ディア・ドクターの紹介:2009年日本映画。笑福亭鶴瓶の映画初主演作です。無医師の小さな村に赴任してきたある医師は、その人柄から村人や同僚らに親しまれていました。しかし、ある老女とのやり取りをきっかけに、医師の隠された素顔が明らかになっていきます。
監督:西川美和 出演:笑福亭鶴瓶(伊野治)、瑛太(相馬啓介)、余貴美子(大竹朱美)、香川照之(斎門正芳)、八千草薫(鳥飼かづ子)、ほか
映画「ディア・ドクター」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ディア・ドクター」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
ディアドクターの予告編 動画
映画「ディア・ドクター」解説
この解説記事には映画「ディア・ドクター」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ディアドクターのネタバレあらすじ:起
人口1500人ほどの山あいにある小さな村、神和田村の唯一の診療機関・村営診療所から、医師だった伊野治(笑福亭鶴瓶)が突然姿を消しました。伊野と共に働いてきた看護師の大竹朱美(余貴美子)や、伊野が失踪する2ヶ月前から赴任してきた研修医の相馬啓介(瑛太)は、村人から慕われてきた伊野がなぜ姿を消したのか理由がわかりません。程なくして波多野刑事(松重豊)ら警察が伊野の捜索にあたりますが、驚いたことに村人の誰しもが、伊野の詳しい素性を知りませんでした。
約3年前、村長(笹野高史)が役場の健康診断にいた伊野を、それまで医者が一人もいなかった村へと連れてきました。村人のあらゆる医療を一手に引き受け、また身寄りのない老人たちの話し相手も受け持ち、その大らかな性格もあって村人みんなから親しまれる存在となっていった伊野。2ヶ月前に研修のために相馬が東京から赴任してきたのですが、彼は村へ来た初日に車で事故を起こして診療所に運びこまれます。
目が覚めた相馬はベットに寝かされており、周りには老人が珍しそうに彼のことを見ていました。飛び起きた相馬は診察中の伊野に挨拶をします。伊野は相馬を診察しながら、なぜこんなへき地に来たのか尋ねました。すると、「都市型医療よりも、田舎での医療に興味があった。」と答える相馬。外傷はなく軽い脳震とうだと診断しますが、心配なので近くの病院で診てもらえるように伊野は紹介状を書こうとします。
そこへ呼び出しの電話があり、伊野は相馬の運転する車に乗せてもらい、老人宅へ駆けつけることになりました。伊野達が駆けつけた時には老人は布団ですでにぐったりとしており、すぐに息を引き取ります。心肺蘇生をしようとする伊野ですが、老人の家族はそれを望まない様子でした。介護に疲れ切った様子の家族を見て、何もほどこさずにいる伊野。最後の別れに伊野は亡くなった老人を抱きしめようとします。その瞬間、赤貝が口から飛び出して老人は息を吹き返しました。それを周りで見ていた村人は驚き、「さすが先生!」と伊野のことを称えました。
ディアドクターのネタバレあらすじ:承
伊野は診療所に来ないお年寄りのために、自らが家に出向いて診療をしていました。そんなある日、伊野は独り暮らしの老人・鳥飼かづ子(八千草薫)を診察することになります。畑で倒れているところを村人に助けられたかづ子。「ちょっと暑かったから…」とかづ子は言いますが、伊野は彼女の胃の病気に気が付きます。その時は周りに村人もいたため、胃薬を置いて帰りましたが、その夜ふたたび彼女の家を訪ねることにしました。
かづ子の夫は亡くなっており、娘は離れて暮らしています。東京で医師をしている娘のりつ子(井川遥)もいますが、「娘には心配を掛けたくない…」と体のことは相談していませんでした。医療を受けたくないと話すかづ子は、「離れて暮らす娘たちに迷惑だけはかけたくない。家族には自分の病気のことは伝えずに、嘘をついてほしい。」と伊野に頼みます。そんな彼女の申し出を引き受けた伊野は、検査だけは絶対に受けてほしいと伝えました。
後日、診療所を訪れたかづ子を胃カメラを使って診察します。診察後、伊野はただの胃潰瘍だと報告し、胃がんだと思っていたかづ子はホッとしました。その後もかづ子の家へ往診をすることで、伊野は彼女と親交を深めていくのでした。
そんなある大雨の日、事故に遭った急患が診療所に搬送されてきます。患者の胸の音を聞く伊野ですが、胸の音が聞こえず処置に戸惑います。大竹は、「気胸じゃないですか?」と言いますが、それでも処置に躊躇する伊野。自分が処置をするわけにはいかない大竹は、「昔救急で働いていたことがありました。自分が誘導するので、胸に針を刺して空気を抜いてください。」と指示します。大竹から針を渡され、彼女の指示通りに動く伊野。
