ジャッカルの日の紹介:1973年イギリス,フランス映画。フランスでドゴール大統領暗殺未遂が発生、その首謀者が処刑される。事件を起こした軍事組織OASの者達は、報復も兼ね、一流の殺し屋を雇い、再度暗殺を目論む。その殺し屋は、特殊な銃を作り、幾つもの身分を偽り、ヨーロッパの国々を越えてパリに向かう。そしてその暗殺に挑む男の名は、ジャッカルと言った。ヨーロッパを舞台に国境を跨ぎ、迫り来るジャッカルを緊迫感たっぷりに描いたサスペンス映画の傑作。
監督:フレッド・ジンネマン 出演者:ジャッカル(エドワード・フォックス)、ルベル警視(ミシェル・ロンスデール)、大臣(アラン・パテル)、ロダン大佐(エリック・ポーター)、コレット(デルフィーヌ・セーリク)
映画「ジャッカルの日」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ジャッカルの日」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
ジャッカルの日の予告編 動画
映画「ジャッカルの日」解説
この解説記事には映画「ジャッカルの日」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ジャッカルの日のネタバレあらすじ:起
ドゴール大統領の政策に反発する秘密軍事組織(略称OAS)によって、大統領暗殺が実行されますが、それは失敗します。そして主犯のバスチアン中佐は捕らえられ、銃殺刑に科されました。残されたロダン大佐以下幹部達は、潜伏先で再度の暗殺を目論み、ジャッカルと呼ばれる殺し屋を雇います。
ジャッカルは、条件として破格の報酬を要求して引き受けます。依頼主OASは、報酬を用意する為に銀行強盗などを繰り返しますが、それがフランス当局にマークされます。
その頃、ジャッカルは暗殺の準備を始めていました。その手始めに死者の中から一人を選び出し、その身分を盗んで活動を開始します。空港で容姿の似ている人間を探し、そのパスポートを盗み、髪の毛の染料を用意し、松葉杖に偽装した特殊な銃を作らせます。それに見合う弾丸は水銀を内包し、命中後に破裂する殺傷力の高いものです。また、無分証明書の偽造を注文しました。
ジャッカルはパリに渡り、ある広場の下見を行い、狙撃地点を選びます。そして、古道具の勲章を買い込み、変装道具も準備しました。OASは情報を集めるため、バスチアンの婚約者をスパイに仕立て上げ、大統領の側近に近付けます。
一方、フランス当局は、OASの目的を知る為に幹部達の側近を拉致し、拷問の末、ジャッカルの名前を聞きだす事に成功します。彼らは他の情報をまとめ、ジャッカルが大統領暗殺のための暗殺者だと結論付けました。
ジャッカルの日のネタバレあらすじ:承
ジャッカルの準備は着々と整っていきましたが、証明書の偽造屋が、彼の顔写真のネガを買い取れと報酬外の金銭を要求してきました。ジャッカルはやむを得ず偽造屋を殺します。銃は若干の仕様変更がありましたが問題なく仕上がりました。
内閣では、暗殺計画が進行中だと報告が上がりながら、大統領の『無視しろ』と言う無茶な命令に頭を痛めます。そこでジャッカルの件は秘密捜査とし、その捜査担当に優秀な刑事をという事で、ルベル警視が抜擢されます。ルベルは内閣会議に呼び出され、部下にキャロンと刑事を一人付けてもらい捜査に入ります。警察署に泊まりこむ程の完全専従捜査態勢を敷き、ルベルは同盟各国の捜査機関に協力を仰ぎます。
ジャッカルが銃の調整を済ませた頃、フランスからの協力を受けたイギリスの情報部は、ジャッカルがイギリス人らしいと情報を手に入れます。そのチャールズ・カルスロップなる人物が、過去に要人暗殺事件の容疑者に浮かび上がりながらも行方が掴めていない事を警察に伝えます。更に根拠として、フランス語のジャッカルを意味するシャカールを英語読みするとチャールズに近くなる事から、イギリス当局は彼の捜査を行い、それをルベルにも伝えます。
