クイーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落の紹介:2012年アメリカ,オランダ,イギリス,デンマーク映画。大富豪にのし上がった夫婦が、アメリカンドリームの頂点から転落していくまでの過程に迫るドキュメンタリー映画。サンダンス映画祭・USドキュメンタリー部門で監督賞受賞するなど各国の賞を授賞している。監督:ローレン・グリーンフィールド
映画「クイーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「クイーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
クイーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落の予告編 動画
映画「クイーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落」解説
この解説記事には映画「クイーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
【超成金シーガル一家】
冒頭は1993年の家族の様子。(子どもたちの成長が良く分かります)
妻、ジャッキー・シーガル43歳。
夫、デビッド・シーガル、74歳。
デビッド・シーゲルはシカゴ生まれでフロリダ育ち。マイマミ大学を落第しています。
デビッドの両親はごく普通の人々でした。決して親の財産や会社を受け継いだ訳ではなく、デビッドは自力で Westgate Resort、ウェストゲートリゾートを創設し、不動産、建設、ホテル、別荘、アパート、ツーリズム、保険業、輸送業、通信業など多種多様に広げ、それら全てうまくいき自力で億万長者になります。人脈も学歴も財力もなく、あくまでも本人の才覚と努力と運で大成してみせた、というまさにアメリカンドリームを実現させてみせたのです。
二度の離婚の後1998年に自分よりうんと若い美人のジャッキーに出逢い結婚。双子の娘も入れて、子どもは合計8人はいるよう。
本人はすでにかなり年老いているのに、そんなにも子どもを作る・・・しかも前妻たちとの間にも子どもはいて、すでに孫までもいるのに・・・体力と財力にこの上もない自信がある、といういい証拠です。
華やかなホームパーティーのシーンで、デビッドは招待客のミス・●●州の王冠に輝いた絶世の美女たちに、とある質問をします。「男を選ぶ時は、財力で選ぶのか、それとも見た目で選ぶのか」。
異性の魅力はお金か容姿しかない、という発想がこの質問の裏にあり、いかにもアメリカ人の成金デビッドの考え方が顕著に表れています。
妻のジャッキーも小さな町出身の、田舎娘に過ぎませんでした。高校卒業後、親友の女友達は田舎の青年と結婚。この小さな町では、普通は女の子たちは高校を出たらすぐに結婚し子どもを産みパートの仕事をしながら子育てと家事に追われる人生を送るもの。しかしジャッキーは美貌と野心と明瞭な頭脳を持っていたため、田舎で自分の人生を埋もれさせたくなかったのでしょう。
大学進学の道を選び見事卒業。そしてIBMにエンジニアとして就職。学歴と職歴が自分の美貌に箔を付けるということを若いうちからよく理解していたのです。
IBM勤め、という立派な職歴を持ち満足してすぐに退職。美貌を生かしてニューヨークへ移りモデルの道へ進みます。その後ミス・フロリダにも選ばれています。
ウォールストリートに勤める別の男性と結婚もしますが、夫のDVが理由で離婚。もしかしてジャッキーの野心がもっと上を目指していたため、エリートビジネスマンの妻、というステータスだけでは満足できなかったというのも離婚のもう一つの理由であったかもしれません。
ジャッキーは長身で、ブロンドで青い目をしており、(豊胸手術により)巨乳。スタイルには自信満々らしく、いつも短パンか脚を見せるスカート姿。確かにお腹は出ているものの、40過ぎても白人女性にしては、抜群の容姿。鍛えているのでしょう、脚も筋肉がほどよくついていて美しい。
一見、バービー人形タイプに過ぎないおバカさんなのかな、と誤解してしまうのですが、この映画を見ているかぎり、とても強靭な精神力でなかなかいい奥さんであり母親であるようです。
デビッドとジャッキーは2まわり以上年が離れていますが、とても仲良しな感じで、子沢山。(犬やいろいろなペット、メイドさんも大勢)田舎者の二人が波乱万丈の人生を歩み、ドラマチックな出会いを得て最高に幸せな結婚をした・・・まさにおとぎ話のような夫婦です。
【一家に仕える使用人たち】
この映画はこの一家に仕えるフィリピン人の子守の女性たちにも注目しています。「国に自分の本当の息子がいるのだけど、全然会えない。ここでシーゲルさんの子どもたちの世話をして、この子たちの成長は見守れているのに」「仕送りをして、コンクリートの家を建ててあげる、と国の家族に約束をしていた。でもそれはできなかった。結局お父さんにコンクリートの家をプレゼントすることはできなかったけど、お父さんが死んでコンクリートの墓は建ててあげられた」
・・・
このフィリピン人の子守の女性たちが、この映画の登場人物の中で一番「まとも」ないい人たちに見えます。桁違いの財力でどこかタカが外れてしまっている一家と対極的な位置付けで、彼女たちは足が地についており、非常に純粋でしっかりしている普通の人々なのです。
豪邸はとにかく悪趣味です。成金趣味のけばけばしい、ごてごてしたもので溢れかえっています。中でも最も酷いのが、以前飼っていた犬のはく製。犬のはく製をグランドピアノの上に置いているのです!!!
