聖衣の紹介:1953年アメリカ映画。1942年に発表されたロイド・C・ダグラスの小説『The Robe』を映画化した歴史ドラマです。イエス・キリストの処刑に携わったローマ帝国の護民官が、キリストが処刑の際にまとっていた衣を巡る数奇な運命に巻き込まれていく過程を描きます。本作はアカデミー賞で美術賞(カラー)・衣裳デザイン賞(カラー)の2冠に輝き、1954年には続編となる『ディミトリアスと闘士』が公開されています。シネマスコープで製作された初めての映画です。
監督:ヘンリー・コスター 出演者:リチャード・バートン(マーセラス・ガリオ)、ジーン・シモンズ(ダイアナ)、ヴィクター・マチュア(ディミトリアス)、マイケル・レニー(ペトロ)、ジェイ・ロビンソン(カリグラ)、ディーン・ジャガー(ユースタス)、リチャード・ブーン(ポンティウス・ピラト)、トーリン・サッチャー(ガリオ元老院議員)、ベタ・セント・ジョン(ミリアム)、アーネスト・セジガー(ティベリウス)、レオン・アスキン(アビドール)、ジェフ・モロー(パウルス)、マイケル・アンサラ(ユダ)、サリー・コーナー(コーネリア・ガリオ)、ドナルド・C・クルーネ(ナザレのイエス)、キャメロン・ミッチェル(イエス・キリストの声)、パメラ・ロビンソン(ルシア・ガリオ)、ほか
映画「聖衣」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「聖衣」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
聖衣の予告編 動画
映画「聖衣」解説
この解説記事には映画「聖衣」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
聖衣のネタバレあらすじ:起
西暦30年頃、皇帝ティベリウス(アーネスト・セジガー)が統治していた頃のローマ帝国。貴族出身の護民官マーセラス・ガリオ(リチャード・バートン)は奴隷売買で次期皇帝のカリグラ(ジェイ・ロビンソン)と競い合っていました。
マーセラスが目を付けていた奴隷はカリグラに競り落とされ、マーセラスは剣闘士として獣に喰われる運命だったギリシャ人奴隷のディミトリアス(ヴィクター・マチュア)を競り落としました。
マーセラスには子供の頃に結婚する約束を交わした幼馴染のダイアナ(ジーン・シモンズ)がいました。しかし、ダイアナにはカリグラが後見人としてついており、マーセラスはダイアナにカリグラとは結婚しないよう誓わせました。
マーセラスがディメトリアスを競り落としたことはカリグラの怒りを買い、マーセラスは元老院議員である父ガリオ(トーリン・サッチャー)、母コーネリア(サリー・コーナー)、妹ルシア(パメラ・ロビンソン)に責められました。カリグラはマーセラスをエルサレムに左遷することにし、マーセラスは自由の身としたディメトリアスを伴って旅路につきました。
聖衣のネタバレあらすじ:承
エルサレムに到着したマーセラスは、“救世主”と人々から崇められている“ナザレのイエス”(ドナルド・C・クルーネ)の存在を知りました。百人隊長のパウルス(ジェフ・モロー)はマーセラスにイエスを捕らえるよう指示し、イエスを信じるディメトリアスは、イエスが使徒ユダ(マイケル・アンサラ)の裏切りにより連行されたことを知りました。
翌朝、総督ポンティウス・ピラト(リチャード・ブーン)に呼び出されたマーセラスは、ピラトの尽力あってローマに帰れることになったと告げられましたが、その前に囚人3名を処刑するよう命じられました。
囚人の中にはイエスが含まれており、ディメトリアスはイエスの無実を訴えましたが、聞き入れられませんでした。ピラトは妻からも反対されており、心に迷いがありましたが、結局イエスはゴルゴダの丘で十字架にかけられて磔刑にされました。
イエスの処刑を終えたマーセラスは、良心の呵責からか酒場で酒に溺れ、パウルスらとサイコロ遊びに興じていました。パウルスらはイエスが処刑の際に身にまとっていた衣を賭けており、賭けに勝利したマーセラスが衣を手に取ると突然天は荒れ、雨が降り始めました。
マーセラスやディメトリアスの耳には「父よ許したまえ、彼らは知らぬだけなのです」というイエス(声:キャメロン・ミッチェル)の声が聞こえ、苦しみ出したマーセラスは衣を投げ捨ててしまいました。ディメトリアスはマーセラスを責め、衣を手にして立ち去りました。ティベリウスのいるカプリに戻る途中の船内でマーセラスは悪夢にうなされました。
聖衣のネタバレあらすじ:転
カプリに戻ったマーセラスはダイアナと再会、自分は心を病んでしまっていることを伝えました。その後、マーセラスはティベリウスに接見し、ダイアナには改めてカリグラとの結婚を諦めてほしいと伝えました。マーセラスからの報告を受けたティベリウスは、衣を見つけて処分することとイエス信者の中で反逆を目論む者を炙り出すことをマーセラスに命じました。
