エレファントの紹介:2003年アメリカ映画。1999年に実際に起きたコロンバイン高校乱射事件をモデルにした無差別殺人事件がテーマの映画です。映画の進行は冒頭から時間を遡り進みます。そしてラストには冒頭に戻り、乱射事件に発展するという手法です。
監督:ガス・ヴァン・サント 出演者:ジョン・ロビンソン(ジョン)、アレックス・フロスト(アレックス)、エリック・デューレン(エリック)、イライアス・マッコネル(イーライ)、ジョーダン・テイラー(ジョーダン)、ティモシー・ボトムズ(ジョーダンの父)ほか
映画「エレファント」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「エレファント」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「エレファント」解説
この解説記事には映画「エレファント」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
エレファントのネタバレあらすじ:起
オレゴン州郊外の高校に通うジョンは父親に学校まで車で送ってもらっていますが、酒を飲んでいるためかまともに運転できません。途中で運転を代って学校に着くとジョンはポールに電話をして父を迎えに来るように頼みました。イーライが学校の近くでカップルに写真を撮らせてくれと頼みシャッターを切りました。ネイサンはアメフトの練習後彼女と会い廊下を話しながら歩いて行きます。
エレファントのネタバレあらすじ:承
職員室では授業が始まるため先生たちがあわただしく動き始めました。椅子で座っていたジョンは先生に授業に遅れるとせかされ歩き始めました。始業のベルが鳴りました。ジョンはイーライと会って話した後校庭に出ました。そこに武装した生徒二人が学校内に入りました。アレックスとエリックでした。ジョンが話しかけますが二人は中に入るな!地獄になると言いました。学校では普段通りの授業が行われ、普段通りの日常です。イーライは現像室に行きました。ミシェルが先生に注意された後、広い体育館に向かいました。現像するイーライ、体操服に着替えるミシェルが映ります。
エレファントのネタバレあらすじ:転
ブリタニー、ジョーダン、ニコルの女子学生3人は廊下でしゃべりながら食堂に行きました。そしていつもと変わらない学生生活です。アレックスとエリックは二人で部屋にいました。そしてインターネットで銃を注文しました。やがて銃が届き二人は倉庫で試し打ちをします。ミシェルは図書館の係で仕事をしています。アレックスとエリックは二人でシャワーを浴びました。そして戦闘服に着替え武装しました。車で学校に向かいます。校庭を歩いている時、冒頭のジョンとすれ違ったのでした。二人は校内に入ると地図を見ながらこれからの行動の確認を取ります。
エレファントの結末
銃を手に廊下に立つ二人にジョンは危険を感じ校内に入るなと学生たちに呼びかけます。二人は図書室に入るとミシェルとイーライを射殺しました。そして図書室にいる学生を次々射殺しました。彼女と廊下を歩いていたネイサンは銃声を聞きました。二人は廊下を歩きながら学生や先生を射殺し続けました。学生や先生は窓から校庭に逃げました。逃げ遅れた学生や先生は次々射殺されました。アレックスは食堂で飲み物を飲んだ後エリックを射殺しました。そして冷蔵庫に隠れていたネイサン達を見つけ映画は終わります。
“我々観る者の心の奥深くに、ある種の衝撃とスリリングな戦慄を与えてくれるガス・ヴァン・サント監督の問題作「エレファント」”
静かな日常の中のほんのささいな、小さなさざ波が、ある日、思いもよらぬ突然の悲劇となって爆発してしまう——-。
優れて詩的な映像と、それと対照的な衝撃的な事件。
アメリカのどこにでもあるような、ある高校の一日を描いた、映像の詩人ガス・ヴァン・サント監督の「エレファント」は、我々観る者の心の奥深くに、”ある種の衝撃とスリリングな戦慄”を与えてくれる、非常に美しく、しかし、悲しい作品です。
どこにでもありそうな、静けさをたたえた、一見、平凡なたたずまいを見せる、郊外の高校。
アルコール依存症の父親を持つジョン、他人との人間関係がうまく出来ないミシェル、いじめを受けているアレックスたち、複数の高校生の日常が、まるでドキュメンタリー映画のように、淡々と画面に映し出されます。
そして、カメラは長回しのワンシーンで、彼ら生徒の背中を執拗に追って行きます。
時間を遡り、同じ場面を違う視点で描く事で、彼らの単調で平凡な日常は”重層的な意味”を帯びてきます。
彼ら生徒役は、全てオーディションで選ばれた全くの素人。
役名は本名で、自分自身の言葉で即興性を採り入れたセリフは、この年代の若者の、実に自然なリアリティーを感じさせて、ガス・ヴァン・サント監督の演出のうまさが光ります。
どこまでも高い秋空を流れる雲の描写、印象的なベートーベンの「ピアノソナタ 月光」の流麗な調べ。
もう全てが完璧なまでに美しいのです。
そして、日常の延長戦上で衝撃的な銃の乱射が始まるのです——-。
この映画は、実際に多くの死傷者を出したアメリカのコロンバイン高校の銃乱射事件を下敷きにして描いていますが、ガス・ヴァン・サント監督は、この事件の原因を描こうとはしておらず、自分なりに独自に事件を再構築する事で、問題の本質を全く異なる側面から浮かび上がらせ、生徒たちの”とらえどころのない虚ろな魂”を表現しているのだと思います。
しかし、我々映画を観る者は、既に起きた事件の中で、”若者が抱える心の闇の深さ”を感じ、その不確かで得体の知れない何かに衝撃を受けるのです。
実際に起きた事件をガス・ヴァン・サント監督の感性で再構築し、美しい映像表現で描き直す、作者のこの映画に賭ける思いはどこにあるのか?
その映像の向こう側にあるものの正体に、どのようにしたら迫る事が出来るのか?
観終った後も、心の中で説明し難い、ある種の奇妙な違和感がどうしても残ってしまいます。
映像の美しさが、異常な程に際立つため、悲しさと畏怖の念だけが、心の奥深く、沈潜していくのです。
なお、この映画は2003年度のカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールと監督賞をダブル受賞していますね。