疑惑の影の紹介:1942年アメリカ映画。カリフォルニアのある街で家族と平凡に暮らしているチャーリーは、突然訪れた叔父に秘密があることを感じとる。やがてチャーリーは叔父に未亡人殺しの容疑があることを知る。チャーリーだけが日常の中で叔父の殺人の疑惑にさいなまれていく様を描く。ヒッチコックの代表作のひとつで、日本では戦後すぐに公開されて好評を得た。ヒッチコック作品の中では、ドメスティックな異常心理ものという点で、2年前(1941年)に作った「断崖」と似た題材になっている。
監督:アルフレッド・ヒッチコック 出演:テレサ・ライト(チャーリー・ニュートン)、ジョゼフ・コットン(チャールズ・オークリー)、マクドナルド・ケリー(ジャック・グラハム)、パトリシア・コリンジ(エマ・ニュートン)、ヘンリー・トラヴァース(ジョセフ・ニュートン)、ほか
映画「疑惑の影」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「疑惑の影」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
疑惑の影の予告編 動画
映画「疑惑の影」解説
この解説記事には映画「疑惑の影」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
疑惑の影のネタバレあらすじ:起
フィラデルフィアに住むチャールズ・オークリーは、自分の下宿の部屋に閉じこもっていました。窓の外では得体の知れない男たちが彼を見張っています。チャールズは思い切って外に出て、男たちの尾行を振り切ると、カルフォルニアのサンタ・ローザに住む姉エマに電報を打ちます。「しばらくそちらに滞在する」という内容でした。
エマは銀行家のニュートンと結婚し、平和で裕福な郊外生活を送っています。姉夫妻には子供が3人いて、長女はチャールズにちなんでチャーリーと名付けられていました。そんな縁もあって、チャーリーは叔父さんが大好き。彼がサンタ・ローザに来ると聞いて大喜びです。
疑惑の影のネタバレあらすじ:承
汽車でやってきたチャールズは、家族全員の歓待を受け、ひとりひとりにプレゼントを渡します。チャーリーに渡したのはエメラルドの指輪。内側には「B.MからT.S.へ」と彫ってありました。自分のイニシャルと違うのでチャーリーは不思議に思いますが、プレゼントをもらったことが嬉しくてそんな些細なことは気にしません。
チャールズはニュートンの銀行に4万ドルという大金を預け、サンタ・ローザでの生活を始めます。しかし後ろ暗いことがあるのか、自分の過去やフィラデルフィアでの生活については、姉夫婦になるべく隠そうとします。届いたばかりの新聞にも自分のことが書かれていたので、こっそり隠しますが、それをチャーリーに発見されてしまいます。
すると彼はチャーリーに恐ろしい形相で迫り、中身を読ませません。また、国勢調査の役人がニュートン一家にインタビューした時も、頑なに彼らに会うことを避け、写真を撮られることを拒否します。
疑惑の影のネタバレあらすじ:転
その後、チャーリーは役人の一人であるグラハムからデートを申し込まれ、それを承諾。ところがその際に驚くべき事実を知らされます。実はグラハムたちは刑事で、叔父のチャールズの行動を見張っていたのです。叔父は、最近起こった未亡人連続殺人の容疑者のひとりでした。
ショックを受けて家に帰ったチャーリーは、叔父が隠した新聞のことを思い出し、再び外出して図書館へ向かいます。そこで新聞を調べると、確かに未亡人連続殺人の記事が載っていました。しかも被害者のひとりのイニシャルはT.S.で、指輪に彫られたものと同じです。
チャーリーは叔父が殺人犯だと確信し、顔を合わせるのも怖くなります。チャールズはそんな姪の態度を見て事情を察し、彼女に、間もなくサンタ・ローザを立ち去ると約束。しかし他の容疑者が逃亡中に死亡し、警察ではその男を真犯人と見なしてしまいます。
そのため、用のなくなったグラハムは、チャーリーに愛を告白した後、サンタ・ローザを去っていきます。
疑惑の影の結末
邪魔者がいなくなったチャールズは、自分の正体を知っている姪を何度か殺そうしますが、うまくいきません。チャーリーは叔父が隠していた指輪を見つけ出し、彼をそれとなく脅迫。チャールズはしぶしぶ街を去ることになります。
いよいよ出発の日、チャールズは町の人々に見送られて列車の中へ。チャーリーも見送りのために乗車しますが、叔父が無理やり引き止めるため、列車が発車してしまいます。これもチャールズの計略で、彼はチャーリーを列車から突き落とすつもりなのです。
しかし、彼女が必死に抵抗したため、彼自身が列車の前に転落してしまいます。母にショックを与えないためにチャーリーは叔父について口を閉ざします。
その後、チャールズは立派な紳士として、街の人々の記憶に残ることになりました。
以上、映画「疑惑の影」のあらすじと結末でした。
退屈な日々を過ごす娘チャーリー(テレサ・ライト)の所へ、突然、彼女の叔父(ジョゼフ・コットン)が現われ、しばらく一家とともに暮らすことになる。
自分と同じ名前を持つこの叔父を、娘は幼い頃から敬愛しており、彼女は大歓迎だったが、その叔父にはどうも不審な点が多かった。
やがて、二人の探偵がやって来て、叔父に殺人容疑がかかっていることを知らされる。
娘は不安になり、調べ出した新聞には未亡人殺しの記事が載っていた。
しかも、叔父が土産にくれた指輪に彫ってあったイニシャルは、被害者のそれと同じだったのだ。
果たして、叔父は本当に殺人犯なのか? 娘の不安は恐怖へと変わっていく——-。
不気味な演奏の「メリー・ウィドー」の序曲のワルツとともに始まるこの映画は、殺人事件そのものや犯人探しがテーマではなく、大好きな叔父さんが、その犯人ではないかと疑う、姪と叔父の物語だ。
この映画は、登場人物の恐怖心理を、スリラーの神様ヒッチコック監督が巧みに映像化していて、二人のチャーリー、二人の探偵、列車の走るシーンが二つなど、二組のペアが次々と登場する。
姪も叔父も同じチャーリーであるのは、ヒッチコック映画の秘密を解く鍵の一つである、左右対称のモチーフ、同じ人間の表と裏、天使と悪魔、他人の犯した罪のために苦しむ人間と犯罪者の葛藤のイメージなんですね。
もちろん死体が出てくるわけではなく、のどかな田舎町の平和な家庭を舞台にした、ヒッチコック監督ならではのサスペンス映画になっていると思う。
そして、ジョゼフ・ヴァレンタインの撮影による緻密な映像が、不安感を見事に盛り上げている。
この映画は、「わが町」で知られるアメリカの劇作家ソーントン・ワイルダーが、ヒッチコックに乞われてシナリオを書いたもので、異色のサスペンス映画というよりも、ずばり、映画の本質とはサスペンスそのものであることを教えてくれる映画だ。
そして、ヒッチコック映画のお楽しみでもある、彼の登場シーンは、冒頭の列車の中の客席の中の一人としてチラッと出てきますので、お見逃しのないように。