散歩する惑星の紹介:2000年スウェーデン、フランス映画。アンダーゾン監督の映像美が送る、ここはどこかの惑星の行き詰まった世界。不条理が不条理を招き、人々はとんでもない解決策を計ることに。
監督:ロイ・アンダーソン 出演:ラース・ノルド、シュテファン・ラーソン、ルチオ・ブチーナ、ハッセ・ソーデルホルム、トルビョーン・ファルトロム
映画「散歩する惑星」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「散歩する惑星」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「散歩する惑星」解説
この解説記事には映画「散歩する惑星」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
散歩する惑星のネタバレあらすじ:ここはどこ?何が起こっているの?
とある町の会社が経営に行き詰まり大量のリストラをする。30年間無欠勤だった男も容赦なく解雇を宣告された。上司に泣きつき、廊下で足に縋り引き摺られるが、決定は変わらない。そんな様子を、廊下の両側の扉を少しだけあけ他の従業員たちが覗いて見ている。社屋の一階では、スヴェンソン氏を探す男がいるが通りすがる人は全員無視。表に出て探そうとすると、通りかかった若者に意味もなく殴られてしまう。
社長のペレは会社は捨てたも同然で、目下気になっているのは折れてしまったゴルフクラブ。とあるディナーショー会場、手品師が人体切断のマジックを披露しようとして失敗し、本当に人を鋸で傷つけてしまう。「痛い!」という叫びに鋸を恐る恐る止める。とある街角のバー。カウンターで女性客が道が渋滞していくと言うことを電話口でまくし立てていると、身体半分煤と灰まみれになった家具屋のカールが、ボロボロになった書類をビニールに入れてやってくる。彼は次男と此処で会う約束をしていた。店が燃えて全部灰になってしまったと嘆いてビニール袋をカウンターに叩きつけると中の灰がカウンターに広がる。それを淡々と片付ける従業員。
散歩する惑星のネタバレあらすじ:行き詰まった世界と、重なる不条理
病院ではスヴェンソン氏を探していて若者にリンチされた男が治療を受けていた。そこへ、マジックの失敗で腹に傷を負った男がマジシャンをその助手に抱えられてやってくる。治療が終わると、看護師が医師に奥さんとはいつ別れてくれるのかと尋ね、医師は返事をはっきりさせない。腹に傷を負った男は家で寝ていると、妻が寝返りを打つたびに痛いと叫ぶはめに。カールが満員の地下鉄に乗っていると、どこからともなく音楽が聞こえてくるかと思いきや、乗り合わせている乗客が歌い始める。カールはきょとんとするばかり。店が全焼してしまったカールだが、本当は彼が保険金目的で店に放火したので保険調査員の前ではあくまでも店が燃えてしまったと説明する。消失してしまった家具が高価なものであることを証明するものも燃えてしまったので確認する手立てはないが、それを言葉巧みに別の例えに摩り替えて調査員を煙に巻く。表通りはあいかわらず、渋滞している。くわえてデモ隊も繰り出し、鞭打ちをしながら車の間を通っていく。カールには心を病んでしまった長男がいた。今は病院に入っており、言葉を喋る事が出来ないがかつては詩人でタクシードライバーだった。兄の変わりに今はそのタクシーで次男のシュテファンが運転手をしている。ある日、あいかわらず渋滞している道でシュテファンがタクシーを運転していると、軍人が一人乗り込んでくる。彼は今日が総司令官の100歳の誕生日で自分がその祝辞の草稿を作ったこと、総司令官がいるのは老人が安全にいられる場所などと愚痴を零す。優しい兄はこんな愚痴を毎日聞かされ抱え込み心を病んでしまったと確信するシュテファン。一方、総司令官のいる個室では複数の看護師がかいがいしく世話をしている。誕生日なので花束が棚に並ぶ。排泄の時間になりおまるをベッドの中に仕込んだ所で、お祝いに訪れた部下たちが部屋に通される。柵に囲まれたベッドの中で総司令官は居心地が悪そうにしながら祝辞を聞く。
散歩する惑星のネタバレあらすじ:死人がついてくる?
