ザ・ハリケーンの紹介:1999年アメリカ映画。この作品は、黒人差別がまだ盛んであった頃の1966年に、アメリカ合衆国で実際に起きた冤罪事件「ルービン・カーター事件」を題材とした伝記映画です。殺人事件の冤罪で終身刑を受けた黒人プロボクサーチャンピオン・ルービン・“ハリケーン”・カーターの無罪を潔白するため、奮闘する少年たちとカーターとの心の触れ合いと、この事件の顛末をシリアスに描いたヒューマンドラマです。キャッチコピーは「真実は、負けるはずがない。」です。
監督:ノーマン・ジュイソン 出演:デンゼル・ワシントン(ルービン・“ハリケーン”・カーター)、ヴィセラス・レオン・シャノン(レズラ・マーティン)、デボラ・カーラ・アンガー(リサ・ピータース)、リーヴ・シュレイバー(サム・チャイトン)、ジョン・ハナー(テリー・スウィントン)、デビ・モーガン(メイ・テルマ・カーター)、ほか
映画「ザ・ハリケーン」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ザ・ハリケーン」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「ザ・ハリケーン」解説
この解説記事には映画「ザ・ハリケーン」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ザ・ハリケーンのネタバレあらすじ:1.プロローグ:殺人事件
1966年6月17日、ニュージャージー州パターソン、ある夜、一軒のバーで白人3人の殺人事件が起きました。犯人は白い車に乗り逃亡しました。その様子を一人の男が目撃していました。しかし、あたりは闇の中、顔などはっきりと見えませんでした。ちょうどその頃、何も知らないボクシングのウェルター級チャンピオン「ルービン・カーター」こと「ハリケーン」は、警察の検問に遭いました。警察は白い車に乗った黒人2人を容疑者として探していました。カーターとその黒人運転手は、あっという間に警官たちに捕り押さえられ、署に連行されました。
ザ・ハリケーンのネタバレあらすじ:2.自伝『The Sixteenth Round』
カーターは弁護士をつけ、法廷で無実を訴えますが、陪審員はすべて白人でした。根強く残る黒人蔑視の中、カーターは法廷で殺人事件の冤罪を着せられ、終身刑を宣告されました。黒人というだけで冤罪を着せられたカーターは、1974年、獄中の中で無実を訴えるため1冊の自伝『The Sixteenth Round』を出版しました。この本は大反響となり、当時の黒人解放の公民権運動と結び付き、キング牧師やモハメド・アリ、エレン・バースティンなどの有名人を巻き込み、「ハリケーン解放」の市民デモにまで発展していきました。ボブ・ディランはこの事件をモチーフに「ハリケーン」という曲を製作し、民衆に訴えかけました。「♪夜の酒場に銃声が響き♪…血にまみれたバーテンを見て、“皆殺される”と女が叫ぶ♪これはハリケーンの物語♪警察は彼に罪を着せた♪犯していない罪で♪彼は今、獄中の中♪世界チャンピオンになれたのに♪…これはハリケーンの物語♪釈放の日まで続く♪」と…。そして、カーターの自伝『The Sixteenth Round』が出版されてから1年後、カナダのトロントで古本市が開かれました。そこにやって来たのは、黒人少年レズラ・マーティンとその保護者役でもあるサム・チャイトンでした。そこでレズラは『The Sixteenth Round』に目を惹かれ、購入し、読みふけりました。
ザ・ハリケーンのネタバレあらすじ:3.カーターの半生