そのジャッカルは車を改造し、銃を隠す細工を施します。イギリスでは、チャールズの自宅を家宅捜索した所、彼が海外に居るはずなのにパスポートが残されていた事から、この人物をジャッカルだと断定しました。
ジャッカルの日のネタバレあらすじ:転
ジャッカルは車で移動を開始、パリに向かいます。彼が偽の身分証明書で移動していると踏んだ当局は、それらしき人物を全力で探します。そして、ポール・ダカンに辿り着きました。そのポール・ダカンは国境をすり抜け、着実にパリに近付いて行きます。彼は途中でOASと連絡を取り、自分の名が露見した事を知ります。しかし計画の中止はせず、パリに向かいます。ジャッカルはフランス郊外のホテルに宿泊して、そこに一人で滞在している女性に目を付けます。
その頃、ルベルにポール・ダカンがイタリアから国境を越えた事が報告され、乗っている車とそのナンバーが判明します。ジャッカルが裕福な夫人を誘惑し、一夜を共にした翌朝、ポール・ダカンの滞在先がルベルに報告され、警察が逮捕に向かいます。しかし、一足違いでチェックアウト済みでした。ルベルは従業員を聴取し、ダガンが夫人と親密だった事を聞き出します。
ジャッカルはOASと連絡を取り、車まで突きとめられた事を知り、ナンバープレートを盗み、車の色を塗り替えました。ルベルは夫人に面会し、ジャッカルが危険で警察が追っている事を話します。そのジャッカルは無事に車の偽装を終えましたが、その直後、不注意から事故を起こします。相手は死亡してしまい、ジャッカルはその車を盗んで移動します。
内閣では、ここまで判明したのだから、相手は警戒して中止したかもしれないと言い出す者も出ます。ですが、ルベルはジャッカルがまだ諦めていないと進言します。ジャッカルは夫人の屋敷を訪ね、情に訴えかけて匿ってもらいます。警察は、ジャッカルの事故車を発見、周囲に手配をかけます。ジャッカルはダガンから別の人物に身分を変え、夫人を殺害して車を盗んで駅へ向かい、列車でパリに入ります。
ジャッカルの日の結末
パリ行きの列車に乗った事を知ったルベルは、駅でダガンを探します。しかし一足遅く、駅を出たジャッカルはパリのサウナに向かっていました。そこでジャッカルは同性愛者を装い、男の家に潜みます。ルベルは、ジャッカルが変装して別の身分で行動していると考え、最近起きたパスポートの紛失を追います。そして新たなジャッカルの姿を捉えはしましたが、パリの宿泊記録にその名はありませんでした。
ルベルは捜査状況が漏れている事を覚り、内閣会議の場で一本の盗聴テープを公表します。一人が立ち上がり、その声の女性が愛人だと気付いて退出します。会議は続き、ルベルは今さっき思い付いたジャッカルの暗殺決行日を、残った閣僚に告げます。それは、フランスの解放記念日でした。会議の最後、閣僚の一人が『情報漏れがなぜ分かったのか』と聞くと、ルベルは閣僚全員を盗聴したと告げました。
愛人がスパイだった側近は家で自殺し、ルベルが女を逮捕します。ジャッカルの捜査は、殺人犯として公開捜査を行い、顔写真をテレビで流す事に決まりました。この時点で秘密である意味をなくし、ルベルは解任されます。ジャッカルを囲っていた男は、テレビを見て彼の正体を殺人犯だと知ります。知られたジャッカルは無慈悲にも男を殺害しました。
ルベルは久々の熟睡を経験していましたが、大臣に呼び出され、再度捜査に加わるよう命令を受けます。解放記念日の当日、大統領は予定を変更せず、当局は警備を厳重にして暗殺に備えます。人相が近い者、不審な者は片っ端から検査を受けます。追われるジャッカルは、負傷した退役軍人に変装し、大統領が受勲を行う広場を見下ろす狙撃地点に潜みます。
ルベルは大統領を追うように移動し、警戒中の警官に状況を聞きます。そこで退役軍人を通した事を聞き、それがジャッカルだと気付きました。その頃ジャッカルは、広場に入った大統領に照準を合わせていました。引き金を絞り、初弾を放ちますが、それは外れ、次弾を装填します。そこにルベルが、警官を引き連れて突入してきます。ジャッカルは警官を撃ちましたが再装填が間に合わず、ルベルに射殺されしまいました。
