牡牛座 レーニンの肖像の紹介:2001年ロシア映画。歴史を動かし、そして歴史に翻弄されたロシアの革命家レーニンの最晩年、暗殺未遂後の死の迫る中を這う姿をリアルに描き出す。
監督アレクサンドル・ソクーロフ 出演:レオニード・モズゴヴォイ(病人/レーニン)、マリヤ・クズネツォーワ(病人の妻/クルプスカヤ)、ナターリヤ・ニクレンコ(マリーヤ/レーニンの妹)、レフ・エリセーエフ(医師)、セルゲイ・ラジューク(客人/スターリン)、ほか
映画「牡牛座 レーニンの肖像」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「牡牛座 レーニンの肖像」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「牡牛座 レーニンの肖像」解説
この解説記事には映画「牡牛座 レーニンの肖像」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
牡牛座 レーニンの肖像のネタバレあらすじ:療養所の元革命家
とある森の中の邸宅の一室、雷が鳴るのを見ながら、それは神の御業ではなく電気だと語り、療養中の老人は現実主義者的な面を見せる。彼が、誰もがのぞき見をしているというと、部屋に医師が入ってくる。ドイツ語で話しながら、形而上学で死は証明されていない事実だと語る老人を診て、右半身麻痺と失語症を起こしている診断した。医師は老人に17×22が解けるか尋ねるが、解けなかった。ベッドに戻った老人は、掛け算の×のしるしの意味を考えていた。それはバツ印にも十字にも見えていた。 翌朝、妻がやってきて、ロシアにおける体罰の文献、マルクスの最期を読み聞かせようとした。しかし理解できず、未だ解けていない17×22について尋ね、パーコリを呼んだ。部屋にはパーコリではない人物がやってきた。この療養所は内線は通じるが外線が通じない。老人、レーニンにとってそれは祖国に繋がらないことを意味していた。実は電話回線は切断され、手紙はすべてパーコリが検閲していた。老齢で暗殺未遂の後遺症の残るレーニンに自殺をさせないためだった。医師に渡された数式が解けず、みなを追い出した。妻は、ここの人はみんな悪人。あなたは好かれていないとレーニンに教えた。
牡牛座 レーニンの肖像のネタバレあらすじ:死後の世界
レーニンが屋敷の外に出るとカメラマンが待っていた。それを拒みながら、妻を連れ立ってパーコリをはじめとする側近たちと車に乗って森へ出発した。車中で猟の真似事をするレーニン。途中、倒れた木に阻まれるも、近くにいた農夫にどかすのを手伝ってもらい、花の咲く草原へ着いた。ピクニックを始める二人。妻はマルクスの最期を読み始め、パーコリは見張りに立っていた。レーニンは妻に、自分の死後、太陽は昇るのか、残酷さは続くのか、と問う。何も変わらないと承知したうえで、労働者は資本家と戦うだろうと語った。彼は医師の出した計算がいまだに解けなかった。ひと月後には妻のことも分からなくなるだろうと予感していた。半身不随の彼は呻ながらも、草むらの中を一人で立とうとした。しかしそれもかなわず、護衛が彼を車椅子に乗せた。妻との間に子供のいないレーニンは、妻の読む本を聞き自分にもし子供がいたら鞭で打っていただろうと、子供がいないことに安堵していた。
牡牛座 レーニンの肖像のネタバレあらすじ:見舞いに訪れた政治家
ある日、療養所に訪問者がやってきた。彼はレーニンの部屋を訪れたが、レーニンはおらず、案内され屋上へ向かった。訪問者は、政治家スターリンだった。彼は、車椅子のレーニンに杖を渡した。本当はこの杖を党からの品として渡したかったが、トロツキーが反対して叶わなかった。レーニンはスターリンに電話が止まっているのは何故かと聞いた。そして、革命に付随する人道面での課題、そして革命を行い解放者である自分からなぜすべてを奪うのかと嘆いて、党に自殺用の毒とピストルを頼んだ。政治局の意見が必要だというスターリンは、時間がないと言うレーニンに、討議することを約束した。
牡牛座 レーニンの肖像の結末:最後に革命家が見たものは
レーニンはある日、兵士から銃殺者の悲惨な話を聞く。ギリシア悲劇を思い出した彼は、他人を殺せぬものは自らを殺さなければならないと、つぶやく。昼食が始まり、食卓についたレーニンは杖を使って一人で歩きながら、この杖を渡しに誰か来たかと尋ねた。党の書記長が来たとの答えに、やってきた人物がグルジア人か、ユダヤ人ではないのかと、スターリンが来たことを思い出そうとするが曖昧だった。レーニンの家族は、彼が毒を頼み、死にたいと思っていることを自己中心的だとなじった。しかし、彼にとって自分の今の状況は悲惨なものだった。身勝手と責める彼女たちに、人民が飢えているのに、自分たちがここで贅沢をしているのが恥ずかしい、シャンデリアに電気が使われていることにレーニンは怒り、食卓の贅沢な食器を落とし、グランドピアノを杖で打ち、暴れた。やがて羽交い絞めにされた彼は、介助されながら部屋へ戻った。その後、邸内の東屋で妻と過ごしていた所へ、中央委員会から電話だと呼び声がかかり、妻はレーニンを置いて邸宅の方はいってしまった。残された彼は一人立ち上がり、叫んだが返事はなかった。再び車いすに戻った彼が空を見上げると、雷鳴が聞こえ、雷雲が迫っていた。
牡牛座 レーニンの肖像のレビュー・感想:死を間近にした人物の見た雷の象徴するもの。
この作品の冒頭とラストに「雷」が出てくる。冒頭では、レーニンが母に語られた神の御業としての雷。その話は母親の信仰心の表れである一方で、レーニン本人にとっては科学的論拠のない話である。彼にとって、雷とは電気、つまり発電所でタービンを回して作られるエネルギーであることが語りの中からわかる。ロシアはそのほとんどが寒冷地で、セントラルヒーティングをはじめとして電気のもたらす恩恵は計り知れない。また、エネルギーの豊かさとは、国力とも言えるだろう。革命によって社会主義を始めた彼にとってその国力を公平に分配する事こそ、望みだったではないかと、邸宅内の豪華な調度品を嫌がるレーニンの姿から想像できる。ラストで雷を見る彼の表情はすこし柔らかい。それは自然現象として誰の上にも平等にある、雷というエネルギーをレーニンが感じたからではないかと思う。
この映画の感想を投稿する