断崖の紹介:1941年アメリカ映画。スリラー映画界の巨匠アルフレッド・ヒッチコックが、イギリスの推理小説家フランシス・アイルズの『レディに捧げる殺人物語』を映画化したロマンティックサイコスリラー作品です。調子のいいけど出目不明のモテ男と結婚した富豪の令嬢は次第に夫が自分を殺そうとしているのではないかと疑心暗鬼になっていき…。第14回アカデミー賞で主人公を演じたジョーン・フォンテインが主演女優賞を受賞しています。
監督:アルフレッド・ヒッチコック 出演者:ジョーン・フォンテイン(リナ・マクレイドロウ)、ケーリー・グラント(ジョニー・アイガース)、ナイジェル・ブルース(ゴードン・コクランス・ビーキー・スウェイト)、セドリック・ハードウィック(マクレイドロウ将軍)、デイム・メイ・ウィッティ(マーサ・マクレイドロウ)、イザベル・ジーンズ(ヘレン・ニューシャム夫人)、ヘザー・エンジェル(エセル)、オリオール・リー(イソベル・セドバスク)、レジナルド・シェフィールド(レジー・ウェザビー)、レオ・G・キャロル(ジョージ・メルベック)、アルフレッド・ヒッチコック(郵便屋)ほか
映画「断崖」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「断崖」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
断崖の予告編 動画
映画「断崖」解説
この解説記事には映画「断崖」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
断崖のネタバレあらすじ:起
イギリスの上流階級の良家の令嬢であるリナ・マクレイドロウ(ジョーン・フォンテイン)は列車の一等席で読書をしていました。すると、向かいの席に見知らぬ男が座り、リナに馴れ馴れしく話しかけてきました。
その男の名はジョニー・アイガース(ケーリー・グラント)といい、ジョニーは三等席の切符しか持っていなかったため、車掌から追加料金を請求されました。ジョニーは図々しくリナの持っていた切符で不足分を支払いました。その時からリナはジョニーのことが気になり、新聞の記事からジョニーがイギリス社交界では派手な噂が絶えないモテ男であることを知りました。
一方のジョニーも女友達から、リナがマクレイドロウ将軍(セドリック・ハードウィック)の娘であることを知らされ、彼女に興味を抱くようになりました。
ジョニーは女友達を引き連れてリナの家に向かい、彼女を教会へ誘いました。その際、ジョニーはリナの読んでいる本に自分の記事の切り抜きが挟まっていることに気付きました。教会に行く途中、ジョニーは強引にリナを散歩へ連れ出し、彼女に甘い言葉で言い寄ろうとしました。しかし、男性経験のないリナは強引にキスしようとしたジョニーを拒んでそのまま帰路につきました。
リナが帰宅すると、父のマクレイドロウ将軍と母のマーサ(デイム・メイ・ウィッティ)が「リナは結婚に向かない」と話し合っているのを盗み聞きしてしまいました。リナは両親に反発するかのように、自分を追ってきたジョニーに思わずキスをしてしまいました。
その後、両親と食事を共にしたリナはジョニーのことを話しましたが、マクレイドロウ将軍は、ジョニーは詐欺師まがいのことをしている札付きのプレイボーイだとして強い不快感を示しました。しかし、リナの心はこの時既にジョニーに奪われてしまっていました。
断崖のネタバレあらすじ:承
しかし、その日からリナはジョニーとは全く連絡が取れなくなってしまいました。リナはすっかり落ち込み、狩猟会のパーティーへのお誘いも気が乗りませんでした。
それから1週間後、リナの元にジョニーから「舞踏会で会おう」という電報が届きました。リナはたちまち元気を取り戻し、きらびやかなドレスを着込んで会場に向かいました。会場では招待されてもいないジョニーが姿を現し、それを見たマクレイドロウ将軍は不機嫌になりましたが、リナはジョニーとダンスを共にしました。
その後、ジョニーとリナはドライブに行き、互いの愛を確認し合いました。既に結婚を意識していたリナは両親に何も告げず、ジョニーと駆け落ちしてしまいました。