チャールズ・カルスロップは自分の家に帰ると、警察が待ち構えていました。警察は彼を連れて行き聴取を受けさせます。ジャッカルとチャールズはまったくの無関係でした。何者にも変装し、正体が判らないまま彼は埋葬され、事件は終了するのでした。
以上、映画「ジャッカルの日」のあらすじと結末でした。
“簡潔で客観的なカットの積み重ねで、息詰まるような緊迫感を盛り上げる社会派サスペンス映画の秀作「ジャッカルの日」”
サスペンス映画というのは、一難去ってまた一難で、主人公の運命はどうなるのかということに、観ている者をハラハラ、ドキドキさせる映画、それも単純なアクションものではなく、意表をつくアイディアと、ストーリーのうまさと、映画的なテクニックのあの手この手で、グイグイ引っ張っていく映画、そういうジャンルの娯楽映画として、ずば抜けて面白いのが、名匠フレッド・ジンネマン監督の「ジャッカルの日」だと思います。
何よりもまず、着想が実に凝っています。
サスペンス映画というのは、とかく現実にはあり得ないような話になりやすいものですが、これは、もしかしたら現実に本当にあったかもしれない話であり、世界の政治の動向にも関わりのある事件なのです。
すなわち、アルジェリアの独立をめぐるフランスの植民地の叛乱で、その時代のド・ゴール大統領の暗殺計画が次々に行なわれ、いずれも失敗に終わった時、表面には出なかったが、もう一つこういう事件もあったという形で、えらくまことしやかに物語が繰り広げられるのです。
実際に、ド・ゴール大統領の暗殺未遂事件は、1961年以降、5回も起こっているのです。
フランスがアルジェリア戦争の泥沼にはまって、戦争継続かアルジェリアの独立承認かの決断を迫られた時、戦争の継続を望むフランスの軍部は、軍の長老でフランス解放の英雄であるド・ゴール将軍を強引に大統領に担ぎ出したのです。
ところが、老獪なド・ゴールは、軍部に担がれていると見せかけておきながら、着々と手を打ってアルジェリアの独立を承認してしまったのです。
軍部の極右派は、地下にもぐってテロ活動を続け、繰り返し、彼らを裏切ったド・ゴールの暗殺を計画したのだった。
一方、ド・ゴールは、生粋の軍人として、暗殺なんか怖くないと、高い鼻を益々高くしながら、護衛を付けるのも迷惑がって、公式の式典などでは恐れることなく、堂々と公衆の前に現われたのだった。
だから、護衛役の警察当局も、テンテコ舞いさせられたに違いありません。
原作者のフレデリック・フォーサイスは、その頃、イギリスの新聞記者としてパリにあり、もっぱらド・ゴール大統領関係の取材をしていたというから、当時の警察の動きには詳しい訳です。
そして、この原作の小説と映画の強みは、どこまでが本当で、どこからが嘘か分からないくらい、実在の人物や実際の場所、実際の役所の機構などをうまく使って、一人の殺し屋を追う警察の動きを丹念に描いているところにあると思います。
そして、この警察の動きと、着々と計画を進める殺し屋ジャッカルの動きとが交互に描かれていって、警察と殺し屋の知恵比べがサスペンスを呼ぶという仕掛けになってくるのです。
極右派の地下組織O・A・Sに金で雇われる殺し屋を演じるのは、イギリスの舞台出身のエドワード・フォックス。
小柄だが、筋肉質の、見るからにすばしっこい印象をしています。
端麗な顔なのに、陰惨でニヒルなところがあるのは、この映画のためのメイク・アップや特に工夫した表情のせいなのかも知れません。
このジャッカルの役を、当時、イギリスの人気俳優のマイケル・ケインが熱望したとのことですが、フレッド・ジンネマン監督は、このジャッカルという人間は、既成のイメージが付いた俳優では駄目で、全く色の付いていない俳優にするべきだとの考えから、当時、ほとんど無名のエドワード・フォックスを抜擢したというエピソードが残っています。
この暗号名ジャッカルという殺し屋、依頼を受けると早速ロンドンで、暗殺のためのこまごました準備を始めます。
偽のパスポートを請求するために、全く他人の死んだ子供の名義を使います。
