映画ウィスキーの紹介:2004年ウルグアイ,アルゼンチン,ドイツ,スペイン映画。アメリカのアカデミー賞のウルグアイ代表に選ばれた、さびれた街で生きる人々の哀しみをユーモアを交えて描いたコメディドラマ作品。東京国際映画祭でグランプリ受賞。
監督:フアン・パブロ・レベージャ、パブロ・ストール 出演:トム・コートネイ(ナビゲーター)、サム・ワナメイカー(エリアス)、キャンディス・バーゲン(エレクトラ・ブラウン)、コリン・ブレイクリー(パイロット)、イアン・オギルビー(ピーター)、ディミトリス・ニコライディス(歯医者)、ほか
映画「ウィスキー」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ウィスキー」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「ウィスキー」解説
この解説記事には映画「ウィスキー」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
【映画ウィスキー】
ウルグアイの映画、と聞き第一印象・・・
どこ、それ?」。
南米というのは分かったのですが、
南米大陸にはまだ足を踏み入れたことがないので、
恥ずかしながらウルグアイの位置が「?」
世界地図で調べてしまいました・・
タイトルは「ウィスキー」。
しかしアルコールにまつわるストーリーではありません。
スペイン語で写真を撮るときに
「はい、チーズ」を
「ウィッキー(ウィスキー)」というのだそうです。
だから「ウィスキー」というタイトルなのだそう。
色々賞を取った映画というのは耳にしていましたし、こういうマイナーな国の映画が日本に入ってくる時点で、「名画に違いない」と思い、迷わず見ました。
結果、大正解だったと思います。
【登場人物はシンプル】
メインの登場人物は「中年女のマルタ」、「工場社長」、「社長の弟」・・・
この三人だけ。
まさに舞台向けの脚本です。
さて感想を交えたあらすじに入ります。
「工場社長」は父親が遺したしょぼくれた靴下工場を経営する傍ら、年老いた母親の介護に明け暮れていました。性格も容姿もパッとしないことから結婚には縁がなくずっと独身を通しています。
遂に母親が他界。
ずっと以前に大国ブラジルに移住した弟を、母親の葬式のためにウグルアイに呼び戻します。
(弟はブラジルで仕事が多忙過ぎたため、そして家出同然で外国に飛び出したので、息を引き取る前の母親には会えなかった、と推測)
【独身で地味な古株女性社員のマルタ】
話は変わり、社長のちっぽけな靴下工場で働く従業員マルタ。
つまらない生活を送るわびしい一人暮らしをしています。
マルタは毎朝、社長よりも先に出勤。
(ぽんこつの)車通勤の社長と違い、マルタはバスを利用しているので、おそらくバスの運行時刻のために、いつも早目に工場に到着してしまう、と想像ができます。
寒い冬の朝でも先に工場に到着して、鍵を持っている社長が現れるのをじっとシャッターの前で待っています。
しかし社長は
「鍵を君にも渡すよ」
「出社時間をもっと遅くしてもいよ」
など気が効いたことをまったく言わない・・・
何事にも気付かない鈍い性格なのです。
毎朝マルタの顔を見るたびに、
「おはよう」しか言いません。
雑談も冗談も言ったことがありません。
気の利いた会話ができない。
全てにおいてさえなくてドンくさい性格なので、工場もしょぼいまま。
実際、酷い小さな、古臭い工場で工員もマルタを含めて三人の女性しかいません。
マルタは誰よりも長く働いているので、この小さな工場では一応、社長に次ぐ責任者のようなポジション。
まじめにこつこつ働いていますが、仕事中にちょくちょく外に出てこっそりタバコを吸います。
社長は長年一緒に働いているのに、マルタがスモーカーであることを知らない、気付いていない・・・
【ありきたりの地味な生活が一転】
古株従業員マルタと社長は毎日毎日、同じような会話のやりとりだけ。
ところがついにその二人の決まりきった会話に変化が訪れます。
ある日突然、社長が奇妙なお願いをしてきたのです。
「長年会っていない弟が母親の葬式に参列するために帰国する。弟の前では嫁のふりをしてくれないか。君を自分の妻として弟に紹介したい」。
マルタは驚くことも「なぜ?どうして?」としつこく尋ねることもなくなんと、それをあっさりとそれを引き受けます。
