赤い天使の紹介:1966年日本映画。パッと咲いてパッと散る桜から名付けられた西さくら。天津の陸軍病院から激戦地に近い分院へ、さらに前線で孤立した集落へと移動する陸軍看護婦の行動を通して、戦争の残酷さ、非人間性を浮き彫りにする戦争映画。
監督:増村保造 出演者:若尾文子(西さくら)、芦田伸介(岡部軍医)、川津祐介(折原一等兵)、赤木蘭子(岩島婦長)、千波丈太郎(坂元一等兵)
映画「赤い天使」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「赤い天使」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「赤い天使」解説
この解説記事には映画「赤い天使」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
赤い天使のネタバレあらすじ:起・病院のけだもの
昭和十四年、陸軍の看護婦である西さくらは三年間の東京勤務の後、新任の看護婦の一人として天津の陸軍病院に赴任した。さくらは内科病棟の担当になる。婦長は、内科病棟の看護婦は偽病人を見つけなければならないとさくらたちに指示する。数日後、夜の巡回中、さくらは複数の患者に体を抑えられて犯されてしまう。さくらは婦長に報告し、首謀者の坂元一等兵は全快してはいなかったが、犠牲になった看護婦はこれが三人目ということで、前線復帰を余儀なくされる。
赤い天使のネタバレあらすじ:承・地獄の分院
二カ月後、さくらは分院に派遣される。岡部軍医少尉はトラックで次々と運ばれてくる兵士たちを、助からない者、弾丸を抜く者、足を切断する者等とてきぱきと仕分け、次々と手術をしていく。切断された手足がバケツにいっぱいになっていく。一人の兵士について、脈はしっかりしているが出血が多いので助からないと岡部が判断する。その兵士はあの坂元だった。さくらに許しを請い命を助けてほしいと願う坂元に輸血することを岡部に頼む。一般兵士には輸血しないのが原則だったが、さくらが彼の部屋に夜来るなら、という条件で岡部は輸血を認める。しかし、輸血もむなしく岡部は死ぬ。さくらは自分がレイプを報告したせいで坂元を殺してしまったと悔やむ。三日三晩働き続けた後、さくらは岡部の部屋に行く。軍医として招集される前は大病院の外科医だったという岡部は、患者を助けるのではなく、兵士を死なせるものと不具にするものとに選別するのが仕事である分院の現実に精神を消耗させていた。さくらにモルヒネを注射してもらい、同じベッドで寝る。目覚めた時にさくらは裸になっていたが、岡部は彼女に何もしてはいないと言う。
赤い天使のネタバレあらすじ:転・両腕のない兵士
天津に戻ったさくらは外科病棟の担当になる。そこには両腕を切断した折原という兵士がいた。折原の体を拭こうとするさくらに、折原は特別に夜にしてくれるように頼んだ。夜、体を拭きに病室に行ったさくらは折原に自慰を助けることをお願いされる。折原はもう彼の妻には会えないと考えていた。国民の戦意を落とさないために、体に障害ができて戦えなくなった兵士でも陸軍は日本に返したがらないようなのだ。さくらは婦長の許しを得て折原を外出させる。さくらはホテルの一室を借り、折原を風呂に入れて体を洗ってやり、全裸になってベッドでいっしょに休む。しかし、その後、折原は病院の屋上から投身自殺をしてしまった。さくらは人を殺したのは二人目だと考える。
赤い天使の結末:さくらのキスマーク
再びさくらは分院に派遣される。再び地獄のような生活。今度はさくらも弾丸を抜く仕事を任される。さくらは岡部を愛するようになっていた。岡部はまた、眠るまでいっしょにいてくれるようにさくらに頼むが、いっしょに寝ても何もしないと言う。彼はモルヒネのために性的不能になっていたのだった。岡部は衛生兵三名、看護婦二名からなる看護班を率いて前線に行くことになる。岡部はさくらを連れて行きたくなかったが、さくらは無理に頼み込んで看護班の一員となる。看護班を乗せたトラックが兵士たちに停められる。看護班は敵の中で孤立する営林鎮集落に行くことになる。集落に到着するや否や、慰安婦の一人がコレラを発症していることがわかる。患者を隔離するが次々と発症者が出て戦闘可能な兵士は半減する。折悪しく無線機も故障していて本隊に連絡することもできない。敵の総攻撃を待つばかりとなる。夜、さくらは岡部の部屋に呼ばれる。岡部はまたモルヒネの注射を頼む。しかし、彼の不能を直したいさくらは注射をすることを拒否する。禁断症状を起こして暴れる岡部をさくらは必死になって押える。岡部の禁断症状がおさまった時、彼の男性としての能力が蘇った。外ではコレラを発症した少尉に代わって指揮を執る曹長が敵の攻撃が始めるのを待っていた。岡部は女の兵隊もかわいいと言ってさくらに自分の軍服を着せてみて楽しみ、二人は最後のぶどう酒を飲む。戦闘が始まる。曹長が戦死し、岡部が指揮を執る。さくらも銃を取った。
夜が明けて、さくらは目覚める。彼女だけが生き残っていた。本隊から味方の兵士たちが来たが、コレラが発生したので軍医と衛生兵をよこすようにさくらは指示し兵士たちは引き返す。さくらは死んだ兵士や看護婦が皆、身ぐるみを剥がれているのを見る。そしてついに岡部の亡骸を見つける。その体には夜に彼女がつけたキスマークがあった。
この映画「赤い天使」は、増村保造監督、若尾文子コンビによる第15作目の作品で、敗色濃い中国大陸を舞台に、従軍看護婦とそこで出会った男たちの物語だ。
この映画は「兵隊やくざ」と同じ有馬頼義の原作ですが、あの痛快さや開放感はどこにもなく、暗く重苦しいトーンで貫かれている。
最前線の野戦病院は、傷病兵であふれ、死者も生者も一個のモノと化していく。
負傷した脚をノコギリで切断する音が響く手術の描写をはじめ、実際に従軍経験のある小林節雄の撮影を得た、増村保造監督の過剰なまでのリアリズム演出は、戦争の真実を抉って鬼気迫るほどだ。
両手を失った一等兵(川津祐介)、戦場の狂気の中で正気を保とうとモルヒネを常用する医師(芦田伸介)。
戦争に身体も心も蝕まれた男たちに深い愛を捧げるヒロインを演じた若尾文子が、凄絶なまでに美しい。
増村保造監督の映画のヒロインの多くは、狂気の愛に生きるが、戦場という極限状況に置かれた若尾文子は、おびただしい死と隣り合わせの男たちに愛を与え、一瞬の生を実感させる。
狂気でもエロスでもない、純粋な愛を。