その後、男性は病院に運ばれて何とか一命をとりとめました。病院の医師は、伊野の処置を大いに称えます。本当は逃げ出したい気持ちでいっぱいの伊野ですが、それでも村人をほっておくことはできず、その後も大竹や相馬と共に診療を続けました。
ディアドクターのネタバレあらすじ:転
次第に伊野の影響を受け始め彼のことを尊敬するようになっていた相馬は、「研修が終わった春から、再びこの村で働きたい。」と伊野に申し出ます。すると、伊野の様子ががらっとかわり、まるで別人のようなことを言い出します。「自分は好きでこの村にいているわけではない。金で雇われているだけだ…」などと言い出す伊野。「ずるずるとこの村にいる羽目になっただけだ。」と話す伊野は、自分は偽医者だと告げます。相馬はそれでもあつい気持ちを伊野に伝え、村で働くことを夢見ていました。
お盆になり、かづ子の娘たちが村に戻っています。病院に勤める娘のりつ子は、かづ子が飲んでいる薬を見て疑問に思い、診療所を尋ねます。実はかづ子の診断結果は胃がんでした。しかし家族には言わないでほしいと頼まれていた伊野は、かねてからの取引相手である置き薬屋の斎門(香川照之)に頼んで代わりに胃カメラ診断を受けてもらい、二人の診断画像をすり替えることにしました。
そして斎門の画像をかづ子のものだと嘘をついてりつ子に見せる伊野。かづ子との約束を守って嘘を付き通しますが、りつ子は母親の症状とは少し違うのではないかと疑います。しかし最後には納得したりつ子は、「次に帰省できるのは1年後なので、それまで母親をよろしくお願いします。」と頭を下げました。このことに伊野は大きく動揺し、「すぐに戻ります。」と言って診療所を出て行きます。
そして、かづ子のいる畑へ行く伊野。かづ子を見つけると白衣を脱いで手を振ります。そして、そのまま白衣を田んぼに投げ捨てると、伊野はバイクで走り出しました。途中で会った斎門に、かづ子の本当の診断画像を渡して村を出て行く伊野。
斎門から母親の診断画像を見せられて、りつ子は愕然とします。伊野が何も告げずに診療所を飛び出し、訳も分からない相馬は連絡をとろうとします。しかし留守番電話になっており、連絡が付きません。
ディアドクターの結末
その夜、りつ子は自分の病院で一度検査してみないかとかづ子にすすめていました。しかし、かづ子はそれを断ります。泣き出すりつ子を見て、「行ってみようかな…」と、腹をくくるかづ子。
その頃村では、伊野がいなくなり大騒ぎになっていました。田んぼからは伊野の白衣が見つかり、相馬は田んぼに入って伊野を探します。村人に警察は聞き込みを開始しますが、誰も彼の行き先を知るものはおらず捜索は困難を極めました。そして、ついに警察は伊野の両親に連絡をとることで、彼が医師免許を持っていない偽医者だと判明します。
警察は大竹、かづ子、相馬や斎門の元を訪れて、伊野の行方を知らないかと尋ねます。しかし誰も伊野の行方に見当もつきません。それに加えて彼に騙されていたにもかかわらず、悪口を言う者は誰もいませんでした。警察は、なぜ誰も伊野が医師ではないと気が付かなかったのか不思議でなりません。それ以上に、村人が伊野を尊敬していたことを理解できないでいます。
金でも愛でもなく、ただ困っている人を助けずにはいられなかった伊野。彼の父親は、医師をしていました。しかし伊野は医学部ではない普通の大学を出た後、10年間医療企業の営業マンをしていたことが判明。
その後、伊野がいなくなった村の診療所は閉ざされ、かづ子はりつ子の勧めで東京の病院に転院しました。そんなある日、かづ子はマスク姿の給仕の男が微笑みかけてくるのをじっと見つめます。その男の正体は、この病院に身分を偽って潜伏していた伊野その人でした。伊野を見て、ホッとした表情を浮かべるかづ子でした。
以上、映画「ディア・ドクター」のあらすじと結末でした。
「ディア・ドクター」感想・レビュー
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観て疲れる映画も悪くないが、鋭い社会性をありふれた日常に落とし込むつくりは、静かな主張の知性が悪くない。原作脚本監督の西川氏の才能。キャスティングも、十二分に過不足ない。それぞれの俳優が静かに受け入れられる魅力に満ちている。いい作品だ。いずれ再び観るだろう。
いい映画です。ただ、場面転換のたびに、とっさには何のことか分からず、考えさせてしまう手法は、監督がこの程度のレベルで分からない人が居ても仕方がないと、それが芸術だと構えてしまっている気がします。