラも植えてありました。そばに「ライオン」と「ソレイユ・ドール」と書かれた札が落ちていて、フレッドには見分けがつきません。そこでフレッドは以前エヴに1度だけ嗅がせてもらった香りを頼りに、ライオンと信じたバラを持ち出しました。
香りだけでライオンを見分けたフレッドに一目を置くエヴ。本来はエヴ以外立ち入ることのできない苗育室に3人を入れ、交配作業を行いました。交配したバラはやがて種をつけました。大切に育てられ、苗は順調に育っていきました。
その間、3人はコンクールまでの収入を得るために、毎日バラを販売しました。膨大な数のバラでしたがフレッドたちの努力によって売り上げは順調です。
そんな中、悲劇がおきました。苗育室から叫び声とともに、バラをめちゃめちゃに荒らすエヴの姿が。驚いた3人が駆け寄ると、エヴが精魂込めて育てた新種のバラが悪化しコンクールどころか商品にもならない状態となっていました。
これまでにどんなことがあっても諦めなかったエヴでしたが、さすがに今回は自信をなくした様子でした。父の想いを受け継いでここまで踏ん張ってきましたが、ヴェルネ・バラ農園をラマルゼル社に売る決意をしました。
ローズメイカー奇跡のバラの結末
ヴェルネ・バラ園を手放す日がやってきました。それは同時にラマルゼル社の社員になることを意味していました。雇われて働くことは断固拒否のエヴは、3人にお別れの挨拶をしました。まるで家族のように4人で別れを惜しみました。
ラマルゼル社から差し出された分厚い契約書にさっと目を通し、サインをしていくエヴ。しかし最後の書面にサインをしようとしたその時、慌ただしくナデージュが入ってきました。「サインは待って!」そう言うナデージュの後ろからバラを抱えたサミールが顔を出しました。なんと、自然交配で奇跡のような新種のバラが誕生したのです。
半信半疑だったエヴですが、バラを見て仰天します。色、大きさ、強さ、香り、それら全てがパーフェクトなバラで、来年のコンテストで賞が狙えるだけのすばらし出来でした。ラマルゼルは引き取るしかありませんでした。
その後、フレッドは調香師になるためにパリへ飛ぶことになりました。エヴが勧めてくれたのです。両親のもとを訪れたフレッドは、最後の挨拶にバラを手渡しました。
パリへ発つ当日。エヴは言葉少なく、フレッドを抱きしめました。「いつでも戻ってきなさい。私達はあなたの家族よ」と。そして花言葉の本を贈りました。
パリに向かう途中のフレッドはエヴからもらった本を開きます。そこには花が描かれているポストカードが3枚同封されていました。フレッドは早速花言葉を調べます。
青いパンジー『あなたがいないと寂しい』、わすれな草『私を忘れないで』、カンパニュラ『ありがとう』。フレッドは目に涙を浮かべました。
コンクールの日。みごとヴェルネ・バラ園の新種が賞を獲りました。エヴはスピーチで無名の3名のスタッフ、そしてどんなときも諦めずについてきてくれた助手のヴェラに感謝を述べました。みんなで起こした奇跡に満面の笑みを浮かべるエヴでした。
以上、映画「ローズメイカー 奇跡のバラ (2020)」のあらすじと結末でした。
「ブルーレディーに紅いバラ」が流れる冒頭の「バラ園」のシーンでは、圧倒的な色彩感に目を見張り心が奪われる思いがした。何と美しいのであろうか。ヴィヴィッドで華やかさに満ち溢れたバラ園の「美」は、我々をマ・メール・ロアの「妖精の園」や「牧神の午後への前奏曲」のような「幻想世界」へと誘ってくれる。この作品(映画)の本質はフランス人の「気骨」であり、正に「エスプリの花束」そのものである。「薔薇」に人生のすべてを捧げ、「色」や「香り」や「質感」に拘る育種家の恐るべき情熱と執念。このフランス人の病的ともいえる美意識(哲学)は究極の「エピキュリアン」であり、レンブラントやダ・ヴィンチのような徹底した「完璧主義者」でもあるのだ。つまりフランス人にとっての「薔薇」とは、ウィリアム・ブレイクの「無垢の予兆」の世界観なのである。すなわち一片の(ひとひらの)「薔薇」の花弁に、「世界と天国」を同時に見出すという一種の「悟り」でもあるのだ。因みに私は「エスプリ・ドゥ・パリ」と言うヴィヴィッドなピンクとフルーティーな芳香性に富んだ薔薇の大ファンでもある。「エスプリ・ドゥ・パリ」の華やかで小粋なパリジェンヌの風情にそそられるのである。しかしながら室内に生花と言う訳にはいかないので、もっぱらアートフラワーやアンティークドールなどを配置し装飾している。バラを含めた華やかな世界は私にとっては永遠の憧れなのである。だから「ローズメイカー奇蹟のバラ」という映画は、「僕の言うことを信じておくれ大切なのは人生のバラなんだよ!」っと連呼する、ジルベール・ベコーの名曲「バラはあこがれ」の世界観とも被るのだ。そしてこの映画でのカトリーヌ・フロの美しさは群を抜いている。初老の女の潔さと屈託のない素顔(エロス・本音)が成熟した大人の男を誘惑し虜にしてしまう。「偉大なるマルグリット」で圧倒的な存在感を示したカトリーヌ・フロは、この作品でも全くブレることなく、人間臭さと飄々とした持ち味を絶妙にブレンドし発散していた。どこかしら危なっかしくて不器用で正直な人間味と、飾り気のない、くだけた雰囲気が彼女の特徴的な魅力である。ゆえに、カトリーヌ・フロはユーモアとウィットに富みペーソスの漂う最高に素敵なフランス映画界の至宝なのだと思う。この映画は明るい陽光を浴びた広大なバラ園を背景にして、社会に見放された「バガボンド」たちが集って奮闘する可笑しさを見事に活写している。当初はバラバラだった放浪者たちは天の差配に翻弄され、天の粋な計らいに導かれて次第に覚醒してゆく。思い切って運命の流れに身を任せるのも一種の悟りなのかも知れない。映画の終盤で、かつては孤立無援だったフレッドが「花言葉」を見て思わず涙ぐむシーンが印象的だった。「たかが花言葉されど花言葉」人生において花言葉や一篇の詩の重みは計り知れないのである。私の芸術的な感性と嗜好は、西陣のデザイナーであった父と、園芸家で華道の教授でもあった母の影響を受けている。だからこそ「ローズメイカー奇蹟のバラ」という作品は、私にとってはかけがえのない特別な映画であり続けるのである。