何ひとつとして趣味のよい、おちついた絵画や家具などありません。そして本の類も映像を見る限り、見当たらず。その代わり、ジャッキーの毛皮(なぜ西海岸に住んでいるのに必要?)や数えきれないほどのグッチの靴、ブランドの鞄の山はあります。
【アメリカにベルサイユ宮殿を建てよう!】
分かりやすい成金夫婦ですがある時、夫婦はフランスに行き、ベルサイユ宮殿を見て、何かをインスパイアされ、「アメリカにベルサイユ宮殿を建てる。アメリカ一の豪邸を建てる」と決心。17個の浴室がある大豪邸に住んでいるのに!
このドキュメンタリー映画は「第二のベルサイユ宮殿」が出来あがっていく様子を撮影するドキュメンタリー映画になるはずでした。「アメリカにはこんな凄い大富豪一家がいるんだ」「アメリカにベルサイユ宮殿!すごいドキュメンタリー映画になるんだ」という主旨でした。
ところが・・・2008年の9月に金融危機に陥り、ウォール街は大変なことに・・・本筋はここから始まります。
金融危機によりデビッドの会社も大変なことになってしまい、あっという間に財産を失います。まさに「たった一晩で巨万の富を失う」という人生ゲームを地で行く嘘のようなことが起きるのです。
これがきっかけで、何年にも渡り撮影を続けてきた「アメリカのベルサイユ宮殿建築完成ストーリー」がなんと、「アメリカの大富豪一家の天国から地獄転落ストーリー」に脚本が急遽変わってしまう!
【富を失った大富豪一家の転落】
結局、未完成の「第二のベルサイユ宮殿」も売却されることになり、成金の悪趣味な数々の家財道具も手放し大勢の使用人もリストラします。
「子どもを大勢産んだけど、育児が初めて大変だと分かるようになった」とジャッキー。様々な物も手放し、一家は小さな家に引っ越します。(しかし「小さな家」といえども、一般の日本人から見ると十分豪邸・・・・)
10代になる娘も今まで無論、家事の手伝いなどしたことがない。何か家事をやってあげよう、やらなければという姿勢すら見せない。
犬たちも何も躾けられていない。それでいて使用人はもう数人しかいない。家の中はしっちゃかめっちゃか。至るところ、犬の糞だらけ!そう、今までは犬にトイレの躾をしていなくても、犬がその辺で放尿放便すれば、すぐにそれを片付ける使用人がいくらでも控えていたのです。
会社でも大規模なリストラを決行し、会社のビルを手放すか手放さないかで揉め、かつ借金で首が回らなくなったデビッド。呆然としてしまって、一気にオーラもエネルギーも消滅。
あんなにいつも上機嫌だったのに、各地のミス「●●州」の美女たちを屋敷に招いて盛大なパーティーを繰り広げていたのに、映画のカメラの前でも文句や愚痴ばかりこぼすように・・・
明らかにオーラを失い覇気もなくなり一気に年を取りしゅんとしぼんでしまったデビッド・・・・「これは悪い夢なんじゃないか」現実に直視できていない様子。そして家の些細な「電気代」のことで妻のジャッキーにガミガミ・・・
映画前半での彼の豪快さやゴージャスぶりがケタ違いだっただけに、この落差に見ているほうは衝撃。よくよく考えれば、デビッドはもうすでに年寄りでハンサムでもなく、「富豪」の肩書以外とり得のないような男性。その「富豪」の肩書が消えてしまえば、本人的に胸を張るものがなにもない。もともと金がこの世の全て、のような考え方だった模様。
ジャッキーは節約を心がけているのだけども、若さと美貌を保つために、美容クリニックへボトックスを打ちに行くのは止められないし(撮影カメラにその様子を撮らせているのが凄い・・・)
クリスマスとなれば子どもたちにおもちゃをたくさん買ってあげられずにはいられない・・・それまでの豪華絢爛な生活スタイルをなかなか改められない・・・
【お金が消え夫婦仲も冷えていく!】
夫婦の溝が広がっていく様子が非常にリアル。そもそも「純粋たる愛情」による結婚ではなく、デビッドにしてみたら若くて美人な元ミス・フロリダを妻にしたかっただけ、という動機だったので夫婦共に力を合わせてこの危機を乗り越えよう、という姿勢がまったくみられません。
自信と威厳を全く失った、ただのおじいちゃんになったようにしか見えないデビッドは「犬しかもう心のよりどころがない」という発言をします。そして妻子を自分の世界から完全に締め出します。閉ざされたドアの個室でテレビを見ながら犬と食事。
【そして強いのはやはり女性・・・】
ジャッキーは子どもたちを連れて実家に一度戻ります。しかしプライベートジェットはすでに手放しているので、民間機に乗ります。すると幼い息子がきょとん。「あれ?僕たちの飛行機に人々を招待したの」。不特定多数の人々と同じ飛行機に同乗するという経験がなかったのです!