すごくその描き方が絶妙です。
今まで社長に突拍子もないお願いを一度もされたことがなく、何年何十年にも渡り、同じパターンの業務連絡とあいさつだけを毎日交わしてきただけの二人。
その淡々としたいつものやり取りの流れを乱さず、今回もマルタはいつものように返事をしただけ・・・
若い女の子でもないので、いちいち驚いたり「なんでですか」と聞き返したりもしない・・・あくまでもポーカーフェイスを装う・・・
しかしそこはやはり女性。
マルタは内心はどきどきわくわくがあり、早速美容室にいって、髪型をオシャレにします。
このあたりからこの女優さんの表情も変わってきて、生き生きしてくるのが見事です。
工場の同僚の女性従業員二人はマルタの髪型にすぐに気がついて褒めてくれました・・・
しかし案の定・・・肝心な社長は何も気付かない・・
しかも夫婦の役を演じるからにはいろいろと打ち合わせ&準備をしておかなくてはならないのに、
社長はそのことにも何も気が回らない・・
マルタは、今まで一度もなかった親密な会話を社長としようと努力をしはじめます。
だけど工場の外で会っても社長はだんまりむっつり。
自分のアパートにマルタを招き入れても無言。
しかしマルタは彼のそういう鈍感な性格を、
長年一緒に働いてきた経験を通してよく分かっているので我慢して何も文句は言いません。
彼女はとにかく着々と嘘の夫婦の小道具などそろえていき、
散らかり放題で寒々しい彼のアパートの部屋もきれいにして暖かみのある雰囲気にしていきます。
【奇妙な三角関係】
弟がブラジルから到着。
見た目は社長のお兄さんの方が背が高く髪の毛もあって素敵なのですが、
何しろ冴えない性格で覇気がありません。
だから背が低くて禿げているのにも関わらず、
社交的で明るく何でも気が効く弟の方が、素敵に見えます。
マルタも、「弟」と一緒にいると楽しそうに笑ってばかりいます。
二人が仲良くやっている・・・
お兄さんである社長はなんだか面白くありません。
マルタが好きだから、というよりも昔から何でも弟の方が要領がよくて人の注目を浴びていました。
それで「またしても」という気持ちの方が強かったためではないか、と思います。
女性なら分かるであろうマルタの女心。
どこまで「お兄さん」に恋心があったのかは謎なのですが、夫婦の役を引き受けた時点で、
「そういう関係を結んでもいい」という覚悟(決心)があったはず。
本当に社長を異性として毛嫌いしていたら、
いくらなんでも夫婦役を簡単に引き受けないのではないでしょうか。
夫婦役なので、二人は同じ部屋に寝ます。
ところが社長はいつも先に寝入っている、しかもベッドを離して・・
その度にマルタがちょっといらっとした表情を見せます・・
なかなか素晴らしい女優さんで、台詞を口にしない演技が素晴らしい。
一方、弟の方はマルタをお菓子屋さんに連れ出し、
「好きなお菓子を選んで」とにこにこ。
愛想が最高に良くて人とのコミュニケーションはもちろん、女性の扱い方が上手。
ある日、弟が兄の社長に「工場を見せて」と言います。
貧相な工場をブラジルで成功した弟に見られるのが恥ずかしい社長は、それを拒否します。
しかし工場の前を通った時に、いかにも貧乏くさそうな外観を見て、弟はそのことに気がつきます。
そしてさり気なく、兄にビジネスのアドバイスや具体的な提案を話します。
(弟の会社はブラジルで大成功を収めています)
しかし頑固でプライドが高く、融通が利かない社長は一切それに耳を傾けません。
「ブラジルに戻る前に兄さん夫婦と旅行をしたい」
弟が提案をします。
兄の工場が冴えないと気付き、兄夫婦の新婚旅行の話しを聞いてもどうも嘘っぽい・・・
忙しさと貧しさから恐らく旅行もできていないんだろう、と密かに思ったのでしょう、旅行は自分からのプレゼントだ、と弟は言います。
マルタは三人の暮らしを楽しんでいたので、ぜひみんなで行きましょう!と喜びます。
そして乗り気ではない社長の背中を無理やり押すように、出発・・・
【夫婦役をすれども・・・】
ホテルにチェックインする時に、社長は
「ダブルベッドではなくシングルベッド2つにしてほしい」
とこっそりとレセプションでお願いをします。
そのあとすぐにはたっと思いなおして
「ダブルベッドのままでいい」と・・・
「おや?」と
映画を見ている者に興味を抱かせる場面です。