マーセラスは毛織物商人に扮し、同行者のアビドール(レオン・アスキン)と共にガリラヤに向かいました。マーセラスはそこで、ディメトリアスらしき人物が“大男の漁師”と行動を共にしていることを知りました。
マーセラスは旅の過程で、イエスの教えを説く老人ユースタス(ディーン・ジャガー)、イエスの奇蹟で足を治してもらったというユースタスの孫、全身が麻痺する重病を患いながらもイエスに魂を救われたという女性ミリアム(ベタ・セント・ジョン)と出会い、イエスが復活を遂げたことを知りました。疑問に思うマーセラスに、ミリアムは改めてイエスの教えを説き、愛の大切さを伝えました。
やがてマーセラスは漁師ペトロ(マイケル・レニー)と行動を共にするディメトリアスと再会、自ら衣を焼き捨てようとしましたが、衣に触れているうちに自身を蝕んでいた苦しみから解き放たれ、初めてイエスの教えを理解していきました。マーセラスはペトロと共にローマに向かうことにし、キリスト教徒として生まれ変わることをペトロに伝えました。
聖衣の結末
その頃、ローマではティベリウスが亡くなり、カリグラが新皇帝に即位していました。カリグラはダイアナが自分ではなくマーセラスについたことに怒りを露わにしており、キリスト教徒の弾圧に乗り出していました。
カリグラはディメトリアスを捕らえて拷問にかけ、その様子をダイアナに見せつけました。ダイアナと再会したマーセラスはディメトリアスを救い出す決意を固め、改めてマーセラスへの想いを強めたダイアナは自らもキリスト教徒になる決心をしました。
マーセラスは宮殿に忍び込んでディメトリアスを助け出しましたが、父ガリオから皇帝に歯向かったとして勘当を言い渡されてしまいました。マーセラスはダイアナとディメトリアスを連れて逃げようとしましたが、追っ手に気付いたマーセラスはディメトリアスにペトロの元へ向かうよう指示し、別れを告げたのちに捕らえられました。
裁判にかけられたマーセラスは、イエスを磔刑にしたのは過ちであり、奴隷制度を続けてキリスト教徒を迫害し続けるカリグラの姿勢を厳しく批判しました。マーセラスは最後まで信仰を捨てることなく反逆罪で死刑を宣告され、マーセラスと共に殉教することを選んだダイアナは、カリグラを皇帝を気取る怪物であり国を破滅に導く者だと非難しました。
ダイアナは衣をペトロに渡すよう侍従に託し、マーセラスとダイアナは安らかな気持ちで処刑場へと向かっていきました。
以上、映画「聖衣」のあらすじと結末でした。
この映画「聖衣」は、公開当時、ハリウッド映画界が新興のテレビに対抗するために、長年にわたり研究開発されてきた”シネマスコープ”方式の記念すべき第一回作品で、聖書に基づいたロイド・C・ダグラスのベストセラー小説の映画化です。
テレビという面白くて、日本では電気紙芝居とも言われたほどの、便利な媒体が生まれたものだから、ハリウッド映画界としては、相当焦ったことが想像されます。
もう何とかして映画館に来て貰わなくてはと必死になるのは当然です。
自宅のテレビで、ちまちまとした小さな画面を見るよりも、映画館の大スクリーンで迫力の映像を見る方がずっといいんだぞーと、思わせるための”シネマスコープ”だったということなのだろうと思う。
そして、この”シネマスコープ”の記念すべき第1作目が、聖書の物語だった、というのも非常に興味深いと思う。
日本人にはあまり馴染みのない聖書ですが、欧米人にとっては、とても身近なものだったのです。
この題材なら、きっと人が集まるだろうという魂胆が見え見えなのも面白いですね。
この映画の主人公は、キリストではなく、キリストを処刑したローマの護民官マーセラス(リチャード・バートン)なのです。このヒネリは凄くいいと思いますね。ストレートではないところが、実にうまいなと思います。
そして、この映画は私が好きな「ミイラ取りがミイラになった」系列のストーリーなのです。
つまり、悪人が善人に感化されて善人に変わるとか、性格の悪い人が恋愛などのきっかけで良い人になるとか、といった類の物語ですね。
この映画の主人公のマーセラスは、キリストの処刑直後、キリストが最後に纏っていた赤いローブをサイコロ賭博で手に入れたものの、自分ではおってみた途端に気分が悪くなり、呪われてしまったと思い込んで恐怖にかられてしまう小心者です。
きっかけは恐怖だったというわけで、人間が変わる理由としては至極もっともなことです。
昔も今も、国も民族も問わず、”呪い”とか”たたり”に恐怖を抱くのは、人間の本能に近いことではないかと思います。
マーセラスは、ローマ皇帝のカリギュラと一人の奴隷を争って勝利し、ディミトリアス(ヴィクター・マチュア)を買い取ります。奴隷のディミトリアスは、キリストを深く信心していたため、マーセラスも次第にキリストの教えに魅かれていきます。
そして、神の愛に目覚めたマーセラスは、やがて恋人のダイアナ姫(ジーン・シモンズ)と共に処刑されるのですが、スペクタクルなシーンを交えながら大迫力で描いていきます。
立体音響を効果的に演出した雷の響き、馬車の音も実に素晴らしかったと思います。