隔たる世界の2人の紹介:2020年アメリカ映画。黒人が白人警官に殺害される事件が今なお相次ぐ、今なお人種差別問題に揺れ続けるアメリカの暗部を痛烈に風刺した短編作品です。白人警官に殺害され続ける無限のタイムループに囚われてしまった主人公の黒人男性。彼は理不尽な運命から抜け出そうと必死にもがき続けますが…。本作は第93回アカデミー賞で短編映画賞を受賞しています。
監督:トレイヴォン・フリー、マーティン・デズモンド・ロー 出演者:ジョーイ・バッドアス(カーター・ジェームズ)、アンドリュー・ハワード(マーク巡査)、ザリア・シモン(ペリー)、マイケル・モラヴェク(コーヒーを持ったビジネスマン)、モナ・シソーディヤー(果物売りの女性)ほか
映画「隔たる世界の2人」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「隔たる世界の2人」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
隔たる世界の2人の予告編 動画
映画「隔たる世界の2人」解説
この解説記事には映画「隔たる世界の2人」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
隔たる世界の2人のネタバレあらすじ:起
アメリカ・ニューヨーク。グラフィックデザイナーをしている黒人男性のカーター・ジェームズ(ジョーイ・バッドアス)は昨晩知り合ったばかりの黒人女性ペリー(ザリア・シモン)のアパートで一夜を共にしていました。
翌朝、カーターはペリーが眠っている間に家に帰ろうとし、起きたペリーはからかい半分に「黙って帰るつもり?」と引き留めました。カーターはペリーから、これから一緒にジャマイカ料理店に行こうと誘われましたが、カーターは自宅で留守番をしている愛犬ジーターのことが気になっていました。
帰り支度を始めたカーターに、ペリーはいつでもジーターのシッターになってあげると告げましたが、キッチンに向かう際に誤ってテーブルの瓶を落として割ってしまいました。カーターとペリーは「あと300回は会おう」と約束し、カーターは部屋を後にしました。
カーターは自動的に餌やりも行えるスマホ連動型の監視カメラでジーターの様子を確かめました。通りに出たカーターは道端でタバコを吸っていたところ、コーヒーを手にしていたビジネスマンの男(マイケル・モラヴェク)とぶつかってしまいました。
ビジネスマンはこぼれたコーヒーで服が汚れてしまい、カーターは「俺の不注意だ。クリーニング代は弁償するから」と謝りましたが、ビジネスマンはそのまま足早に立ち去っていきました。
その直後、カーターは近くにいたニューヨーク市警の白人警官、マーク巡査(アンドリュー・ハワード)に呼び止められました。カーターはビジネスマンとぶつかった時に自分のバッグから落としたマネークリップを拾い上げましたが、マーク巡査はカーターに「このタバコは妙な臭いがする。妙なタバコを吸う男が大金を持っている」と言いがかりをつけ、強引に所持品検査を求めてきました。この様子を近くにいた屋台で果物を売っている女性(モナ・シソーディヤー)がスマホで撮影していました。
マーク巡査はカーターを壁に押し付け、バッグの中身を見せるよう強要しました。カーターは抵抗し、果物売りも「彼はなにもやっていない」と主張しましたが、マーク巡査は駆け付けた仲間の警官二人と共にカーターを地面に押さえつけました。
胸を圧迫されたカーターは「息ができない。苦しい」と訴えましたがマーク巡査らは聞き入れずになおも抑え続け、カーターは窒息死してしまいました…。
隔たる世界の2人のネタバレあらすじ:承
…次の瞬間、カーターはペリーの部屋で目覚めました。カーターは「ひどくリアルな夢を見ていた」と息を荒くしていました。カーターから愛犬ジーターのことを聞いたペリーはいつでもシッターになってあげると言い、キッチンに向かう途中でテーブルの瓶を落として割ってしまいました。カーターはどこかで見たことのあるような既視感に首をかしげました。
通りに出たカーターはタバコに火をつけました。カーターは危うくコーヒーを持ったビジネスマンにぶつかりそうになりましたが、間一髪でかわしました。その時、カーターはマーク巡査に呼び止められ、タバコの件でいちゃもんをつけられました。