その本にはカーターのこれまでの半生と、その当時の心情とが綴られていました。カーターは黒人で貧しい生い立ちから、デラ・ベスカ刑事から目をつけられ、少年院に入れられましたが脱走して即、陸軍に入隊し軍のウェルター級のチャンピオンになりました。そんなカーターに恋人ができた頃にまた、ベスカ刑事が現れ、刑務所に入れられたのでした。カーターは獄中で一人、ストイックにボクシングのトレーニングに励み、様々な本を読み勉強しました。そして、1961年9月11日に出所した後、プロボクシングのリングに復帰、チャンピオンとなりました。カーターは結婚し、幸せな日々を送っていました。しかし、そんなカーターをベスカ刑事は「根っからの犯罪者」と決めつけ、張り込んでいました。1964年12月14日、世界ミドル級タイトルマッチに、カーターは挑みました。試合はカーターの明らかな優勢でした。しかし、判定に持ち込まれた結果、カーターは負けました。観客からはその判定にブーイングとヤジが飛び交い、白人の実況アナウンサーまでもその判定に異議を唱えました。チャンピオンは白人、カーターは黒人、その人種差別が産んだ判定でした。そして1966年6月17日、ニュージャージー州であの銃撃事件が起きたのでした。担当のベスカ刑事は目撃者に強引にカーターが犯人だという証言を言わせました。そしてカーターは逮捕され、有罪・終身刑に服することになったのでした。しかし、この裁判では凶器は未発見、証言者の信用にも疑念がありました。また、陪審員全員が白人であったということもあり、黒人のカーターにとって不利な状況でした。カーターは獄中から7年間、弁護士に電話をかけ、冤罪を晴らすように訴え続けていました。
ザ・ハリケーンのネタバレあらすじ:4.初めての面会
レズラはこの本を一気に読み、感動し、「ハリケーンは無罪だ」と主張しました。そして、レズラはその気持ちを押さえきれず、獄中のカーターに心を込めて手紙を書き、送りました。すると数日後、カーターからレズラに返事が来ました。その返事にはレズラの優しい気持ちへの感謝の言葉が綴られていました。レズラはカーターに早速、返事を書きました。今度はレズラが自らの境遇を綴りました。レズラは家族関係でうまくいかず、ボランティアで参加した環境保護団体の4人と共にカナダに住み、彼らから勉強を教えてもらっていることを書きました。そして、レズラは思い切って、カーターとの面会を申し込みました。そして、ある日、レズラは一人、カーターに面会をしに行きました。カーターはレズラを歓待し、「ルーブ」と呼ぶことを許しました。レズラはカーターに4人の同居人の写真を見せ、リサ・ピータース、サム・チャイトン、テリー・スウィントンを紹介しました。「この人たちとの出会いで、僕の人生は変わった」と嬉しそうに言うレズラに、カーターは「君はご両親の夢だ。…人生の可能性を大きく広げた。…君は読み書きができるようになった。書くことは一種の魔法だ。…書くことは武器だ。どんな拳より強い武器になる」「教わったことから真実を探し出すのは君自身だ」と諭しました。そんなカーターを見たレズラは、彼が殺人犯ではないと確信しました。
ザ・ハリケーンのネタバレあらすじ:5.通じ合う心
カーターとレズラは文通をしているうちに、どんどん心の距離を縮めていきました。カーターはレズラに励まされ、レズラはカーターに励まされました。そしてある日、カーターはリサ、サム、テリーを連れて、カーターに面会に行きました。カーターにレズラは「将来、弁護士になって無罪を証明したい。でも、それを待たなくても彼ら(リサ、サム、テリー)、が助けてくれる」と言いました。リサ、サム、テリーもレズラ同様、カーターの無罪を信じていましたが、カーターは「君たちにはここにいる気持ちはわからない!」と言い放ちました。そんなカーターにレズラは「ハリケーン」のボクシングガウンをプレゼントしました。カーターの心の中で葛藤しました。もう1人のカーターが「白人に心を許すな。必ず裏切られる。信じられるのは俺だけだろ」と囁くのでした。しかし、カーターはプレゼントのガウンを着て、リングに上がったイメージをし、シャドーボクシングをしました。カナダに帰ったリサ、サム、テリーは、カーターの人柄に惹かれ、彼をレズラと共に支援する決意をしました。リサはカーターに4人の写真と手紙を送り、彼を励ましました。そんなある日、カーターからレズラに電話がかかってきました。それは再審が却下されたという連絡でした。落ち込んだカーターから、レズラたちに「手紙や面会はもうやめてほしい。君たちの優しさに心を挫かれるから。これが最後の手紙だ」という手紙が届きました。落ち込むカーターの気持ちを察し、レズラは手紙を書かず、「自分と恋人の写真」「自分の高校の卒業証書」を送りました。カーターはその夜、レズラたちの家に電話をかけ、「もう耐えられない」とだけ言いました。その言葉を聞いたレズラたちは、カーターを釈放させるため、彼の刑務所から見えるマンションに引っ越してきました。4人はカーターの手足となって闘う覚悟をしてきたのでした。レスはカーターに「あなたが釈放になるまで、ここを動かない」と言いました。その言葉を聞いたカーターは泪を押さえ「わかった」と言い、自分も諦めない決意を固めました。