リナとジョニーは結婚し、新婚旅行でヨーロッパの各地を回ってイギリスに帰国しました。ジョニーは二人の愛の巣として立派な新居を用意しており、メイドのエセル(ヘザー・エンジェル)まで雇い入れていましたが、実は新婚旅行の旅費も屋敷の購入費も全てジョニーが借金をして賄ったものでした。
今まで一度も定職に就いたことのないジョニーは、いずれリナが相続するであろうマクレイドロウ家の資産を当てにしており、驚いたリナはジョニーに真面目に働いてくれるよう説得しました。
能天気なジョニーはそれでも働く気など微塵も起きませんでしたが、マクレイドロウ家から結婚祝いとして贈られてきたのが骨董品の椅子2脚だけだったことに落胆し、仕方なく従弟のジョージ・メルベック(レオ・G・キャロル)の不動産会社で働くことにしました。
リナは両親からの贈り物に感謝しており、ジョニーがようやく心を入れ替えてくれたことに安堵しました。ところがその数日後、ジョニーはろくに働きもせずに友人のビーキー・スウェイト(ナイジェル・ブルース)と競馬場に入り浸るようになり、借金のカタにマクレイドロウ家から贈られた2脚の椅子を勝手に売り払ってしまっていました。
すっかり絶望してしまったリナとは裏腹に、ビーキーは1週間ジョニーの家に滞在したいと言い出しました。そんな時、ジョニーが沢山のプレゼントを抱えて帰ってきました。競馬で一儲けしたというジョニーはあの椅子を買い戻しており、もう二度とギャンブルをしないと誓いました。リナはようやく安心しました。
ところが、リナは街で偶然にも会った友人から、ジョニーがまたもや競馬場に入り浸っていることを知らされました。リナはメルベックの会社に行ってみると、ジョニーは会社の金2000ポンドを横領しており、6週間前に解雇されていました。メルベックは、ジョニーが2000ポンド全額返済してくれれば起訴しないと告げました。
断崖のネタバレあらすじ:転
失望したリナはジョニーと別れる決心をし、荷物をまとめていましたが、そこに父・マクレイドロウ将軍の訃報が舞い込んできました。ジョニーはこれで遺産がもらえると期待しましたが、リナが相続したのはわずかな金とマクレイドロウ将軍の肖像画のみでした。
マクレイドロウ将軍の葬儀の帰り道、ジョニーはなかなか別れを切り出せないリナに、海に面した崖の上の土地を開発してリゾート地にする構想をぶち上げました。ビーキーはジョニーの提案に乗り、ジョニーはビーキーの出資を受けて不動産会社を立ち上げることにしました。
リナはジョニーのあまりの突拍子もない計画に不安を抱えましたが、ジョニーは強い口調で余計な口出しはしてくれるなとリナに忠告しました。
翌日。ジョニーは突然リゾート地の計画を中止すると言い出しました。ジョニーはビーキーを説得するため、彼を崖の上の建設予定地に連れていきましたが、リナはもしかしたらジョニーはビーキーを崖から突き落として財産を奪おうとしているのではないかと一抹の不安を抱えました。
リナは早速現地に向かい、崖から転落する寸前で止まったとみられる車のタイヤ痕を見つけました。リナはますます不安を募らせながら帰宅すると、そこには仲睦まじげなジョニーとビーキーの姿があり、リナはほっと胸をなでおろしました。ビーキーは危うく車ごと崖から転落しそうになり、ジョニーに救われたと語りました。
ビーキーは担保にしていた事業計画の解約のためパリへ行くことにし、ジョニーも仕事を探すついでにロンドンまでビーキーについていくことにしました。ところが、ジョニーが帰ってくる予定の日、リナの元に二人組の刑事が訪れ、ビーキーはパリでイギリス人らしき身元不明の男とブランデーを飲んだ後に急死したことを伝えました。
以前にビーキーが酒を飲んで発作を起こしていたことを思い出したリナは、未だに帰ってこないジョニーに疑惑を抱きました。
程なくして帰宅したジョニーは、ビーキーの死に深くショックを受けている様子でした。ジョニーは警察に電話をかけ、自分はビーキーとはロンドンの空港で別れたと証言しました。それでもジョニーへの疑いが晴れないリナは、友人の推理小説家イソベル・セドバスク(オリオール・リー)の元を訪れました。