しょぼくれていく一方の夫のデビッドと違い、ジャッキーはしゃんと背筋を伸ばし覇気と明るさを決して失わず、自分の容姿やお洒落にも気を配り続けます。財力名声や夫婦のきずなを失っても、「美貌」まで失うわけにいきません。プライドの最後の拠り所が美貌なのでしょう。そしてもしかしたら・・・次の富豪男性を射止めるために美貌は保たなければ、と思っているのかもしれません。
恐らく多くの中年女性は、もううんざりしてお酒やジャンクフードに溺れて容姿も精神もボロボロになるのではないでしょうか。しかしジャッキーは落ちぶれる様子はみじんもみせません。ああこういう女性がのし上がれるのだな、と妙に感心してしまいます。
一つ、ドキュメンタリー映画として惜しかったのが大金持ちの時には、インタビュアーは子どもたちに家族や自分たちの生活についてどう感じているか尋ねているのですが、一家転落の後は、子どもたちに「こういう事態になってどう思っている?」とインタビュアーは一切質問していません。
まだ未成年だし、気の毒だ、ということで配慮したのか、両親であるデビッドとジャッキーが子どもたちへのインタビューを禁止したのかでしょう。
突然公立の学校に編入させられ、プライベートジェット移動もなくなり、食生活も質素になって、お抱え運転手も消え、自分たちのお世話をしてくれるシッターさんたちも減った・・・父親が急に不機嫌になった・・・の子たちはどう見て、どう感じていたのか観客としてはちょっと気になります。一番太っていた娘・・・生活が質素になってしばらくたちますが、痩せたかな・・・
「ああアメリカだなあ」と思ったのは、富豪の時代でも、この一家はマクドナルド好き。よくマックを食べています・・・デビッドもジャッキーも元々は田舎者。マックのハンバーガーやピザを食べて育ったのであろうから、庶民のジャンクフードの味は忘れられなかったのでしょうか。
その後、デビッドは元従業員たちに訴えられ、いくつもの訴訟問題を抱えます。一方で、このドキュメンタリー映画の仕上がりに不服を唱え、彼は映画製作者を訴えたそうです。
下世話な興味なのでしょうが、ぜひパート2も製作して欲しいです。数年後、どうなっているのだろう・・・
もう大富豪には戻れなさそうですが、しかしジャッキーがあれだけ強くてしっかりしているので、子どもたち・・・例え大学に進学できなくても、肝っ玉母さんジャッキーのおかげで何とかなりそう。彼女ならデビッドよりもっと上を行く大富豪の男性と再婚することもありえます。さすがにベルサイユ宮殿建設は無理でも小トリアノン宮殿くらいは建ててしまうかも!?
【結論は女性は強い!】
アメリカに建設させるはずだったベルサイユ宮殿感性物語が、途中から大富豪転落物語に変更になったという、非常に意表をついたドキュメンタリー映画です。そして同時にどんな状況になっても女性は逞しい、という「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラを思わせるような内容です。職を失った、失恋した、人生うまくいかず悩んでいるという時にぜひこのドキュメンタリー映画の鑑賞をおすすめします。40過ぎて、子どもをあれだけ抱えていても前向きでパワフルな美女ジャッキーを見ていると、何かパワーを貰えますから!
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