ザ・ハリケーンのネタバレあらすじ:6.新たなる証拠
レズラたち4人は、まずカーターの弁護士マイロン・ベドロックに会いに行き、弁護の手伝いを申し出ました。しかし、ベドロック弁護士たちは、「これまでもいろんな著名人や人々が支援してくれたが、みんな去っていった。今はもう誰もいない。それだけ大変な裁判なのだ」と告げました。その言葉を4人は聞きましたが、「釈放になるまで、絶対に諦めない」と言い返しました。レズラたちは膨大な裁判記録を読破し、カーターからの証言を聞き、矛盾点や疑問点がないか徹底的に調べ始めました。そんなある深夜、刑務所長がカーターを呼び、「よからぬ情報を耳にした。死にたくなければ、やめろ。お友達にもそう伝えろ」と忠告してきました。そうとは知らないリサたち3人はある日、証人の一人の家を訪問しました。その妻の話では、ベスカ刑事が書いた警察調書の内容とは全く違うものでした。しかし、その証人は裁判の前日に亡くなっていました。リサ、サム、テリーはますます疑念をいだきました。うろちょろ嗅ぎ回るリサたち3人にベスカ刑事が突然現れ、脅してきました。しかし、3人は怯みませんでした。そして4人はついに、ベスカ刑事によって偽造された証拠や・検察が隠蔽していたカーターに対して有利な証拠を新たに発見しました。カーターはその事をベドロック弁護士たちに話し、州裁判所でなく、連邦最高裁判所で新しい証拠を提出し、闘うことを決意しました。
ザ・ハリケーンのネタバレあらすじ:7.最後の闘い
1985年11月8日、「正義」と刻まれた連邦最高裁判所で、カーターとレズラ、リサら4人は最後の闘いに挑みました。ベドロック弁護士は新たに発見した証拠を、サロキン判事に提出しました。検察はその行為に異議を訴えました。規則上では検察の指摘通りですが、サロキン判事はベドロック弁護士に弁護を続けさせました。サロキン判事はベドロック弁護士に忠告し、彼を困惑させました。しかし、もう後がないと覚悟していたカーターはこのまま、この連邦裁判所での審理を求めました。レオン・フリードマン弁護士は、提出した新たな証拠をもとに「差別的な裁判が行われた。それを煽ったのは警察と検察当局です。彼らは真実を知りながら、それをゆがめ、ねじまげ、無実の人間を刑務所に送った」と痛烈に訴えました。判決を出す前に、最後にカーターは判事に「私はかつてボクサーでした。私の仕事は心の中の憎しみとテクニックで対戦相手を倒すことでした。ルービン・“ハリケーン”・カーターは人殺しではない。…真実から目をそらさず、自らの良心に背を向けず。…法が仕えるべきである崇高な道徳のもとに裁定を下して欲しい。正義だけが私の望みです」と静かに判事に語りました。休憩後、いよいよ裁定が下されるときが来ました。サロキン判事は再審での有罪判決を却下し、即時釈放を認める判決を下しました。カーターたちは歓喜し抱き合いました。カーターが収監されていた刑務所も歓喜の渦に湧きました。
ザ・ハリケーンの結末:8.美しきハリケーン
カーターは晴れて自由の身となりました。記者から「これからもハリケーンの名を使いますか?」と訊かれたカーターは、「私はいつもハリケーンだ。ハリケーンは美しいから」と答え、笑みを浮かべました。1994年、ルービン・“ハリケーン”・カーターは世界ミドル級名誉チャンピオンの称号とチャンピオンベルトを世界ボクシング評議会から授与されました。現役選手以外で与えられたのは、これが初めてのことでした。
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