判決、ふたつの希望の紹介:2017年レバノン,フランス映画。ただ、謝罪だけが欲しかった…。中東レバノンを舞台に、レバノン人の男とパレスチナ難民の男とのささいな口論が、やがて国家を揺るがす法廷論争へと発展していく様を、レバノン出身の映画監督ジアド・ドゥエイリが自らの体験に基づいて描いたヒューマンドラマです。パレスチナ人の男を演じたカメル・エル=バシャはヴェネチア国際映画祭でパレスチナ人として初めて最優秀男優賞を受賞しています。
監督:ジアド・ドゥエイリ 出演者:アデル・マラム(トニー・ハンナ)、カメル・エル=バシャ(ヤーセル・サラーメ)、リタ・ハーエク(シリーン・ハンナ)、クリスティーン・シュウェイリー(マナール・サラーメ)、カミール・サラーメ(ワジュディー・ワハビー)、ディヤマン・アブー・アッブード(ナディーン・ワハビー)ほか
映画「判決、ふたつの希望」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「判決、ふたつの希望」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
判決、ふたつの希望の予告編 動画
映画「判決、ふたつの希望」解説
この解説記事には映画「判決、ふたつの希望」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
判決、ふたつの希望のネタバレあらすじ:起
レバノンの首都ベイルート。自動車修理工場を営むキリスト教徒のレバノン人男性トニー・ハンナ(アデル・マラム)は、身重の妻シリーン(リタ・ハーエク)から静かなダムールの地に引っ越したいという相談をされていました。しかし、“ダムール”という言葉を聞いたトニーは声を荒げ、「ここがいい!」と絶叫しました。
住宅補修の現場監督をしているパレスチナ人男性ヤーセル・サラーメ(カメル・エル=バシャ)はトニーのアパートに新しい排水管を取り付けていましたが、バルコニーの水漏れを巡ってヤーセルとトニーは衝突、ヤーセルはトニーに「このクズ野郎!」と罵声を浴びせました。怒りの収まらないトニーはヤーセルの会社の社長に謝罪を要求、社長に説得されたヤーセルは渋々トニーの工場まで謝罪に出向きましたが、感情の高ぶったトニーはついヤーセルに対して「お前らはみんなシャロン(終始パレスチナに対して敵対政策を執り続けてきたイスラエル元首相)に抹殺されていればよかったんだよ!」と決してパレスチナ人に言ってはならない言葉を発してしまい、怒りが爆発したヤーセルはトニーに殴りかかり肋骨骨折の大怪我を負わせてしまいました。
判決、ふたつの希望のネタバレあらすじ:承
トニーは家族から自分が原因だと咎められながらもヤーセルを告訴、二人の争いは法廷に持ち込まれました。ヤーセルはトニーへの暴行こそ認めたものの、トニーから発せられた言葉については黙秘、結局この裁判は証拠不十分として棄却されました。そんなある日、急に産気づいたシリーンは病院に搬送されましたが、帝王切開で誕生した赤ん坊は生死の境をさまよう状態でした。これも全てヤーセルのせいだと思い込んだトニーは、彼に謝罪させるために弁護士ワジュディー・ワハビー(カミール・サラーメ)に相談、一方のヤーセルと妻のマナール(クリスティーン・シュウェイリー)側にもワジュディーの娘である若手弁護士ナディーン(ディヤマン・アブー・アッブード)がトニーの発言は人種差別だとして弁護を買って出、ここに控訴審の初公判が始まりました。
判決、ふたつの希望のネタバレあらすじ:転
裁判が進むに従って、トニーがヤーセルに吐き捨てた言葉が明らかになると、レバノン人とパレスチナ難民との間で裁判に関する意見が真っ二つに分かれ、やがて法廷はレバノン中のマスコミがこぞって連日報道し続け、いつしか国を二分する大騒乱へと発展していきました。
ヤーセルの勤務先の建築会社はやむなく彼を解雇に踏み切り、一方のトニーの職場にはひっきりなしに脅迫電話が鳴り響く事態となっていました。事を重く見たレバノン大統領自ら仲裁に乗り出しましたが上手くいかず、相変わらず世論は二分されたままでした。そんな時、ヤーセルの車が故障しているのを見かけたトニーは無言で修理して去っていきました。やがてワジュディーは、トニーがダムール出身であることを突き止め、1976年1月20日、彼が6歳の時に故郷ダムールで遭遇した“ダムールの虐殺”について語り始めました。いたたまれなくなったトニーは父と共に法廷から退出していきました。
判決、ふたつの希望の結末
ダムールで実際に起こったこの虐殺事件は、事件の2日前にキリスト系民兵組織がパレスチナ難民やイスラム教徒を虐殺した“カランティナの虐殺”の報復として、レバノン国民運動(LNM)と提携したパレスチナ人の民兵集団がキリスト教徒の多く住むダムールを襲撃、500名以上の血が流れる大惨事となったのです。トニーは父に連れられて大虐殺から辛うじて生き延びており、ワジュディーはトニーもまた難民であると主張しました。その後、ようやくトニーの赤ん坊の容態が回復、トニーはシリーンとようやく笑顔を交わしました。
判決直前のある夜、トニーの元にヤーセルが現れました。ヤーセルはトニーがダムール出身であることに触れながら激しく侮辱、激怒したトニーは思わずヤーセルを殴り倒してしまいます。ヤーセルは「すまなかった」と謝罪の言葉を発してその場を去っていきました。
そして遂に訪れた判決の日、裁判長は被告の無罪を言い渡しました。ここに世論を二分した論争は終止符を迎え、対面したトニーとヤーセルは互いを称え合うかのような表情をみせました。
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