断崖の結末
リナはジョニーとも親交のあるイゾベルに、ブランデーを使った殺人の手口があるか尋ねてみました。するとイゾベルは、かつて6人が殺害された「パーマー事件」のことを教えてくれました。犯人は被害者に大量の酒を飲ませており、最後は毒を盛って殺害したとのことでした。イゾベルはその事件について書かれた本をジョニーが借りていったことを話しました。
ジョニーの机の引き出しには確かにパーマー事件の本があり、本にはメルベックに宛てた手紙が挟まれていました。手紙には「借金は別の方法で返済する」と書かれていました。
程なくして、リナの自宅に保険会社から書類が届きました。リナは書類の内容から、知らぬ間に自分に多額の保険金がかけられていることを知り、ジョニーは自分を殺して保険金を奪い取ろうとしているのではないかと恐怖を抱きました。
リナとジョニーはイゾベルに夕食に招かれました。ジョニーはその席上でもイゾベルに痕跡を残さない毒薬の話について執拗に聞こうとしており、リナはより一層不安を募らせました。
リナはジョニーと共に帰宅しましたが、その夜はメイドのエセルは不在にしており、リナは不安のあまり、今夜は別々に寝たいと言い出しました。ジョニーは渋々要求を聞き入れました。
翌日、リナの自宅にイゾベルが訪れました。イゾベルは小説のネタをジョニーにうっかり話してしまったことを後悔していました。リナはジョニーが持ってきてくれたミルクも飲むことができませんでした。
精神的に追い詰められたリナはしばらく実家に帰りたいと言い出しました。リナの態度に不信感を抱いたジョニーは自分が車で送ると言い出し、リナが嫌だと言っても聞きませんでした。
リナは仕方なくジョニーの車に乗ると、ジョニーは車を崖の上へと走らせ、ぐんぐんと速度を上げていきました。リナは走行中の車から飛び降りて逃げようとしましたが、ジョニーはリナの手を握ってそれを止め、車を停車させると驚きの告白をしました。
実はジョニーはベルベックへの借金が返せないことに苦悩しており、服毒自殺を考えていたのです。ジョニーはビーキーの死にも一切関わっていませんでした。
ジョニーはリナを実家に帰そうとしましたが、ジョニーへの誤解が解けたリナは、もう一度やり直したいと彼を説得し、一旦リナの実家に向かいかけていた車は、二人の自宅の方に向かってUターンしていきました。
以上、映画「断崖」のあらすじと結末でした。
アルフレッド・ヒッチコック監督の「断崖」の原題は、Suspicion(疑惑)。
疑惑を抱くのは、良家の令嬢リナ(ジョーン・フォンテーン)。
そして疑いをかけられるのは、二枚目の遊び人ジョニー(ケイリー・グラント)。
ジョニーとリナは、列車の中で偶然に知り合って夫婦になった。
ところがリナは、結婚前からジョニーに関する悪い噂を、いろいろと耳にしている。
厳格な軍人の父親も、その結婚にはいい顔をしない。
つまり彼女の心には、早い段階からマイナス要因がいくつか刷り込まれているといってよい。
その疑惑が頂点に達するのが、海辺の断崖を眼にした時だ。
彼はいったい、何を企んでいるのか?——-。
イギリス出身のアルフレッド・ヒッチコック監督は、イギリスを舞台にしたハリウッド映画を2本撮っている。
1本目が「レベッカ」で、この「断崖」は2本目にあたる。
ただしこの映画には、仰天するような発想が少ない。セット撮影もかなり安直といってよい。
映画的冒険に関しては、彼自身も不満を抱いていたと言われている。
とはいえ、「悪だくみの巨匠」が、手をこまねいているわけはない。
凡才が撮れば、単調になりそうなこの話に、ヒッチコック監督はあの手この手の揺さぶりをかける。
わけても光るのは、ケイリー・グラントの演技だ。
ハンサムで明るく、それでいながら狡猾で冷酷な匂いを漂わせる男。
そんなジョニーが、ミルクの入ったコップを持って、階段を昇る場面はあまりにも有名だ。
ヒッチコック監督は、毒のようなミルクの白さを出すため、コップの中に豆電球を仕込んだというのだ。
とにかくこの映画は、観る者を揺さぶる、あの手この手のテクニックを駆使した、ヒッチコック監督らしい作品だと思う。