カーターは「警察に会って喜ぶのは白人と警察仲間だけだ」と皮肉を言いましたが、マーク巡査は構わず所持品検査を強要してきました。カーターは拒否権を盾に抵抗しましたが、マーク巡査は「逮捕する!」と叫ぶとカーターに数発の銃弾を浴びせました…。
カーターはまたもやペリーの部屋で目覚めました。「一体どうなってるんだ?」ペリーからジャマイカ料理店に行こうと誘われたカーターは部屋から出ないことにし、ペリーと一緒にフレンチトースト作りを始めました。
すると、玄関から激しくドアをノックする音が聞こえてきました。「今すぐドアを開けろ!」ペリーが覗き穴から外を確認した次の瞬間、武装したニューヨーク市警の警官隊がなだれ込んできました。警官たちは無抵抗のカーターを射殺しました。
ペリーはどういうことかと事情を訊くと、警官たちは「麻薬の捜査令状がある」として部屋の住所を尋ねてきました。ペリーが答えると、どうやら警官たちは部屋の番号を間違えてしまったようでした。
隔たる世界の2人のネタバレあらすじ:転
カーターはまたしてもペリーのベッドで目覚めました。カーターは悩んだ末、バッグをペリーの家に置いて手ぶらで外へ出ました。ところが、外ではマーク巡査が待ち伏せしており、カーターは逃げようとしたところを射殺されました。
カーターはまたもやペリーのベッドで目覚めました。カーターは今度は別の方向に逃げようとしましたが、またもや追ってきたマーク巡査に射殺されました。マークは何度もペリーのベッドで目覚め、何度も逃げようとしてはマーク巡査に殺されることを繰り返し続け、その度に事情を把握していないペリーの前で「ちくしょう」「どうしてなんだ?」と苛立ちを露わにしました。
何度も何度も殺され続け、カーターはどうすればこの無限のタイムループから抜け出せるか頭を抱え続けていました。そこでカーターはペリーに「毎日誰かに命を狙われたら?」と相談しました。するとペリーはそっけなく「私なら逆にその人を殺しちゃう」と答えました。
カーターはペリーに銃を持っているのか尋ねると、ペリーは「アメリカに住む黒人女性なら当然よ。ただし、相手が黒人だったら撃たずに話をするけどね」と拳銃を所持していることを認めました。カーターはペリーが危うく落としそうになったテーブルの瓶をキャッチしてみせました。
カーターは意を決して通りに出、待ち構えていたマーク巡査に自分の方から声をかけてみました。カーターは「上手く説明できないけど、俺は毎朝、巡査に出くわして殺される夢を見るんだ」と説明し、口を開こうとしたマーク巡査に「“妙なタバコ”の話をするんだろ?」と先回りしてみせました。
カーターに真意を見抜かれたマーク巡査は開き直って「手を上げたまま身分証を見せろ」と命じると、カーターは「どうなるかはわかってる。バッグの中の金を見てアンタはこう言うんだ。“妙なたばこを吸う男が大金を持ってる”ってね。俺は所持品検査を拒否して、この後に殺される」とマーク巡査の狙いを言い当ててみせました。
逆上したマーク巡査が所持品検査を強行しようとすると、カーターは「いいから周りを見てくれ。これからあのカップルはキスする。あの女性は自撮りする。あのスケーターは着地に失敗してコケる」とこれから起こることを全て予見してみせました。カーターは「俺はただ家に帰りたいだけなのに」と言うと、マーク巡査は「撃たれたくないなら、ここからさっさと消えろ」と吐き捨てました。
これでもう殺されることはない。カーターはこう確信しながらマーク巡査の元を離れて裏路地に入りました。カーターはタバコに火をつけると、二人組の黒人の青年が別の警官に追われていました。二人組はカーターとすれ違って逃げ、カーターは警官に呼び止められて「両手を上げろ。仲間はどこへ行った?」と怒鳴りつけられました。
隔たる世界の2人の結末
「またかよ」カーターはまたしてもペリーのベッドで目を覚ましました。通りに出たカーターは、外で待ち構えていたマーク巡査に99回も同じことが続いていることを説明しました。「気味が悪い男だな」と言うマーク巡査に、カーターは家まで送ってくれるよう頼みました。