部屋に入りポーターがそれとなくチップを請求した時・・・
社長はなんせ鈍感なので気付かない。
マルタがさっと自分の財布からチップを払う・・・
社長はポーターが去ってから
「あとでチップ代は返す」といいます。
マルタは「いい、返さないでいい」と優しく拒否。
ところが社長は
「いや、君には一銭も負担させたくない」と強く言い返す・・・
その時のマルタのひきつった、がっかりした顔・・・
嗚呼・・・
せっかくのダブルベッド。
別に何もなくても横に一緒に寝ればいいのに、
せっかくプライベートな空間に二人きりでいるのだから親密な会話くらいすればいいのに、
社長は彼女に背中を向けてさっさとカウチで寝てしまう・・
決して同じベッドには入らない。
何も会話をしない。
ただ黙ってさっさと熟睡・・・
マルタの呆れ&失望の顔・・・
初老の女性にとって、男のそういう態度は非常に傷つくということを社長はとにかく分かっていない・・・
【マルタが下した決断】
旅行の最後の夜、つまり夫婦役としても最後の夜だというのに社長は部屋に戻ってきません。
(弟から貰ったお金でホテルのカジノで一人でギャンブル)
マルタはベッドの中でじっと横になって社長を待ちますが、全然彼は戻ってこない。
彼女はぬくっと起きあがり寝巻を脱いで、オシャレな服をまた着て、一度落としたお化粧を塗りなおして部屋から出ます。
一度寝る支度をしたのに、またお化粧をし直す、というこの作業・・・
どんなに面倒くさくて大変か・・・しかも中年ですから化粧を塗りなおすというのはちょっとした手間暇がかかります。
でも彼女はそれをやりました。
女性の、マルタの一大決心を表しているのではないでしょうか。
部屋を出たマルタが社長を探しに行ったのかと思いきや、なんと社長の弟の方の部屋に行きます。
弟に誘惑するというわけではありません。
彼女のこの行動はマルタの社長離れ、彼をもう見限った、いつまでも彼を待たない、という意味なのではないでしょうか。
(弟を好きになった表れもあるのかもしれません・・・)
弟は予定通りブラジルに帰ります。
空港でマルタが弟にこっそり手紙を渡し
「一人になってから読んでね」と。
多分、ですが告白のラブレターではなくて
「私はあなたのお兄さんの奥さんではない、彼は本当はひとりぼっち。だからこれからも気にかけてあげてね」
という内容なのではないかな、と思います。
なぜなら、マルタ自身が社長を見限ったからです。
弟がいなくなり、マルタも自分のアパートを出た翌日の朝、社長がいつものおんぼろ車で工場に出勤。
すると、いつも閉まっているシャッターの前で自分の到着を待っていたマルタの姿がない。
彼女がいない。始業時間を過ぎても現れない。
そのことに社長がちょっと気になる・・・
おしまい・・・
【女の感想・男の感想】
色々な方の批評・感想を見ると「マルタの欠勤を気にした社長は、何か行動をとって二人はうまくいくんだろう」という、社長&マルタについて肯定的なものもいくつかありました。
申し訳ないですが、それは全て男性目線です・・
女性目線でいうとマルタが社長と一緒になる、というのは「ありえません」・・・
マルタはずっと社長に気があったかたもしれないし、
社長も今回の夫婦ごっこを通してマルタに情を持ったと思われる描写はちらほらありました。
しかしマルタにしてみたら、あそこまで身体を張って頑張ったのに、なにも分からなかった男についていこうと思わないです・・・
これはどう考えてもマルタが彼の弟のおかげで自信と本来の性格を取り戻し、もう彼を待つことを止めた、という暗示でしょう。
つまらない職場に行くのももう止めて、新しい人生に飛び出したのでしょう。
弟の訪問という特別な出来事がおきて、マルタは自分を変えることができた、でも社長のほうは何も気付かなかった・・・
あそこまで自分の感情を出せない、出さない中年男が、いまさら思い切ってマルタにアプローチをするというのは考えにくいです。
女性としては「マルタ、良かったね!」と拍手です。
不器用な性格の男性が見ると、ちょっと辛い映画かもしれませんが、「こうなってはだめだ」という反面教師映画かも・・・
映像は綺麗で、登場人物たちのやり取りも「粋」で飽きません。大人向けの上質な映画で見てよかったです。ずっと余韻に残る映画です。
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