それも、一つの偽名が警察に分かった場合、直ちに別の国籍の、まるで人相も違う人間に成りすませるよう、変装用の髪の染料や色の付いたコンタクトレンズなどと一緒に、幾通りも用意するのです。
更に、パイプだけで組み立てることのできる狙撃銃を専門家に作ってもらうのです。
一方、ジャッカルにド・ゴール大統領の暗殺を依頼したO・A・Sは、その代金を支払うために地下組織にやたらと銀行強盗をやらせるのですが、警察ではなぜO・A・Sが急にそんなに躍起になっているのか、その理由を調べるために、イタリアに亡命しているO・A・Sの幹部の一人を、イタリアの街角で数人でぶん殴って、食糧輸送車に乗せてパリへ連れて来てしまいます。
これは明らかにイタリアの主権の侵害で、かつての日本における金大中事件と同じです。
金大中事件の場合は、犯人たちがこれ見よがしに金大中を自宅近辺で釈放して、日本政府のことなど眼中にないような態度に出たので国際問題化しましたが、この映画でみると、同じような事件で闇から闇に葬られているようなことも案外色々あるのかも知れないなと思わせられます。
そういうことも、この映画のサスペンスの重要な要素の一つになっているのだと思います。
O・A・S幹部を拷問して、その断片的な告白からフランス警察は、ド・ゴール大統領暗殺計画の一端をつかみます。
フランスというと日本では、非常に自由で文化的な国という印象が持たれていますが、なかなかどうして、相当な警察国家であり、警察はかなり乱暴なことをやってのけるのです。
この映画はそれをド・ゴール大統領の進歩的な政策を守るという、正しい目的のための手段として描いていますから、なんとなく当然のことのように観てしまいますが、こういうところも、ちゃんとフランスの政治体制の怖さを描いたものとして観るべきだと思います。
そうでないと、フランスの学生運動のことなども分からなくなってきます。
計画を察知した政府は閣議を開いて、最も優秀な刑事だというルベル警視に全権を任せて、捜査を始めさせます。
ところがO・A・Sもさるもの、女スパイを大臣級の人物の情婦にして、捜査状況の情報を盗ませるのです。
それで捜査の状況が次々にジャッカルに伝わり、ジャッカルは見破られた変装を次々に別の変装に取り替えながら、パリへと近づいていくのです。
その虚々実々の駆け引きは、映画的な緊張感を伴ったサスペンスに満ち溢れています。
この映画の面白さの一つに、ルベル警視を演じるミシェル・ロンスダールの配役の妙があると思います。
この人物、およそ風采のあがらない小太りの中年男で、これといった才気も機敏さも、逞しさも風格もないのに、なぜかフランス随一の名刑事なのだというのです。
いつも寝ぼけ眼で、大臣のお呼びだというのでエッチラオッチラ役所に駆けつけ、モソモソと部下の指揮を執り始めるといった具合なのです。
ところが、閣議から誰かが情報を洩らしているだろうと睨むと、容赦なく大臣たちの全部の電話を盗聴して、女スパイのハニートラップに引っかかった大臣をとっちめるのです。
なるほど、たいした切れ者なのです。
一方、ジャッカルは、パリに近づく途中、田舎町のホテルでデルフィーヌ・セイリグ演じる有閑マダムをたらし込んで、警察の捜査をかわすのです。
そして、最後の見せ場は、パリのシャンゼリゼから凱旋門前の広場で行われる、革命記念日の大パレードでの大捕物です。
遂に、ド・ゴール大統領を狙撃できる場所にまで達したジャッカルを、危機一髪でルベル警視が射殺するのですが、革命記念日の大パレードの実写の使い方が実にうまくて、まるでこの映画の撮影のために、何十万人のエキストラを縦横に使ったような、巧みな画面処理のうまさを見せつけてくれます。
こういうところは、さすが名匠フレッド・ジンネマン監督の演出の見事さが光ります。
かつて、フレッド・ジンネマン監督が、ゲーリー・クーパー主演の傑作西部劇「真昼の決闘」のような野心作を撮った時の激しさは、この作品にはありませんが、もっと悠々と愉しんで大向こうを唸らせる大作に仕上げていると思います。