カーターはマーク巡査の運転するパトカーで家まで送ってもらうことになりました。後部座席に座らされたカーターは、自分はまるで犯罪者のような扱いをされていると感じました。カーターは家族構成について質問すると、マーク巡査は「妻と3人の子供、そして2匹の犬。典型的なアメリカ人だ」と答えました。
続けてマーク巡査は、自分が警官になったのは「この国は腐ってる。法や秩序を尊重しない者が増えた。俺は昔にいじめを受けてきた。今やその反対側で相手をムショにブチ込める立場だ」と理由を語りました。
カーターは「警察は黒人に厳しい。白人なら冗談で済ませられる事件も黒人なら終身刑だ」と現実を語ると、マーク巡査は「罪を犯した人間は人種が何であろうと責任を負うべきだ。黒人に犯罪を強要したのか?」と逆ギレしました。カーターは「白人は生まれながらにして“白人”という恩恵を受けている」と語ると、マーク巡査は「黒人とこんなに話したのは初めてだ。興味深いが全てに納得はできないがね」と返しました。
パトカーはカーターの家に近づいていきました。近くの家の屋根には、白人警官によって殺害された黒人男性ジョージ・フロイドの名前が記されていました。やがてパトカーはカーターの家のすぐ近くの駐車禁止エリアに停まりました。カーターは「“また会おう”と言おうとしたけど、もうごめんだ。送ってくれてありがとう」とマーク巡査と握手を交わしました。
そしてカーターはようやく愛犬ジーターの待つ我が家に入ろうとしたその時、マーク巡査は拍手をしながら「ブラボー! 名演だったよ、カーター」と声をかけました。マーク巡査は「楽しませてもらったよ。俺の良心に訴えてかけてくるとはよく考えたもんだな、最高だった。勇気は褒めてやる。だが今回だけだ」と言うと、自分もカーターと同じくタイムループを繰り返していることを明かしました。
そしてマーク巡査は拳銃を構え、逃げようとするカーターに数発の銃弾を撃ち込みました。マーク巡査は「また明日な」と告げてその場を後にしました。その場に倒れたカーターの体からはおびただしい血が流れ、それはアフリカ大陸のような形の血の海となりました…。
…カーターはまたしてもペリーのベッドで目覚めました。カーターはペリーに、自分は100回も同じ“夢”を見ていると明かしました。カーターは「俺がどんな話をしても無駄だとわかった。奴は俺を殺したいだけなんだ。どれだけ時間がかかっても、何度繰り返しても、俺は絶対に愛犬の待つ家に帰るんだ」とペリーに告げて部屋を後にしました。
隔たる世界の2人のエンドロール
エンドロールでは、現実世界で実際に白人警官に殺害された黒人の名前が取り上げられました。
警官と口論の末に殺害されたエリック・ガーナー、玄関の鍵を変更中に殺害されたミシェル・クソー
精神疾患による発作中に殺害されたタニシャ・アンダーソン、公園で遊んでいたところを殺害されたタミル・ライス
統合失調症の発作中に殺害されたナターシャ・マッケナ
買い物に行く途中に殺害されたウォルター・スコット
玄関で対応中に殺害されたベティー・ジョーンズ
夕食からの帰宅途中に殺害されたフィランド・カスティール
リビングでアイスを食べていたところで殺害されたボサム・ジーン
家で甥の子守りをしている時に殺害されたアタティアナ・ジェファーソン
駐車場に車を入れていたところを殺害されたエリック・リーズン
自分の車で寝ていたところを殺害されたレイシャード・ブルックス
近所を歩いていたところを殺害されたエゼル・フォード
帰宅途中に殺害されたイライジャ・マクレーン
ベッドで就寝中に殺害されたドミニク・クレイトン
同じく就寝中に殺害されたブリオナ・テイラー
そして買い物に出かけていたところを殺害されたジョージ・フロイド など…。
映画は「彼らは被害者の一部にすぎない。彼らの名前を呼ぼう。彼らの名前を心に刻もう」という製作者側のメッセージ、そして伝説のラッパー、2パックが遺した「隔たる世界の2人ではなく、一人の人間として俺を見てほしい」というメッセージで幕を閉じます。
以上、映画「隔たる世界の2人」のあらすじと結末でした。
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