カールが同業者を訪ねると、この状況下と大聖年という理由で、十字架を売ってぼろ儲けしようとしていた。カールは十字架を一つ買って、荷物を持って駅を訪れると、プラットホームで自分の後ろをついてくる男がいる。それは自殺したはずのスヴェンだった。確認すると、その証拠に男は両手首の傷を見せて自分は自殺したと認めた。くわえて、首に縄を巻いた青年が知らぬ言葉を繰り返しながらついて来る。スヴェンは、言葉は分からないが、あの青年はドイツ兵に迫害された人で、姉に言いたい事があったが伝える前に姉も絞首刑にされてしまった青年だと説明する。駅のカフェテリアでカールはスヴェンに自分が借金を返せずに店を燃やして踏み倒した事を謝る。スヴェンはいなくなったが、綱をたらした青年はあとをついて来て、分からない言葉を繰り返す。参ってしまったカールは、言葉が通じない事と怒鳴りつける。
散歩する惑星のネタバレあらすじ:打開策を考える人、新しい世界へ行く人、残る人
とある会議室にて、書類を捜している研究者に、議長はこの行き詰まりについての長期的予測の研究成果を聞く。短期的な予測ならあると研究者は書類を探るものの見つからない。すると、窓から見える建物が動いていると言って会議中なのに窓辺に人がたかって、パニックを起こして会議どころではなくなってしまう。その研究者とひとりの女性以外みんな外へ出ようとドアに殺到してしまう。自宅に帰った研究者が長期的な予測の論文もあったはずだとテーブルに論文を並べて悩んでいると奥さんはまた書けばいいじゃ無いと励ます。しかし、それはとても難しい事だ。空港には人が大挙して押し寄せる。その中にはペレもいた。皆一様に、トランクを積み上げたカートを押していた。あと少しですよと励ます秘書、上に乗せていたゴルフクラブセットをぶちまけてしまうが、新しい世界に行くぞと、ペレは重たいカートを引く。会議室にいた面々が崖の下に石を組むのを見守っていると、上から等身大の人形が落ちてくる。それを担架にのせ、速やかに車に運び込む予行演習をしている。別所の大きな会議場では、アナという少女に教育係の女性が少女が健康である事、勉強ができる事、両親に愛されている事などを言い含めている。場面が変わるとがけの上には黒い服の人垣と、正装をした司祭たちが見守る中、目隠しをされて白いワンピースを着たアナが両親に手を引かれ、最後のハグを終えると、崖に飛び出た板の橋まで歩かされ最後に教育係の女性に突き落とされる。儀式に参加した者はグランド・ホテルで休んでいるが皆、憔悴し、教育係の女性は腰を抜かして立てないと繰り返し、また若い者が犠牲なったと、嘔吐してしまった総司令官は嘆く。病院では、喋る事のなく泣いている兄にシュテファンはかつて兄が書いた詩を口ずさみながら、今は皆、詩に興味がないと装っているだけだと兄を励ます。カールが産廃投棄場所を訪れると、十字架を売っていた同業者はトラックに積んだ十字架をぞんざいにゴミの山に投げていた。十字架で商売なんて時代錯誤でばかばかしかったとカールに愚痴る。彼がまたいい商売があったら連絡すると言って帰ると、カールも自分の十字架を捨てる。そこへずっと遠くから少しずつ近づいてきていた、スヴェンとアナと他の死者たち。カールは許しを乞いながらも許されない事に怒り一斗缶を投げつけると、アナ以外は一瞬ひるみ後ずさりをするが、再びカールに近づいていく。
アナがカールにたどり着く前にエンドロール。
散歩する惑星の結末:ヒーロー不在の混乱
物語の本筋はほぼないに等しい。ただ、行きづまったどこかの惑星で、人々がどんな行動をするのか?打開策を考える人、便乗する人、新天地を求める人、悲嘆にくれデモを行う人(デモと訳されているが所謂デモと言うよりは集団行進)、このままこの世界に生きようとする人、その行動は様々である。そしてこれは、文化・宗教の違いこそあれ普遍的な事に思える(神父は出てくるが、十字架をぞんざいに扱う人物も登場する)。答えは誰も持ち合わせていないし、ヒーローが出ていて解決してくれるわけではない。その代わり、選択肢と選択権が渡されるところは皮肉なほど現実的。「ドイツ兵」や「若者がまた犠牲に云々」の件は二次大戦を臭わせる。戦争は人間の持つ、有史以来のもっとも原始的な活動の一つであり、最後の生贄という行為も原始的な儀式の一つで、この二つはとても似ている。行き詰まると人は原点回帰していくのか?とさえ思えてくる。そしてこれは2015年の世界を見渡して、あながち間違いでもないと思う。
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