ある殺し屋の紹介:1967年日本映画。塩沢は元特攻隊員の板前。しかし実は殺しのプロフェッショナル。彼を利用しようと若い男女が大仕事をもちかける。森一生監督ならびに市川雷蔵の代表作の一つ。宮川一夫による色を殺したカラー撮影、鏑木創によるギターだけの音楽。歌手として成功するはるか以前、中学生の小林幸子も出演。
監督:森一生 出演者:市川雷蔵(塩沢)、野川由美子(圭子)、成田三樹夫(前田)、小池朝雄(木村)、小林幸子(みどり)その他
映画「ある殺し屋」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ある殺し屋」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
ある殺し屋の予告編 動画
映画「ある殺し屋」解説
この解説記事には映画「ある殺し屋」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ある殺し屋のネタバレあらすじ:起・居座る女
男が駅でタクシーに乗り、埋め立て地に降りて掘っ立て小屋を見つけ、さらに墓場の側のおんぼろアパートの2階の一室を借りる。やがて土砂降りの日、若い女が現れ、大家の老女に「兄の部屋は?」ときいてアパートの2階に上がり、男の前で濡れた服を脱ぐ。
その女、圭子とその男、塩沢が初めて会ったのはあるラーメン屋であった。無銭飲食を咎められた圭子が自分の体で代金にしろとラーメン店主に迫るのを見て、もう一人の客だった塩沢は圭子の分も支払う。財布に大金のある塩沢に圭子は強引にくっついていく。
塩沢は菊の家(きくのや)という飲み屋の店主で板前。圭子は店の女中で塩沢に気のあるみどりに塩沢と自分が肉体関係をもったと信じさせて追い出し、女中におさまる。
ある殺し屋のネタバレあらすじ:承・一件二千万円の仕事
塩沢は実は腕利きの殺し屋だが、仕事を選ぶことでも有名だった。木村組から建設業の下請けの仕事を次々と奪っている大和田組の親分の大和田を殺してほしいと木村組の前田が依頼するが断られる。そこで親分の木村自ら、飛行場で飛行機を見ている塩沢に仕事を依頼する。大和田の写真を見るうちに塩沢は航空兵だった自分の皆死んでしまった戦友たちを思い出す。大和田を生かしておいても誰のためにもならないという理由で仕事を2000万円で、仕事には口出ししないという条件で引き受ける。
大和田の厳重な警戒を突破する機会がやっと訪れる。某建設会社のパーティーに大和田が愛人と来る。和服の塩沢は余興の芸人の控室に通されるが、カバンを置いてパーティーの会場の方へ出てパーティーの招待客のように振舞う。余興の踊りが始まると塩沢はこっそり大和田の愛人の着物の帯を解き、大和田が用心棒たちに愛人のところへ行くように指示したために周りに誰もいなくなったところに近づき、首を針で一刺しする。
新聞で大和田の死が報じられ、前田が菊の家に2000万円を届けに来る。前田は塩沢に弟分にしてくれるように頼むが、もう来るなと言われる。帰りがけに前田は圭子と出くわす。それは前田の行きつけのレストランで食事をしているのに目を付けていた女だった。
ある殺し屋のネタバレあらすじ:転・結託する男女
レストランで前田と圭子がいっしょになる。塩沢のおかみさんのふりをする圭子は前田の話から塩沢が腕利きの殺し屋であることを知る。塩沢に圭子は結婚を迫り、塩沢が断ると圭子は塩沢が殺し屋であると知っていると脅すが、塩沢は動じない。
圭子が店の女中にすぎないことを見抜いた前田と圭子が手を組む。前田は再び塩沢を訪れ、大和田の組の麻薬を奪う計画を持ち出す。塩沢は圭子も仲間に入れてその計画に乗る。しかし、前田と圭子は麻薬を手に入れたら塩沢を始末するつもりだった。
ある殺し屋の結末:置き忘れられた分け前
麻薬強奪決行の日、塩沢の計画にしたがい、埋め立て地のアパートに三人が落ちあい、睡眠をとってから仕事が始まる。圭子を使って二人の男をおびき寄せて掘っ立て小屋で捕らえる。ボートに乗って来た男を塩沢が倒して麻薬の入ったスーツケースを奪う。三人がアパートに戻ってベビーパウダーの缶に入った麻薬の質を塩沢がチェックしたとき、前田がピストルを塩沢に向けるがピストルの弾は塩沢が抜いていた。結局三人は予定通り麻薬の缶を山分けする。しかしアパートに男たちが近づいて来る。窓の外へ屋根を伝って逃げだすが、圭子は自分の分け前の麻薬を小川に落としてしまう。近づいてきたのは、前田を怪しいとにらんでいた木村と子分たちだった。木村は警察に塩沢が殺し屋であることを密告したことを告げて、麻薬を横取りしようとする。だが塩沢は敵の一人のズボンのベルトをぬきとって応戦し、次々と敵を大穴に突き落とす。最後に木村がドスを抜いて塩沢に立ち向かうが針を腹に刺されて死ぬ。塩沢は「お前たちの分だ」と前田と圭子の分の麻薬を四缶墓の前に置く。前田は塩沢に同行したいと言うが、「仕事と色事の区別がつかない奴はきらいだ」と断って塩沢は一人で立ち去る。そこに現れた圭子に前田は「女は仕事と色事の区別もつかねえ」といって何ももたず去っていく。圭子も麻薬の缶に気づかずその場を立ち去る。駅には警察がいたが、塩沢は気づかれることなく電車に乗る。
この映画「ある殺し屋」は、市川雷蔵がニヒルな殺し屋に扮した日本版フィルム・ノワールの傑作だ。
墓場の脇に立つ古ぼけたアパートの一部屋を男(市川雷蔵)が借りている。
そこに目つきの鋭い男(成田三樹夫)と水商売風の女(野川由美子)が訪ねてくる。
回想場面によって、彼らの素性が明らかになってくる。
市川雷蔵は、表向きは小料理屋の主人だが、実は名うての殺し屋。
成田三樹夫が雷蔵に麻薬取引の横取りを持ちかけるヤクザで、雷蔵に従いながら陰で成田と組んでいるのが野川由美子だ。
殺しの武器となる畳針を黙々と研いでいる雷蔵のひんやりとした情念、スタイリッシュな着流し姿、仕事としての殺しの抜かりなさ、殺陣の美しさ、裏切りと、どんでん返しにも微動だにしない表情。
市川雷蔵という不世出の俳優の凄み、素晴らしさが全編を通して感じられる。
全ての場面で、余計な無駄な描写を、極力排して、情に流れることのない森一生の演出と増村保造、石松愛弘の脚本、コントラストの強い厳しいモノクロの映像の冴えを見せた、撮影の宮川一夫の素晴らしさは、水際立っている。
続けて、同じ年に続編の「ある殺し屋の鍵」も公開されたが、市川雷蔵はすでに病魔に冒されていて、その後、シリーズ化されなかったのが、残念でならない。