殺人狂時代の紹介:1967年日本映画。岡本喜八監督の怪作ブラック・コメディーです。この一作でアクション、ミステリー、スリルにサスペンス、もちろんコメディーも楽しめてしまいます。まさにてんこ盛りの楽しさですが、胃もたれせずに最後まで観せる傑作です。
監督:岡本喜八 出演:仲代達矢(桔梗信治)、団令子(鶴巻啓子)、砂塚秀夫(大友ビル)、天本英世(溝呂木省吾)、ほか
映画「殺人狂時代」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「殺人狂時代」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「殺人狂時代」解説
この解説記事には映画「殺人狂時代」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
殺人狂時代のネタバレあらすじ:起
精神病院を経営する傍ら、「大日本人口調節審議会」という組織を結成している溝呂木省吾の元へ、ある一人の男が仕事の依頼を持ってくる所から物語は始まります。男の名はブルッケンマイヤー。かつて溝呂木とナチスの同志だった人物です。 溝呂木率いる「大日本人口調節審議会」とは、人口増加による人口調節のため、この世界に何の利益ももたらさないと判断された人物を秘密裏に始末することを目的にしている組織です。殺し屋は入院患者たちであり、溝呂木は自らの患者たちを殺人狂へと育てていたのでした。
殺人狂時代のネタバレあらすじ:承
さて、ブルッケンマイヤーは組織に仕事を頼む前に、腕前をテストするといって、電話帳から無作為に選んだ3人の人物を殺してみせろと言いました。3人のうち2人は瞬く間に殺害されましたが、1人が偶然にも殺し屋を返り討ちにしてしまいます。その人物とは桔梗信治。大学で犯罪心理学を教えている、水虫に悩む冴えない眼鏡男です。桔梗信治は偶然知り合った雑誌記者、鶴巻啓子と車泥棒の大友ビルとを従えて、「大日本人口調節審議会」が送り込む刺客を次々と交わしながら物事の核心に迫っていきます。
殺人狂時代のネタバレあらすじ:転
一方、3人目の男に固執するブルッケンマイヤーを不審に思った溝呂木は、彼を拷問した末、自白剤を使って桔梗信治が何者なのかを聞き出します。それにより、彼の目的は最初から桔梗信治1人だったこと、出来事の裏には戦争中に紛失した高価なダイヤ「クレオパトラの涙」が関わっていることを探り出します。 依然命を狙われている桔梗信治は、運も手伝って何度もピンチを切り抜けますが、ついに鶴巻啓子が人質に捕らえられてしまいます。大友ビルと共に救出を試みる桔梗信治でありましたが、なんと溝呂木本人が目の前に現れ、事の真実を告げるのでした。曰く、年少の頃、少年使節としてナチス支配下のドイツに渡った信治少年は、肩の負傷による手術の際、その傷口にダイヤを縫い込まれたのだと言うのです。溝呂木省吾と桔梗信治。狂人たちの笑い声響く病院の廊下で、ついに一対一の決闘が始まります。
殺人狂時代の結末
お互い一歩も引かぬ攻防が続きますが、ついに溝呂木がよろめき、檻越しに狂人の手で首を絞められ絶命します。鶴巻啓子を助け出し、脱出したのち彼女が「抱きしめてほしい」とお願いします。彼は手を回しますが、彼女はそれにまぎれて毒針で桔梗信治を殺そうとします。それをかわしながら「ずっと君の事を疑っていたんだ」と彼は言います。実は彼女は溝呂木の娘であったのでした。服毒自殺をした彼女を残し、彼はその場を去ります。その後、大友ビルの元に現れた彼は「双子の弟が迷惑をかけたようだね」と涼しい顔で言い、ぽかんとするビルを残して立ち去っていくのでした。
の岡本喜八監督のカルト映画中のカルト映画「殺人狂時代」は、面白ミステリーの元祖、都築道夫の「なめくじに聞いてみろ」が原作で、元々、日活が宍戸錠で映画化する予定だった脚本が、巡り巡って岡本喜八監督のところに回ってきたという、いわくつきの作品なんですね。
したがって、活劇路線の日活と岡本喜八監督のテイストが融合した、なんとも東宝カラーに合わない”面白映画”の誕生となったわけです。
ところが、完成された作品が、あまりのカルト性のため、案の定オクラ入りとなって、7,8カ月後にひっそり公開という憂き目にあっているんですね。
とにかく、都築道夫の大ファンを自認する岡本喜八監督としては、キャラクターからディテールまで凝りまくった、モダン・ハードボイルドとも言うべき快作なのですが、時代を先取りし過ぎたところが、理解されなかったのかも知れません。
偏執狂患者を暗殺者に仕立てる「大日本人口調節審議会」なる謎の組織に命を狙われた男が、日常品を武器に撃退するアクション・コメディ仕立てで、岡本喜八監督が大いに遊びまくった痛快作だと思います。
主演の仲代達矢のとぼけた三枚目ぶりや、団令子のお色気、がらっ八的な子分役を演じた砂塚英夫に、暗殺団のボス、溝呂木博士を怪演した天本英世など、まさに奇想天外なお話を、キャラクターの掛け合いでグイグイと引っ張る戦略が見事に功を奏し、ダンディズムとモダンが融合した、笑えるハードボイルドになっているところは、岡本喜八監督ならではのうまさだ。
この映画はまた、モンキー・パンチの「ルパン三世」に大きな影響を与えたことでも有名で、スタイル的には都築道夫なのだろうが、峰不二子のルーツは、間違いなく団令子だろう。