スコルピオンの恋まじないの紹介:2001年アメリカ映画。犬猿の仲の男女が催眠術にかけられたことで恋に落ちていく様を描いた大人のロマンティックコメディ。1940年代のニューヨークを舞台に、往年のハリウッド映画へのオマージュが散りばめられた作品です。
監督:ウディ・アレン 出演者:ウディ・アレン(C・W・ブリッグス)、ヘレン・ハント(ベティ=アン・フィッツジェラルド)、シャーリーズ・セロン(ローラ・ケンジントン)、ダン・エイクロイド(クリス・マグルーダー)、エリザベス・バークレー(ジル)、ほか
映画「スコルピオンの恋まじない」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「スコルピオンの恋まじない」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
スコルピオンの恋まじないの予告編 動画
映画「スコルピオンの恋まじない」解説
この解説記事には映画「スコルピオンの恋まじない」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
スコルピオンの恋まじないのネタバレあらすじ:起
1940年代のニューヨーク。保険会社の調査員C・W・ブリッグスは、才女のキャリアウーマンであるベティ・アンを嫌悪しています。社長の愛人であるベティ・アンもまたブリッグスの存在を煙たがっていました。犬猿の仲の二人ですが、ブリッグスは社内改革を推進するベティとうまくやるように同僚達から忠告されるのでした。同僚の誕生会パーティーに参加したブリッグスとベティ・アンは余興で立たされたステージで、マジシャンから愛し合うように催眠術をかけられてしまいます。コンスタンティノープルという言葉の呪文にかけられた二人は、人が変わったように愛を語りあうのでした。催眠術はその場で解かれたかのように思われました。しかし帰宅したブリッグスは掛かってきた電話から呪文を聞いた途端、再び催眠状態に襲われてしまいます。ブリッグスはマジシャンから大邸宅に侵入し、宝石泥棒をするよう指示されます。
スコルピオンの恋まじないのネタバレあらすじ:承
朝起きると金庫を破ったことなどすっかり覚えていないブリッグスは、会社から依頼され被害のあったケンジントン邸へ調査へ向かうのでした。邸宅でブリッグスはクールな美女ローラと出会い、食事をする約束をします。その夜ブリッグスが帰宅するとローラがすでに家で彼の帰りを待っていました。しかし再び電話で宝石泥棒を命じられたブリッグスは、ローラの誘いを断り別の邸宅へと侵入していくのでした。自分が再び犯罪を犯したことなど覚えていないブリッグスは、一連の宝石泥棒は内部犯行なのではないかと推理し始めます。ベティ・アンを犯人と疑い始めたブリッグスは、捜査のため彼女の部屋に不法侵入します。しかし部屋を物色しているところで、ベティ・アンと社長が帰宅し、ブリッグスは二人の秘密の関係を知ってしまうのでした。社長には結婚する気などないことを悟ったベティ・アンはやけ酒を煽り始めます。さらに窓から身を投げようとしますが、ブリッグスによって助け出されます。そしてブリッグスは酩酊状態のベティ・アンを一晩中見守り続けるのでした。
スコルピオンの恋まじないのネタバレあらすじ:転
翌朝ブリッグスが出社すると、足跡や毛髪から彼が強盗犯であることが判明してしまいます。身に覚えのないブリッグスは必死に身の潔白を訴えるのでした。帰宅したブリッグスの元をベティ・アンが訪ねてきます。ブリッグスに犯罪を犯す度胸などないと考えるベティ・アンでしたが、本棚の中から盗まれた宝石を見つけてしまうのでした。二人が口論していると、電話が鳴りだし再びブリッグスは催眠術にかけられてしまいます。そして盗んだ宝石を包んで駅のコインロッカーに入れるよう命令されるのでした。ベティ・アンは社長にブリッグスが犯人であることを告白しますが、事件の裏には何かがあるのではないかと考えはじめます。逮捕されたブリッグスでしたが、ローラの助けを借りて脱獄に成功します。脱走してブリッグスが向かったのはベティ・アンの家でした。ベティは疲れて眠りだす彼を仕方なくかくまうことにします。しかし今度はベティ・アンのもとに電話が入り、催眠術にかけられた彼女はブリッグスと同じように宝石泥棒をしてしまいます。家に帰っても催眠状態から抜け出せないベティ・アンはブリッグスを誘惑しはじめます。しかし翌朝目覚めたベティ・アンは昨晩のことを全く覚えていないのでした。
スコルピオンの恋まじないの結末
