沈黙の紹介:1962年スウェーデン映画。巨匠ベルイマン監督の「鏡の中にある如く」「冬の光」と並ぶ「神の沈黙」三部作のひとつ。女性の自慰行為の場面やあからさまなセックス描写が初公開当時問題となった。キネマ旬報ベストテンでは9位に入選。
監督:イングマール・ベルイマン 出演:イングリッド・チューリン(エスター)、グンネル・リンドブロム(アンナ)、ヨルゲン・リンドストロム(ヨハン)、ビルイェル・マルムステーン(ウェイター)
映画「沈黙」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「沈黙」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「沈黙」解説
この解説記事には映画「沈黙」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
沈黙のネタバレあらすじ:起
汽車のコンパートメントに3人の乗客がいます。エスターとアンナの姉妹、そしてアンナの息子のヨハン少年です。どこか外国らしく、窓の外には戦車が見えます。ヨハンは窓から看板などの文字を読もうとしますが、どうやら外国語らしく意味が分かりません。やがてホテルに落ち着く3人。エスターが汽車の中で気分が悪くなり、そのために宿を取ったのです。休んだお陰で、彼女は元気になりました。ホテルでは何もやることがないため、つい眠ってしまうアンナとヨハン。エスターも持参していた翻訳仕事をやっていましたが退屈し、自慰行為に耽ったりします。
沈黙のネタバレあらすじ:承
やがて目が覚めたヨハンはホテルの中を見学。給仕にからかわれますが、やはりその言葉は外国語らしく意味不明です。アンナもベッドから起き出し、念入りに化粧をした上で外出。エスターはまた気分が悪くなり、このまま異国で死ぬのではないかという不安に怯えはじめます。街中のカフェに入ったアンナはウェイターに色目を使われ、満更でもありません。カフェを出て劇場へ入ると、小人たちのショーをやっていました。
沈黙のネタバレあらすじ:転
ところがそばの床の上を見ると、男女のカップルがセックスの真っ最中。思わず席を立ち、外へ出るアンナ。そこにはさっきのウェイターが待っていて、アンナについてくるように促します。しばらくしてアンナはホテルに戻りますが、エスターはそのスカートの尻の辺りに嫌悪のこもった視線を投げます。そこは黒く汚れていました。夜になり、アンナはエスターへ当てつけるように、ウェイターと教会の中でセックスをした事を詳しく告げます。やがて、そのウェイターがホテルまでやってきて、廊下でアンナとキス。その様子をヨハンがじっと見つめます。アンナたちはすぐに部屋の中へ。
沈黙の結末
朝になり、起こしに来たエスターの前でまたセックスを始めるアンナとウェイター。男の愛撫を受けながら、アンナは日頃のエスターへの恨みつらみをぶちまけます。やがてアンナはヨハンと食事のため外出。その間にエスターはまた体調が悪くなり、大変な苦しみ方をします。結局、旅が続けられなくなったエスターを置いてアンナとヨハンはまた汽車へ。ヨハンには最初から最後までその国の言葉はわからないままでした。
この映画「沈黙」の監督は、世界最高の映画作家と言われる、スウェーデンのイングマール・ベルイマン。
旅の途中、小さな町に立ち寄った姉と妹。
結婚している妹の方には、小さな男の子がいますが、妹はこの言葉の通じない町で、もう本能のおもむくままに行動します。
知的な姉は、かつて男との経験はあるのですが、今は妹を愛することと、自分を慰めることしか、孤独を忘れる術を知りません。
ただ一人、ホテルのベッドで、彼女が自分を慰めるシーンは、ある意味、恐ろしい場面です。
この映画の題名の「沈黙」というのは、本能をあからさまにした人間の目をおおう行動に、神々が沈黙するという意味なのだ。
その沈黙の中に語られる、色々なこと、孤独、生命の不安、官能のほとばしり。
中でも、誰もいない真夜中の町を、ゴトゴト戦車が、不気味に動きますが、これは明らかに戦争の恐怖、死の影を意味しているのだと思う。
町の言葉が全然通じないという設定も、実は、この沈黙の象徴になっているのです。
大胆な人間の本能の描写と共に、作家がその裏で、人間の本能の恐ろしさ、哀しさを語っているんですね。
とにかく、この作品は、人間の本性と神との対立を追及して、本当に恐ろしい映画だと思う。
最初に、姉が甥に渡した手紙の文字、あれは、この国の言葉で”精神”という意味で、そこにベルイマン監督は、いったい何を託したのだろうか?
私は、死を予感した姉が、自分の願望、理想の全てを甥に託そうとしたこと、そして、その裏側には、孤独な本能の誘惑に負けながら、知性にすがって生きるしかなかった、哀しい人間のコンプレックスと不安が、まざまざと込められていたのだと思う。
それにしても、映画でここまで人間の本性を抉り出した、イングマール・ベルイマンという映画作家は、実に偉大だと思う。