事件の真犯人を追うブリッグスは、街へ出て手掛かりを探しだします。やがてこれまでの犯罪がすべて催眠術を使ったマジシャンの陰謀であったことを突き止めます。ブリッグスがマジシャンのアジトにやってくると、そこには催眠状態のベティ・アンが立たされていました。ブリッグスはマジシャンに銃を突き付けられますが、勇敢にベティ・アンを守ります。やがて警察がやってきて、マジシャンは逮捕されるのでした。催眠状態のままのベティ・アンはブリッグスの男らしさを称え、ブリッグスは後ろ髪をひかれながらも彼女とキスを交わします。その後事件は解決し、社長とベティ・アンは晴れて結婚することになりました。退職することを決めたブリッグスは同僚からベティ・アンを好きならば直感を信じて告白すべきだと助言されます。ベティ・アンへの愛を確信したブリッグスは、社長の前で堂々と彼女に愛を告白します。ばかげているとブリッグスをたしなめるベティ・アンでしたが、マダガスカルという言葉を聞いた途端、催眠術にかかったように再び彼にメロメロとなります。そしてベティ・アンは社長を捨て、ブリッグスと逃避行することを選びます。しかし実際にはベティ・アンは催眠術にはかかっておらず、ブリッグスは呪文なしで彼女の愛を獲得したのでした。
ウディ・アレン監督がハワード・ホークス、エルンスト・ルビッチ、ビリー・ワイルダー監督への限りなきオマージュを捧げた小粋でお洒落な作品が、「スコルピオンの恋まじない」ですね。
毎回、今度はどんな手で来るのかと、我々映画ファンをワクワクさせてくれる、ウディ・アレン監督の映画。
この映画「スコルピオンの恋まじない」は、1940年代のハリウッドのスクリューボール・コメディの復活を目論んだ、ウディ・アレンらしい小粋で、お洒落な作品です。
主人公のC・W・ブリッグス(ウディ・アレン)は、昔気質の保険調査員。
そんな彼の前に、超合理主義者のリストラ担当重役のベティ・アン・フィッツジェラルド(ヘレン・ハント)が、立ちはだかります。
水と油、まさに犬猿の仲の二人。
そんな二人がある日、ナイトクラブで胡散臭い催眠術にかけられてしまい、文字通り、”恋の魔法”になっていく—–という、思わずニンマリとしてしまう程、スクリューボールな展開になっていきます。
この二人、顔を合せれば、凄まじい言い争いを始めてしまうのですが、結局、この攻防も二人の仲を高めるためのプロセスであり、スクリューボール・コメディの定石が、この映画にはドンピシャと当てはまります。
この二人の饒舌ともいえるセリフの応酬を見ていると、真っ先に思い出すのが、ハワード・ホークス監督のケーリー・グラントとロザリンド・ラッセル主演の「ヒズ・ガール・フライデー」で、オフィスのレトロな雰囲気や同僚達とのアンサンブルまでよく似ていて、嬉しくなってきます。
ウディ・アレンも公言している通り、この映画はハリウッドの黄金時代の名画の数々へのオマージュが散りばめられていて、映画ファンとしては、ウディ・アレンの映画への限りなき愛に共感し、この映画に陶酔させられてしまいます。
インチキ魔術師の呪文に踊らされて、次々に宝石を盗んでいくブリッグスとベティ・アンですが、これは泥棒カップルの騒動を描いた、ハリウッド黄金期のソフィスティケイテッド・コメディの巨匠エルンスト・ルビッチ監督の「極楽特急」の設定を思わせ、ウディ・アレン監督のセンスの良さを感じます。
ブリックスにかけられる呪文”コンスタンチノープル”は、「極楽特急」でもお洒落なキーワードとして使われているので、思わずニャッとしてしまいます。
また、主人公の仕事が保険会社の調査員というのは、名匠ビリー・ワイルダー監督の「深夜の告白」と同じですし、更にソフト帽にトレンチコートというブリッグスの格好は、ウディ・アレンが敬愛してやまないハンフリー・ボガートが主演した、ハワード・ホークス監督の「三つ数えろ」での私立探偵のスタイルにそっくりで、大いに笑わせてくれます。
このように、ハワード・ホークス、エルンスト・ルビッチ、ビリー・ワイルダー監督といった、巨匠達の映画世界からヒントを頂戴しつつも、きちんとウディ・アレン・テイストに仕立て上げているところが、彼の凄いところだと感心してしまいます。
考えてみると、役者としてのウディ・アレンが、そこに登場するだけで、その映画はウディ・アレン・オリジナルになってしまう凄さ。
しかも、過去に彼が好んで演じた、”冴えない神経症の男”といったハマリ役を捨て去って、”デキル男”を溌剌と演じても、全く違和感なく、すんなりと馴染んでしまうから不思議です。
この映画が魅力的なのは、ひとえに偉大な過去の巨匠達に対するウディ・アレンの少年のように純真な、一人の映画ファンとしての心で満ち溢れているからだと思います。
この映画のようにシンプルで、奇をてらう事のない作品は、なかなかないと思うし、映画において、わかりやすさや親しみやすさが、いかに大切な事であるかを痛感させられます。